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カラフルデイズ
作:yuma.



赤色ボールペン


 ◆

 僕は教室の窓から、夕暮れ色に染まっていく空を何となく眺めていた。

 さすがに三月ともなれば暖かくなるんじゃね?と淡い期待を抱いていたが、そんな訳はなかった。確かに昼間は、真冬と比べれば遥かに過ごしやすくなったものの、朝夕はまだまだ寒い。

 「うなぁ……アキト…頭痛いよぉ」

 机に突っ伏して妙な呻き声を上げる陽。

 山のように詰まれた課題の山が痛々しい。

 「お前の辞書に計画的という文字は存在しないのか。古いものを消化しなかったら、溜まっていく一方だぞ」

 「いやね、ここ最近モチベーションの低下が著しいのですよ」

 「表現に誤りがあるな。ここ最近じゃなくて、年中だろう」

 陽は頬を膨らませて押し黙る。

 やる気が出ないのは分かるが、少しでも片付けていかないと結局自分の首を絞めることになるぞ?

 学年末テストの結果も散々だった陽。赤点のオンパレードで半狂乱の状態が続いていた。

 そして、当然のごとく追試課題のご登場。今は追試に向けての特訓中だ。

 進級に繋がる大事な正念場だぞ、ここは。そろそろ真面目になれよ。

 「ヒナ。お前さ、やれば出来るのにどうして真剣にやらない?」

 真鳥陽は決して勉強が出来ない訳ではない。授業を真面目に聞きさえすれば、テストで高得点を叩き出すことも可能だろう。コイツに足りないものはただひとつ、真剣さだ。

 「だるい。メンドい。かったるい。やる気が無いのにやれないよぉ」

 明らかに教育機関をナメているとしか思えない発言。

 「つべこべ言わずに頑張れよ。ほら、もうちょいじゃねぇか」

 陽から正面の席の椅子に座って、僕は手元を覗き込みながら言う。

 「うぅ…あ。そう言えば、アキトは何で手伝ってくれてるの?」

 「え」

 「いつもなら自業自得だろ、とか言って見捨てるくせに」

 「………」

 「やっぱり…私とアキトの間には、切っても切れない信頼関係が築かれつつあるんだね!小指と小指を結んでいた頼りない赤い糸も、今では赤い鋼鉄製のワイヤーに!!」

 自分の小指と僕の小指を引き合わせ、恍惚の表情を陽は浮かべる。

 僕は冷静に、その架空の糸を赤いボールペンで切り裂く仕草をする。

 「はいはい、そういう小芝居はいいから」

 「ちぇっ。―――――で。本当の所はどうなの?」

 しつこく追及してくる陽。

 どう誤魔化したものかね。

 まさか『塚田先生にメシを奢ってもらったから手伝う気になったんだよ』なんて本当の事を言う訳にもいくまい。多分、相当ヘコむだろうから。

 もしもそうなったら、勉強どころじゃなくなる。

 塚田先生にキャッシュバックを求められても困るしなぁ。

 えぇい!今だけは、安っぽいプライドをゴミ箱にポイだ!!

 「……ヒナと一緒に卒業したいからに決まってるだろ?ここでダブられでもしたら困る。それとも何か、僕は迂闊にお前の心配もできないのか?」

 ぐあぁ!!

 やべぇ、クールで真面目な表情を保つのが辛い!!

 気を抜けば、顔面が即座に炎上する!!

 必死に平静を装い、陽の反応を窺ってみる。

 すると。

 言葉を失って、硬直した陽。次第に顔が赤く染まっていき、右の鼻から赤い液体が一筋流れる。

 は、鼻血!?

 「ちょ、おいヒナ!血が出てる、鼻から血!!」

 僕はハンカチを取り出して、陽に投げつける。

 受け取ったハンカチを鼻に当て、それを確認する陽。

 「うわ、ホントだ!鼻血ブー!!」

 何でこの会話の流れで鼻血を流すんだ、お前は。

 僕が呆れながら陽を見ると、何故かハンカチを顔に当てたまま離さない。

 よくよく見ていると、不自然な呼吸動作を繰り返している。

 「ヒナ?…ってお前!僕のハンカチの匂い嗅いでんじゃねぇよ!!気持ち悪い!!」

 「はぅ…アキトの匂い♪」

 「やめい!!」

 僕は強引に陽からハンカチを奪い取る。

 「大丈夫だって!ちゃんと洗ってから返すから!」

 「確実に返す気ないだろお前!」

 やれやれだ。無意識の内に溜め息がこぼれる。

 陽は先ほどとは別人のように、大人しくペンを動かし始める。

 「ふふふ…そっかぁ…アキトはそんなに私と一緒に卒業したいのかぁ…ふふふ…」

 不気味なニヤケ面を貼り付けた陽は非常に怖い。

 「私とアキトの関係は、日進月歩で進化していってるんだねっ!まさに現在進行!アイエヌジー!!イェイ!!」

 「黙れ!口じゃなくて手を動かせ、手を!!」

 「らじゃ〜!!」

 テンションが冗談みたいに上昇している陽を見ていると、取り返しのつかない言葉を吐いてしまったような気分になってくる。

 とか何とか言っちゃって。

 さっきの言葉だって、結構本心から来るものであったことは秘密である。

 思わず苦笑してしまう僕なのだった。



 遠くから聞こえる吹奏楽のメロディ。

 僕らしかいない教室に響くシャーペンの筆記音。

 やがて陽が達成感のある歓声を上げる。

 僕はプリントを受け取って、解答片手に赤色のボールペンを握り締める。

 スイッチの入った陽による答案には、次々に赤い線の花が咲いていくのであった。













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