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女騎士から剣を捧げられた件

「ディートさんみたいな美人が臨時じゃなくパーティーに常駐してくれればなあ」

「あははは……考えとくわ」


 自分でもわかるぐらい引きつった笑いを返す。今すぐに殴ってやりたい。

 けど殴ったらトオルの立てた作戦が台無しになってしまう。ガマンガマンよ。

 それにしてもリアの話と違ってクラインは女にずいぶん軽い気がする。奥手ではなかったのか?

 まあ、あの子の目を通したら誰でも善人になる。もしくはあの子は鈍感過ぎてわからなかったのかもしれない。


「ところでディートさんのアーティファクト便利ですね」


 クラインが私の胸元を指差す。どこを見ていたんだか。


「この月光石のネックレス?」

「はい」


 松明やランタンが無くても洞窟を照らして明るくするアイテムだ。普段は一人で探索する私にとっては必須アーティファクトだ。


「まあ私のアーティファクトの中では一番高いかもしれないわね」


 宿においてあるトオルから貰った服をオークションにかけなければだけど。

 バーニーも会話に参加した。


「いくらぐらいするのですか? きっと高いんでしょうね」


 新しいパーティーではよくある装備やアーティファクトの褒め合いだ。当たり障りのない話題のようで実は打算が含まれている場合も多い。

 特に仲間の装備で旨味を得たことのある冒険者とっては。


「大したことはないわ。それよりクラインの剣のほうがよほど高そうよ。ふふふ」


 ほらね。そう言った瞬間、バーニーが獣の目になったわ。

 私を警戒しているのだろう。自分が裏切ったことがあるから他人も裏切ると思うのだ。

 ちょうどその時、通路の曲がり角から現れたおおねずみをクラインが正中線から両断した。


「わかりますか? 俺のこの剣、真銀ですよ! 真銀!」


 クラインはバーニーよりも馬鹿だった。

 オメーのじゃねえだろ! となに自慢してるんだ!

 リアのような状況になって戻ってきた冒険者の話など聞いたことがないので、剣を自分の物だと疑わないのもわかる。だが、それを悪びれずに自慢するのはむかっ腹が立つ。


「やめろクライン」

「なんだよ? バーニー」


 バーニーがクラインの剣自慢を止める。

 しかし、私がもっと気に食わないのは先ほど猜疑心に凝り固まった目を向けてきたバーニーだ。

 そもそもパーティーに私を誘ったのは彼だった。


「ギルドの壁掲示板で見たんですが、稼げる話のある臨時パーティーを探しているんだって?」

「ええ。ちょっと物入りでね。アナタの名前は?」

「バーニーだ。いつも独りで探索するって噂のディートさんが珍しいな。供養の話があるんだけどどうだろう? それなりの額になるはずだから三人で山分けしよう」

「何層?」

「五層だ。アンタがいれば余裕だろ」



 ちなみに〝供養〟とは隠語だ。その意味は元の仲間の持ち物のリサイクルだ。

 冒険者の装備など貧弱で大した金にならないことも多いが、元騎士のドレスアーマーと盾なら申し分ないだろうと説明を受けた。もっともバーニーは懐にある皮袋についても言ったが、その中身がほとんどないことは私のほうが知っている。

 ダンジョンのどこにあるかわからないアーティファクトを探したり、ギルドの依頼をこなすよりも遥かに効率よく稼げる。


 しかし〝供養〟はならず者の冒険者であっても敬遠するビジネスだ。

 通りがかりの見知らぬ元冒険者をありがたく〝供養〟することもあるが、元仲間にはしない。現実的な危険があった場所でもあるし、不吉ということもある。

 今までに旨味を得たことのある冒険者だけが好んでするようになる。

 そう。真銀の剣のような高価な武器を仲間から手に入れた者だけが好むようになることを私は知っている。

 最終的には裏切るつもりでパーティーを組むようになることもある。

 だから私はパーティーなんか組みたくないのよ。 


「ところでリアはどこで?」

「この先ですね。もう少ししたら左です」

「アイツ、ディートさんが俺とパーティーを組んだって知ったら美人だから嫉妬しちゃうかもな」


 マジで殴りたい……。

 

「クラインはお上手ね」

「いやマジですって。常駐のパーティーメンバーになる話、考えてくださいよ」


 誰でも善人にしてしまうリアの視点ですら、ほとんどお前の間抜けでマヒ毒を食らったのにそれがわかっているのか?

