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Lv24―雪の国の王者
「GHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
 肌が痛い、というか肌が裂けるようなドラゴンの咆哮。
 にゃーと鳴いて対抗してみるが咆哮に飲み込まれてあるじの耳にすら届かなかっただろう。


 銀色の幼竜は一鳴きして満足したのか、のしのしと巨体を部屋の中へ進ませる。
 太い鉤爪。蛇のような長い首。胴は太く強靭な筋肉がうかがえる。瞳孔が縦にさけた瞳。口元から見える乱杭歯(らんくいば)。想像通りの竜の姿だ。
 幼竜といっても高さだけでも3mはありそうだ。ほんとにベイビー?


 天使はその姿を一瞥しただけであるじを睥睨(へいげい)する。
「さあ、頼みの綱の【エルミニの雪遮竜壁】は壊れてしまいましたよ。幼竜とはいえ【雪竜】、あなた程度では相手にすらならない」
 今のあるじと私は、HPもMPも残りわずか、瀕死と言っても問題ない。そんな体で伝説の竜と戦っても勝敗は火を見るよりも明らかだ。
「だから、大人しく捕まることをお勧めしますよ」
 とか言ってますけど、どうしますか?
「うーん、まあ、降参する、訳にもいかないしね。まあ言うなれば、相手が変わったぐらいで前言撤回する気はないよ」
 この世界に入ってよく使う決めゼリフっぽい言葉に徹底抗戦の意味を感じ取ったのか、天使は目を細めて不快げに鼻を鳴らす。
「だったら――――――竜よ、凍てつく息吹で死なない程度に命を奪え」


 その命令で竜は口を開いて、開いて、すぐ閉じた。


「? 竜、息吹(ブレス)を吐け」
 少年がもう一度命令するも、竜は瞬きすらせずうんともすんとも言わない。竜の登場で戻ってきた余裕も癇癪のように声を荒げてなくなる。
「どうした! 動け、攻撃をしろ! 命令を聞けよ!」
「無駄です」
 竜の代わりに答えたのは、凛とした威厳のこもった少女の声。
 雪国の姫が雪山の王子の傍らに立っていた。
「お、お前は逃げたはずじゃ………………」
「この子を縛っていた動物達の【魔法】は私が【魔法壊除】させてもらいました。アナタには彼を従えることはできません」
「何でそんなことを………………き、貴様アアアアアアア!」
 少年が怒鳴ったのは少女にではなくあるじ。あるじは変わらず柔らかな微笑みを浮かべている。
「貴様が、貴様が指示したんだな!」
「いや、だって、誘拐事件で一番大事なのは人質の解放だろ」

 そう、幼竜の解放はあるじがユニに頼んだのだ。
 天使と交戦前の洞窟内である程度事態を予測して幾つか打ち合わせをしていたのだ。






「竜って他の動物を従えたりする?」
 暗闇の洞窟の中であるじは自分の体にひっつく少女に質問をする。
「え? えーと、従えたりはしません。雪山の王、と言っても生態系の頂点に位置する彼を私達が勝手に呼んでるだけですから」
「ふーん、じゃあ他の竜とかは?」
 例えばメスの竜とかいないんですか? 王女やら何やら。
「いえ、いません。雪竜は【古代種】と呼ばれて、【古代種】は無性生殖するんですです」
「無職性ショック?」
 それは生活費がゼロになった時にあるじが起こす悲鳴のことです。
 無性生殖はようするにおしべとめしべうんぬんをせずに子孫を残す方法です。植物の中にはこれをする種類もあります。
「へー」
 元いた世界にも《小枝の集まり(クローン)》という人間を無性生殖させる技術があるらしいですけど…………でも、天然の動物は無性生殖はないハズ。
「魔法ワールドだからありなんじゃないか?」
 そーですねー。と、深く考えるのは無駄なので同意する。【魔法】がある世界ほど理論の二文字ががむなしく聞こえる世界はないだろう。
「そういうこともあって、もともと【古代種】は数が少なくこの山には二頭しか【雪竜】と呼ばれる存在はいません」
「ん、二頭?」
「はい。【雪竜】のお子さんがいらっしゃるらしいのですけど、直接会ったことはないので」
「ふーん、じゃあそれだね」
 それですね。
「何がです?」
「今回の真相」


 雪山の騒乱。【雪竜】の不在。王による【檻】。
「動物の方はわからないけど、後者二つは誰かが幼竜を人質にして竜に交渉をかけたんじゃないか?」
「で、ですが! 幼竜とはいえ【雪竜】ですよ! 並の【魔術師】では会話をする前に食べて食べられちゃいます!」
 人を食べるという不穏な単語は聞かなかったことにしたのかあるじは無表情。だが、足はがくがくふるえている。
「じゃあ、並じゃないのかもね。動物を操るにしても、この山脈中の動物を操るってとてもじゃないけど人間技じゃないと思うけど」
 もしくは大規模な集団による犯行ですかね。
「竜が何かしらの理由で人間文明に牙をむいたというシナリオよりかはあり得ると思うよ」
「でも……………でも………………」
 あまりに突飛な仮説に戸惑うユニ。私達的にはそこまで無茶な推測ではないと思うのだが。
「…………でも、もし王が子を見捨てたらどうするんです。リスクが高すぎます」
「成功率は高いよ。5割強といったところかな」
「5割しかないんじゃ……………」
「作戦としては低いけど、賭けとしては分がいいと思うね」

 お姫様は考えもしなかったのだろうが、私達はその裏の目的であるお姫様誘拐までこの時点では考え付いていた。
 多分、お姫様どころか王ですら考え付いてないであろう真相に私達が気付いたのは聡いからなんて理由ではなくただ単に生きてきた世界観の違いからだろう。


 私達の世界ではもっと無茶する人たちがたくさんいますからね。
「ほんと、ほんと。とある者を盗むためだけにビルを爆破する泥棒とか、一人の少女を救うためだけに一つの『都市〈シティ〉』を壊滅させた殺し屋〈タナトス〉とか」
 もうホント、陽動とかそんなレベルじゃなくて目的のためならリスクどころかメリットすら考えない頭のネジが百本くらい抜け落ちた人々に比べればこの程度はぬるいぬるい。
 しかもこの場合、成功したメリットが王国のお姫様と遥かに大きい。


「でも幼竜ってそんなに強いの? ベイビーだから弱そうな気がするけど」
「幼竜と言っても、体は大きいですし百歳は超えて超えてますよ」
「老けすぎだろベイビー!」
「【雪竜】は不死、ではないですけどけど、人間とは比べ物にならないくらい長寿ですから」
「百年生きてもヒヨっこ呼ばわりか。スケールでかいなあ」
 私も百までは生きるつもりですよ。
「お前の野望もデカいな!」

 そこであるじは少し声のトーンを落とす。
「と、いうわけで、ユニさんにはとあることをお願いしたい」
「は、はい? 何ですか」
「ユニって、竜の位置がわかるんだよね。それは幼竜も」
「は、はい。幼竜の反応は微弱ですけど」
「なら―――――――――」





「なら、もし予想が的中した際、その幼竜の解放、と言われました。ですから、私はアル様と別れた後、私の【魔力波】が幼竜の居場所を教えてくれるに従って洞窟を走り回りました」
 無闇やたらに走り回っていたのではなくちゃんと目的地があったのだ。
「そしてようやく見つけた幼竜さんは束縛系の【魔法】をかけられていたので、その一部を壊してあとは自力で脱出してもらいました」


 あの時の【魔法壊除】は襲ってくる火の玉にではなく幼竜を縛っていた【魔法】に向けたものだった。
 結果としては、幼竜が【エルミニの雪遮竜壁】で守ってくれたのだが。その後、彼は一人で看守のように見張っていた動物をなぎ倒してここまで一緒に来たのだ。


「まあ、僕としては保険のつもりだったんだけどね」
 実際は別のこと、例えば秘密の情報、をネタに強請(ゆす)られたのかもしれないし、本当に動物達の反乱だったかもしれない。
 だから確率は5割強。
「だから一応、賭けてみたら見事大当たりと」
 その道中、動物に襲われるかもしれない(実際は黒外套(ローブ)だった)が、いざとなったら【エルミニの雪遮竜壁】でじっとしていればいい。

 で、見事ブラックジャックを引き当てましたと。
 説明をしている間にユニはあるじの元に駆け寄って抱きついて頭を嬉しそうに撫でられていた。一から十までの説明に少年は肩を震わせる。
「……………………………ふ、ふざけ」
「フザケてないよ。真面目だよ。で、もういいんじゃない? 諦めて白旗振ったら」
 やんわりとした降伏勧告に少年は醜くあがく。
「まだだ! まだ僕が掌握している動物はたくさんいる!」
「負けを認めない?」
「ふざけるな! 死んでも人間ごときに僕が敗れるかっ」
「そう」
 あるじはそうあっさり納得すると軽くお辞儀をする。
「そう言う事なら、アナタにお任せします」
「何を言――――――」
 あるじの突然の行動に不審を言葉に出そうとした少年は固まってしまった。意図がわかったからだ。 あるじが頭を下げたのは、少年にではなくその背後にある扉の方向。
 そこにいる実は操られていなかった、子供とは思えない大きさのドラゴン。
 ではない。
 そのさらに向こうだ。
 その意図に気がついた少年の手が震え始める。その姿に今までの人を下に見下した【天使】の姿はカケラもない。
 人質がいなくなったのなら、ためらう意味もなく。
 子供が誘拐されりゃ親が怒るのは当たり前。
 あまりの恐怖に少年は耐えきれず後ろを向いて懸念を払おうとする。それは本来とは真逆の作用を本人にもたらす。



 そこにいたのは雪山の王者。



「せ、雪竜――――――シェ、シェ、シェラージェルゥガ…………!」
 馬よりも遥かに大きい幼竜がベイビーと言われるのもうなずける。(にび)色の鱗と鉄のような(かく)に包まれた体は高さだけでおよそ10メートルあり洞窟を目いっぱい利用している。いや、洞窟は彼の為に作られているのだから利用だなんて卑小な表現はするべきではない。
 親子なんだから幼竜に似た雰囲気があるのは当たり前だが、その威厳差は比べ物にならない。これを前にしては猫だろうが人間だろうが天使だろうが等しく矮小な存在で束になろうと敵と認識されることすら有り得ない。だが、そのことに劣等感を感じさせない、まさしく王たる器を持つ。
 まさしく、これが伝説の存在―――――――――竜!



「あ、あ、あ、あ……………………」
 その存在は逃げることすら許さず、ガチガチガチと歯の根が合わないため減らず口も叩けない。王に小物が口をきけるはずがない。
 雪竜は幼竜のように吼えることもなく、その下手すると私の顔よりも大きい眼球を動かしてあるじ、私、と見た後、最後に少年に焦点を合わせる。

「《欠片を、翼を持つヒトよ。貴様がこの騒乱の主導者か》」

 驚くべきことに雪竜は喋った。といっても口は動いてない、【魔法】だろう。
「《貴様の持つ能力は獣をたぶらかす。そのせいで我が配下も動かすことはできず後手に回るしかなかった。貴様も用心深く私との交渉には【魔術師】を間に介し、自(みず)らは暗に潜み明に逃げられては、我といえども手出しができん》」
 雪崩のような低く渋い声は震える少年に容赦なく浴びせられる。ハタにいる私ですら肝が冷えて毛が縮こまるような絶対零度の怒気。



「《だが、それもここまでだ。(かなえ)は傾き(みつぎ)蕩尽(とうじん)六花(りっか)は砕け霜花(そうか)は散りて(かすみ)は消えゆく――――――エルミニの(みぞれ)(ぎり)で朽ち果てよ》」



 逃げることも許されず、抗(あらが)うための武器もなく、ただ怒りに怯えるしかない気持ちはどれくらい絶望的なのだろうか。
 などと傍観者気取りでいた私達に、まだ気力は残っていたのか王の視線に抵抗するのをやめた少年が苦悶の表情でこちらを振り返り睨む。
「こ、これも貴様がか!」
 その消えかけのロウソクのように盛る怒気をあるじは平気で受け流す。
「うん。落とし前つけるなら、やっぱ当事者がした方がいいかなって。だから間に合えばユニに連れてきてって頼んだんだ」
「――――――――――――」
 その優しげな声に、少年が初めてあるじに圧倒された。
 数十分前に私が天使に感じていた得体の知れなさを、今度は天使がこの十七そこらの少年に感じているのだろう。
 あるじはこう言っているのだ。助けを求めるためにではなく獲物を、トドメを、怒りをぶつける矛先を譲るために呼んだ、と。
 しかもそれは、まだこの事件の主犯も意味も知らず、天使と敵対する前から仕組んでいたのだ。
 あるじもボコボコにされたのに自分は怒りを感じてないかのように普通だ。だが、普通の少年ではないことを感じ取ったのだろう。


 向こうの世界で魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)を相手に逃げの一手で生き延びてきた少年。それは身体能力だけではなく物事を見通すため頭の回転も速くないと無理だったのだ。
 一見ヘタレなだけの暴力なんて見たことがない平和な少年に見えるが、その実は慢心即死の世界で百戦百逃してきたその世界の住人。逃げるばっかりなので経験値が溜らずレベルが低いくせに実戦経験だけは豊富というチグハグだが。


 あるじはヘタレだが、それは優しいという意味ではない。
 自分で殺しはしないが、他人の殺しを止めたりはしない。
 コウモリなんて畜生を殺すのをためらっていた人間とは思えない殺伐とした考え方に、天使はあまりのその精神の奇形さに呆気にとられるしかない。そしてこの状況では嫌悪感を表すしかない。
「これが『召還者』か………………!」
『召還者』というのは、召還された人間の呼称だろうか。そう呼ばれたあるじはどれだけ自分の精神構造が天使に衝撃を与えたのかを分かってないのかきょとんとしている。
「やっぱり、貴様らは伝承通りの危険な存在だ…………!」
 絞り出すように出される声。それは忌避。
 遺言のように言葉を紡ぐ少年に雪竜の王の裁断が下される。
 竜王の瞳があの蝙蝠のような、だが美しい光を放ったかと思うとペキペキペキと異音が聞こえる。
「……………………づっ!?」
 音の発生源は少年の足下から。少年の足に霜が降りて爪先から凍っていっている音だ。
 離れている私達まで凍えそうな零ケルビンを彷彿とさせる冷気に生きたまま晒され、そのまま心臓まで凍らせるのが罪過の死罰。恐ろしいことに凍っているのは少年だけで周りの地面には霜すら降りていない。
 王の威圧に負けてか寒さゆえにか逃れられない死の恐怖でかわからないが、歯の根が合わずカチカチカチと鳴るだけの静かな罰。
 その受刑者は遺言も恨み言も命乞いもせず、あるじを睨みつけている。
「い、いい気になるなよ。僕の上には【座】天使に【智】天使もいる! しかも僕は【主】天使にしては戦闘力が低いからたまたま負けたんだ!」
 うわー、なんか雑魚っぽいこと言いだしましたよこの人。
「そうだ、他に動物がいたらお前なんて僕に勝てるわけがないんだ!」
 なんという他力本願。その言葉にあるじは無表情をやめて、呆れたように眉を動かす。
「あのね、遠足じゃないんだから準備万端で臨める戦いなんてあるわけないでしょ」
「………………は?」
「予定通りにいかないなんてザラだし相手が自分の知らない技術を持っていることもある」
 それは【召還魔法】と【結界殺しのナイフ】のことを言っているのだろう。

