桐生の忍 ―影送り組曲―(11/38)PDFで表示縦書き表示RDF


桐生の忍 ―影送り組曲―
作:アオキチヒロ



9.一週間―The different world―


 何かを忘れてるのは覚えているのだが、何を忘れたのかは忘れてしまった。思い出そうにも、記憶の断片にすら残っていないのだから困りものだ。
 忘れてしまうくらいなら、いっそ全部まとめて忘れられれば良かったのに。そうすればこうして悩む時間も無かった。気にすることなどなく、毎日を送っていた。
 自分の中で、いつも、どこかで何かが引っかかる。いつも、ということは、大抵一緒にいる兄に関係することなのだろうが、いまいち自信も無い。
 それ以前に、今までで鮮明に記憶へ残るような出来事が無いのも考えようだ。
 家を出て行ってしまった母の、別れの瞬間だとかは思い出せないのに、よく話していた他愛の無い話だけは覚えているのだ。なんだ、この欠陥だらけの記憶力は。
『あいつは、何かを隠してる』
 いま、頭の中の大半を占めている言葉を、声に出さずに口を動かしてみる。
 誰だって何かを隠している。自分はもちろん、兄も。この台詞を言ったあの忍だって。
 誰だって知られたくないことの一つや二つ、持っている。それを隠すために、嘘を吐いたり、騙したり、いろいろするのが人間だ。だけど自分は別にそれを知ろうとは思わない。知る必要が無い。
 自分には全くの無関係なのだ。
 
 そもそも。

 そもそも、だ。一週間ほど前からこうして兄達はこの家へ集まり、色んな憶測を立てては否定し、情報集めに勤しんでいるが、それは何の為なんだろうか。
 そんなことをしたって死んだ人が甦るでもなしに、あの三人は飽きずに犯人探しをしている。少年探偵団か。……読んだことないけど。
 犯人を見つけて仇討ちだとか、そういうのは自己満足じゃないか。
 そんなことをする暇があるのなら、今日のおやつの心配でもすればいいのに。その方がよっぽど有意義だ。
 悶々と空夜が考え込むには、ちゃんとした訳がある。空夜はずっと閉じていた口をようやく開け、三角形になって話し込む三人に向かって言った。
「なんで毎回毎回、僕の部屋に集まるんだよ」
 不機嫌極まりない声だった。とても迷惑しているようだ。この一週間、朝飛と魁と志保はずっとこの部屋に集まっては大声で話している。
「僕の部屋でもあるんだよ、空夜……」
 二段ベッドの上方へ向かって朝飛が言う。そう、ここは兄弟二人の部屋だ。別に朝飛が使ったって構わない。
「それをそっくりそのままバッドで打ち返すよ。兄さんの部屋でもあれば、僕の部屋でもある。なのになんで作戦会議室みたいなことになってんの」
「え、だって僕と魁と志保と空夜が居る場所でやらないと、意味が無いだろ?」
 空夜が「げ」と声を出してあからさまに顔を顰めた。
「僕も犯人探しのメンバーになってるの?」
「なってるんだから、いつまでもそんな所にいないでこっちに来いよ。ほら、オレがコンビニで買ってきたお菓子やるから」
 魁が袋をガサガサと左右に振って、空夜を呼ぶ。すごく気に入らないが、降りないといつまでも呼び続けられそうだ。空夜はひょいと階段を使わずに飛び降りて、三角形の中に入った。これで四角形だ。
「どこまでいったの」
「え? 駅前のコンビニ」
 魁が素直に言う。空夜が溜息を吐く。
「そうじゃなくて」
「今は、殺された忍達の生い立ちを探ってるところよ。何故殺されたのか。殺される理由があったのかを見つけるためにね」
 はい、と空夜に紙を渡す。
「うちの忍の情報よ。調べさせたの」
「ふうん」 

“草津大河、苗木之下出身。十二歳の時に火事で両親を失って以来、十歳違いの妹、草津真理奈と共に修行を積む。
 性格はいたって真面目、几帳面。修行時代は優等生として通っている。後にその能力を認められ、火之基の忍となる。仕事は重松鉄平とよく組んでいた。

 重松鉄平、苗木之下出身。父親は病死、母は過労死。しばらくは親戚の家に預けられていたが、十五歳の時に十歳違いの弟、重松鉄太と共に苗木之下に入門。
 同期の草津大河とは苗木之下時代から仲が良かった。

 補足。二人の弟妹はいま苗木之下で修行中。”

 空夜が紙を志保に戻す。
「この二人は特に問題を起こすような忍じゃなかったらしいわ。殺される理由が見つからない」
「らしい?」
「下の方の忍だったから、よく知らないの」
 気まずそうに言う志保だったが、空夜は納得するように声を出した。
「僕もそうだよ。三忍衆以外、全然知らないから」
「それって駄目なんじゃねぇの…?」
 次に魁から紙を渡される。

“佐渡朱美。両親が共に苗木之下出身の鍔木の忍だったため、自然とこの世界に入る。幼少の頃は苗木之下で過ごすが、すぐに鍔木に入り、主に武具の受け渡しを行っていた。
 若いながらも優秀で、武具こそ満足に作れないものの、どっかのピアスだらけの赤メッシュより絶対に役にたってたと思う。あーあ、惜しい人材を失ったなー。
 


 と、完璧に調べ上げたわけだけど。
 これくらい自分で調べろよな。バーカ、バーカ! 
 もう一生帰って来んな! お前の所為で、俺等までお頭に怒られたんだからな! 
 帰ってきたら土下座しろ。そして死ね。
 シュウ様より

 こんな雑用、こっちに回さないでよね。バーカ、バーカ! 
 魁なんか死んじゃえー、花火のように散れー! 
 そして鍔木の跡取りの座は終と都月ちゃんのモノ!
 あ、おみやげヨロシク。
 都月ちゃんより”

 読み終えて、空夜から紙が戻される。
「…誰、この手紙を書いた二人」
 最後の二つのメッセージが気になって、魁に尋ねる。ものすごく複雑な顔をしている。
「桐生で言うところの、三忍衆みたいな奴等だよ。鍔木の双葉って呼ばれていて、思いっきり口が悪い双子」
 口が悪いのは読めば分かる。
「嫌われてるの?」
 グサッと音が鳴った。魁が相当ダメージを受けていた。どうやら図星らしい。
「ああ、うん。まあそんなところ。オレと同い年なんだけど、どうも気に食わないみたいで…」
「駄目ね。次期頭領たる者、駒の信頼を得ていないと」
 志保の駄目出しで、さらに傷口を抉ったようだった。そんな魁を放って置いて、朝飛は話を続ける。
「それから、志保のお兄さんの志斗さん。最後に薬樹の忍、相津清忠さん」
「薬樹の情報はまだ手に入ってないわね」
 朝飛が手前のポッキーを取り出しながら、首を振った。
「それなら大丈夫だよ。今日の夕方、波奈さんが来るから」
「「なみなさん?」」
 声の揃った魁と志保。空夜は興味無いのか、魁の袋からオレオを箱ごと取って、一人で食べている。
「そう。薬樹現当主、薬樹波奈。綺麗な人だよ」
 








鍔木の双葉

遠藤 終[えんどう しゅう]
遠藤 都月[えんどう つづき]

五月五日生まれ、牡牛座。
好きなこと、魁いじめ。
嫌いもの、魁。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう