第六話(後編) そのままで。
案内された舞子の部屋は、壁紙も家具も白一色で統一され、意外にも落ち着いた雰囲気だった。飾り棚には数え切れないほどのスノードームが、所狭しと並べられていた。きっと趣味で集めているのだろう。可愛らしい物が好きな舞子にはぴったりだ。もし旅行に行く機会があったら、土産は絶対スノードームにしよう。
ノックと共に、ティー・セットとクッキーをトレーに載せた舞子が入ってきた。
「驚いたでしょう」
紅茶を淹れる慣れた手つきに見惚れていた俺は、不意に投げかけられた問いの意味がわからず、小さな驚きの声と共に舞子を見た。
「私とママ、全然似てなくて」
「ああ」
確かに小柄で可愛い系の母親と、長身で美人系の舞子では、見た目では正反対だ。
「私、パパ似なの」
だとしたら、父親は相当な美男子ということになる。
「本当はママみたいになりたかったんだけど」
「ママみたいって」
「私が言うのも変だけど、ママって凄く可愛いでしょう。大きくなったらママみたいになれるって信じてたんだ」
夢見るような眼差しで舞子が語る。
「けど、大きくなればなるほど顔立ちは違ってくるし、おまけに背は伸びちゃうしで、ショックだったな」
「どうして」
質問に舞子は目を見開き、まるで信じられないといった顔付きで俺を見た。
「優希君だって、小柄で可愛らしい女の子の方がいいでしょう」
「いつそんなこと言った」
「だって、一般的に女の子は小柄で可愛い方が……」
「いいに決まってる」
「……うん」
うなだれる舞子の姿に、俺は深いため息をもらした。
「ないものねだりだな」
「えっ?」
「世の中には、舞子みたいにスラリと背の高い美人になりたい女の子は、たくさんいると思うけど」
「そんなことないよ!」
俺の言葉を舞子は音が聞こえるほど大きく首を左右に振り否定した。
「舞子、全然美人じゃないし!」
「おまえ、自分のこと全くわかってないのな」
本気で否定する舞子の姿に苦笑した。
舞子は美人で気立てがよく、他のクラスの男子からも、絶大な人気を誇っている。確かに舞子より身長が高い男子は、学園でも数えるほどしかいない。だが、舞子の人柄の前では、そんなことは取るに足らないことだ。
他人の長所を見つけ出すのは得意なのに、自分のこととなると、まるでだめな舞子。
「まあ、そこが舞子のいいところだけどな」
「なんて言ったの、優希君」
零れ落ちた本音は、舞子には聞こえなかったようだ。不思議そうに目を瞬かせる姿が可愛かった。
「似てるって言ったんだよ」
「似てる?」
「舞子とお母さん」
「全然似てないよ!」
「そんなことない。笑った感じとか、優しい雰囲気とか、そっくりだよ」
途端、舞子の顔が真っ赤に染まった。
「そっ、そうかな」
「うん。そっくりだ」
俺の言葉に、舞子は本当に嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、もっとママみたいになれるよう、頑張らないと」
「必要ないよ」
「でも」
「舞子はそのままで十分だよ」
素直で純粋で優しい舞子。
何も変わる必要なんてない。
「そのままでいい」
言葉の意味が理解できずにいる様子の舞子に、再度、同じ言葉を投げかける。
「ありがとう」
ほんの少しの間をおいて、舞子は見ているこちらまで幸せになるような笑顔を浮かべた。
その微笑みがいつまでも続くよう、舞子が舞子のままでいられるよう頑張ろうと、強く心に誓った。
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