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Lv07―おお、勇者(イケニエ)よ!



「がーはっはっは! そうか勇者殿はもう娘を口説いたのか!」
「も、もぅお父様! そんなことされてません! ただ、『君を守る勇者さ』と言われて言われただけで……………」
「でも、顔が赤くなっとるぞ?」
「し、知りません知りません!」
「あっはっは、勇者殿も同意の上なら口説くのも構わんぞ」
「か、考えておきます」


 あるじIN王家の食卓。
 さっきからハイテンションで笑っているのは盗賊の親玉ではなく王様。
 カイゼル髭を生やした渋いオッサンなのに豪気というか明るいというか。有り体にいうと気さくな人。
 その斜め前には銀髪のお姫様・ユニ。元々明るい娘だが、父親に会えて嬉しいのか明るさがアップしている。
 お姫様の対面の席にはあるじ。フレンドリーな王様にどう対応したものか困惑している。
 王様が白を基調とした厳かな服であるのに対し、お姫様は体のラインがわかるのにどこかゆったりとした珍しい白い服。どちらも高級感あふれている。
 あるじは白いワイシャツにジーンズなので安物感あふれてスゴい浮いている。
 私は食卓の下であるじの爪先に乗っかったりひっかいたりして時間を潰していた。



 少し話が飛んでしまったが、あるじと喧嘩した後から既に三日がたっている。
 二日前の朝にお姫様と数十人の従者をしたがえて城(のような別荘)を出た。

 さてドラゴン退治に出発だ、わー! と半ばヤケクソなあるじの予想を裏切り、馬を使って(私は馬の扱いに慣れてなく悪戦苦闘するあるじのコートの中でぬくぬくしていた)向かった先はまた城だった。
 城というよりは砦にオプションで屋敷をつけた建物。
 そこで一日待たされて王様といっしょにランチタイムという訳だ。

 あるじが『エルミニ山脈』に向かって戦う前に(戦うのは決定済みのようだ。勇者って体のいいイケニエだ)前線を指揮する王様に『勇者』を紹介するためらしい。


 勇者が出てくる童話というのはこの国では有名らしく、王様は勇者の存在を知ってはいたが為政者として姫に近づく者を警戒していた。
 だが王家の者しか使えないはずの【エルミニの雪遮竜壁】をあるじが使って見せると(まあ使ったのは私だけど)あっさりと信用してくれた。
 それどころかお食事に誘われて王様に歓待され、お姫様を守った事実を聞きあるじと話している内に王様に気に入られたのか暗にお姫様との交際を進める程に。お姫様も頬を染めて満更ではなさそう。
 あるじはエリート勇者街道まっしぐらのようだ。
 あるじ自身としてはどんどん外堀が埋められていくのをリアルタイムで眺めているので内心泣いてるだろうけど。



「お姫様は美しすぎて僕にとってはまぶしすぎます(副音声:やめてそれ以上僕に期待しないで!)」
「さすが勇者殿、控えめだな!」
 おうさま から ゆうしゃ と みとめられた !
 小動物的な勘でこの話を続けるのはまずいと思ったのか話をそらす。
「そういえば、王は前線を離れられていますが現状はどうなってますか?」
「私も聞きたいです、お父様」
「そうだなユニも、特に勇者殿の耳には入れておいた方が良いか」
 王はワインが入ったグラスをテーブルの上に置き口元をぬぐう。
「勇者殿は今回の件をどこまでご存じか?」
「えーと、山で動物たちが暴れているという所まで」
「ではそうだな、まず始めに言うべき事は――――――


 (長いので以下省略)


 ―――――――――と、いうことだ」
「……………………………………………………」
「何か、ご意見を考え中か?」
 あるじが黙っているのは考えているのではなく脳がオーバーヒートして何も考えられないからだ。馬鹿な子なんです、あるじは。
 とりあえず覚醒をうながすために目の前の足をガブリ。
「~~~~~~~っ!?」
「どうした?」
「い、いえ」
 あるじは笑ってごまかしつつ私を足元から拾い上げ膝の上に乗せる。
(お前、何噛みついてんの! ヒゲ引っこ抜くよ)
 いいんですか、あるじ? 私にそんな態度をとって。
 私は自慢のふさふさシッポをつかってあるじの手をぺしぺし叩く。
(な、何だよ。えらく強気だな)
 いいんですか? 私が話をわかりやすく解説してあげようと思ったのに。
(教えてくださいお願いします)
 間髪入れず教えを請うプライドの低いあるじは好きだ。
 では、猫でもわかる王様のセリフ解説~。



「おお、勇者よ。今、山では動物たちが暴れておる。今は第一姫(ユニの姉)が指揮をとって第二姫が戦場に立っておるが、都には信頼のおける配下がいるとはいえいつまでも私たちが都を開けておくわけにもいかん。かといって、動物達を皆殺しにするには我々は親しすぎる。雪竜とはこの国の開祖が『エルミニ山脈』に来た時以来の付き合いなのじゃ。直談判しに行くにも動物たちが邪魔をする。そこで勇者殿には竜に交渉しに行くユニの護衛を頼みたい。少数でいけば動物たちの眼をごまかせるかも知れん。竜は賢いため無益な殺生は好まないはず、何か理由があるやもしれん。姫を襲った賊の事も気になる。今から考えると動物達も異様なほど連携がとれていた。とれすぎていた。背後には【魔術師】がいるやもしれぬ。もし、賊がおればその始末も頼みたい。そのために『ひのきのぼう』と『ぬののふく』を与えよう」

