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  日常賛歌 作者:しろくろ
第十六話 適度な距離って多分大切
 ある三連休の初日。心地よい日差しを受けて、俺は本格的に昼寝モードに入ろうとしていた。

 夏休みがあけてから数日、最近は何かと忙しい日が続いていた。俺は両親の急逝以降気づかないうちに友達と距離を置いていたことに気づく。

 そして、夏休みという時間を置いて落ち着いた今、以前にも増して人との関わりが増えた。いや、増やしたという方が正しい。家族がいなくなったことで、俺は誰かが側にいることの有り難さを実感した。

 今まであった居場所がなくなったから、それを他に求める。それはなんだか汚いことの様に思えて後ろめたさを感じる。

 一人でだって生きられるクセに、誰かと繋がっていようとする。時には一人になりたくなって、そんな時のために都合の良い距離をとる。寂しければ近付いて、満足したら少し遠ざかる。

 そんな生き方をしていた自分には、ある意味良い転機なのかめしれない。だから、今は思い切り他人との距離を詰めて、この汚い打算的な生き方を変えようと思う。

 でもちょっと最近は頑張り過ぎた気がする。特定の人物を除く他人に対し常に気を使ってしまう自分には、少々堪えた様だ。

 どこぞの退廃的生活を送る親友と、今は亡き家族。これらに変わる存在は今のところないのだから、今は一人になることが精神の回復となるのだ。

 そんなわけで今日は久々の予定のない休日。思い切りだらだらと過ごしてやろうと思う。とりあえず、まずは昼寝だ。昼寝しかない。どこからか湧き出る強い意識。

 いつか、人と共にあることが自分にとって癒しとなればいい。ただ単純に寂しさを紛らわすためではなく、自分が自分であるために他人とあることを望めれば。

 そんなことを思いながら意識は遠退いて……行かなかった。ふと、自分に二つの視線が向いているのを感じたから。途切れかけた意識、眠気を気合いで押し殺して目を開いた。

「なんだよ、二人して俺を凝視するなって」

 視線の主は案の定、どこか不機嫌そうな表情の奈央真央姉妹だった。

「お昼寝するんですかぁ?遥人さん」

「あぁ、そうだよ。正確にはもう昼寝は始まってたんだかな」

 心地よい眠りを遮られるのは、なんだか無性にイラッとするものである。しかし何故か、二人は俺に勝る不機嫌オーラを放っていた。

「さんざん私達を放置しておいて、せっかくの休日には昼寝ですか」

「昼寝ですかぁ」

 気のせいかと思ったが、なんだかマジで不機嫌そうである。眠気のせいで虚ろだった意識は、二人の突き刺さるような視線によりばっちり目覚めた。

「えと、俺に何か用事でもあんの?」

 とりあえず、機嫌の悪い原因を見つけなくてはならない。

「用事というか、学校が始まってからまったく私達と関わってませんよね。遥人さん」

「おかげで私達はとっってもヒマなんですよぉ」

 なるほど、原因はわかった。要は俺がかまってくれないのが不服らしい。可愛いところもあるなぁとは思うが、生憎今の俺はめちゃくちゃ昼寝したいのである。

「一緒に住んでて関わるも何もないだろ。それに、ヒマってのもなかなかいいもんだぞ?」

 ギギュッ!

「いっ……でぇぇぇえ!なにすんだよっ!?」

「なにって」

「二人でつねっただけですけどぉ?」

 そう言ってかなり邪悪な笑顔を見せてくれた。可愛い顔も今は恐怖の対象でしかない。つねったというよりか、捻り上げたていう方がマッチするくらいの勢いである。

「遥人さんがお友達や紫音さんと一緒にいる間、私がどんなに大変だったと思います?」

 よくわからんが、真央さんの方はかなり切羽詰まっているようだ。

「ヒマを持て余している奈央ちゃんが毎日ストーキングしてきて、もう本気で消してしまおう
かなぁって」

「原因おまえかぁぁぁぁぁっ!」

 もうこの女学習能力とかねえだろ何度ウザい言われれば気が済むんだよ!!

