♯安らかな時間
翌朝、莉乃は一番に目を覚ました。
ゴソゴソと片づけをしていると、階段を下りる音が聞こえた。
莉乃がこっそり覗くと、毛利探偵が事務所に下りている所だった。
彼が通り過ぎると、莉乃はまた荷物に手をつけた。
昨日適当にしか畳まなかった服を畳み直しながら、莉乃はふと後ろを向いた。
人の気配がした。
しかし誰も居ない。
「(気のせい……やんな…)」
向き直って、服を鞄に詰めると、後ろから声がした。
「莉乃…おはよ……」
「……和葉…」
和葉は莉乃の前に座った。
そんな和葉を前に、莉乃は何を言おうか迷っている様子だった。
「……昨日は…ごめんな。」
先に口を開いたのは莉乃だった。
和葉は驚いた様に莉乃の顔を見た。
「何か誤解されとったみたいで…。悪かったと思ってる。」
「………うちも…ごめん」
緊迫した雰囲気の中、蘭も起きだした。
二人は蘭に気づくと会話を止め、挨拶した。
「おはよ、蘭ちゃん。」
「おはよう。二人で何やってるの?」
「あ…荷物の整理してんねん。ほら、うちら今日帰るから…」
蘭は自然に二人の傍に来ると、一緒に話し出した。
哀に聞こえない様に小声で喋っていると、外から階段を下りる音がした。
今度はコナンと平次だった。
「そろそろ哀ちゃん起こしたげる?」
「せやね。あたしらも早せな!!」
三人はそう言うと、哀を起こしたり髪を梳いたりした。
哀は直ぐに起きたが、それからが大変だった。
不機嫌で誰とも喋りたがらず、朝食を口にするまで無言でいた。
「いただきまーす!!!!」
皆は一斉に朝食を食べ始めた。
小五郎はまだパジャマのままで居たので、思わず莉乃と和葉は笑った。
「それで…?お前らいつ帰るんだ?」
「十二時すぎの飛行機やから…十時半位に出れば間に合うで。」
平次は小五郎に笑いながら答えた。
それから、何時もと同じ様に隣に座る和葉と莉乃を見て、今度は平次が質問する。
「澤田、昨日何でお前途中で帰ってん?」
行き成りされた質問に、莉乃は味噌汁を吹きそうになった。
其れを横から蘭に笑われ、彼女は少しだけ赤面した。
そのまま莉乃は答える。
「和葉と同じ理由―。なー 和葉っ?」
莉乃が和葉にそう振ると、彼女も一緒に繰り返した。
お互い腫れた足を見ながら平次に気づかれない様に笑う。
逆に平次は二人の姿を見ながら笑って言った。
「お前らちゃんと戻ったんや。良かったな」
そう言った平次はご飯を口に勢いよく流し込んだ。
「何言ぅてんの、平次!夢でも見たんと違う?」
和葉は莉乃と一緒に小馬鹿にした様に言った。
小五郎も何故か口を挟んでくる。
「何の夢見てんだ、探偵坊主」
「服部君ってばー、そんなに疲れてたの?」
終いには蘭までもが夢扱いしてくるので、平次は複雑そうな顔で二人を見た。
しかし、莉乃も和葉も笑っているだけだった。
唯一事情を知っている哀は平次の横でクスっと笑った。
その笑いで、コナンも少し本当の事が分かった様だった。
「世話んなったな、おっちゃん!」
十二時前、七人は空港に着いた所だった。
平次は一言小五郎に挨拶をすると、帽子を被り直した。
「おい、今度こそは美人な友達…連れて来いよ」
「分かっとるって… なあ坊主?」
行き成り振られたコナンは少し驚いた様だったが、平次と居ればこんな事は日常茶飯事、もう慣れていた。
その問いかけに曖昧な返事をしながらコナンは平次に別れを言った。
「あーいちゃん」
窓から飛行場を見下ろす哀に、莉乃は後ろから声を掛けた。
哀は返事をせずに窓に張り付いたままだった。
「今度は大阪にも遊びに来てなっ」
「え……」
漸く気づいたかのように哀は振り返った。
莉乃も隣で飛行場を見下ろすが、何も見えなかった。
ただ、ぽつんと人が居るのだけが見えた。
「ほら、大阪やったら東京よりは星見えるかもしれんやろ?それに、折角哀ちゃんや蘭ちゃんと友達になれてんもん!今度は大阪で祇園祭でも行こうやっ」
「……ええ。そうするわ。」
莉乃の方を向いて哀は返事をした。
満足気に莉乃はニコリと笑うと、平次、和葉に呼ばれて哀に言った。
「ばいばい、哀ちゃん」
飛行機が東京を出て、数分が経った。
今度ばかりは莉乃も騒がずにじっとしていた。
「平次、もう寝とるわ…」
和葉が隣に座って寝ている平次を見て微笑んだ。
つられて莉乃も彼の様子を覗き込む。
「なあ…和葉」
ふと、莉乃は和葉の事を呼んだ。
和葉は平次の方から向き直すと、一言の返事をした。
「うち…和葉の事大事な親友やて思ってるけど、服部の事は別や。何があっても負けへん。今はあんたらが両想いって事も分かったし、何か吹っ切れたわ。せやから、これからもこんな感じで行くけど…其処は分かっといてな」
屈託の無い笑顔で莉乃は言った。
その顔に負け、和葉はまた一言だけの言葉を返した。
「…大丈夫やで。」
三人を乗せた飛行機はまだ、東京上空を飛んでいる。
大阪に着くまでの時間、和葉と莉乃は何時もの様に笑いながら会話した。
そんな姿を薄目を開けて平次は見ている。
「(本間…良かったな…。それでこそお前らやで…)」
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