 まとめると、

①雪竜に会いに行く姫の護衛を頼みたい。
②もし裏で【魔術師】が糸を引いていたらその退治。

 以上、ねこねこ解説コーナーでした。



「……………………最後の二つだけ教えてくれれば十分じゃね?」
 それだと何で殺戮上等にならないかわからないじゃないですか。決して嫌がらせじゃないですよ。
「で、お考えはまとまりなられたか?」
「え、ええ」
 王がこちらをじっと見ている。スゴいプレッシャーだ。さすが王様、ものすごく『いいえ』を選びづらい。
「ですが、私のような若輩者が姫の護衛などという大役をつかまつることはいささか他の忠義に対する不義に当たるのでは?」
 難しいことを言っているが要するに「無理っす」と言っているのだ。
 王様はにぃと笑うと、
「で、お考えはまとまりなられたか?」
 ループした! こ、これはまさか伝説の『はい』を選ぶまで無限ループかっ!
 王様もずるい手を使うなあ、と思う。あるじは予想外の反撃方法に固まってしまった。
 お姫様に助け船の視線を出すとお姫様までお願いしますオーラを放っている。
「……………………わ、わかりました。引き受けましょう」
「おお、そうかそうか流石だ勇者殿!」
 苦笑いというか顔が引きつっているあるじを見て豪快に笑えるあたりこの王様なかなかの食わせ者だ。
 それを見ても、あるじはお姫様が喜んでいるならと諦めたみたい。
「ありがとうございますありがとうございますっ、アル様」
「ああ、うん。でも、ホントにいいのかな。僕、弱いですよ」
 ついにぶっちゃけてしまう、あるじ。強いことが分かっても付け焼刃。元の世界でもそうであったように本当に強い奴には手も足も出ない。
 だから、姫の護衛なんてできないと了承したのにズルズルと言い訳じみたことを言う。
「ふっ、謙遜が過ぎるな勇者殿。ワシとて一介の戦士だ、歩き方を見れば勇者殿の腕が立つことぐらいわかる。足音を一切立てず重心のブレが全くない。いやはや、その歳でそこまでできるとは今まで並々ならぬ道を歩んできたようだな」
「………………………………………………」
 あるじと同じこと言っている。有名なのか歩き方判別法。



 ここで釈明をしておこう。
 確かにあるじの歩き方は美しい。猫である私が見てもその動きは素晴らしいと思う。その道の人間が見れば手練(てだれ)だと判別するのも無理はない。

 だがこれはあるじが強いからではなく、逃げるのと避けるのが上手いからだ。路地裏を逃げるのに足音を響かせるのは下手いし重心移動を常日頃から意識しないといきなりの不意打ちを避けるのは難しい。
 つまりあるじのスペックは回避180、素早さ200、とこれだけなら並どころか一流の人間にすら遅れをとらないが、攻撃力40、守備力20、魔力0と経験値の割り振りがおかしいのだ。ザコとまではいかないが少々強い程度。


 動きだけを見るなら強そうに見えるので始末に負えない。
 ちなみにそのことを自分でも承知なあるじは何とも言えない悲しげな表情。
 お姫様がよりいっそうスゴいんですねオーラを撒き散らしているせいかもしれないが。


 私はいたたまれなくなってあるじの膝の上から飛び降りてテーブルの下にもどる。そのまま誰にも見つからないようにテーブル下を移動して垂れ幕のようなテーブルクロスをくぐり這い出る。
 目の前に丁度よく入口の扉が現れたのでカリカリと爪でかいて、扉の横に控えていたメイドさんに開けて開けてと催促する。
 それに気付いたメイドさん(黒じゃなくて灰色の服。だけどあるじは「灰色なんてそんなのメイドさんじゃない!」と熱く語っていた)はニコリと笑って扉を開けてくれたので、私はするりと外へ出る。
 出る間際に「勇者殿はどの流派をお使いになる?」「も、モーニングカーム流」あるじの助けてほしそうな視線を感じた気がしたが気のせいだろう。



 廊下に出るとひんやりとした空気が私の体温を奪う。
 この世界の科学レベルは中世あたりだ。魔法でところどころ突出していたりするが全体的にはそんなところだろう。まさに絵にかいたような魔法ワールド。
 だからエアコンなんて気の利いたものもなく、さっきの部屋だって暖炉の火で快温になっていたのだ。で、何もない廊下は当然寒い。
 まあ、ふっかふかの長い毛皮があるから私には関係ないけど。暑い時は熱がこもって一人サウナになるが、こういう時は自分が猫で良かったとよく噛みしめる。
 目的地はないのでとりあえず石敷きの床を歩く。召還されたお城よりもここの方が人は多いから色々な人とよくすれ違う。勇者あるじのツレだと伝わっているのか、一匹で歩いていてもつまみ出されない。
 4本足でとことこ歩きながら考える。

【召還魔法】。【魔法の世界】。巻きこまれる騒乱。

 今まであるじといて順風満帆な人生とはいえない波乱に満ちた、言いかえれば危険な人生を送ってきたのでこの程度でヘコたれたりはしない。(あるじ本人はどうだかわからないが)
 現時点ですべきことはこの騒乱の片づけ。
 元の世界へ戻る方法を探すにしても召(よ)び出した本人の力が必要になるかもしれないので、今回の件に力をかすのも悪くない。どちらにしても逃げられないのだし。
 ちらりと窓を見やる。猫の視点からだと窓からは灰色の空しか見えず、それがどこか不吉だった。


 だって、この件は何か裏があるから。



「わー、猫ちゃんかわいいーーーー!」
 数分後、灰色メイド少女に抱きつかれシリアスな気分が吹っ飛んだのはあるじを見捨てた罰だったのかもしれない。

評価ありがとうございます!
かなり嬉しいので感謝です。


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