第二話、スカウト
お金に十分な余裕が出てくると企業の買収を始めた。選んだのは小規模の警備会社や個人でデバイス開発をしている会社だ。やはり、一流と二流の違いはサポート体制が出来上がっているかどうかにある。
デバイスの種類、性能、戦闘スタイル、プロ意識、それらの違いが現場で大きく影響し、任務失敗へとつながるのだ。
一流の企業はそれだけで信頼を得ているわけではない。管理局に戦闘訓練を依頼し、魔導師の質を高めているのだ。おかげで任務失敗が減り、大手企業は必ず契約しているのが現状である。
今回ティアナが買収した事はニュースで話題となり、有名となった。新人資産家が企業再生に投資したことが、業界全体に緊張を与えたのは確かだろう。管理局地上本部が興味を抱いているという情報が知らされたのだから。
〈高町家〉
昨日までなのはが家族旅行を提案し私達に豪華な旅行をプレゼントしてくれた。行き先は高級リゾート世界、両親には高級ホテルの食事までプレゼントしてくれた。
恭也と美由希は複雑な顔をしながらも楽しもうとしていた。妹が2年間お金を貯めてプレゼントしてくれた旅行なのだからと。しかし、清掃員として働いていて、来年から事務員として管理局で働ける美由希と違い、無職の恭也は最悪と言っていいほど心は悪かった。なぜなら自分では不可能なことを簡単に解決する妹の姿に劣等感を抱いてしまったのだから。
「父さん、なのはは雑誌の取材で帰りが遅くなるそうだよ。」
「そうか、・・・・・今日警備会社で面接してもらったがだめだったよ。」
「俺も『管理外世界出身だから信頼できない』と言われて宅配業者に断られたよ。」
「母さんは喫茶店を開くために勉強中だよ、やはり店舗経営には役所の信頼が必要だそうだ。名義だけでも借りれないと働けないよ。」
「父さん恭ちゃん、ただいま。今日もだめだった?」
「美由希、言わなくたってわかるだろ。」
「やめなさい二人とも。」
「でも父さん昨日の旅行、あれどのくらいお金かかっていたと思う?日本円で一千万は超えているらしいぞ。なのはは凄いな、英雄のように扱われている。」
「ああ、親として情けないよ。地球にいたってあんな旅行は経験できなかっただろうな。それを未成年の娘が簡単にプレゼントするなんてな。」
「魔法って凄いよな、俺達の戦闘技術を簡単に再現できて負担も減らせるのだから。」
「テロリストの気持ちが理解できる。これだけ魔導師が優遇されればな。」
実際魔導師と一般人には給料や公共施設の待遇、職業差別などが存在し、不満が多いのだ。しかし、まったく改善されないのには理由がある。それだけ魔導師の活躍が凄く、一般人100人分は最低でも働いているのだ。
オーバーSだと奇跡と言えるような仕事をするので誰でも英雄として扱われるのだ。その結果が闇の書事件の解決である。あれは一人でもかけていたら解決できなかったと言われるほどの事件だったのだ。
「なのははもう子供ではない、むしろ俺達が情けないんだ。戦う力は魔導師のほうが上、知識も魔法を使えばいらない知識ばかり、役に立つのはパティシエとしての技術や知識だけだ。それも活用できなければ意味がない。」
「女神か、・・・・・プロパガンダだがなのはの活躍にぴったりな言葉だ。俺達は雑草にもなれないゴミだがな。」
「恭ちゃん・・・・・」
「とにかく夕食の準備をするぞ、明日からしばらく帰ってこれないのだからな。」
「確かロストロギアの回収に協力するように言われたらしい。」
「さあ、元気に帰ってこれるよう栄養ある食事にするぞ。」
どれだけ時間がたっても変わらない高町家のバランス。つねになのは中心に動いているのは今も昔も変わらない事実だ。
〈ティアナ〉
買収は成功し、規模は小さいがバックアップ体制が整った一流警備会社として商売を始めるのも時間の問題だろう。
警備会社にはそれぞれコンセプトが存在する。企業のガードマン、それが一般的なコンセプトだ。それより少し上の警備組織はイベント警備など大規模警備を目的とした、数による警備をコンセプトとしている。そして一流警備会社は次元航行船を保有し、海賊からの輸送船警備をしているのだ。
だが、買収して一つの会社となった『ランスター警備保障』は微妙に違う。コンセプトは危険地帯での防衛戦、つまり始めから戦闘することが決定している場所での警備がコンセプトなのだ。