 剣と食料を持っていったという時点でこんな奴だろうとは思ってたよ。

 自作の地図を見ていたバーニーが言った。


「アリアさんが倒れたのはこの辺ですかね? 辺りを探しましょう」


 バーニーは懐から花を取り出す。

 死体から追い剥ぎする癖にそういうことをするのか。そういうのが一番キライなんだよ!

 リアから私に乗り換えようとするクラインも腹立たしいが、バーニーは殴るのも手が汚れそうで嫌だ。靴の裏で蹴ってやりたい。


「ドレスアーマーと盾が……いやアリアさんの死体がない」


 この野郎、本音が出てるんだよ。突っ込むのも辛くなってきているが、もうトオルの作戦が近い。

 後は誘導するだけだ。


「ねえ。あそこ。金髪の女性が倒れてるわ」

「え……リアか?」


 二人の顔がみるみる深刻になって行くのがわかる。

 そりゃそうだ。絶対に物言わぬ屍になっていると思いこんでいたことだろう。

 しかし、頭を向こうに向け腹ばいに倒れるリアのドレスアーマーの裾から見える太股は、女の私でも揉みたい……ではなく、生気と瑞々しさに溢れとても屍のようには見えない。


「ど、どういうことだ」


 クラインの青白くなった唇からつぶやきが漏れる。


「あれ? 生きてるんじゃないの? だったら言ってやりなさいよ。私とパーティーを組むことにするからお前は捨てたってね? 私が言ってきてあげようか?」

「や、やめてくださいよ」

「あら、クライン。そんなことを言ってたじゃない。私とリアが犬猿の仲ってこともあってこのビジネスに誘ったんでしょ?」


 図星だろうが、もうクラインとバーニーは顔から汗を流すばかりで聞いてもいないようだ。


「ふふふ。なんてね~武器も食料も無く、何週間も経ってるのに生きてるわけ無いでしょ。ただの屍よ」

「で、でででもよ」

「ごちゃごちゃ言ってないで取るもの取っちゃいましょうよ。さあ」


 私は倒れる〝女騎士〟のほうに、二人の背中を押すのだった。


◆◆◆


 僕はヘッドライトを消して大部屋の壁の影に隠れていた。

 すぐ近くには腹ばいで顔を地面につけて倒れる〝女騎士〟がいる。

 遠くからディートや二人の男の声が近づいてきた。ついに来たな~。


「し、死んでるな。ピクリとも動かない」

「で、でもよ。肌の色とかまるで生きてるみたいだぜ」


 間違いなくクラインとバーニーだろう。


「死んでるに決まってるじゃない。このドレスアーマーと盾なら売ったお金を山分けしても相当になるわね。さあ早く剥ぎ取っちゃいなさいよ」


 ディートの声だ。女は怖い。演技が物凄く上手かった。

 聞いている容姿からしてクラインだろう。ついに彼が倒れる〝女騎士〟の盾に手をかけた。


「すまない。リア」


 その時だった。突如、〝女騎士〟は手をついて上半身を上げてクラインのほうを顔を向けた。


「クライン……ですか……? バーニーさん……ですか……?」

「ひゃああああああああっ! リア!?」


 よほど肝を冷やしたのだろう。クラインとバーニーが尻もちをつく。


「い、いいいいいい生きてたのか?」


 バーニーが掠れた声を出す。


「ええ……なんとか……助けに来てくれたんですね……」

「と、ととととと当然じゃないか」


 クラインが助けにきたと主張する。嘘つけ。

 ディートが山分けって言ってたじゃないか。そういう話になるってディートが推測してたけど、やっぱりそうだったか。

 俺も仲間をアッサリ捨てるヤツなんてそんなヤツだと思っていたぜ。

こんな話、〝リア〟には聞かせらない。


「嬉しい……クライン……」

「あ、あぁ! な、仲間のお前を助けに来るの当たり前だろ?」


 ディートがイライラした声を出す。


「クラインなに言ってるのよ。リアから私に乗り換えるみたいなこと言ってなかった? それはどうでもいいけどその女の盾とドレスアーマーを売って山分けするお金はどうするつもりなの?」


