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異世界の証拠
「はあ?異世界から来た?あんた頭大丈夫?」

 ルイズがベットに腰掛けながら、目の前の床に座っている才人へ向けて言った。その表情は目の前の人間を狂人か何かで見るものであった。

「大丈夫だよ。」

 信じてもらえるか不安だったとはいえ頭ごなしに否定されたので、その声は不安の色が混じっていた。

 あの後訳もわからぬままキスされ、激痛とともにルーンを刻み付けられた才人。その後訳がわからないままここに連れてこられた。今彼とルイズは今女子寮にあるルイズの部屋にいた。

 日が沈み、月が出てようやく才人は自分が地球ではないどこかにいるのがわかった。何故なら空に登った月が2つあったからだ。

 それから才人はとにかく今自分が置かれている状況を知ろうとルイズに質問しまくった。その結果、ここがハルケギニアという地にあるトリステインという国であること。そして、魔法を使える者がメイジと呼ばれていて、その中の貴族が支配をしていること。最後に、自分が目の前の桃色髪の少女の使い魔にされたことを教えられた。

 それらを知った才人はすぐに自分が異世界人であることを説明したが、ルイズは馬鹿にするだけで本気にしない。まあ才人にしてもそれはわからなくもなかった。ある日同じ人間から、「私は異世界人だ。」と聞かされて信じるとしたらよっぽどのお人好しである。

「そんなに言うんなら、何か証拠を見せなさいよ。」

 その言葉に、急いで才人は服のポケットを弄った。ちなみに、今は飛行服を脱いでいるのでその下に着ていた普段着ている青のパーカーにジーパンという格好である。

 彼がポケットから証拠として取り出したのは携帯だった。

「何それ?見慣れない箱ね。」

「これは携帯。離れている所の人と話すための機械だよ。もっとも、他に最低でももう1個携帯がなきゃ話せないけどね。」

「それじゃあ証拠にならないじゃない。」

 そこで、才人はあることを思いついた。携帯を開いて少し操作をすると、携帯をルイズの方に向けてボタンを押した。

 カシャ!

 その音にルイズがびくついた。

「な、何よ今の音!?」

「シャッターの音だよ。ほら。」

 才人はルイズに携帯の画面を見せた。もちろんそこにはルイズの顔が映っているわけだが、ルイズはそれを見て仰天した。

「な、何これ?私じゃない?一体どんな魔法なの?」

 その言葉に、才人は溜息を吐いた。

(こいつは何でも魔法にしたいのか)

 と。

「魔法じゃない、科学。」

「科学?何それ?」

 才人はこの言葉に駄目だと思った。この世界の人間は科学に対しての素養が全くないようだ。

(仕方がない、明日ゼロ戦のエンジンを動かして見せるしかないか。)

 結局そういう結論に至った。しかし、現実はそう上手くは行かなかった。

 翌朝から才人に待っていたのは、ほぼ下僕に近い生活だった。ご主人であるルイズを起こし、服を用意し着せ、さらに洗濯もさせられた。もちろん、現代日本の高校生である才人は文句を言ったわけだが、そうすると凄まじい報復処置を受けねばならなかったので、従わざるを得なかった。

 また、朝食も固いパンに少量のスープという囚人食よりも低ランクの物であった。そして、朝食を終えるとすぐにゼロ戦を見せたかったのだが、ルイズは。

「授業があるから。」

 と一言で拒否してしまい、才人に残った仕事を言いつけるとさっさと教室に行ってしまった。

「あんの野郎!!」

 と1人怒るが、それで収まる筈がなかった。しかも、やはり朝食の量が足りなかったらしく、彼は空腹だった。

「うう、まずは腹を満たす方が先決だ。」

 そこで彼は思い出した。

(そういえば、ゼロ戦に置いて来た鞄の中に昨日昼飯に買って余ったアンパンとメロンパンが!)

