♯崩壊
―ガチャ
誰も居ない筈の事務所のドアノブを回してみる。
すると、思いがけずドアは開いた。
「毛利のおっちゃん…?居てはんのー…?」
中に入っていくと、事務所のデスクに小五郎は居なかった。
「……莉乃?」
急に死角になっているソファから和葉の声がした。
莉乃が振り向くと、彼女は体を起こした。
「どうしたん?和葉…」
「どうしたもこうしたも…… 足痛くて帰ってきてん」
「あ、其れ、うちもやねん」
和葉の横に座り込むと、莉乃も足を上げた。
横を見ると、和葉の足にも同じ様な腫れた跡があった。
「やっぱり履きなれてへんもんなんて履くもんちゃうな」
深く溜息をつき、莉乃は金魚を机にゆっくりと置いた。
其れを見つめながら和葉が聞いてきた。
「そういえば莉乃、平次と会わへんかった?」
「ああ…会ったで。何で服部は皆と一緒におらんかったん?」
金魚が入っている袋を持ち上げて、其れを和葉は眺めた。
「知らーん…。莉乃の事…心配しとったんとちゃう?」
突き放した様な言い方に、莉乃は隣に座っている和葉を見た。
興味深そうに金魚を眺める和葉は、切ない顔をしていた。
「そんなんする訳無いって!うち、心配掛ける様な事…したんかな」
「…誰だってあんな顔してどっか行ったら心配するに決まってるやん…」
「ちょ……和葉?何も泣かんでも…」
「泣いてへんって!!」
どうみても和葉は泣いていた。
其れも、号泣に近かった。
莉乃はどうしようも無く、ただハンカチを手渡してみたりしていた。
「……落ち着いた?」
暫くすると和葉は泣くのをやめていた。
「…ごめん莉乃……。そっとしといてくれへんかな。」
和葉はすっと立ち上がると、莉乃の横から何所かへ行ってしまった。
事務所を出ていったが、階段の音だけでは上に行ったのか下に行ったのかは分からなかった。
「(……和葉? 本間に…どうしたん?)」
和葉が泣いたのも出て行ったのも、きっと自分のせいだと莉乃は分かっていた。
しかし何をした覚えも無く、ただ皆の帰りを待つだけだった。
暫くして、皆は事務所に帰ってきた。
揃っていないのは、毛利探偵と和葉だけだった。
「皆… 和葉見ぃへんかった?」
莉乃がそう聞くと、揃って首を振られた。
「嘘やん…。ちょっと探し行ってくるわ!」
莉乃はさっき痛めたばかりの足を引きずりながら走った。
其れに平次とコナンも続く。
「私たち、此処で待ってるから!!和葉ちゃんが帰って来たら連絡する!」
蘭と園子は事務所の窓から三人に向かって言った。
その後ろで哀も少し遅れて探すのを手伝いに行く。
「服部、うちこっち探すから!」
「分かったわ!お前ら二人はあっち、探してくれ!」
莉乃が走って行ったあと、平次はコナンと哀に指図した。
珍しくコナンもそれに従い、皆バラバラになった。
「……和葉?」
帝丹小学校の前を歩いている影は、和葉だった。
「和葉!!!」
走って何所かに行こうとする和葉の手を莉乃は掴んだ。
まだ浴衣を着ている和葉が莉乃から逃げる事など、不可能に近かった。
「ほら、帰んで。 皆心配しとってんから…」
和葉の手を引っ張った瞬間、其の手は彼女によって振り払われた。
「ちょ…何!?言いたい事有るんなら言わんと分からへんで!」
和葉と一定距離を置きながら、莉乃は言った。
そして、和葉は呟く様に言う。
「ずるい… 莉乃はずるいわ……」
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