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饐えた匂いの烏
作:林檎


 ただ息をするのを意識すらせずに、夜が来て死んだように眠る毎日なんて、今となってはウンザリなの。
薬がまだあったか考えて不安になる、この小さな心の動きがクセになるわ。
 私寂しいから、少しでも気に入れば付いて行くわ。
油断すらしようとしない。
楽しいおしゃべりの中から流れ込む必然の肉体関係。
曲がりなりにも電波光らせて当たり障りない会話茹だるほどしてきた仲だもの。
貴方最初からそうだったの。
何を勘違いしたのか、貴方言わなくても私をミテル。そういう女だってね。
それを知ってて会ったの。
惹かれてるなんて貴方、間違えてもそんな風に思わないでね。
 寂しさのせいにでもしないと、なんて私はみじめな女なの。
あぁ頭がほら、重くなってきた。
 馬鹿な女に成り下がったつもりはないの。
周りが腹の底でどう思っていようと。
自制心保つには、簡単で壁のない女になったつもりで、貴方とほんの一時の恋人気分に。
だけど、あぁなんて空しいの。
 まさか。貴方の太い血管が動く音を愛しいなんて感じない。
してやったつもりなら、貴方大きな間違いよ。
ゴミみたいな相手なんてそこら中にちらばって、烏に啄まれてる。


 貴方の心臓の中身なんて手に取るように分かる。
寂しい人間なのは、私達お互い様よ。
ぽっかり空いた穴を埋められるような女じゃなくて残念ね。
だけど罪はお互いが被るものだから、責めようがない。
 貴方にとって私は烏。
私にとっては貴方ゴミ。
そうでしょ?
割り切った付き合いができないならこれで終わり。
泉のように情が湧き出て来ないうちにね。


 なんであたしはいつもこう。
別に純粋な聖母じゃあるまいし。
気を抜くとほら、あぁ、寂しいじゃない。
なんだか体内がとても空虚だわ。
星の無い空を見上げて煙草を吹かしながら、意地でも涙だけは流すまいと皮肉に笑ってみせる。
泣くことは私の中で今、自分に対する最大限の侮辱。
ダサい。醜い。
泣くぐらいなら精神崩壊した方がずっとマシだわ。
ね、泣かなければクールな女になれるでしょう。
 最初から何も期待してた訳じゃないし、何も変わらない日常崩されたこと、当たり前のように今ぼんやり眺めてるわ。
さぁどうする?



 貴方満足したでしょう。
男の感情なんて分かりたくもないけど、一瞬でも女と逃避できたんだから贅沢よ。
あたし、案外その辺の烏じゃないでしょ。



 あの細い眼で品定めするように私を見てた。
どう見えた?
私は貴方が気に入ったわ。
喋る言葉と横顔。暗闇の中の熱い手のひら。
笑うとうざいぐらい明るい顔も。
知識ひけらかしたがる男臭いところも。
吸ってる煙草も皺になったTシャツも。
首も。
だけど全部上面なんだから、意味が無い。
あたしがそうしてるのと同じように、自分を見せてない。
見せる必要がない。
意味がない。
恋愛沙汰じゃあるまいし、みっともなく媚びるなんて反吐が出そうよ。
必要なのは貴方が男で私が女であると言うことだけ。
それ以外に何のオプションが必要だというの。
隣り合って横になり、最後までたどり着くのに僅かな切なささえ邪魔なのよ。
一瞬高まるあの温度が冷めてしまったら、ただの他人でしかないんだから。
だけど誰かの体温、私もうすぐまた必要になるの。
『寂しい、寂しい人間だから』
そうゆうさりげない言葉で取り繕って誰かの体温が。
あぁ指先が震えてどんどん瞼が落ちてくる。
隣りには誰も居ないから、つい昨日の貴方の匂いを思い出す。
女からは出せない男の匂い。
唇はどう?
どうしてだか貴方は私を愛しそうに慈しんでみせた。
暗闇で貴方の心臓に穴をあけた誰かさんにも以前同じように?
可哀相なのはどっち?


 貴方きっと私と同じ。
だから寂しい時にはきっとまた会いたくなるわ、私に。
私からは繋がないからね。
みじめで饐えた匂いのする烏にはなりたくないから。



 あぁ疲れきった私の心臓など、いっそ止まってしまえばいいのに。
食べなければ動けないなら、ヤニと酒にまみれた真っ黒な臓器すら全て要らない。



 さぁ眠くなってきた。
瞼の隙間から見える数ミリの空間に、何のシルエットもないことでチクリとする心臓。
辛いことすら考えられないぐらい、あぁ薬が私を助け始めた。



 携帯から鳴り響くけたたましい着信音に、この眠りを妨げられることを密かに祈って、私はそう、死んだように眠る。


ごちゃごちゃした文章ですいません。最後まで読んで頂きありがとうございました。













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