ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
6ねん1くみ、そして、春

ほんとは、時間、すぎてほしくなかったけど。

いつまでも、6年1組で、いたかったけど。






クラヤは捨て猫とか捨て犬とか拾っちゃうような、ほんとはすっごくすっごく優しいやつで。

シマはほんとは誰よりもみっちゃんのコト見てる、素直じゃないけどいつも本気な、真面目なやつで。

みっちゃんはシマのことには気づかないけど、スナダのことずっと好きな、ほんとにかわいい子で。



スナダは……






ほんとは、いつまでも、この班で、いたかったけど。






冬の寒さはどんどん遠くなっていって。

どんどんあったかくなっていって。



あたしの引越しの日も決まった。卒業式の日だって。



あたしが引っ越すって言う話は、なんだかだんだん広まっていって。

今や、クラスの中で知らない子はいなかった。






言葉の練習とか。歌の練習とか。卒業証書のもらい方の練習とか。

どんどん過ぎていって。

過ぎていって欲しくなんかないのに。






卒業なんて、したくないよ。

あたしたち、ずっと、一緒に…


















3月18日。

みんな緊張した顔で並んでる。

先生も、いつもはTシャツにジーパンなのに、今日は黒いスーツで、胸に花なんかさしちゃって。




5年生までは長くて長くて仕方なかった校長先生の話も、来賓の話も、すっごく短く過ぎていって。

在校生の言葉も、卒業生の言葉も、歌も、どんどん過ぎていって。





5年生の、児童会副会長の子が、送辞を読んで。

前期児童会会長のスナダが、答辞を読む。





あたしの視界は、だんだんとぼやけてくる。

いや。泣きたくない。ぼやけないで。

もうちょっとだけ、ステージの上にいる、スナダの姿を………















教室に戻ると、みんな泣いた。

先生の話を聞きながら、みんな泣いてた。



みんなはいいよ。また、同じ中学校に通えるんだもん。

あたしは…




そう思っていると、先生がこっちを見た。

「みんなも知ってると思うけど、ヤサカは今日でお別れです。みんなといっしょの中学には通えません。だから…」

ヤサカから、お別れの言葉を言ってもらいましょう。


先生が、そう言って、あたしを見て。

立って、って言われたから、のろのろと立ちあがった。






みんなが私を見てる。

それはもう、副委員長や学級委員を押し付ける、あの目じゃない。

あれだけいやだったのにそれさえも、もう、さびしくて。




国語はけっこう得意だったのに。

頭が真っ白になって、何も出てこない。


何か言わなきゃ。

何か。


















「…ほんとは、引っ越したくないです」















無意識に口から出た言葉が、それだった。

何言ってるんだろ。

そう思った瞬間、涙がぽろぽろあふれてきた。















「…みんな、だいすきです」

















もう、わけわかんなくて。

それだけしか言えなくて、座った。

隣の席のみっちゃんが、頭をぽんぽんって、してくれた。












カバンと、卒業証書の入った筒と、お花を持って。

校門から出ると、在校生が道を作ってた。

送り出すときは、泣いてる人の数とか数えてたりとかしたけど。

あたしも、その中に入るんだなぁ。



…けっきょく、みっちゃんにスナダが好きって言うことはできなかった。

でも、みっちゃん。

あたしは引っ越すから。中学でも、頑張って?

応援、する。

















おかあさんをみつけて、行こうとすると、後ろから肩をたたかれた。

ふりむくと、…スナダがいた。

スナダはなんだかおこったような顔をして、握った手を差し出してきた。

手を出すと、ぎゅっと何かを押し付けられる。

手を開くと、…丸めたティッシュ。



「ちょっと、鼻かんだティッシュなんか自分で捨ててよ」

「違うって、バカ」

「中になんか入ってんの?」

「あー、あーっ!ここで開くんじゃねぇ!!」

「…?」



わけがわかんなくて、手の上におかれたティッシュのかたまりを見る。

…やっぱり、鼻かんだゴミだとしか思えない。

でも、何か違うみたいから、何か入ってたりとかすんのかな。




「ヤサカ、あのさ」

「ん?」

「………あー…っと」




スナダは、横を向いてがしがし頭をかいてる。

スナダの向いてる方を見てみても、桜の木とかしかない。



「…やっぱなんでもない」



それだけ短く言うと、スナダは走っていってしまった。

どんどん、背中が小さく、なる。









あたしは、スナダが見えなくなるまでスナダの走っていった方を見てた。

見えなくなっても、しばらく見てた。





それから、ゆっくり振り向くと、おかあさんのほうへ歩き出した。













ティッシュの中に入ってたのは、小さな、水晶だった。
























これが、あたしの初めての。





好きになった人の、話。






あそこで呼び止めて、聞いていれば、何か変わったのかなぁ、とも思うけど。

なぜかできなくて。



手紙を書こうかとも思ったけど、書き出しが、わかんなくて。









スナダの水晶はハンカチにくるんで引き出しの中にしまってあるけど、何年も何年もたった今では、
それさえももう思い出でしかなくて。









……あいつ、元気かなぁ。今どこで何やってるんだろ。











そんなことを、窓から花火が見えたから。不意に思った。












「……小学校最後の、夏祭り」











あのときの、声が。

聞こえたような気がした。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!
なんとなくあったかいような切ないような気持ちになっていただければ最高です。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。