虹色デイズ
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夏休み明けの無気力感を背負いながら、僕と陽は今日も今日とて学園へ足を運ぶ。
「もう九月なのに、全然涼しくならないねぇ」
残暑の厳しさに文句を吐く陽だが、その顔は爽やかだ。
「全くだ。秋の到来が今から待ち遠しいぞ」
「また学園祭の季節だねっ!」
あぁ…そう言えばそうだな。
今年で最後だし、今年こそ静かに学園祭を楽しみたいと思う。
僕が誓いを新たにしていると、背後から自転車のスポーク音。
「いよっす!今日も良い天気で何よりだ。はっはっはっ!」
現れたのは以前にましてハイテンションな航平。もうウザいのなんのって。
「出たよぉ。幸せムード満点のニワトリが」
「はっはっは。相変わらず陽は辛口だなぁ」
その妙に気取った変態口調を止めろ、腹立たしい。
「神坂さんはどうした。一緒じゃないのか?」
「今から迎えに行くんだよ。白馬の王子様的に」
キラリ、と胡散臭くも気色悪い笑顔を浮かべる航平。
寝言を言うのはベッドの中だけにしとけ。馬は馬でも錆び付いた人力の馬じゃねぇか。無論、僕らからすれば王子でも何でもない。
「そうかい。じゃあとっとと消えろ」
「アキトの言う通りっ!端的に言えば目障り♪」
僕と陽のダブルパンチで、航平はノックアウト寸前の沈痛な面持ちに変わる。
「お、お前ら…ヒドイよ!うわあぁぁん!!」
泣き叫びながらペダルを踏み込む航平。次第にその姿は小さくなっていく。
「馬鹿だな」
「馬鹿だねぇ」
気を取り直して、僕らは歩き出す。
しばらく歩くと住宅街を抜け、大通りに出る。次第に見慣れた制服も増え始める。
「お。前を歩くは後輩ちゃんではないですか」
陽の驚異的な視力が捉えたのは、テクテクと可愛らしく歩を進める奈月ちゃんの姿だった。
十分な距離を見計らって、僕らは声をかける。
「奈月、おはよっ!」
「おはよう、奈月ちゃん」
「あ、お、おはようございます」
いきなりの挨拶にビックリしつつも、奈月ちゃんは挨拶を返してくる。
「お二人は今日も仲が良いですね」
「たりめーよっ!相思相愛とは私たちの為にあると言っても過言ではないっ!」
「それは明らかに過言だな」
陽の暴走にすかさず突っ込み。
これぞ僕らの理想系。
「うぅ…素直に羨ましいです」
かすかに顔を曇らせる奈月ちゃん。
おやおや。そんな顔は似合わないぞ。
「そんな悲しそうな顔をしない。奈月ちゃんは無邪気に笑ってるのが一番!」
僕はそう言って、少しばかり強引に奈月ちゃんの頭を撫でる。
「…は…はい」
顔を真っ赤に染めて、奈月ちゃんはしきりに頷く。
「ああっ!!今撫でたでしょ!?奈月の頭を撫でたでしょ!?」
間髪入れずに陽のブーイングが巻き起こる。
「悪いのかよ。奈月ちゃんの笑顔は、僕の心の清涼剤だ」
「それくらい私だってっ!」
「お前の場合、清涼剤と言うよりタチの悪いドラッグだな」
中毒性がある所とか。
体への悪影響も懸念される。
「上手いこと言うねぇ!さすがアキト!……って、それ褒めてないじゃん!!」
ワンテンポ遅れて反応する陽。
「お、お二人とも…まぁまぁ」
控えめに止めに入る奈月ちゃんは、実に楽しそうだった。
そんな下らない会話とやり取りを継続しつつ、学園に到着。
奈月ちゃんと別れ、僕らは教室へと向かう。
教室のドアを開けば、やかましい喧騒が待っていた。
いつものように広がる、日常の匂い。
「お。やっと来たかバカップル」
開口一番、和哉はニヤニヤ笑いだ。
「ヒナはともかく、僕をそっち側に分類するのは勘弁しろ」
「えぇ!?そこは私にも救済の手を差し伸べるべきじゃないの!?」
いや、お前は手遅れじゃね?
もちろん口には出さない。
「実は今、今年の学園祭について話し合いをだな…今年は郷研でも企画を立ち上げるぞ」
「僕はパスな」
即座にパス宣言。
学園祭の話は遠慮したい。
つーか郷研て。僕らは引退するべきだろう?
「…郷研の出し物を通して、部員を確保しようって企みだよ。和哉はどうせ」
不意に耳元で甘い声が響く。
気配を全く感じさせず、友絵のご登場。
「あぁ!そっか…奈月の為に部員確保は絶対条件だね!!」
「…そういうこと。アキトは奈月を見捨てられるのかな?」
うぐ。
汚ねぇぞ、お前ら。
奈月ちゃんが関わってきたら、協力せざるを得ないじゃないか!
「アキトには仮装という素晴らしい役割が待ってるからな。今年は何が良い?」
去年のネタをまだ引っ張るつもりか和哉。
「またアキトの仮装が見れるんだぁ!やたぁ!!」
一人で盛り上がる陽。
待て、待て。
「今年は何が良いかなぁ…あ、私と一緒に美女と野獣とかどうよ!?」
「…陽とアキトじゃあ、美女と野獣じゃなくて野女と美獣になりそう」
ボソリ、と友絵が呟く。誰が上手いことを言えと?
「どういう意味だよぉ!友絵ってばぁ!!」
「…そのままの意味」
「うにゃあぁ!!」
僕は暴れる陽を必死に押さえつける。
友絵は余裕たっぷりに嘲笑を浮かべている。
和哉は我関せずの知らん顔。
これもまた、僕らの日常の一欠片なのだった。
薄くて淡い睡眠が、軽やかなチャイムの音で打ち破られる。
ぼんやりとした瞳で前を見据えれば、ガタイの良い古典教師が教室から立ち去るところだった。
視線を上に上げると、飾り気の無い時計が目に入る。針は本日最後の授業が終了したことを知らせている。教室内には放課後特有の開放感が漂い始めていた。
「いやいや、今日も終わったね〜!!」
隣の席で高らかに陽はそう宣言する。
「だな。疲労感がそれを雄弁に物語っている」
立ち上がって背伸びをすると、背骨がバキバキと小気味いい音を鳴らす。
そのまま教室の窓から外に目をやる。
綺麗に染まった夕焼けが眩しい。
さてさて。
授業からも開放されて、後は楽しい放課後が待っている。
ハッキリ言うと、受験生の自覚は全く無い。
それでも良いさ。
「よし。部活行くか」
「いえっさー!!」
元気に叫ぶ陽と一緒に、僕は部室へ向かう。
いつも通り。
いつものように。
過ぎていく時間は限りあるもので、いつか終わりがやって来る。
それでも僕らは今を思い切り楽しみたい。
否。有限だからこそ、思い切り楽しめる。
色々な場面を巡り巡って。
色々な感情をぶつけ合って。
色々な言葉を交し合って。
それはさながら、日常に溢れる様々な色彩のように。
そうやって過ごして来た僕の日常は、きっと永遠に色褪せないだろう。
僕は、そう信じて一瞬一瞬を過ごしていく。
きっと。
ずっと。
もっと。
僕らの過ごす日常が、カラフルに染まっていくことを願って。
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