第七話 理想のタイプ。
あらかじめお弁当持参だった私達は、一階の応接室で、ランチを取ることになった。本当は、テラスで食べたかったんだけど、風邪をひいたら大変だからという優希君の言葉であきらめた。
ソファには腰を下ろさず、直接絨毯の上に座る。その方が、食べやすいから。向かいに座る優希君の姿は、思ったよりも近い。
そういえば、優希君と二人っきりでご飯食べるのって、始めて。なんだか緊張してきた。
「どうしたんだ? 舞子」
お弁当を袋から取り出し、昼食の準備を整えた優希君が、怪訝そうに尋ねてきた。
「なっ、なんでもない!」
慌ててランチバックから、お弁当を取り出し蓋を開ける。一番最初に目に付いたのは、ハート型の卵焼き。次に、パイナップルの形をした、ミニ・ウィンナー。
「唐揚も入ってる」
思わず語尾がハートマークになった。ママの唐揚は、冷めてもおいしい。だから大好き。
見るとはなしに、優希君のお弁当に目を向ける。
「優希君、凄い!」
色鮮やかなお煮しめ。しらす入りの卵焼き。つくねに小海老の天ぷら。きのこのたっぷり入った、炊き込みご飯。まるで、ちらしなどに載っている、春の行楽弁当のような豪華さだ。
「お母さん、お料理上手なんだね」
「ううん。これは多恵さんが作ったんだ」
「多恵さん?」
「お手伝いさん」
「優希君の家、お手伝いさんいるんだ」
黎明は、わりと裕福な子が多いから、お手伝いさんがいる家は珍しくない。でも、優希君の家にお手伝いさんがいるなんて、知らなかった。
「うちの母さん、仕事命の人でさ。家には、ほとんど寝に帰るだけだって感じ。当然、俺の世話をする人間が必要になってくるだろう」
「じゃあ、夜は一人でご飯食べるの」
「うん」
「それって、寂しくない?」
舞子のうちも、パパは仕事が忙しくて、三人揃っての食事なんて、休みの日くらいしかない。ママとはいつも一緒だけど、それでもやっぱり寂しい。それなのに、一人で食べるなんて。
「寂しくないって言えば、嘘になるな」
寂しげな微笑みを浮かべる優希君の姿に、鼻の奥の方がツンとなった。
「でも俺、母さんのこと、尊敬してるから」
「尊敬?」
「うん。俺の母さん、弁護士なんだ」
「弁護士!?」
そんな立派な職業だなんて、知らなかったよ。
「確か、お父さんも弁護士……だったよね」
「うん」
「だから優希君、頭が良いんだ」
それには何も答えず、優希君はただ微笑んだ。謙遜も自慢もしないところが、優希君が大人だなと思うところだ。
優希君からみたら、舞子なんて全然子供なんだろうな。頭だって悪いし。そこで私は、あることに気づいた。
優希君、お母さんのこと、尊敬してるって言ってた。それって、バリバリ仕事が出来て、頭の良い女性がタイプってことじゃない!?
つまり、将来の夢はお嫁さんなんて言ってるあたしとは、全然全く逆のタイプでは!
「優希君は!」
机を叩いて身を乗り出すのと、名前を呼ぶのは、ほぼ同時だった。
「お母さんみたいな人が好き!?」
「はあ? なんだよいきなり」
「バリバリに仕事こなす人がタイプ!?」
呆然とした面持ちで、舞子を見上げていた優希君は、しばらくすると、呆れたように深く長いため息を漏らした。
「そんなことで、人を好きになったりしない」
「じゃあ―」
将来の夢は、お嫁さんって人でも大丈夫、という言葉は、怖くてのみこんだ。
「舞子は将来、何になりたい?」
心を見透かされたような言葉に、心臓大きく跳ねた。
「私は……」
まっすぐに向けられた眼差しが痛くて、視線を落とす。
「私は……お嫁さん」
「だったら、それでいい」
あっさりとした言葉に、驚いて優希君を見た。
「いい……の?」
「自分のなりたいものになればいい。舞子がキャリアを目指そうと、お嫁さんを目指そうと、舞子は舞子だし。俺は舞子が望む人生を歩めるよう、傍にいて協力するだけだから」
「望む……人生……」
舞子の望みは、お嫁さん。それも、優希君の。その夢を、優希君は叶えてくれるのだろうか。
聞いてみようと思ったけど、やめた。だって、目の前で俯く優希君の顔が、耳まで真っ赤だったから。
気持ちがほっこりと温かくなった。
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