当然これまで働いていた魔導師は退職した。そもそも警備員という中途半端な仕事をする魔導師に期待などしていなかった。ティアナは傭兵をしている魔導師や、管理局に所属しないフリーの魔導師に募集を出したのだ。
すると、大規模戦争が存在しない世界で管理局に所属しないのは生活が苦しいのかたくさん集めることができたのだ。
「デバイスの統一、思っていた以上に不満が出たわね。でもさすが現実を知っている魔導師ね。武器が質量兵器ににていても不満が出ないとはね。」
不満の理由は警備会社が失敗している理由であった。警備会社は広告となるように考えてデバイスの統一、バリアジャケットの斬新さを求めた組織が多いのだ。その結果、犯人との戦闘でトラブルが発生し死人が出るという事故が増えているのだ。
そこでティアナは統一する理由を話した。質量兵器を楽観視し、勉強しない魔導師が増え、死亡事故が増えているのだ。その原因の一つがベルカの騎士だ。
ベルカの騎士とはベルカ式魔法を使う高ランク魔導師に与えられる称号なのだが、彼らの戦いは見栄えがいいのだ。卑怯な戦術を使わず一撃で相手を無力化する、そんな物語の英雄のような戦闘をするのが騎士なのだ。
だが、現実は違う。音速を超える戦闘機、ミサイルは管理世界の常識を超えて対応策など存在しない。エネルギー兵器はXV級の主砲を上回る破壊力を持っている。とてもではないが卑怯な戦術なしでは戦えないのだ。
そもそも誘導弾は目視での制御が一般的だ。デバイス制御や条件付の自動追尾は簡単に回避できてしまうのだ。そのためマルチタスクが重要になるのだが、誘導弾は遅くしないと制御が複雑になってしまうのだ。結局魔導師相手や一般人相手では勝てるが、戦闘機などは早すぎて撃ち落せないのだ。
「管理世界の人間は科学を勉強できない、だから質量兵器の危険性を知らない。スカリエッティが技術は凄くても役に立たないガジェットを作ったのが証拠ね。魔導師相手では強力みたいだけどね。」
あれだけ大きさに見合わず武器を積み込めば2型は遅くなるのは当たり前だ。実際あれはプロペラ機よりも遅いのだ。あれで飛行できているのが奇跡だと素人でも理解できる。地球の軍人が見れば確実に笑われるだろう。
「とにかく高町家をスカウトしましょうか。お金に余裕があるから自立した生活をさせられるだろうしね。」
〈高町家自宅〉
3時間前突然電話が鳴った。なのはかと思ったが相手は資産家で有名なランスターだった。ランスターは最近テレビで何度も取り上げられている。11歳で企業経営するだなんて自分達の常識は崩れ去ってしまうほどだ。
そんな彼女は自分達に商談がしたいと連絡があったのだ。仕事がない我々には怪しくても会う以外選択肢が存在しなかった。
予定の時間になると黒いリムジンタイプの自動車が止まった。ボディーガードらしき4人の人間が周囲を確認した後一人の少女が降りてきた。ビジネススーツを着ているが年齢のせいかどこかおかしい。
ボディーガード2人をつれて中に入ってきて少女は名刺を差し出した。名刺には『ランスター警備保障社長』と書かれている。4人は社員なのだろう。
「はじめまして、ティアナ・ランスターです。今日は商談で参りました。」
「私は高町士郎です。隣が妻の桃子、息子の恭也です。」
「わざわざ来ていただいてありがとうございます。」
「いえ、ビジネスですから。」
「すみませんが我々は管理外世界出身でこの世界の常識を知りません。あなたが欲しいものなどないと思うのですが。」
今まで管理世界の厳しさを自分の体で理解した。働く場所がないのでなのはに頼るしかない、それが悔しかった。彼女は何が欲しいのだろう。
「失礼ですがミッドチルダへ来るまでの生活を調べさせてもらいました。高町なのはさんは有名ですから簡単だったのですがね。」
「だったら分かるはずです、この身以外何もないと。」
「あなたはボディーガードをしていたそうじゃないですか。」
「!ええ、ですが魔法が使えないので断られましたが。」
「私が欲しいのは情報です。近年質量兵器による犯罪が増えてきました。それに対抗するため我々は戦闘マニュアルを作りたいのです。」
「なるほど、それなら戦闘経験があるので協力できます。しかしそれだけなら管理局から情報を得られるのでは?」
「管理局は魔導師の質を上げることで対応しています。しかしいつか限界がきます。我々は戦術や魔法、デバイス性能など、そういう装備や訓練で対応できる方法を研究しています。そこであなた方に声をかけました。もちろん協力してくれるなら前払いで報酬を払います。」
