表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

野良怪談百物語

作者: 木下秋

 高校の時のクラスメイト、Sについての話だ。



 Sは頭が良く、スポーツもできた。身長も高く、顔も整っている。特に自分から何もしなくたって、友人ができるようなヤツだった。


 いつも笑顔を絶やさず、爽やかで、人の悪口を決して言わなかった。そんな性格にも好感が持てて、俺もSとは仲良くしていた。


 ――ただ、Sには一つだけ、変わった所があった。



 写真を撮られるのを、異常に嫌うのだ。



 こんなことがあった。昼休みに、友人の一人が携帯電話でSに写真を撮らせてくれ、とせがんでいた。その友人いわく、他校に通う女友達に「Sっていうイケメンがいる」と話したところ、『写メを送ってくれ!』と頼まれたというのだ。


 しかし、Sは苦笑いをしながらやんわりと断った。



「写真撮られんの、苦手なんだよな」



 そう言うと、「用事があるんだ」と言って教室を出て行ってしまった。



 こんなこともあった。学校帰りに、男友達六人でゲームセンターに行った時のこと。


 友人の一人が、「プリクラを撮ろう!」と言い出した。俺も(高校時代のいい思い出になる)と思い、その提案に賛同した。


 ――しかし。



「男同士でプリクラなんて、気持ち悪いぜ」



 Sは笑いながら、一人でUFOキャッチャーのコーナーに行ってしまった。



 Sの徹底ぶりは、凄かった。修学旅行で沖縄に行ったのだが、彼の映った写真は一枚も無かった。唯一あったのは、後ろ姿が背景に写り込んでいたもの、一枚だけ。


 みんな“おかしい”とは思っていたのだが、それさえ気にしなければSは良い奴で、一緒に並んで歩いているだけで誇らしい気持ちになれるような、そんな人間だった。だから、誰もその理由を深追いしようとは思わなかった。『Sは写真に撮られるのがイヤ』というのは、全員の間で暗黙の了解になっていた。




 ――……それは、高校の卒業式後。“打ち上げ”と称して友人宅に集まり、みんなで遊んでいた時の事だった。


 テーブルの上にはピザや焼き鳥などといった食事が並び、透明のコップには色とりどりの飲み物が注がれていた。交わされるのは、高校時代の思い出話。あの先生が嫌だったとか、実は誰々が好きだったとか、そんな話に花が咲いた。



 楽しい時間はあっという間に流れ、夜も更けていった。すると、顔を真っ赤にしたSが急に寝転んだと思うと、眠りについてしまった。……どうやら誰かがみんなのコップに、“なにか”を混ぜたらしい。


 俺も頬が熱くなり、何故だか段々と愉快な気分になるのを感じていた。そして、誰かが言った。



「なぁ、Sの寝顔、撮ろうぜ」



 Sは、スゥスゥと静かに寝息を立てている。――確かに、Sの姿が映った写真は誰も、一枚も持っていない。一枚くらいならいいだろう。見せたらきっと怒るから、十年後くらいに見せよう。口々に言い合い、俺が携帯電話を取り出した。


 カメラのレンズをSに向け、ピントを合わせる。



 ――カシャーッ



 部屋に、シャッター音が響いた。



「どれどれ……」



 友人達が俺の後ろに回り込み、携帯の画面を覗き込む。



「――!」



 全員が、息を飲んだ。



 Sの寝顔を、二つの黒い影が覆っていた。左右両側に張り付くそれには五つの突起があり、“手”に見えた。まるで、恋人同士がじゃれ合う時に「だぁーれだ」と言って目を塞ぐように、その手はSの後ろから――少し長めの髪の中から、現れていた。


 ただ、恋人同士のやり取りのそれと違うのは、手が開いていることだった。後ろから頭をつかんでいるかのように、突起の先端――指先は、力が籠っているかのように曲がっている。


 そして、両手の人差し指に当たる突起だけは、短い。


 それは見ようによっては、両目に指を突きたて、えぐっているようにも見えた。



「……」



 全員が黙り込み、何も言えなかった。


 酔いは覚めきり、全身を鳥肌が包んだ。――俺はみんなが見ている中で、写真のデータを黙って消した。





 ――それから三年後。大学生になった俺は街中で、Sと思われる後ろ姿を見た。


 背丈、体型、お気に入りのリュックサックに、キーホルダー。間違いなく、Sだと思った。


 声をかけようと思い、近付くと、Sは長い杖のような棒を持っていて、地面を叩きながら歩いていた。


 前に回って顔を見るのが怖くなり、声をかけるのは、やめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 言いしれぬ戦慄に襲われました。 もし、写真に撮られるのを嫌がる知人がいたら、無理強いはしないようにします( ̄∇ ̄|||)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