この作品では原作とは少し・・・と言うかかなり違った設定を取っています。それに加えて時折漫画版やアニメ版の設定が入ったりします。また、読んでない人にはネタバレになる点もあります。そして、才人のミリタリーマニア度が高いです。それからかなり御都合主義です。
以上の事を御理解のうえお読みください。
甦った翼
その日、日本の東京に住むごく普通の17歳の男子高校生、平賀才人は埼玉県の田園地帯の中にある小さなセスナ機用飛行場に来ていた。
なんで彼がこんな所にいるかというと、彼の曽祖父である平賀才吉から是非とも今日来て欲しいと言われたからだ。
今年85歳になる才吉は、ことのほか曾孫の才人を可愛がっていた。幼い頃から自分の軍隊での話を聞かせてくれたりもした。おかげで才人はそれなりにミリタリーに関する知識がある。というか少しばかりオタクだ。そして、才人自身もそれなりに才吉を慕っていた。
この日は近所のパソコン専門店で午前中に修理が終わったノートパソコンを受け取る以外に予定はなかったので、才人は出かけるついでに才吉の所へ行く事にした。
一旦パソコン店へと出向いて修理中のパソコンを受け取った才人は、その足で電車に乗って埼玉へと向かった。途中で数回の乗り換えを行い、だいたい1時間ほどの時間をかけた。こうしなければいけないのは、彼自身未だ自動車免許もバイクの免許も持っていないからだ。
「おお才人、待っていたぞ。」
最寄の駅から20分程歩いて飛行場に到着した才人を、才吉は大げさに出迎えた。
「曾爺ちゃん、久しぶり。相変わらず元気だね。」
才人の言うとおり、才吉は実際70代でも通りそうな程若々しい老人だった。またかなり行動派でもある。
「ああ、まだまだ若い者には負けんよ。と言いたいところだが、最近は体の至る所にガタが来ているよ。だが、後10年は死ぬ気はないぞ!」
そう言って笑う才吉の笑顔を才人は好きだった。
「で、今日はこんな所に何で呼んだの?」
「おお、そうだった。お前に見せる物と頼む事があったんだ。」
「一体何?」
見せる物と頼む事とは一体なんであろうか?
「取り敢えずこっちに来なさい。」
才吉に案内されて才人がやって来たのは格納庫だった。その中に入った才吉が電気をつける。そしてその灯りの中に照らされた物体を見て才人は息を飲んだ。
「こ、こいつは。」
彼の目の前にあったのは1機の飛行機だった。ただしプロペラ機だが、見慣れたセスナ機ではない。黒く塗られたカウリング。一人乗りの風防。エンジン部を除く機体全体が灰白色に塗られた機体。そして胴体と翼に目立つように描かれた太陽の紋章。ミリタリーに明るい彼はその正体に直ぐに気付いた。
「ゼロ戦じゃないか!!」
「そうだ。ゼロ戦だ。正式には零式艦上戦闘機21型だよ。かつて多くの連合国パイロットを恐怖に陥れたゼロファイターその物だ。」
才人もゼロ戦は今までさんざん本や映画で見てきた。しかし、目の前にあるのは実物大のゼロ戦である。
「これって本物?」
もしかしたら映画用か何かのダミーかと思って聞いた。しかし、才吉は笑ってこたえた。
「もちろん、本物だ。ワシが戦後60年かけてこつこつためた小金でよやく作り上げたものだ・・・と言いたい所じゃが、実際はそれだけじゃなく、ワシが海軍から復員したときに基地からくすねた金の延べ棒を現金に換金した金で作ったものだ。」
そういうと、才吉はガハハと大笑いした。才人はそれは窃盗ではと突っ込みを入れたくなったが、それよりも好奇心が先行した。それにどこまで本気で言っているのかもわからなかった。
「すげえ。けど曾爺ちゃん。なんでこれを作ろうと思ったの?」
「うむ。よくぞ聞いた。お前はワシが旧海軍の士官パイロットして太平洋戦争を戦ったのは知っているな?」
「うん。」
その話なら子供のころから何度も聞いていた。そして才吉は現在も時折飛行機を操縦したりしている。年を追うごとにその回数は減り、単調な飛行しか出来なくなっていた。それでも、彼がパイロットであるということは才人に深く印象付けられていた。