「うぅっ、私はただ真央ちゃんが寂しくない様にと思って……」

「寂しいのはあんただろがっ!」

 なんかもうアホ過ぎて同情の余地もないしな。

「うっ、そんなことないですよっ!」

 そんなことない割には普段邪険に扱っている俺に暇潰しの相手を求めて来てるしなぁ。 

「寂しくなんかないですよっ!ただその……ちょっとだけ構ってほしいなぁって……」

 徐々に声が小さくなっていくせいで後半は聞き取れないが、相変わらず無駄に意地をはる様だ。

 しかし、なぜ恥ずかしいそうにもじもじしながらこちらの様子を伺っているのだろうか?

「そっか。寂しくないならまぁいいや。真央さんはどお?」

「私はとっても寂しかったですよぉ。遥人さん全然かまってくれないんですもん」

 うんうん、この子は何だかんだ姉と違って素直なので可愛いらしい。

 その無駄に意地っ張りな姉はといえば、俺にスルーされたのが悲しいのか真央さんを取られたのが悔しいのか、いい加減泣きそうである。

 さてさて、止めを刺そうか。俺は腕にくっついてきた真央さんの頭を撫でて、そっと抱き寄せた。

「それじゃ真央さん、一緒に昼寝しようか。部屋においで」

「はーい♪」

 嬉しそうに返事をする真央さん。同時に解き放たれる殺気の主は、冷静じゃあないクセに平静を装い俺に問いかけた。

「もうこの際私を無視したことは置いといて遥人さん。まさか真央ちゃんと添い寝とか添い寝とか添い寝とかする気じゃないですよねぇ?」 

 怒気を含んだ、いや怒気のみしか含まれていない質問というか尋問。俺は正直すげぇびびってるクセに平静を装って、満面の笑顔で答えた。

「添い寝?もっと楽しいことをするつもりだけど?」

 奈央さん、硬直。十秒後、再起動。顔から発火。

「たたたた楽しいことっていったい、どどどんなことですかっ!?」

 最早平静を装う余裕すらない様だ。こうなると実にからかい易く可愛らしい。

「あれ、どうしたの?そんなに真っ赤になっちゃって。いったい何を想像したのかな?」

「何って、べべべ別に私はそんないやらしいことは」

「いやらしいこと想像したんだねぇ。奈央さんも発情期かぁ」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そんなに恥ずかしかったのか、奈央さんは金メダリストもビックリのスピードでどこかに消えてしまった。俺が満足してその様子を見届けると、真央さんか俺の袖を引っ張った。

「遥人さん、早く楽しいことしましょうよぉ」

「あぁ、そうだね。俺も早く寝たいし……は?」

 真央さんの方に振り向いた俺は、なんだかとんでもないモノを見てしまった。ほどまで黒のスウェットを着ていた真央さんだったが、今は限りなく純白だった。

「真央さん、その……なんで服着てないのかな?」

 そう、今の真央さんはなぜか下着姿だった。いつもより多く見える肌や意外に大きい胸がエ……いやいやいやいや、落ち着け、落ち着くんだ俺っ!

「なんでって……楽しいことするんでしょう?」

 そう言うと真央さんは小悪魔っぽい笑顔をうかべた。いやいやいやいや、落ち着け。これは違う!誘惑してるわけじゃないんだ!

 きっと下着のほうが寝心地が良いから脱いだだけなんだ。そうに違いない!

「ふふっ、じゃあ行きましょうか。遥人さん」

「ちょっとまて!その格好でしがみつくのはやめて!マジで危ないって理性とかがっ!!」

 どうやら、今の俺はなかなか一人にさせてもらえないらしい。でも、それも良いかなぁと思えてしまうのはきっと、この姉妹が少しずつ『家族』に近づいているからかもしれない。


「単に良いもん見せてもらえたからだろ」


 おいちょっと今の台詞言ったやつ、表に出ろ。




 こんな一日。
そんな日常。



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