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タルブ村
 タルブの村へは、折角なので才助たちが乗ってきた双発の軽飛行機がを使っていく事にした。複数の人数が乗れて、航続距離も往復するのに充分だったからだ。

「うわあ!すごいですね。空から地上を眺めるとこんな風に見えるんですね。」

 シエスタは飛行を開始してからずっと騒ぎっぱなしであった。まあ一度も空を飛んだことがないのだから、その感動は相当大きい物であろう。

 一方で、ルイズは不機嫌な表情で彼女を見ていた。彼女が才人に手出ししないか警戒しているのだ。

 その様子を才人は困り果てた表情で見つめていた。対照的に母親の瑞江は楽しそうにその光景を見ていた。それを訝しがって才人が瑞江に尋ねた。

「母さん。なんでそんな楽しそうにしているのさ?」

 すると、瑞江は笑みを絶やさずに言う。

「そりゃあんた、あんたを2人の可愛い女の子が奪い合おうとしているんだよ。これは親にとっちゃ重要な事よ。なにせ、もしかしたら2人の内のどちらかが義娘になってくれるかもしれないからね。」

 その言葉に、才人は顔を真っ赤にした。

「か、母さん。俺2人とはそんな関係じゃないぜ!!」

 ルイズとシエスタには聞こえないようにしつつも、母親に抗議する才人。しかし、瑞江は表情を変えずに言い返した。

「今はでしょ?」

 その言葉に、才人は反論する気力を失う。この人には何を言っても無駄だと。

「はああ・・・女に絡む問題がこんな複雑なもんだとは思わなかったぜ。」

 彼の溜息は日本海溝よりも深そうであった。

 そんなこんなで、魔法学院を出発してから約3時間で目的地のタルブ村に到着した。

 シエスタの故郷であるタルブ村は緑が豊かな森が近くにあり、色とりどりの花々が咲き誇る草原が広がる美しい場所だった。その草原の中で比較的平坦な場所を見つけて、軽飛行機は着陸した。そこは村からもそう離れていない丁度良い場所だった。

 タルブ村の住人は、突然空から現れた珍客に驚いたものの、シエスタの姿を認めて安堵するという場面もあった。

 タルブについた一行はシエスタの家に招かれ盛大に歓迎された。特に、才人はシエスタの両親や兄弟がどう教えられたのかわからないが、やたらと厚遇された。もちろん、それはルイズの神経を逆なでする行為であったことは間違いなかったが。



 翌日、才人はシエスタから妙な話を聞いた。

「竜の羽衣?」

「ええ、私たちの村に伝わる一種の宝物です。私の曾おじいさんはそれを纏って空から現れたと言われています。なんなら見に行ってみます?」

 その『竜の羽衣』なる物体が何であるかわからないが、才人は空から現れたという部分に興味を引かれた。もしかしたらという予感が頭をよぎった。

「わしも付いて行って良いかな?」

 才吉が話に割り込んできたが、シエスタは嫌がる様子もなく、「はい、どうぞ」と言った。

 シエスタを案内役に、才人、才吉、さらに付いて行くと言い出したルイズの4人がその村はずれの『竜の羽衣』がある場所へと向かった。

 ところが、その場所に着いて、才人と才吉は仰天してしまった。

「なあ爺ちゃん・・・もしかしてこれって・・・」

 その言葉に、才吉は頷いた。

「ああ、ワシの目がおかしくなっていなければ、これはどう見ても神社だ。」

 『竜の羽衣』が安置されているというその寺院は、才人や才吉からすれば地球で見慣れた神社の形そっくりだった。2人は急いで中に入った。そして、そこに鎮座する『竜の羽衣』を見て絶句した。

「そんな・・・ゼロ戦!?どうして!?」

 才人がうめくように言った。

 そこにあったのは、間違いなくゼロ戦だった。才人が使っている21型ではない。濃緑色の塗装、加速性能を高めるために採用された単排気管、長銃身の20mm機関銃。才吉がこちらの世界に来るとき持ってきた52型だ。その乙タイプである。

 部隊のパーソナルマークだろうか、機首には白い文字で辰の文字が刻まれている。

 それを見て、才人以上に驚いている人物がいた。才吉である。

「まさか・・・」

 彼は機体の後部に回った。尾翼のマークを見るためだ。そこに書かれていたのは、ヨD−136。ヨは海軍横須賀鎮守府。Dはディフェンスの意味である。このマークをつけていたのは、終戦まで関東上空の防空戦闘を引き受けた海軍厚木航空隊の物である。

 その部隊は、紛れも無く才吉が60年前に戦っていた部隊だ。そしてその機番号は彼にとって忘れる事の出来ない物だった。

「佐々木の・・・佐々木武雄少尉の機体だ!間違いない、あの日日蝕に消えた佐々木の機体だ!!」

 才吉はシエスタに詰め寄った。

「君の曾おじいさんはこれに乗ってきたといったね。彼は、佐々木はどうなったんだね!?」

 今まで蚊帳の外に置かれていて、いきなり詰め寄られたシエスタは少し答えに窮したが、直ぐに冷静になると答えた。

「曾おじいさんは5年前に亡くなりました。」

 その言葉を聞いて、才吉は力なくうな垂れた。

「そうか・・・あいつは先に逝ったのか・・・すまないが、彼の墓に案内してもらえないかな?」

 シエスタは3人を村の共同墓地にある、曽祖父の墓に案内した。

 その墓石はやはり日本で見慣れた形の物だった。正面に書かれている文字はハルケギニアの文字であるが、側面に書かれていたのは紛れもなく日本語だった。

 その文字を、才人が読む。

「海軍少尉、佐々木武雄、異界に眠る。」

 墓石に向かって、才吉はピシッと日本海軍式の敬礼を行った。才人もそれに倣って同様に敬礼した。

「曾おじいちゃんは故郷の事については何も喋ってくれませんでした。ただこの文字を読めた者に『竜の羽衣』を託すと、そして陛下にお返しして欲しいと言い残したそうです。陛下ってどこの陛下でしょうか?」

 シエスタが聞くと、才吉が答えた。

「天皇陛下だ。ワシらの国の王様だ。もっとも、こいつが返そうとした昭和天皇はもう20年近く前に崩御してしまったがね・・・あいつは死ぬまで戦争を戦っていたんだな。・・・佐々木、戦争は終わったんだ。これでようやくお前の戦争も終わりだ。地球に連れて帰ることは出来んが、ゆっくり眠ってくれ。」

 そして才吉はそう言って、涙をこぼした。
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