カラフルデイズ(7/17)縦書き表示RDF


本来は予定していなかった話。
なので、ちょっと軽めな仕上がり。
カラフルデイズ
作:yuma.



鈍色スカイ


 ◆

 振り返ってみればあっという間の一年だった、そんなお約束の決まり文句で始めるのは何だか癪だが、実際そうなのだから仕方ない。

 一年って早いなぁ…

 「今年も無事年を越せそうで何よりだねぇ」

 コタツに体を潜り込ませ、ふにゃふにゃした声を発する陽。

 さも当然のように遠赤外線の温かみに触れていやがるが、ここは僕の部屋だ。

 本日は大晦日。

 大掃除を済ませ、綺麗に片付いた僕の部屋は、新年を迎える準備万全。

 そこへ乱入してくる陽。

 コイツの辞書に、遠慮と容赦の文字は存在しない。

 「なかなか晴れないねぇ。こりゃ初日の出は怪しい感じ」

 ミカンを手に取り皮を剥きつつ、陽は外に目をやる。

 部屋の窓から見える空は、明らかな曇天。

 厚く垂れ込めた鈍色が気分を憂鬱にさせる。

 「だな。別に初日の出が見えようが見えまいが、関係ないけど」

 そんな予定は無いし、寒空の下で日の出を待ちわびるようなポジティブさを、今の僕は持ち合わせていない。

 中学時代はアクティブな子だったのに…今や引きこもり気味のダメ人間。

 …人生ってこんなもんだよね。

 「アキトが行くって言えば、私は喜んで出かけるけど…はい、あ〜ん」

 差し出された陽の手からミカンをもぎ取り、自分の手で口へ運ぶ。

 言うまでもなく陽は不満そうな表情。

 「残念だが、僕はコタツの魔法にかかって脱出不可能だ。俗に言うメロメロですな」

 「そんなコタツに嫉妬しちゃってる私って可愛い?」

 陽は頬に指を当て、首を傾げる。

 そんな作り物の笑顔に心を揺り動かされるほど、僕は安い人間ではないつもりだ。

 「初めて会った時は可愛かったのにな。今は悲しい現実だけが広がっている」

 「過去形で言わないでよ!あの頃のほとばしる愛情は何処へ!?」

 「愛情がほとばしったという記録は、僕の脳内に残されていないのだが」

 「…『君みたいな可愛い娘がお隣さんだなんて、少しだけ神様を信じてもいい気がしてきた』」

 ぐはっ!!

 僕は顔面が刹那を待たずに赤く染まっていくのを感じる。

 そんな、古傷を抉るような台詞を持ち出すな!!

 「覚えてる?私と初めて一緒に登校した時、アキトがキラースマイルに乗せて吐いた台詞♪」

 「う…う…」

 「あの頃のアキトは優しかったなぁ…て言うか、甘かったのかな?私のハートは盗難に遭って大変なんだよっ!」

 満面の笑みで、陽は嬉しそうに語るが、僕はもう崩壊寸前。

 あの頃の陽への接し方は、過去の汚点の最たるものだ。

 陽の内面を見抜いていれば、あんな接し方はしなかったのに…

 後悔ばかりが渦巻いていく。

 もう、ふて寝してやる…!

 僕はコタツの中で足を広げ、ゴロリと寝転がる。

 「え。アキト、寝ちゃうの?つまんない〜!!この下らない年末特番を一人で見るのは拷問だよぉ!!」

 騒ぐ陽の声にフィルターをかけ、僕は睡眠モードに入る。

 次第に、その声も薄らいでいった―――



 「…ん……よく寝た」

 何故だか、目覚めは割りとスッキリ。

 寝転んだまま首を僅かに起こし時計に目をやると、日はすっかり暮れていた。

 実に六時間以上は眠りに落ちていたことになる。想像以上に過去の傷は甚大なようだ。

 「あれ?」

 そこで、不意に違和感が僕を襲う。

 温かいはずのコタツなのに、嫌な寒気が…

 「ってオイ!!」

 顔を右に傾けると、そこには陽の嬉しそうな寝顔があった。

 僕の体にしがみつき、実に可愛らしい寝顔を晒している。

 ったく、コイツは。

 失意のあまり、陽の目の前で爆睡してしまうという己の失態を嘆いたが、もう遅い。

 他にもっとおぞましい行為に及んでいないか、目を覚ましたら問い詰めてやろうかと考えたが、聞くのが怖いのでやめる。

 次に陽のホールドを解こうと試みるも、挫折。

 ガッチリと抱きつき、ビクともしない。一体どこにここまでの力があるんだ。

 起こそうとも思ったが、この憎らしいまでに可愛らしい寝顔が見れなくなるのは、少々惜しい。

 僕は苦笑を浮かべ、陽の頬を撫でる。

 心なしか、寝顔が一層嬉しそうに微笑む。

 僕もつられて笑顔になる。

 「……色々あったけど、今年一年お疲れ様。お前のおかげで、結構楽しい年になったよ。来年も、よろしくな」

 きっと、面と向かっては言えない素直な言葉。

 ちょっと卑怯な気もするけれど、僕の安っぽいプライドがいつまでも邪魔をしている。

 来年こそは、自分の気持ちに素直になりたい。

 なれるといいなぁ。



 年の終わりは、予想外に静かで穏やかに。

 僕らに酷く不釣合いな、それでいて酷く相応しい平穏と平凡。

 陽が目を覚ましたら、年越しソバでも食おうかと思う。作るのは陽だけど。

 下手に睡眠をとってしまったせいで、きっと寝付けないんだろうな。

 それもまた、いいか。

 陽がいれば、どうせ夜通し騒ぐことになる。

 そして、夜が明けたら初詣に行こう。

 天気は曇りかもしれないけど、構いやしない。

 陽がいれば、太陽だって顔を出す。

 そう、陽がいれば。

 陽がいれば。

 楽しい日々が続いてくれる。



 そうだろう?

 陽。















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