「具体的に報酬とは?」
「あなた方は法律や信頼が得られず喫茶店の経営ができないと悩んでいると聞きました。そこでランスターグループの企業として開店できるよう支援しましょう。」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「いえいえ、それと新人教育のため教官として士郎さんを雇いましょう。これでしばらく安心して生活できるはずです。」
「そこまでしてもらえるのならこちらは問題ありません。良いよな3人とも。」
「待ってくれ父さん。」
「どうした恭也。」
「俺を警備員として働かせてもらえませんか?」
「理由を聞かせてもらえますか?」
「俺はこの世界に来て自分が見てきたものの狭さを知りました。妹のなのはは幼いころから管理局で働き、英雄となっています。それにあなたのように会社経営をする人もいる。そこで思ったんです。狭い世界で生きたくないと。」
「なるほど、しかし魔法を使えない人間を戦わせることを法律で禁止されています。なので指揮官として車両から命令するのが限界です。それでよければ許可しますが?」
「それでかまいません、お願いします。」
「分かりました、それでは明日から来てください。まだ開店していませんが研究はできますから。」
「いろいろとありがとうございます、息子のわがまままで聞いてくださって。」
「やっていけるかはこれからです、彼の努力があって指揮官になれるのですから。頑張ってくださいね。」
「はい、必ず結果を出します。」
「それでは失礼します。」
ティアナは商談を終えると帰っていった。あっさり決まったのは当然だろう、今までの気まずさは相当なものだったのだから。
〈なのは・フェイト〉
なのははフェイトから通信がきたと連絡があったので、自室で通信を受けた。
「何フェイトちゃん、船に直接連絡なんて。」
「今日様子を見になのはの家に行ったんだ。そしたら就職先が見つかったそうだよ。」
「どんなところなの?」
「最近有名なランスター警備保障だよ、前払いで喫茶店経営の開店資金をだしてくれるそうだよ。」
「そうなんだ、・・・・・なんか複雑だな。」
「なのは?」
「私家族に酷いこと言っちゃったの。ユーノ君と私のせいで移住させてしまったのに。」
「なのは、お話しないと何も分からないよ。家族なんだから一度話したらどうかな。」
「・・・うん、そうだね。帰ったら話してみるよ。」
「頑張って、なのは。」
「ありがとうフェイトちゃん。」
少しずつ埋まり始める溝、ユーノとの関係をのぞいて修復へと向かい始めたのだった。
〈クロノ・ヴェロッサ〉
二人は本局で情報交換をしていた。査察部で働くヴェロッサは協力して欲しい事や重要な事を知ると、よく話し合いをしに来るのだった。
「クロノ、ランスター警備保障は知ってるかい?」
「テレビで放送されているくらいの情報ならね。」
「警備会社など、武力組織を経営するには管理局に許可をもらう必要があるんだ。そこで購入予定の物品リストをもらってきた、見てくれ。」
渡された書類には武装ヘリ、装甲指揮車両、専用デバイス、戦闘訓練装置、どれも管理局と同等か上回る高性能な物だ。
「武装ヘリは民間利用できる中では一番高性能な物で、装甲指揮車両は管理外世界の対質量兵器を考えて作られた車両をモデルにして作られている。そしてデバイスを見てくれ、AIでストレージデバイスを管理、制御し、バリアジャケットも魔法合金によるボディーアーマーとの複合装甲となっている。」
「ストレージデバイスは完全に質量兵器じゃないか、許可は出たのか?」
「問題は存在しない、見た目を質量兵器にしたくらいでは法律違反ではないからね。僕はなぜここまで民間組織が金をかけるか知りたいんだけど、違法なことはしていない。だから再調査はできないんだよ。」
「確かに規則を守っている、しかし預言の問題があるのに地上にこんな組織を作られたら安心できないな。許可取り消しはできないのか?」
「違法でないから無理だよ、それにレジアス中将が興味を抱いているようだ。『低ランク魔導師に何ができるのか』とね。」
「なるほどな、なら遠くから監視するしかないか。」
「ああ、何か情報が入り次第伝えるよ。」
「頼む。」
管理局から目をつけられた警備会社、その先にあるのは何なのだろうか。それは誰にも分からない。
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