♯好きやで
園子が案内した場所に着いてから十分も経たない内に、莉乃は帰る道筋を下って行こうとしていた。
「ちょっと…。何所行くの?」
哀に呼び止められ、莉乃は足を止めた。
そして振り返って返事をした。
「じっとしてんの苦手やねん。せやからどっか行ってくるわ」
作れるだけの笑顔を残し、来た道を辿って莉乃は歩いて行った。
其の笑顔も、直ぐに消えてしまった。
―アホやなあ……うち。
服部が和葉を好きな事なんて好きになった時から…
…好きになる前からもう知ってた事やのに……。
何でこんなに傷付いてるんやろ…
少しの望み……信じたかったんや ―
浴衣につけない様に涙を拭って、吹っ切れた様に花火を見上げた。
花火は色鮮やかに輝いている。
今度こそは、本物の笑顔で笑う事が出来た。
「……アホくさ」
一方その頃、残った六人からも抜ける人が出た。
「悪いけど、俺も抜けてくるわ」
「何言うてんの!?こんなに次々人抜けてったら、キリ無いやん!」
「俺の勝手やろ。お前は黙っとれ。」
「平次なんて、花火と一緒に打ち上げられとけば良いねん!蘭ちゃん、園子ちゃん!あんな奴ほっといて、女同士で楽しも!」
平次に反発するかの様に和葉は言った。
「おい坊主。お前も来るか」
「あ、うん…」
「駄目よ…」
平次と一緒に行こうとしたコナンの腕を、哀は掴んだ。
「こんな所に、私一人残しておく気?」
「あ・・ああ。悪ぃ服部」
平次に謝ると、ちらりと横目で哀を見る。
彼女もコナンを見ていた。
「かまへんかまへん!そんじゃ、仲良くやれよー」
そう言い残すと、平次は莉乃が通った道と同じ所を通って行った。
「なんなん!?平次の奴・・」
平次が暫く行くと、屋台が沢山並んでいる通りに出た。
ふと目を横にやると、見慣れた顔の少女が射的に没頭している所だった。
「おい、其処のアホ!何やっとんねん」
呼ばれた莉乃は振り返ると、平次が居た事に少し驚いていた。
しかし直ぐに返事を返し、また射的に身を入れた。
「何って見たら分かるやろ?ストレス発散や」
「まだオカンに何かされとんのか?」
店の人に100円玉を渡し、平次も射的を始める。
構えて狙いを定める横顔を見て、莉乃は少し真似をしてみせた。
「別に何も!バレンタインの時以来、顔も合わせてへんわ」
高校二年の時の二月、莉乃は母親のせいで足に怪我を負った。
彼女の足には其の傷痕が今でも残っている。
本人はどうって事無いと笑うが、平次は心配していた。
「そんならええけど・・ じゃあ何やねん、ストレスって」
「あんたには関係・・無いやろっ」
全ての玉を切らすと、二人はその場から離れて歩き出した。
「(服部に聞くんが一番早いけど……でもやっぱり聞けへん…。和葉の事好きって言われたらうち… どうしようも無くなるやん)」
「何考えこんどんねん」
「べっ別に何にも…無いけど。」
平次の顔を見ていると、聞くべきなのかそうでないのか、莉乃は迷っていた。
「そう黙りこくんなや。お前らしないぞ」
「……うちらしいって…何やねん」
二人の足は着実に元居た、花火が良く見える場所に向かっていた。
聞くなら今しか無いと莉乃は思った。
「服部…は……和葉の事好き…?」
「好きやで」
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