第三話、英雄の最後
『英雄』それは偉業を成し遂げた魔導師に与えられる称号だ。管理局には英雄と呼ばれる魔導師はたくさん存在する。それだけ管理局が困難に立ち向かった証と言えるだろう。しかし、近年英雄と呼ばれる者達を疑わせる事件がおこった。
『フェイトテスタロッサVSティアナランスター戦闘訓練生中継!』これはテレビで放送された緊急特番の題名だ。
これが行われたのは理由がある。陸戦Eランクの魔導師が空戦AAランクのテロリストを撃墜、逮捕するというニュースが放送されたのだ。もちろんデバイスが高級品だったからだが、連続して逮捕者が出れば管理局も黙っていられない。ランク評価に疑問を抱く魔導師が増え始めたのだ。
そこで高級品のデバイスを持った魔導師が現役執務官に勝てるか戦闘して結果を見せれば納得するだろうという考えで強制的に行われたのだ。
最初は通常の3倍も金をかけたデバイス『バルディッシュ』を持つフェイト執務官が勝つと予想していた。しかし相手は通常の200倍も金をかけて作ったデバイス『武御雷』を持つティアナランスターであった。
とある世界で戦術機と呼ばれる姿をした鎧は金属であり、さらに内と外にバリアジャケットを装備しているのだ。防御力なら圧倒的に上であり勝負を分からなくさせた。
しかしそれは間違いであった。通常飛行魔法は空間に重力魔法を使って飛行するのだが、当然遅くなる。そのため魔力を噴射して加速させるのだが長時間使えば魔力切れが早くなる。だから高速空中戦などする人が少ないのだ。
しかし彼女はカートリッジを使ってタンクに魔力を解放、飛行魔法にして術式展開、自分の魔力を使わないし、リンカーコアを使わないから自分の負担にならない。そして速度による体へのダメージは鎧が守ってくれるので無視できる。
これらの違いからフェイトの最高速度は時速400km、ティアナは最高時速800kmであり、これから速度を技術的に上げることは可能であった。だがフェイトは上げればダメージが大きく、限界なのである。
速度で劣るなら接近戦でどうにかしようと思ったのだろう。高速で接近してくると攻撃してきた。しかし防御力を活かした体当たりで体勢を悪くして空振り、ナイフを当てられ死亡判定を受け、ティアナの勝ちだった。
あの後一般的なデバイスで魔導師ランク試験を受けると陸戦Cランクという結果だった。そのためストレージ、ブースト、インテリジェント、この三つのデバイスを融合させた武御雷を『ハイブリットデバイス』として新規登録し、ランスター警備保障を地上の防衛組織として正式に協力するよう契約したのであった。
だがそれで納得しない者達は多い。実際に『危険視し取り締まるべきだ』と言う者も多かったが、次元世界中に知れ渡ってしまったので不可能であった。
〈クロノ・フェイト・はやて・なのは〉
モニターには分析データが戦闘映像と同時に映し出されている。圧倒的な防御力と攻撃力、そして強引な飛行速度。技術的には簡単だが、とんでもない費用がかかっている。さすが資産家と言えるだろう。
「ねえクロノ君、防御力ってどれくらいなの?」
「スターライトブレイカーを同時に20発撃ってやっと一撃というくらい守りに入れば攻撃が効かない。」
「何やそれ、まるで戦艦やないか。」
「それに速さはとんでもないよ、私が負けたし・・・・・」
「フェイトちゃん、機械だよあれは。戦闘技術では勝ってるんだから。」
「そうやで、陸戦Cランクなんて簡単やろ。」
「だが、危険なのは確かだ。」
あの戦闘訓練でお金さえあれば誰でも高ランク魔導師になれると証明されてしまったのだ。それも違法でないから取り締まれないという結果がある。
「ティアナランスター、彼女は資産家だ。敵にすれば管理局の経営に影響が出てくる。だから特別扱いすると決定したそうだ。」
「金持ちには勝てへんというんか、管理局も腰抜けやな。」
「力を振るえば彼女に企業が味方する。悔しいがこれが現実だ。」
「でもクロノ、このままだと犯罪者が増えるんじゃない?」
「すでにランスター警備保障は規模を拡大し続けているのが現状だ。雇い主が緊急特番を見て増えたからな。このまま行けば次元航行船の保有を認められる規模になるのも時間の問題だ。」
「何とかせなあかん、誰かが傷つくのは見とうない。」
「そうだね、犯罪じゃなくてもこれはして良いことじゃないよ。」
皆が自分の思いを言っているのに一人だけ話さない人がいた。彼女は最初の質問からまったく話していない。
彼女は悩んでいた。自分がこの世界に来た原因は魔法、家族を不幸にしたのも魔法、自分の地位を脅かしている原因も魔法。『自分はなぜ魔導師をしているのだろう』、『魔導師の未来とは何』、『自分はどうしたいのか』さまざまな疑問が頭の中で生まれて沈んでいく、まるで海のようだ。
「なのは、どうしたの?」
「フェイトちゃん、私は何しに来たんだろう・・・・・」
「どうしたんや?」
「私は家族に迷惑かけた。でも助けてくれたのは管理局、援助してくれたのはランスター警備保障、私の思いが消えてしまっているの。」
「教導官が夢だったんだろう?」
「確かにそうだよ、でもこれだけ迷惑かけてるのに人に魔法を教えるなんて・・・・・」
「なのはちゃん、気持ちも理解できるけど世界には事件がたくさんあるんや。悩んでいたらいつか死ぬで。」
「はやての言っていることは正しい、悩んでいても解決しない。犯罪者は過激になってきている。対策を練らないと。」
「なのは、エースは皆の憧れだよ。それに答え続けるのも一つの生き方じゃないかな。私もそういうの嫌いじゃないしね。」