「ワシは太平洋戦争末期、神奈川県にある厚木基地の302空で同期の佐々木武雄海軍少尉とともに小隊を組んで戦っておった。しかし忘れもしない8月15日。早朝の空戦から帰還途中に、ワシらは突然発生した日蝕の中へと突っ込んでしまった。そしてその先には広大な草原が広がっていた。ワシは怖くなってもう1回日蝕に入ってこちらに戻った。しかし、ワシの後ろを飛んでいた佐々木はついに帰ってこなかった・・・」
と、そこで才人は才吉が涙を流しているのに気付いた。
「曾爺ちゃん。」
「確かに零戦は武器かもしれんが。ワシにとっては共に戦った戦友との思い出、青春だった。だからこうして零戦を複製する事にしたんだ。戦後60年経ってようやくその夢が叶ったわい。」
才人はその言葉に、目の前にあるゼロ戦をもう一度見つめ直す。
(そうか、これは曾爺ちゃんの青春その物なんだ。)
しかし、疑問も浮かんできた。
「けど曾爺ちゃん。これって太平洋戦争初期の塗装だよね?なんで曾爺ちゃんがその友達と戦っていた時の色じゃないの?」
実はゼロ戦は登場時からミッドウエー海戦のころまでの2年間は機体の塗装が灰白色だった。しかし、それ以降は終戦まで迷彩の意味から塗装は濃緑色になっている。
ところが、目の前のゼロ戦は前期の塗装だった。
「それはだ。これが21型だからだ。実は発注したメーカーにはただゼロ戦を忠実に復元して欲しいと注文したもんでな。向こうが勝手に塗装と型を決めてしまったんじゃ。」
(なるほど。だからご丁寧に尾翼にはA1−148.つまり戦争初期に活躍した空母「赤城」航空隊のマークが入っているのか。)
ちなみにAは第一航空戦隊、1はその1番艦を意味する。
「なるほど。で、もう一つ。俺に頼みたい事って何?」
「おおそうだった。実はこれを着て欲しいんだ。」
そう言って才吉が差し出したのは、旧海軍の飛行服だった。肩には日本海軍の軍旗である旭日旗が縫い付けられ、名前を書くところには、平賀才吉少尉と書かれている。
「え、これを?」
「そうだ。」
なんでそんな事をするのか気になったが、取り敢えず着る事にした。脱ぐのも面倒なので、今着ている服の上に着る。ついでに、ちゃんと救命胴衣とベルト、さらには帽子とゴーグルもつける。
「うーん、よく似合っているぞ。」
飛行服は才人にピッタリだった。
「それで、これを着てどうしろと?」
「そのままコックピットに乗ってくれ。荷物はコックピットの後ろにでも置いておけ。」
言われるまま、この日修理が終わったパソコンを入れた鞄をコックピットの後ろに置いて、彼もそのままコックピットに入った。
「これで良い、曾爺ちゃん?」
「ああ、ありがとう・・・懐かしい、63年の前のことが甦ったようだ。」
そう言って才吉は泣き始めた。どうやら才人に過去の光景を復元して欲しかったようだ。
「そういうことか・・・それにしても。」
操縦桿を握ってみる。才吉から何度も聞いてきた自分自身で空を飛んでいく光景が瞼に浮かんでくる。
(曾爺ちゃんがこいつに惚れこんだのもわかるかも。俺もこいつを操縦してみたい。)
武器でありながら、流麗な機体の美しさはラインは彼の心を掴むのに十分だった。才人は操縦桿をつかんで、目をつぶって自分が空を飛んでいる姿を思い浮かべる。
そうやって彼が零戦に酔いしれている時、突然目の前が真っ白になった。
「うわ!!」
「何!?」
ゼロ戦を包む形で、大きな鏡のような光の塊が出現した。そして、次の瞬間にはゼロ戦も、そして乗っていた才人もその場から掻き消えていた。
「ば、バカな!!一体どう言うことだ!?」
才吉はただ茫然と、ゼロ戦とひ孫が消えて空っぽになった格納庫を見ていた。
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