カラフルデイズ(2/17)縦書き表示RDF


予定としては、駆け足で一年を巡るつもりです。
良ければお付き合い願いたいと思います。
カラフルデイズ
作:yuma.



山吹色スイーツ


 ◆

 九月も終盤に差し掛かったある日の放課後。

 僕ら学生は、来月の中頃に控えた学園祭の準備に追われていた。

 といっても我が二年C組は、そこまで準備に情熱を傾けなくても構わないのが現状。準備をするのは仮装の衣装のみなのだ。

 お化けの仮装をするとは聞いていた。しかし、それで何をやるかまでは知らなかった。その内容が本日明らかになった。

 ウチのクラスの出し物。題して『アーリー・ハロウィーン』。

 簡単に言えば、フライング気味のハロウィーンを学園祭の中でやろう、というフザけた企画。学祭中なら、どこに行っても食い物はあるだろうからな。

 しかし、よく通ったな。この企画。

 被害に遭う方はたまったもんじゃないぞ。

 発案者誰だよ、全く。

 「…学園祭、楽しみだね」

 時刻は放課後。

 場所は部室棟の一室にある、我らが『郷土史研究部』の部室。

 十畳ほどの部屋に、テーブルとパイプ椅子が乱雑に並べられている。

 読書に興じていた僕の意識を現実に引き戻す、鈴を転がすようなスイートボイス。

 「そうか?僕はあんまり乗り気じゃないけど」

 「…アキトは去年もそんなこと言ってた」

 「そうだっけ?」

 「…そうだった」

 「……そうですか」

 高峰友絵たかみね ゆえ

 妙に会話のテンポが合わせづらい、この少女の名前だ。郷土史研究部の副部長でもある。

 長い黒髪を、後ろで無造作に一つ縛り。デキるキャリアウーマンみたい。オプションで眼鏡を是非ご所望したいね。

 そして何と言っても特筆すべきは、その殺人的なまでのスタイルの良さ。制服姿には犯罪の香りすら漂っている。もうすぐ冬服に衣替えなのが惜しい…って!それはどうでもいい!

 パッと見にはクール系美人だが、迂闊に近づけば痛い目に遭う。中身は、墨汁に飛び込んだカラスもビックリの腹黒ドSっ娘。

 リアルに怖い。

 「…アキトのクラスはフライングでハロウィーンだっけ?学園祭を逆手に取った面白い企画だよね」

 「そうか?ただの反則技じゃん」

 他のクラスに申し訳ないよ。

 「…アキトも仮装するんだよね?ドラキュラ」

 「あー…まぁ…」

 不本意ながら、これは決定事項。陽の発言にクラス中が乗っかり、僕は晴れてドラキュラに大抜擢された。

 不本意だ。

 「…きっと凄い似合うよ。色白だし、髪もいい感じに長いし。絵に描いたようなドラキュラだよ」

 うーん。

 そうは思わないけれど。

 「…ちなみに、ウチのクラスの出し物はクレープ販売。良かったら来てね」

 「おう。是非」

 甘いものは割りと好きな僕。

 暇を見て足を運ぶとしよう。

 僕は読みかけの小説を再び手に取り、ページをめくり始めた。

 すると友絵が、何の前触れもなく切り出す。

 「…あ、そうそう。その小説ね、主人公を殺そうとした犯人、実は幼馴染のヒロインだよ」

 「っ!?」

 ちょ、えぇ!?

 いきなりネタバレ!?

 クライマックスに向けて動き始めた所だったのに!!

 「ゆ…友絵…その仕打ちはあまりにも酷すぎないか?僕、何か悪いことした?」

 僕の悲痛な訴えを、友絵は実に満足そうな笑みで薙ぎ払う。

 「…だって…アキトを苛めるのが私の生きがいだもん。くすくす…アキトの困った顔、可愛い……♪…くすくす…」

 ぐはぁ。

 理不尽だ。あまりにも理不尽すぎる。

 「泣きたい…」

 「…くすくす…私の胸で泣いていいよ…?ほら、おいで…」

 ニヤニヤ笑いを浮かべた友絵が僕に手招きする。

 くっ!そんな悪魔の囁きに耳を貸してたまるか!ちょっと魅力的な申し出だけど…絶対裏がある!