 クラインの顔はもはや土気色だ。死人はどちらかわからない。


「ディ、ディディディディディートさんへの報酬はちゃんと払うよ」

「そう。ありがとう。それならお口にチャックしとくわね」


 〝女騎士〟が弱々しい動きで、クラインに這い近寄る。懇願するような目でクラインを見た。


「クライン……どういうことなのですか……? まさか私を〝供養〟しに来たのですか……?」

「そ、そそそそそんなわけないだろ。ディートがおかしなことを言ってるだけさ」

「そうですよね……クラインさんは私にあんなことを言ってくださりましたものね……うふふふ」


 〝女騎士〟が嬉しそうに笑う。その笑いはどこか病的だった。


「うふふふふふふふふふ…………」

「リ、リア……?」

「ところでクラインさん。私を助けに来たということはご自分の剣を持ってきていらっしゃいますよね? 私がモニカ様から賜った剣を返してくださいますよね?」

「そ、それは!」


 クラインはチラッとバーニーを見る。相談だろう。バーニーは首を横に振った。


「クライン。ディートさんへの支払いもある。〝ギルドの原則〟に生きてたら返すなんて話はない!」


 どこまでも自分のことしか考えないやつらだ。

 そりゃ生きている例など無かったからそういう規定が無いだけだろう。

 しかし、この面の厚さではそれを理由にごり押ししてくるだろう。

 やはり作戦は決行だ! 僕はそーと手を伸ばしてロボットアームの近くにあるボタンをポチッと押した。


「な、なんだ。この音?」


 二人が音のする真上を見る。


「つ、吊り天井?」


 実際には鉄の扉だが、真下から見れば厚みのある鉄の扉はまさに吊り天井だ。

 二人は立つこともできずに尻もちを着いたま後退して逃げようとする。

 だが〝女騎士〟が笑いながら二人の足を掴む。


「うふふふふふふ……」

「な、なにするんだ?」


 クラインが悲鳴に近い声をあげる。すると同時に〝女騎士〟の顔がズルリと溶け落ち、一瞬でドクロになった。

 シズクも演技が上手かった。スライムだからか顔の肉が液状になってドロンと落ちる様は僕もびびったほどだ。


「ぎゃあああああああああ! は、離してくれええええええ!」


 クラインとバーニーの悲鳴が響き渡る。


「アリアの剣を……真銀の剣を……返してくださ~い。返してくれたら放してあげるか考えてあげます~」

「返すっ! 返すよおおおおおおおおっ!」

「ありがとうございます~。でも考えた結果、やっぱり放しません☆」

「ひやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 どうやらクラインとバーニーは気を失ってしまったようだ。