「フェイトちゃん・・・・・」
「頑張ろう。」
「うん!」
この中に低ランク魔導師がいれば言っただろう、お前達のほうが危険だと。『自分達より実力が上なら犯罪者として逮捕する』その考えがおかしいのである。陸では対高ランク魔導師戦闘など当たり前なのだから。
〈聖王教会〉
緊急特番で生中継された映像で衝撃を受けたのはここにもいる。知り合いからどれだけフェイトが凄い魔導師か知らされていたのでデバイス性能に衝撃を受けた。
高ランク射撃魔法の連射、高速戦闘の長時間の使用、防御力の高さ。お金をかけるだけで努力を無駄にする、それが恐ろしかったのだ。
「騎士カリム、どうやらあの映像に偽りはないようです。陸戦低ランク魔導師が空戦魔導師に手加減して勝ったというのは。」
「そうですか、シャッハならどう戦いますか?」
「あの防御力は脅威です、死角から接近し急所に一撃入れるのがベルカ式では限界だと思います。ですが機械を上回る騎士などどれくらいいるのか・・・・・」
「そうですか、特別扱いするしかないのですね。」
「あれはお金があれば誰でも使えます。そして彼女は資産家ですし・・・・・」
悩ませるのがそこである。資産家はお金があるだけで権力を持つのだが、これからは武力も持つことになる。管理局が特別扱いする理由がよく理解できるだろう。
「騎士カリム、先日教会員があそこの社員とトラブルを起こしたのですが、その理由を知っていますか?」
「いえ、初耳です。何があったのですか?」
「先に手を出したのは教会員です。彼は元騎士で空戦AAAでしたが高齢のため今は空戦Aです。相手は陸戦Dのミッド式です。」
「実際はどうでしたか?」
「陸戦AAはありました。両手に巨大な盾を持ち、両肩に機関砲型デバイスを持っていたそうです。」
「盾で防ぎ後方から支援攻撃ですか、単純ですがチーム戦では役に立ちますね。」
「使用された魔法は多重弾殻の射撃魔法です。連射速度が速いのでデバイス制御だと考えられます。」
「資産家ですから当然ですね。ですがなぜ戦闘を?」
「彼は騎士として戦い多くの事件を解決しました。ですが多くの仲間が死に、彼らの犠牲が平和へとつながっていると考えているようです。ですがお金を使えば平和を買えるという乱暴な行動が許せないそうです。」
「騎士らしい考えですね。しかし、時代が変わった事についていけなかったというのも事実ですね。」
「はい・・・・・」
「ランスター警備保障にはお詫びをしに伺いましょう。」
「お供します騎士カリム。」
このとき二人は予想もできなかった。警備会社は宗教家をどのような存在だと思っているのかを。それは二人が現実の厳しさを知った瞬間でもあった。
〈元教会騎士〉
古代ベルカで起こった戦争、それは戦後も大きな影響を与えていた。自分も影響を受けた一人であり、家族、親友、恋人、騎士の仲間、皆もそうだった。
正しい管理が行われない聖王縁のロストロギア、そしてそれを使った聖戦というテロ行為、許せる問題ではないが彼らの気持ちは理解できた。
なぜ聖王は世界の統一をしようと考えたのか、ベルカの騎士として生きるとはどういうことか、それは時と共に消えていく。それは許せなかった。
『今まで誰も殺したことはないのか』と聞かれれば多くの敵を殺してきたと答えよう。殺しは犯罪だが私は一度も騎士としての誇りを忘れたことはない。戦いにはそれぞれ意味があり、お互い死ぬことを受け入れて戦ってきた。
仲間が死んだとき悲しかった。しかし憎んだことは殆どない。なぜなら騎士として生きると決めたとき、誰もが決意しなければならない問題だからである。
だが時の流れは残酷だ。我々の思い、決意、歴史、それらが忘れられ少しずつ本来の姿が失われていく。最後には避けられる存在へとなってしまうのだ。
それでも私は騎士として生き続けた。私の存在が若者に少しでも騎士として生きる意味を伝えていると信じているからだ。
だが世界は私が思っていた以上に厳しかった。
私は10歳の子供が魔導師や騎士見習いとして戦う姿を見るのが嫌いだ。管理外世界出身の魔導師『高町なのは』、彼女を見たとき思った。彼女はこの世界で生きるべき人間ではないと。
彼女の周りには同じような人間が集まっている。私は言いたい、『子供として生きる』という選択肢をなぜ選ばないと。お前達が来るべき世界ではないとなぜ大人は言わないのだろうか。
私はそれでも耐え続けた。老兵はただ静かに去るのが常識だ。生涯現役だなんてふざけたことを言うつもりはない。騎士の称号を返却したのがその証拠である。
だが私の心を激しく響かせるニュースがあった。『ランクで劣る魔導師が手加減できるくらい実力差をつけて勝利する』この原因はデバイスにあったらしい。
デバイスの違いで簡単に勝てる世界、私はそんな世界を創りたくて戦ってきたわけではない。ミッド式とベルカ式、今となってはどちらでもかまわない。ただ我々の思いを無駄にするような行動は許せない。
だが戦いを挑んでも無駄だった。相手に効率よく、確実に勝つ。それしか考えない彼らは私の思いなど無視して攻撃した。利益と依頼者の防衛のみで思いを無視した戦闘、いつからこうなったのだろう。
・・・・・なるほど、今分かった。老兵が動けばこうなるのか。若者よ、頼むから忘れないでくれ。戦いは利益追求の手段ではないんだ。ただそれだけでも伝えたい、あの者達に・・・・・
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