揺れる艦隊
3機は艦隊の上に出ると、攻撃を開始した。まず狙われたのが駆逐艦の「テネドス」だった。この船には才助の発射した2発のロケット弾が襲い掛かった。
最初駆逐艦の乗員たちは、才助のゼロ戦が何をしようとしているのか全く理解できなかった。彼らには飛行機やロケットという存在自体への概念が全くないからだ。
彼らが唖然としているうちに、ロケット弾が発射された。才助は相手が一応巨大な船である事から、2発同時に使った。
「発射!!」
誘導装置もなく、地球のミサイルに比べれば玩具のようなミサイルであるが、相手が木造の船なら充分だった。2発のロケット弾は易々と「テネドス」の甲板を貫通して、内部で爆発した。
地球からもたらされた技術を使い、高い爆発を持つように設計されたロケット弾は「テネドス」を内部から破壊した。積んでいた火薬に誘爆したのである。
水系統のメイジたちが必死に消火を試みたが、どうにもならなかった。早々と退艦命令が出され、乗員たちは風の魔法をかけて空中に浮いた救命ボートへと乗り移った。
「テネドス」は全艦炎に包まれると、浮力を失い墜落していった。
さらに、これを見た才人と清水一尉のゼロ戦は、は別の駆逐艦に1発ずつのロケット弾を発射した。これも見事命中し、2隻の駆逐艦は火を噴いた。さすがに「テネドス」の様にあっという間に撃沈とまではいかなかったが、2隻とも火災の延焼が激しく、間もなく退艦命令が発令された。
奇跡的に死者は出なかったが、3隻の駆逐艦が撃沈されたため、アルビオン艦隊の陣形は大きく崩れた。
先ほどの竜騎兵全滅に続き、目の前で駆逐艦と言う小型艦とはいえ、軍艦を一撃で撃沈されてしまったことに兵士たちは再び呆然とした。
1回目の攻撃には、兵器の威力を見せ付けるデモンストレーションの意味があったが、その意味では大成功だった。
アルビオン艦隊は再び浮き足立った。その中で、巡洋艦「インドミダブル」のヘンリ・ボーウッド艦長は冷静に命令を下した。
「信号兵、艦隊旗艦「レキシントン」に信号。撤退を具申するだ。」
すると副官が目を剥いた。
「艦長正気ですか!?まだ戦いは始まったばかりですよ!それなのに撤退を具申するなど言語道断の行為ですよ!」
それに対し、ボーウッド艦長は副官に諭すように言った。
「君も見ただろ、連中が使っている兵器は我々の大砲などとは比べ物にならない威力を持っていたぞ。しかもあんな俊敏な動きをされてはとてもではないが撃ち落す事など出来ない。今はまだ3匹しかいないが、もっとトリステインが持っていたら厄介だ。ここは傷を広げないうちに一端引くべきだ。責任は私が取る、信号を送りたまえ。」
「は!!」
副官は命令を承諾すると、信号兵に「レキシントン」への信号を行うよう命令した。
ボーウッドが撤退を具申した理由には、先ほどの理由もあったが、もう一つ彼自身がこの戦争に否定的なことがあった。
彼は一応レコン・キスタ側についているが、別に政治的信念とか貴族としての利益があって靡いたわけではない。内戦中上官がレコン・キスタについたのに従っただけである。
本来なら彼は旗艦である「レキシントン」の艦長職に内定していた。しかし、出撃前に反レコン・キスタ派の嫌疑をかけられ取調べを受けた。今回の作戦は拙速であると批判的意見を言った事と、積極的に協力する姿勢を示さなかったからである。嫌疑自体は晴れたが、結局それが原因で以前乗り組んでいた巡洋艦の艦長に留任したままでの出撃となった。
(ま、あの堅物司令官が意見具申を聞くほど賢明とも思えないがな。)
ボーウッドは侵攻軍司令官のジョンストンの性格を思い出し、嘲笑した。彼は融通が利かず、部下からの意見具申を聞くとは思えなかったからだ。
(特に自分のような人間がする意見はな。)
ボーウッドの予想通り、「レキシントン」の艦橋に立つジョンストンはこの意見具申を無視した。
「たわけたことを!あのボーウッドらしい弱腰な意見だわ!少しぐらいの損害を受けたぐらいで撤退など出来るか!!艦隊全艦に徹底しろ、撤退は許さん!!それよりも兵隊を降ろす準備をしろ!!」
直ぐにその通りの命令が通達される。しかし、ボーウッドの意見具申は大きな波紋となって艦隊に広がった。特に中小型艦の艦長たちはボーウッドの意見を支持する動きをみせた。
3分後には彼の意見に賛成する複数の艦が発光信号で、同様の意見具申を帰してきた。
その様子を見たジョンストンは再び激昂した。
「愚か者どもが・・・少しぐらいの損害で怖気づきよって!!撤退は絶対に許さん!!もし少しでもその素振りを見せたら砲撃すると全艦に通達しろ!!」
こうしたやり取りが行われている間才人たちは攻撃を控え、艦隊上空をグルグル旋回していた。
「連中、盛んに信号をしているけど、一体何がしたいんだ?」
「わかんないわね。」
才人もルイズも、発光信号は読めないので一体どのような連絡がなされているのか全くわからない。
「父さんどうする?」
才人は無線で才助に呼びかけた。
「とりあえず連中が動き始めたら再攻撃だ。残ったロケット弾を旗艦と思われる戦艦に集中して使うぞ。指揮系統を麻痺させるだけで充分だ。」
すると、アルビオン艦隊は撃沈した3隻の乗員を救助する船を除き、バラバラになっていた陣形を戻すと再び進軍を開始した。しかも、高度を落としている。どうやらこのまま兵士を降ろす気のようだ。
「まだやる気のようだな。救助中の船は無視!アルビオン艦隊旗艦に集中攻撃をかけるぞ!」
「「了解!」」
3機が翼を翻して再攻撃を開始しようとしたとき、清水一尉が叫んだ。
「平賀3佐、左後方に艦影。数は1。」
その言葉に、才人もルイズも左後ろ側を見た。確かに、艦影が1隻接近しているのが見えた。その正体に2人は直ぐに気付いた。
「ウェールズ王子の乗る巡洋艦だわ。」
「ああ。」
すると直ぐに無線機に交信が入った。
「こちら才吉だ。今追いついた。ウェールズ王子も一緒だ。これより戦闘に参加する。現在の状況を知らせてくれ。」
「こちら才助。現在敵の竜騎兵を全滅させ駆逐艦3隻を撃沈するも、敵は侵攻を継続中。応援よろしく頼む。」
戦況が大きく動く。
|