 視界がゼロで敵と遭遇するかもしれない。ナイフに毒が塗られているかもしれない。相手が殺し屋〈タナトス〉や護衛人〈セキュリティー〉かもしれない。持病の癪(しゃく)が疼くかもしれない。二面のボスが強いかもしれない。手持ちのモンスターボールがないかもしれない。技ポイントがゼロかもしれない。フェニックスの尾が尽きるかもしれない。召喚獣を呼び出すかもしれない。大魔法を使うかもしれない。予想外の強敵が現れるかもしれない。【翼】を生やしてレベルアップするかもしれない。油断大敵。盛者必衰。禍福は糾える縄の如し。

 そんな予測できない事態が起きるのなんて人生ではよくある。今さら語るまでもない。
 あるじは淡々と人殺しに戦いのなんたるかを語る。


「まあ、あれだ。げーむおーばー。天国に帰れ(ごー・とぅー・へぶん)♪」
「―――――――――っ!」
 あるじは天使の負け惜しみを一蹴した。
 あるじは天使の詭弁を論破した。
 これで天使の負けは完全なものとなる。
 天使はそれでも怒りから口から泡となった唾を撒き散らすように怒鳴る。
「やはり、お前は我々の、【天使】の敵だ! 出会う【天使】は例外なくお前を殺しにかかるだろう!」
 それは邪魔者でも標的でもない怨敵に対する、まごうことなき殺意。




「お前は、『召還者』は災厄を呼ぶ故に殺さなくてはならないのだから…………!」




 その言葉が終わるか終らないかのタイミングで彼の口は止まる。彼というか彼の生命活動が一瞬にして停止したのだ。心臓どころか流れる血液すらも脳に至るまで全て凍って等身大の氷彫刻。
 この雪山の怒りを受けた者にはふさわしいのかもしれない、と思うくらいには私とあるじは殺伐とした人生を送ってきた。
 だが、自然はその程度では許さず、ピシリと割れるような音がしたかと思うとガシャンと意外と軽い音を立てて砕け散ってしまった。

 天使はこうして死んだ。

「………………………………」
「………………………………」
 人(天使だけど)の死を間近で見てしまい何かを感じたのかユニは無言であるじに抱きつき胸に顔をうずめる。あるじはいつもの微笑みで頭を撫でる。
 私は二人の邪魔をしないよう、にユニが抱きつく前にあるじの腕の中から飛び降りて着地すると、肉球が何かを踏んだ感触がした。
 それは赤黒い小石のような結晶。天使の破片。
 私はこれを見てもどうとも思わない。何故なら人間と違って道徳だなんてないし動物にとっては殺し殺されは日常だからだ。食物連鎖とも言う。

 だから私があの純真そうだったが本心は見るに堪えなかった天使の慣れ果てを見て思ったのは怒りでも嘲りでもなかった。
 それは一つの後悔。
『お前は我々の、天使の敵だ!』
 敵、と言った。でも、それは人間であるあるじに、侵略に抵抗する人間に言ったのではない。
『召還者は災厄を呼ぶから殺さなくてはならないのだから』
 召還者という単語。災厄を呼ぶ、という勇者とはかけ離れた印象。そして殺さなくてはならないという義務、使命めいた言い方。
【召還魔法】について何か知ってそうな雰囲気だったのに、いい感じに生け捕りになっていたのに情報を聞けなかったのは惜しいと思う。

「猫ー」

 そんな思索に思いをはせる私にあるじは相変わらず緊張感のない声で呼びかけてくる。あんたがそんなんだから猫の私が代わりに頭使っているというのに。
 なんですかー。
「こういう時って最後に言うことあるだろ」
 最後。
 黒幕である【天使】を倒し操られていた動物達も元に戻り、竜も国を覆う【檻】を解いてくれるだろう。ならば今回の騒動は終わったと言ってもいいだろう。今回の騒動、は。
 そんなことを一切考えてないだろう能天気なあるじに私は答える。

 で、何て言うんですか?
「てれれてっててー。勇者から『召還者』にジョブチェンジした!」
 自前の口による効果音付きで成長を表現するあるじは、見てるこちらまで頬が緩むような満面で笑う。





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