走れ!縦書き表示RDF


走れ!
作:Asahi


「やっば…」

一人呟く。聞こえているはずがないのに、同じように中から出てきた、前半俺のマークだったヤツが俺を見て口の端を上げて笑ったような気がした。

悔しいから疲れたそぶりなんて見せないようにして口を引き締めた。


足が早くも限界に来ている。


すう、と息を深く吸った。生暖かい、けれど日本よりは涼しいだろう空気を胸一杯に吸い込む。

今頃日本はどれだけ熱くなっているかを考えただけで溜め息が漏れそうだ。

まだ日本には帰りたくない。

まだこの地でサッカーがしたい。

ピッチの方へ歩いて行くと、途中で肩を叩かれる。同じく中盤を守っている達也だ。


「大丈夫か?」

「おう、元気いっぱいだ」


そう肩をすくめると、達也は顔をしかめて馬鹿、と俺の頭をこづいた。

そういう達也だって相当な疲労がたまっているはずだ。

俺たちは前半引き気味だった為、俺や達也、そしてディフェンスの体力の消耗は激しかった。

相手は遠くからもシュートを打ってくるために一瞬たりとも気が抜けない。

個人個人のレベルが高く、マークがつききれなくて何度も危ないシーンを迎えた。

だけど、なんとか前半を無失点で押さえることが出来た。
それだけで大きい収穫だ。

前半はなんとか踏ん張ることが出来た。

これからの後半は、なんとかチャンスを得点に繋げなければならない。

勿論、相手も徐々に焦り始めてきてディフェンスもきつくなるだろう。

だけど、俺達には後がない。

この試合に勝つ、それが生き残るための最低条件だ。


「達也ァ」

「ん?」

「勝とうな、絶対」



睨みつけるように真っ正面を見つめる。

ああ、と達也が俺の肩を叩いたようだ。

大歓声の中に入っていく。

もうピッチには共に戦う仲間が待っている。

まだ、皆と戦いたい。


「悠真!達也!」


大歓声の中でも負けないくらいの大声をはりあげながら、同じチームの大和が手招きしている。

早く来い、と言っている。

達也と目を合わせて仲間の元へ駆け出す。

輪に入ると遅えよ、とまたこづかれた。

またしんどい後半を迎えるというのに、皆なんとなく楽しそうだ。


「おい悠真、にやけてんじゃねえぞ」

「え、にやけてなんかないっスよ!」

「その顔でよく言うよ」


「さあ集中だ」

キャプテンマークをつけた、我等がキャプテンが静かに声を出した。

すうっと大歓声が意識から遠のき、肩を組む仲間とキャプテンの声だけが存在する世界に入っていくのを感じる。

キャプテンは空気が変わるのを感じて口の端だけを上げて笑って見せた。


「確かに前半は押し込まれた。だけど、守りきった」


義人さんの言葉に皆が頷く。俺も頷いて義人さんを見つめる。
義人さんは一人一人の顔を見る。

順番が俺に回ってきて、わずか一瞬、されど妙に長く感じる時間、義人さんと目が合う。

義人さんからしてみれば何の意味もない行動なのかもしれないけど、こっちからしてみればこの時間ほど緊張する時間もない。

たった一瞬であるのに、酷く緊張させられる。

義人さんの瞳にはいつだって真剣な色が浮かんでいる。

生半可な思いでプレーをすることを誰よりも嫌う人だ。

こっちが気を緩めたら義人さんは俺を信頼してくれなくなる。

そんなサッカーはつまらない。


「…よし。この試合、俺はどうしても勝ちたい」


頷く。


「お前らも、ベンチも、サポーターも、皆が勝ちたいと思ってる。相手があのチームだとしても、だ」


そうだ、相手は他ならぬ世界でも最強のチームだ。

それでも、俺達は勝つしか道が残されていない。

前に進むためには勝つしかないのだ。

「俺達は勝つ!」

「「「おう!!」」」


気合いを入れてそれぞれピッチに散々になる。

俺の場所である中盤の底へ向かおうとすると、ふと義人さんと目が合う。

ぺこ、と頭を小さく下げると義人さんは柔らかく笑った。


――頼むぞ。


そう言った気がした。

審判の笛が鳴る。

これからまた辛い45分が続く。

しかし、ただ辛いだけではない。

踏ん張れば、道はまだ続くのだ。

世界の頂点までも続くのだ。

こんなところでもたもたしていられない。


走る。


走れ!


どこまでも、いつまでも。


この足が走れなくなるまで。


ボールを追え!



ワールドカップに触発されて書いた話でした。読んでくださってありがとうございました!













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう