表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

ブラン城の管理人

 さらさらした灰色の髪、濡れたようにきらめく灰色の瞳。整ってはいるが、冷たさは与えない顔だち。背が高く、すらりとしていて、立ち居振舞いは王公貴族のよう。上品で、物腰やわらかなその人――サラザールは、リリアの好みに、ど真ん中だった。

 けれど、彼は、ただの管理人。ブラン公爵の一番の部下ではあったが、その居城の管理人に過ぎない。

 二年前、突然公爵に封じられたブラン公は、かつて幽霊城と呼ばれた古い城をよみがえらせ、居城とした。

 ゼクストン王の計らいで公爵が花嫁選びを行っていた頃は、ブラン城にも、ある程度の使用人がいた。だが、アリシア王女と結婚したのちは、ごくわずかの人数で切り盛りされている。それでも、ブラン公もアリシアも自分のことは自分でするので、特に不自由はなかった。

 リリアが知っている使用人は、自称管理人のサラザールと侍女のミアぐらいである。


 今日もリリアは、ブラン城でミアの入れてくれたお茶を飲んでいる。

「お菓子は、メレンゲの(つの)菓子にしてね」

リリアが言うと、かしこまりましたとミアは部屋を下がった。

「まるで自分の城のようだな」

と、アリシアが笑う。アリシアは、ブラン城に暮らすようになってからは、大抵飾らない動きやすいドレスを来ていた。けれど、その美しさは少しも損なわれていなかった。

「私は、今日城に用事があるから、好きに過ごしていってくれ」

アリシアが言う城とは、王宮のことである。父であるゼクストン王が、何かにつけ彼女を頼りにしているのだった。

 「サラザールは、ここにいてくれるわよね?」

リリアは、アリシアの後ろに控えていたサラザールに言う。

「だって私は、お客様ですもの。管理人がもてなすのは当然でしょう?」

「私で、よろしければ」

サラザールは、柔らかに答えた。

 「では、私は支度するから。リリアを頼んだぞ」

そう言って、アリシアは部屋を出ていった。

 「おねえさまは、しょっちゅう呼び出されて大変ね」

アリシアを見送ったリリアは、ゆったりしたソファに体を沈めた。

「王は近々退位されることを、お決めになったそうなので」

「クライス様が即位されるの?」

アリシアの兄クライスは、これまた文武に秀で、眉目秀麗の申し分のない王子だった。

「そのようです」

サラザールが答えると、向かい側に立ったままの彼を見上げ、リリアは不満そうに、

「どうして座らないの?」

と言った。

「お許しをいただいておりませんが」

「上から話されると、嫌なの! 座って」

サラザールは、素直にリリアの前に腰掛けた。

 「......それで、クライス様が即位されるのに、どうしておねえさまがお城に?」

サラザールの目線が近くなったことにひとまず満足したリリアは、話題を戻した。

「王様も、お寂しいのでしょう」

 その時、ミアがリリアの注文した角菓子を持って来た。ミアのお盆には、ちゃんとサラザール用のお茶も追加されていた。リリアは、アリシアの心配りに感謝する。そうでなければ、自分だけが寛いでいて、彼はまるで仕事の一つとしてそこにいるようになってしまう。

 「こんなに、食べきれないわ。一緒に食べてね?」

リリアはさっそく角菓子をつまんだ。

 メレンゲの角菓子は、実はサラザールの好物なのだった。サラザールは、少し笑って言った。

「ありがたく、いただきましょう」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