LastDarkness(27/68)縦書き表示RDF


LastDarkness
作:風美



26:邪神二人


 通学路の片隅にある喫茶店で、午後四時の終礼を聞いた。
 悠斗は姫川咲夜の高校から、最寄のバス停までのコースにある喫茶店で軽食を済ませていた。緋芽が文句を言うかもしれないが、今晩の夕食は用意できないかもしれない。
 ……あの小娘、レトルト食品でさえ調理できないのだ。
 色々と頭を悩ませてくれる小娘である。悠斗は溜息を吐きたくなり――。
「……あれか」
 一人で歩いている姫川咲夜を発見した。
 友人付き合いは良くないのか、朝夕とも一人きりである。物悲しくも美しいので、男たちが放っておかないだろうに、他者を拒絶するような空気をまとっている。あれに話しかけるようなら、そいつはナンパ師を名乗る資格はない。
 ……下手をすれば、火傷どころか塵さえ残らないか。
 悠斗は姫川咲夜を尾行する気配に気付いていた。おそらく、彼女自身も気付いているのだろう。だが、街中では咲夜も尾行者も手を出すことはできない――と思っていたのだが。
『黒炎弐式、黒死蝶』
 姫川咲夜が背後に視線を向け、小言で魔術の詠唱を行った。
 黒々と燃え上がる火炎が、紙ふぶきのように宙を舞う。それは紋白蝶の大きさをしていて、毒蛾のように火の粉の燐粉を散らしていた。
「……ふざけるなよ」
 魔術師は隠者ハーミットでなければならない。そんなこと、アカデミーの一年生でも、教えられなくても分かっている。
 蝶々は姫川咲夜の周囲を飛び回り、気を熟するのを待って一斉に放たれた。蝶は尾行者の位置に優雅に、かつ高速に飛来する。
 ――命中、そして爆殺。
 尾行者の気配が消失し、一枚の紙切れがアスファルトに落下した。
 式神である。修験者や陰陽師が好んで使う、妖魔使役の魔術だ。

 しかし、これで色々と合点が行った。
 姫川咲夜は魔術師であり、さらに、姫川咲夜は何者かに命を狙われている。

 悠斗は両目を見開いた。
 死角で気配を消して隠れていた悠斗を、姫川咲夜が無感動な瞳で眺めていた。


    †


「色々と聞きたいことがあったんだが……」
 悠斗は念のために持ち歩いていた小刀を抜いた。素肌ばジリジリと焼け付くように痺れている。彼女の魔力が空気を焼いているのだ。
「お前、もう喰われているだろ?」
 小刀を向けた瞬間――。
『黒炎壱式、夜燕』
 姫川咲夜の殺気が形を持ち、悠斗に襲いかかった。
 それは漆黒の弾丸。空気を裂き、灼熱の烈風と化した刃だった。
「――ッ! 『斬撃、闇の剣!』」
 咄嗟に迎撃の魔術を放つ。同色の斬撃が、飛燕と衝突して相殺――。
 ――相殺、仕切れなかった。
「っ、なんだと!」
 刃と刃が衝突し、勝ち残ったのは咲夜の魔術だった。
 ……立ち止まるな、動き続けろ!
『爆ぜよ、破砕の力!』
 悠斗はバックステップと同時に物体破壊の魔術、その衝撃波を利用して大空に飛び上がる。ズボンが破け、両足の腱が悲鳴を上げる。悠斗は歯を食い縛って激痛に耐え、宙返りして姫川咲夜の背後を奪った。
 護衛対象に襲われるとは、まったくの予想外だ。しかも、相手はこちらを敵だと誤解している訳ではない。ただ、あの式神でスイッチが入ってしまったのだ。悠斗が居合わせてなければ、ここで姫川咲夜は殺戮兵器に変貌していた……と言うより、リアルタイムで兵器になっているのだが。
 一つ、分かったことがある。
 あの式神は、姫川咲夜を暴走させるために放たれた訳だ。
 こんな状態で学校生活が送れるとは思えなかった。
「一つ聞いておくが、まだ完全に喰われた訳ではないんだな?」
 返事は期待していない。だが、悠斗には咲夜が頷いたように思えた。
 ……錯覚だ。どうせ、意識は失われている。今、咲夜を突き動かしているのは信仰を踏みにじられた神の人間への憎悪だけだ。
『黒炎弐式、黒死蝶』
 大量の蝶々が悠斗を取り囲んだ。

火之迦具土神ホノカグツチノカミ――お前は相手を見誤った」

 悠斗は小刀を捨てた。
 今、ここに神の力を借り受けよう。

『斬斬斬、ダークブリンガー』

 黒色の軌跡が、蝶々の大群を通り抜けた。
 すべての蝶が、音も光もなく消え失せた。

『黒炎参式、闇朱雀』
 黒羽の凶鳥が羽ばたき、身体を弓なりに引き絞った。
 矢のように放たれた凶鳥が、金色に輝く嘴を心の臓目掛けて襲いかかる。
『防防防、ダークリフレクター』
 三重に重ね合わされた障壁が、その一撃を防ぎ切る。

 『三重詠唱ダーク・ケルベロス』、朽葉悠斗。

 それは、紛い物の魔法だった――。







ネット小説ラ ンキング>現代FTシリアス部門>「LastDarkness」に投票
ネット小説の人気投票です。投票して頂けると励みになります。(月一回)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう