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最終話。
カラフルデイズ
作:yuma.



虹色デイズ



 ◆

 夏休み明けの無気力感を背負いながら、僕と陽は今日も今日とて学園へ足を運ぶ。

 「もう九月なのに、全然涼しくならないねぇ」

 残暑の厳しさに文句を吐く陽だが、その顔は爽やかだ。

 「全くだ。秋の到来が今から待ち遠しいぞ」

 「また学園祭の季節だねっ!」

 あぁ…そう言えばそうだな。

 今年で最後だし、今年こそ静かに学園祭を楽しみたいと思う。

 僕が誓いを新たにしていると、背後から自転車のスポーク音。

 「いよっす!今日も良い天気で何よりだ。はっはっはっ!」

 現れたのは以前にましてハイテンションな航平。もうウザいのなんのって。

 「出たよぉ。幸せムード満点のニワトリが」

 「はっはっは。相変わらず陽は辛口だなぁ」

 その妙に気取った変態口調を止めろ、腹立たしい。

 「神坂さんはどうした。一緒じゃないのか?」

 「今から迎えに行くんだよ。白馬の王子様的に」

 キラリ、と胡散臭くも気色悪い笑顔を浮かべる航平。

 寝言を言うのはベッドの中だけにしとけ。馬は馬でも錆び付いた人力の馬じゃねぇか。無論、僕らからすれば王子でも何でもない。

 「そうかい。じゃあとっとと消えろ」

 「アキトの言う通りっ!端的に言えば目障り♪」

 僕と陽のダブルパンチで、航平はノックアウト寸前の沈痛な面持ちに変わる。

 「お、お前ら…ヒドイよ!うわあぁぁん!!」

 泣き叫びながらペダルを踏み込む航平。次第にその姿は小さくなっていく。

 「馬鹿だな」

 「馬鹿だねぇ」

 気を取り直して、僕らは歩き出す。

 しばらく歩くと住宅街を抜け、大通りに出る。次第に見慣れた制服も増え始める。

 「お。前を歩くは後輩ちゃんではないですか」

 陽の驚異的な視力が捉えたのは、テクテクと可愛らしく歩を進める奈月ちゃんの姿だった。

 十分な距離を見計らって、僕らは声をかける。

 「奈月、おはよっ!」

 「おはよう、奈月ちゃん」

 「あ、お、おはようございます」

 いきなりの挨拶にビックリしつつも、奈月ちゃんは挨拶を返してくる。

 「お二人は今日も仲が良いですね」

 「たりめーよっ!相思相愛とは私たちの為にあると言っても過言ではないっ!」

 「それは明らかに過言だな」

 陽の暴走にすかさず突っ込み。

 これぞ僕らの理想系。

 「うぅ…素直に羨ましいです」

 かすかに顔を曇らせる奈月ちゃん。

 おやおや。そんな顔は似合わないぞ。

 「そんな悲しそうな顔をしない。奈月ちゃんは無邪気に笑ってるのが一番!」

 僕はそう言って、少しばかり強引に奈月ちゃんの頭を撫でる。

 「…は…はい」

 顔を真っ赤に染めて、奈月ちゃんはしきりに頷く。

 「ああっ!!今撫でたでしょ!?奈月の頭を撫でたでしょ!?」

 間髪入れずに陽のブーイングが巻き起こる。

 「悪いのかよ。奈月ちゃんの笑顔は、僕の心の清涼剤だ」

 「それくらい私だってっ!」

 「お前の場合、清涼剤と言うよりタチの悪いドラッグだな」

 中毒性がある所とか。

 体への悪影響も懸念される。

 「上手いこと言うねぇ!さすがアキト!……って、それ褒めてないじゃん!!」

 ワンテンポ遅れて反応する陽。

 「お、お二人とも…まぁまぁ」

 控えめに止めに入る奈月ちゃんは、実に楽しそうだった。

 そんな下らない会話とやり取りを継続しつつ、学園に到着。

 奈月ちゃんと別れ、僕らは教室へと向かう。

 教室のドアを開けば、やかましい喧騒が待っていた。

 いつものように広がる、日常の匂い。

 「お。やっと来たかバカップル」

 開口一番、和哉はニヤニヤ笑いだ。

 「ヒナはともかく、僕をそっち側に分類するのは勘弁しろ」

 「えぇ!?そこは私にも救済の手を差し伸べるべきじゃないの!?」

 いや、お前は手遅れじゃね?

