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お客様にうまい酒と癒しの時間を提供する。そんなバーテンダーの聡。今日はどんなお客様が見えるのか・・・
大野という男
「聡、聡・・・」






エリカが呼んでいる。もう起きる時間なのだろうか・・・
それとも産婦人科の検診の日だったろうか、目が覚めると、淡い日差しの中に美しい妻のエリカがいた。まるで『マリア像』のように柔らかい笑みを携えている。





見事に膨らんだお腹に見惚れていると、急にエリカの姿が消えてしまった。

「あれ・・・・・・エリカ?」

「何?寝ぼけてんの!この子は・・・はやく起きなさい!」

どうしてエリカが急に自分の母になったんだろう・・・などと考えているうちに覚醒してきた。
母に起こされていたようだ。考えてみればエリカとは離婚してもうすぐ2年になる、洋介が生まれる前の事をなんで今更・・・


「ああ、起きる。」


すぐに風呂に入り、出かける準備をする。今日は買いだしもない、そのまま店に入ればよい。











2年前までは3店舗で計8人のスタッフを雇っていた。かといって聡は『社長様様』で任せっぱなしにする経営者ではなかったので、各店長はやりにくかったのではなかろうか?
毎日の仕入れ、清掃、細かいところまで必ず毎日全店舗を見て回った。そして週末や休日前になると中洲か大名の店にオープンからクローズまで「バーテンダー」として従事していた。

店に立つのがなにより好きだったし、それがバーテンダーだと今でも思っている。
お陰で、家族は蔑ろにされていると感じてしまったのは仕方がない事であった。結婚して、まとまった収入が入るようになっても泊まりがけの旅行にすら連れて行かなかった。
息子の洋介が5才になった時に仕事に本腰を入れたい事を理由に離婚を言い出したのはエリカの方だった。




何よりも『店』誰よりも『お客様』だった。





しかし、これだけストイックに経営していても、この不景気で地方都市の一角に居を構えるのは簡単ではなく、結局、一番常連が多く、取り回しが利くこの大名の店を守る事しか出来なかった。










店につくと、玄関先に2人の男がいる。一人は同世代だろうかなかなか上等なスーツを着ていて、もう一人は二十歳そこそこだろうか、いかにも『若い衆』といった出で立ちで光りものが首もとにギラギラしていた。
どうみても『堅気』の人間ではないように見える。

「なにか御用ですか?」

聡は声をかける。
すると若い方が目を見開いて凄む。

「いつまで待たせるんだよ!おい!」

別に誰かと約束があった覚えはない。

「なにかお約束でもありましたか?」

そう、自分より明らかに年下の男に応えると

「んだとっこらぁっ!」

といきなり肩を掴みかかってきた。
それを見ていた(おそらくは)兄貴分のほうがニヤッと笑い喋り出す。

「おいおい、やめとけ!まだ明るいんだぞ。」

そういって若い衆を抑えてからこちらをみた。

「三浦さんだよな!この店のオーナーの」

親指でドアを指してそう言った。

「そうですけど・・・お宅さんは?」

「俺は大同商会の大野ってもんだけど、お宅の店から『組合会費』を頂いてないんでね、今日うかがったって訳さ。」

そういいながら若い衆にあごで何かを命じる。・・・と若い衆はポケットから銀色の書体で書かれた名刺を差し出した。

「おら!」

受け取って確信した。この連中はヤクザで、今『ショバ代』の徴収に回ってきているのだと。
大同商会といえば聞こえはいいが、おそらく広域暴力団傘下の「大同組」関係である事はすぐに判った。


大名、それもこんな裏通りはヤクザも縄張り意識が低く、いままでそれらしい話は聞いた事がなかったのだが・・・・聡はしばらく考えたが、やはり出方を見てみようと思い。

「その組合にはここいら辺の店ではどこが参加しているんですか?」

「関係ねえだろうが!この野郎!」

「やめんか!・・・すまんねぇ・・・どうも最近の若いのは抑えが利かねえから。」

一見、なだめているように見せて、その実『脅し』を含んだ言い回しにはいつもながら嫌気がさす。とりあえずはこのビル全体の問題になる事は確実だ。自分の意思だけで『了解』も『断り』も、決めてしまうのは早計だろうと思った聡は時間を稼いだ。

「お話の趣旨は判りました。でもこのビルで全部で8件の店が入ってますし、私もすぐに返事をする訳にもいかない『義理』がありますから・・・今日は一旦お引き取り願えませんか?」

すぐに財布から5千円だして、

「少ないですけど、御足代として。」

そういうと、大野は一旦考えたが、また顎で若い衆に受け取らせた。

「立ち入った事をきくけど・・・じゃあどこかよそに収めてるって話かな?」

「いえいえ、ここら辺ではそういった徴収がいままでなかったものですから。管理会社も通して相談させて頂きますので・・・」

「てめぇ!えらそうな口たたくんじゃねえぞ!こらっ」

そういって顔めがけて殴りかかってきた若い衆の手首を聡は、反射的にひねり組み伏せる

「いてててて!いてぇ!・・くそ!」

「あ、すみません・・・いきなり殴りかかるからですよ。」

そういいながら、若い衆を立たせた。大野はというと・・・

「・・・くっくっく、あんた面白いな!、いいや、また寄らせてもらうから話しつけといてくれ!。おら!いくぞ!だらしねぇ、素人さんにやられやがって。」



そういって二人は立ち去っていった。

しかし、やっかいな事になったのは間違いない。深く溜息をついて先の事を考える聡だった。





やっかいな事になってしまったようです。
以外と気が短い聡は若い頃どんな青年だったのでしょうか・・・


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