 頭を振ってクールダウン。ついでに雑念も振り落とす。

 ようやく落ち着いてきた頃、不意に部室のドアが開いた。

 姿を現したのは、陽。

 手にはトレイを持っている。

 「見かけないと思ったら…どこ行ってたんだ?ヒナ」

 「えへへっ。地球環境に優しい女子高生を演じてみようと思いまして。資源の有効活用ですぜぃ」

 そう言って陽は、僕と友絵にプラスチック製のカップを手渡す。

 「陽ちゃんお手製、パンプキンプリンなのだぁ!ハロウィーン用のカボチャ、くり抜いた部分を再利用いたしましたっ!」

 えっへん、と誇らしげに胸をはる陽。

 「ふぅん、美味そうじゃん」

 「…いただきます」

 友絵はスプーンを手に取り、早速食べ始める。

 どれ、僕も…

 カボチャの色を反映した、明るい山吹色のプリン。小奇麗に作られていて、金を取れそうな出来だ。

 スプーンですくって、口に持っていこうとしたところで、思いとどまる。

 何故って。

 陽がやけに真剣な目つきでプリンの行方を見守っていたから。

 「あのさヒナ、地球環境に優しい女子高生だったら…プリン作りに不必要なモノを入れたりしないよな?」

 ギクリ、と固まる陽。

 正直者め…

 「な、な、な、何を疑っているのかなぁ、アキトは!?私の愛情の塊であるハンドメイド・プリンを目の前にして!当たり前じゃんか!不必要なモノなんて…しょ、しょんな……」

 オロオロと慌てふためく陽。

 舌も回らなくなってるじゃねぇか。

 「じゃあ、試しにお前が食ってみろよ。ほれ」

 僕はプリンを陽に差し出す。

 「……いいの?」

 「え?」

 予想外の切り返し。

 その言葉の意味するものは?

 「とか何とか言っちゃって、一時撤退!ドロン!!」

 そう叫んだ陽は、尻尾を巻いて逃げようとする。

 「逃がすか!!」

 僕は素早い動作で腕を伸ばす。

 ギリギリの所で陽の左腕を掴むことに成功した。

 「や〜ん!アキトのターゲットがプリンから私に変わったぁ!た・べ・ら・れ・る〜!」

 大声で人聞きの悪い台詞を吐くんじゃありません。

 観念させるために、陽の両頬をつまんで軽く引き伸ばす。

 あまり力技に訴えるのは好まないが…やむなし。

 「怒らないから言ってみようか?洗いざらい吐けば、許してやらんこともない」

 「うぅ………頭を撫でて、ほっぺにチューしてくれたら…って、痛い痛い痛い!!」

 「頼むから素直に白状しろ。絵的に言って、好ましい場面じゃない」

 「分かったよぉ…白状します……ちょっとした、自分の欲望に忠実になるクスリをですね・・・」

 やっとのことで口を割ったかと思えば、とんでもない真相が明らかになった。

 大体、そんな危険な代物をどこから。

 …ちょっと友絵さん?いきなり目を輝かせて話に聞き入るの、やめてもらえる?

 「さっきアキトが言った時、食べてみても良かったんだけど…アキトの安全は保障できなかったよ?」

 「さも、『僕が暴走するのは構わない』的な発言はよせ」

 「それは…だって……そのままの意味だし。―――ねぇ、友絵?」

 !?

 陽が意味あり気なアイコンタクト。

 それとほぼ同時に気付く、背後に感じるナニモノかの気配。

 だが、時すでに、遅し。

 回避行動に移す前に、後ろから手足をガッチリと友絵にホールドされる。

 背中に感じるのは禁断の感触。

 夏服の生地の薄さに乾杯。

 などと浮かれている場合では全く無い。

 「さてさて…お口をあ〜んしましょうねぇ…アキト…えへへ……」

 瞳に狂気の光を宿し、満面の笑みで近づく陽とプリン(有害物質)。

 耳元では、友絵の甘ったるい声。

 「…すごい美味しかったよ?一口食べてみようって……じゃないと、私がアキトを食べちゃうぞ…あむ♪」

 僕の左耳を、友絵が遠慮なしに食む。

 「ちょっと待て…お前ら……何事にも、越えちゃいけない一線がだな…」

 『限界は、超えるためにある!!』

 「声を揃えて楽しげに言うな馬鹿野郎!!……ちょ、嫌あぁぁぁぁぁぁ!!!」



 学園祭前の秋の一日。

 部室は今日も騒がしく。

 絶叫する僕の視界の端っこ。

 山吹色のプリンが笑みを浮かべていた。



ちなみにハロウィーン用のカボチャは大きさに特化している為、味の方はよろしくないそうです。悪しからず。











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