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第2章
第34話 大きな壁
 
 しばらく音が鳴り、5回目のコールが終わる頃にチィ姉が出た

「はい・・・」

 電話の向こうではまったくと言っていいほど生気のない声が聞こえてきて、一瞬チィ姉なのか疑問に思うぐらい相当参っている感じだった

「大丈夫?チィ姉」
「・・・・・・」
「ごめんね、チィ姉。俺がもう少し注意深くしてればこんな事態にはならなかった」
「・・・」
「チィ姉?」
「・・・ふー・・・ちゃん」
「ん?」
「私、もう芸能界止めたい・・・」

 チィ姉は泣いているのか声が震えている
 俺は何か言わないといけないのに、チィ姉を励ます言葉が思い浮かばない

「私、もう無理だよ・・・ふーちゃん・・・」
「うん」
「色んな人からふーちゃんのこと聞かれて、笑顔で何も言わずに車の中に入るの無理だよ・・・」
「・・・」
「・・・・ふーちゃんに会いたいよ・・・ひっく・・・」
「チィ姉・・・」

 たぶん、チィ姉はどこかのホテルに泊まってるんだと思う
 その周りにはマスコミがたくさん居るだろう

「・・・チィ姉、今どこにいるの?」
「・・・・」
「ね、どこにいるの?」
「・・・」

 たぶん、チィ姉は俺に居場所を教えて迷惑がかかるとか考えているんだと思う
 だから言わないでおこうとか考えてるんだろう

「チィ姉、今から行くから待ってて。必ず行くから」

 俺は電話を切って、急いで出かける準備をしてから家を出る
 このマンションは確かレンタルカーみたいなのが置かれていたはずだからそれで向かえば良いし、場所は沙羅さんに聞けば分かることだ
 俺は駐車場まで下りて、自動ドアが開くと前に見覚えのあるポルシェが止まっていた
 そして、ドアが開くと沙羅さんが降りてくる

「沙羅さん・・・」
「千夏の所だろう?送ってあげよう」

 沙羅さんは助手席のドアを開ける
 俺はポルシェの中に入ると沙羅さんはハンドルを握り、走りだした

「やっと自分の気持ちに正直になる気になったかい?」
「なんとか」
「それなら私から言うことは無いよ」
「いいんですか?チィ姉は芸能界辞めるかもしれないのに」
「別に。無理してまでやってほしいとは思わない。小雪も千夏も楽しいと思ってくれてるから私も頑張れる」
「なんというか・・・その・・・すみませんでした。今回の件は」
「別に謝ることじゃないだろう?いずれバレると思っていたことだし、私の予想より遅かったんだから」

 沙羅さんは高速道路に乗るとアクセルを深く踏み、車は加速していく

「それより、君はどうするんだい?これから千夏に会って今は良いとして、そのあとはどうする」
「別にどうするとかは無いと思います。いつも通りチィ姉と話すだけですから」
「いつも通りね・・・それは姉弟としてかい?それとも・・・」
「どっちもですよ」

 沙羅さんは俺の答えを聞くと小さく笑ってからハンドルを握り直し、前を向いた


 今までチィ姉と何かあった時は2人で話して、その壁を越えてきた
 でも、今回の壁は特別大きいかもしれないし、俺にとっても特別かも知れない
 だって、今まで頑張って築き上げてきた姉弟の壁を俺は超えようとしてるんだから・・・




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