 もちろん口には出さない。

 「実は今、今年の学園祭について話し合いをだな…今年は郷研でも企画を立ち上げるぞ」

 「僕はパスな」

 即座にパス宣言。

 学園祭の話は遠慮したい。

 つーか郷研て。僕らは引退するべきだろう?

 「…郷研の出し物を通して、部員を確保しようって企みだよ。和哉はどうせ」

 不意に耳元で甘い声が響く。

 気配を全く感じさせず、友絵のご登場。

 「あぁ!そっか…奈月の為に部員確保は絶対条件だね!!」

 「…そういうこと。アキトは奈月を見捨てられるのかな?」

 うぐ。

 汚ねぇぞ、お前ら。

 奈月ちゃんが関わってきたら、協力せざるを得ないじゃないか!

 「アキトには仮装という素晴らしい役割が待ってるからな。今年は何が良い?」

 去年のネタをまだ引っ張るつもりか和哉。

 「またアキトの仮装が見れるんだぁ!やたぁ!!」

 一人で盛り上がる陽。

 待て、待て。

 「今年は何が良いかなぁ…あ、私と一緒に美女と野獣とかどうよ!?」

 「…陽とアキトじゃあ、美女と野獣じゃなくて野女と美獣になりそう」

 ボソリ、と友絵が呟く。誰が上手いことを言えと?

 「どういう意味だよぉ!友絵ってばぁ!!」

 「…そのままの意味」

 「うにゃあぁ!!」

 僕は暴れる陽を必死に押さえつける。

 友絵は余裕たっぷりに嘲笑を浮かべている。

 和哉は我関せずの知らん顔。



 これもまた、僕らの日常の一欠片なのだった。



 薄くて淡い睡眠が、軽やかなチャイムの音で打ち破られる。

 ぼんやりとした瞳で前を見据えれば、ガタイの良い古典教師が教室から立ち去るところだった。

 視線を上に上げると、飾り気の無い時計が目に入る。針は本日最後の授業が終了したことを知らせている。教室内には放課後特有の開放感が漂い始めていた。

 「いやいや、今日も終わったね〜!!」

 隣の席で高らかに陽はそう宣言する。

 「だな。疲労感がそれを雄弁に物語っている」

 立ち上がって背伸びをすると、背骨がバキバキと小気味いい音を鳴らす。

 そのまま教室の窓から外に目をやる。

 綺麗に染まった夕焼けが眩しい。

 さてさて。

 授業からも開放されて、後は楽しい放課後が待っている。

 ハッキリ言うと、受験生の自覚は全く無い。

 それでも良いさ。

 「よし。部活行くか」

 「いえっさー!!」

 元気に叫ぶ陽と一緒に、僕は部室へ向かう。

 いつも通り。

 いつものように。



 過ぎていく時間は限りあるもので、いつか終わりがやって来る。

 それでも僕らは今を思い切り楽しみたい。

 否。有限だからこそ、思い切り楽しめる。

 色々な場面を巡り巡って。

 色々な感情をぶつけ合って。

 色々な言葉を交し合って。

 それはさながら、日常に溢れる様々な色彩のように。

 そうやって過ごして来た僕の日常は、きっと永遠に色褪せないだろう。

 僕は、そう信じて一瞬一瞬を過ごしていく。

 きっと。

 ずっと。

 もっと。



 僕らの過ごす日常が、カラフルに染まっていくことを願って。

 


ここまで読んでいただいた方(いるのかどうか分かりませんが)ありがとうございました。













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