 彼はゼロ戦のある場所に走った。

 ゼロ戦は昨日才人が来た時のままの状態で置かれていた。誰かが何かしていないか心配したが、どうやら興味を持たれなかったらしい。

「良かった。」

 急いで翼からよじ登り、風防を開ける。中も特に荒らされた形跡はなかった。鞄はちゃんと残っていた。もちろん、中身も無事である。

 急いでパンを出す。

(よし、賞味期限も大丈夫だ。)

 彼は安堵すると共に、地面に降りた。すると、後ろから声を掛けられた。

「あのー?」

 女の子の声である。今は確か授業中の筈だ。そう思いながら振り返ると、絵に描いたようなメイド服姿の少女が立っていた。才人は口をポカンと開けて固まる。

「あの、どうかしました?」

 もう一度声を掛けられ、才人は正気に戻った。

「あ!ごめん。メイドさんなんか見たことないもんで驚いちゃって。」

「そうだったんですか。私はシエスタ、見ての通りこの学院に奉仕しているメイドです。」

 歳は才人と同じくらいであろう。黒く美しい髪をショートカットにして、それなりに可愛い顔立ちをしている。顔にいくらかあるソバカスも可愛いといえば可愛い。

「俺は平賀才人。よろしく。」

「ヒラガサイト?変わった名前ですね?」

 このセリフを既に何度も言われた才人はもう驚かなくなっていた。

「で、俺になんか用?」

「あ、これによじ登っているのを見て、何をやっているんだろうと思って。」

「そう。これはゼロ戦っていう飛行機さ。」

「ゼロ戦?飛行機?」

(やっぱりわからないよな。)

 そこで才人はより噛み砕いた説明をする。

「ようするに、こいつは空を飛ぶ機械なんだ。」

 そう言うと、シエスタはキョトンとしたが、すぐに笑い出した。

「アハハハ・・・冗談が上手いんですね。船や竜じゃありませんし、こんな物が飛ぶはずなんてありませんよ。」

 この言葉に、才人は少し気分を悪くした。飛行機を知らないとはいえ、ここまで正面から言い切られるとやはり気持ちのいいものではない。

 そこで、才人は考えた。こいつを飛ばせば信じてもらえるかもと。目の前の女の子に格好良いところを見せられるという下心もなくはなかったが。

「だったら飛ばしてあげるよ。」

「え!本当ですか?」

 別に才人は虚勢を張った訳ではなかった。彼は才吉からゼロ戦の操作方法を聞いた覚えがあったし、それにその才吉とともにセスナ機に乗って、簡単な操縦訓練の様な物を受けた事があったからだ。

(それにどうせ落ちてもここは異世界だし。俺が死んでも困る人間なんかいないさ。)

 さっそく才人は飛行準備に入った。

 部屋から飛行服を持ってきて着替える。燃料タンクを確認したところ、幸い機体の燃料は満タンである。だから、エンジンが故障さえしてなかったら飛べるはずだ。

 コックピットに入ると、彼はベルトを締めた。そして操縦桿を握った途端、彼は不思議な気持ちになった。

(なんだ・・・まるでこいつを何回も操縦したみたいだ。計器やレバーのことが何もかもわかる。曾爺ちゃんから何度も昔の話を聞いた所為かな?)

 彼はそう考えたが、今は確認することなど出来なかった。彼は気付かなかったが、左手のルーンが光っていた。

 とにかく才人は飛行するための準備を進める。操縦桿、ラダーの動作を確認する。いずれも正常だ。

「シエスタ!危ないから機体から離れて!!」

 才人は機体に近づいて物珍しげに見ていたシエスタに注意する。すでに車輪止めは解除してある。もしかしたらエンジンを始動した途端に動いてしまうかもしれないからだ。

「よし、あとはエンジンを始動させるだけだ。」

 オリジナルの零戦は、エンジンをかけるためのクランクを手動で回す必要があった。しかし、こいつにはセルモーターが付いているからその必要もない。

 才人はエンジンの始動ボタンに手をかけた。

「コンターック!!」

 
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