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  日常賛歌 作者:しろくろ
第九話 夏の恐怖は清涼剤
「「あーづーいーよぉ」」

「ちょっと遥人さん。真央ちゃんと声重ねないでください!」

 いやそんな殺気こもった目で見んなよ。

「はぁ?なんでさ」

「真央ちゃんの美声が汚れます」

 とりあえず、心の中で満面の笑みを浮かべて死んでくれるよう頼むことにした。

「あー、暑い。真央さん、何か体の芯から涼しくなる方法ない?」

「冷たい人間になればいいんじゃないですか?」

 冷たい人間ねぇ。

「主に、土下座してる人の頭を笑顔で踏み潰せる様な」

「いや、それはなんかダメだろ。人として」

 てかそういうのを一般的に外道って呼ぶんだろうが。

「大丈夫ですよ。奈央ちゃんだって人間として生きてるんですよ?」

 真央さんは奈央さんを一瞥すると、嘲笑の手本のような表情で笑った。

「そうだよな。あんなんで人間やってんだもんな」

 俺は真央さんと同じ様に奈央さんを一瞥した。

「なんですかその下等生物を見る様な目は!」

 真央さんの方がいくらか酷い目をしていたが、そこはいいのだろうか?

「あ、そういえば、怖いものを見ると涼しくなるんじゃないですか?」

 確かにそうだ。怖いものを見たり聞いたりする。これは体の芯から涼しくなるのにうってつけだろう。

「怖いものってぇと……奈央さんの後ろにいる死神とか?」

 一瞬、怒った時の真央さん?とか言いそうになった。しかし、これを言うと多分涼しいどころじゃなくなる。極寒だ。

「あぁ、あの死神ですか。最近ずっといますよね」

「気に入られたんだろうな」

「ですねー」

 奈央さんが徐々に青くなっていく。やがてギギギっと音を立ててゆっくりと振り返る。

「ごめんなさいごめんなさい、まだ死にたくありません!……って、いない?」

 後ろには当然なにもいないのだが。

「あっ、間違えた。死神かと思ったら奈央さん本人か」

「死ぃぃねぇぇぇぇ!!」

 結局、奈央さんと本気で追いかけっこすることになって汗だくである。この時の奈央さんは、本物の死神かなまはげぐらいは軽く凌駕する迫力だった。

 しかし一番恐ろしいものは別にあった。それは、追いかけっこが俺の土下座をもって終結した後のこと。

 冷房の効いた部屋でアイスを食べていた真央さんは、汗だくの俺達を見てそれは綺麗に笑った。

 その笑顔は昔、取り合っていた給食のデザートを皆の争いの間に完食した男の満足げなソレに酷似していた。

 その男はその後当然の如く集団私刑となったのだが今回の相手は真央さん。そんなわけにもいかない。

「真央さん、アイス余ってる?」

「あ、今食べてるので最後です。残念」

 もう一度言おう、そんなわけにもいかない。

 だから……

「今夜、アレやるぞ」

「何堂々と卑猥な誘いしてるんですか!」

「違うわ!アレだよ、その……怖い話大会!」

 いったい何を連想しやがった。

「なんでそんなことをって言うか……何故に大会ですか?」

 そんなの決まってる。俺がこの類の発言をするときはだいたいこの理由である。

「気分だ!異論は認めない!」

 二人の呆れた表情は、まぁ見なかったことにした。



 とりあえず、奴等を恐怖のどん底に落とす!……のはまぁ無理だろう。二人とも幽霊とか怖がってくれる気がしない。

 特に真央さんなんかは話を本気で楽しめてしまいそうな。

「よし、じゃあ始めるか」

 時刻は深夜2時。ちょうど良い頃合いだろう。

「くだらないことやってないで寝ましょうよ」

「眠いですよー」

「聞いたら眠れなくなるもんなあ」

 言った瞬間空気がかわった。主に真央さんの。

「ほほう、いい度胸ですね」

「……後悔しますよ?」

 二人のあまりの剣幕にすでに後悔してるのは内緒である。

「んじゃ、まずは俺からいくぞ」

 二人は息をのんで、耳を傾けた。



 ――電話をとったAはこんな言葉を聞きました。

『私ベリーさん、今』

「ちょっと待って下さい!それ明らかに何かのパクりでしょう!」

「今どこどこにいるの。ってやつですね」

「まあまあ、黙って聞けって」



『私ベリーさん。今、あなたが彼女に振られた公園にきてるの』

『私ベリーさん。今、あなたが初めてエロ本を拾った路地裏にきてるの』

『私ベリーさん。今、あなたがこっそり通っている泌尿科にきてるの』

『私ベリーさん。今、あなたが本を隠した場所にいるの』

 Aが急いでベッドの下を除くと……


「どうだ、怖いだろ?」

「えぇ、まぁ……」

「個人情報流出の不安的な方向で」

 つーか俺はいるかいないかわからない幽霊よりも人間の方がよっぽども怖いと思ってるからな。

「次、誰いく?」

「私がいきます!」

 おぉ、なんか気合い入っるよ。やる気になって頂いてなによりだ。



 ――あるところに真央ちゃんというそれはもう美しい女の子がいました。


「なんか昔話みたいな始まりだなぁ」

「黙って聞いてください」

 因みに真央さんはこの時点で顔が引きつっていた。


 それはそれは美しくて彼女から見たら他の女は豚同然な真央ちゃんは、一人夜道を歩いていました。(余談だが、この時点で真央さんの顔は口元がぴくぴくと動き始めた)


 すると向こう側から、なにか変態チックな男が歩いて来ました。どうでもいいですが、名を遥人といいます。(どうでもいいが、この時点で俺の顔は般若の様だったらしい)

 その変態に襲われた真央ちゃん。大ピンチです。しかし、そこに正義の見方奈央ちゃんが現れました。

 彼女は変態を一方的に暴行し、見事真央ちゃんを助けました。めでたしめでたし。(最後に、この時点で俺と真央さんの顔はもはや般若を超越していた)



「いやぁ、やっぱり変態さんは怖いですよねぇ」

「遥人さん、知ってますか?」

「ん、なんだい?」

「奈央ちゃんって実はですねぇ……」

 耳元であるカミングアウトをしてくれた真央さん。その内容に、自然と口元が緩む。

「なるほど、その役目任せた」

「御意です」

 番外。この時点で俺達の顔は、どこのマフィア?って感じだったらしい。


 その後、真央さんの話ですっかり本性を表した奈央さん。どうやら彼女、本当はかなり怖がりらしい。

 まぁ意味もなく意地を張るのも彼女らしくはあるのだが。なにがすごいって、その意地を完全に破壊した真央さんの話である。

 その内容もさることながら、少し声色を変えて話す真央さんはもはやその存在が怖いって域にたっしていた。

 正直、俺も何度か逃げ出したくなった。しかし、その恐怖よりもどんどん青ざめていく奈央さんの姿は痛快だった。


 怖い話大会はそれにてお開き。俺と真央さんは充分満足できたし、真央さんのおかげで程よく涼しくなれた。こんなのもたまには悪くないよな、そう思うのであった。



 その後、真央さんに拒絶された奈央さんが、半泣きになりながらトイレについてくるよう頼みに来たのはまた別のお話。


 こんな一日
 そんな日常



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