 僕はボタンをもう一度押した。鉄の扉はまた音を立てて上がっていく。


「いやー二人とも演技派だなあ」


 僕は立ち上がりながらディートとシズクを称賛した。


「本当に腹がたったからね!」

「スライムだって怒る時は怒りますからね!」


 そりゃそうだな。僕だって怒った。

 僕はその原因の気絶している二人を見た。


「クラインの奴、おしっこ漏らしてるぞ。今から記念撮影があるから平等にバーニーにもやっとくか」


 僕は念のため持ってきたコーラをバーニーの股間にかけてあげた。

 その上でデジカメで二人を撮影する。


「よし。アイポンで剣を返すって音声は取ったし、デジカメで写真も取った。ディート、シズク、洋室に戻るぞ」

「ええ」

「はい!」


◆◆◆


 洋室のモニターには閉めた鉄の扉の内側に倒れる二人が映し出されていた。

 クラインの顔の前には真銀の剣の代わりにディートがリアのために地上で買ってきた剣を無造作に置いた。ついでに。


「~記念撮影をプリンターで印刷した紙を添えて~」

「なにその変な独り言?」

「シェフの料理風だよ」


 ディートは不思議そうな顔をしていたけどモニターを見て笑った。


「あ、あいつら。気がついたわよ。トールが撒いた紙を見てるわ! ひひひ」


 僕が鉄の扉を右クリックで開けると脱兎のごとく逃げ出す姿がモニターに映し出されていた。


「後はあいつらの顔を見たくないって和室に一人でいるリアに真銀の剣を届ければ、全部終わりだな」


 僕は真銀の剣を手にとって和室に行く。気を利かせてディートもシズクもついて来ないようだ。

 和室に行くとリアはブルマ姿で和室の隅に体育座りをしていた。


「……終わりましたか?」

「終わったよ」


 僕は真銀の剣をリアに渡す。


「あぁ……モニカ様から賜った剣です。ありがとうございます」


 リアが涙を流して剣を抱きしめる。その姿を見て僕は本当に良かったと思った。

 記念写真は冒険者ギルドに行ったら掲示板にディートと二人で貼りまくってやるつもりだ。

 もうリアがあの二人に会うこともないだろう。

 もっともモニターを見た様子じゃそんな必要もないかもしれない。

 これであの二人については万事解決だが、僕には一つだけどうしてもやらなければならないことが残っていた。


「リア、実は改めて聞いてほしいことがあるんだ」

「な、なんでしょう?」


 下を向いた。言うのがとても辛いからだ。


「僕は大賢者じゃないんだ。ごめん」


 リアの顔が見れない。だけど逃げてばかりもいられない。

 顔を恐る恐るあげた。


「知ってましたよ。それよりもわたくしのほうこそごめんなさい」


 リアは満面の笑顔だった。


「え? 知ってたの?」

「未だに、トール様がどんな方なのかはわからないですけど、さすがに大賢者様ではないのではないかと」


 そりゃそうだよね。なんかおかしいもの。


「でもごめんなさいってどういうこと?」


 リアが申し訳なさそうな顔をする。


「途中から気がついていたんですが、騙されたフリをし続けてしまったんです」

「なんでまた」

「その……トール様との生活があんまりにも楽しかったので、許してくださるからと、剣が無いからと、トラウマを負ったからと、甘えて居続けてしまったのです。ご迷惑だったでしょう?」

「なーんだ。そうだったんだ。ずっと居てくれたっていいのに」


 それに本当にリアは帰れなかったんだろう。あの暗い洞窟に戻るのはなにより恐ろしいことだったに違いない。


「ところでトール様は本当は何者なんですか?」

「い、いや、なんなんだろうね。説明が難しくてさあ」


 畳にあぐらをかいて考え込んでいるとリアが僕にひざまずいた。

 そして剣の柄を向ける。


「え?」

「誰でも構いませんでした」


 なんかどっかで見たようなポーズだ。ま、まさか……。


「命ある限りトール様に我が剣と忠誠を……」

「えー? ちょっちょっと待って。それはいいよ」

「そ、そうですか」


 あ、あれ。アッサリ引き下がったぞ。


「ではお嫁として貰ってください」

「えええええ!? そ、それはえーと……」

「騎士としてでもお嫁としてでもいいから新しいご主人様になってください。私、ご主人様がいないとダメみたいなんです。どっちかお願いします。できれば後者で」


 なんだか凄く嬉しそうだ。


「じゃ、じゃあ騎士のほうがいいかな~? 異世界の地上に行く冒険とかもあるし?」


 リアは顔をふくらませた後に明らかに投げやりに言った。


「トール様に我が剣と忠誠を捧げますぅ~」


 これが騎士の態度なのか。


「確かに冒険もありますしね~。それにトール様はディートさんもシズクちゃんも選びたい放題ですしね」

「うっ」


 ディートとはなんでもない、シズクは白スライムだぞ、とか反論できるはずなのに、なぜか言い返せない。


「でも私を騎士としてではなくお嫁として欲しくなったら、いつでも気軽に言ってくださいね。お待ちしておりますから」


 そう言って金髪ブルマの女騎士は恥ずかしそうに顔を赤めて微笑んだ。

第二章完結になります!

ここまでの評価やブクマをしてくれると、とっても嬉しくて、励みになります!

これからも僕ダンの応援をよろしくお願いします。



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