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竜姫の翼 ‐北極航路邀撃戦隊‐ 作者:北原樹恒
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四章 初陣

 与えられた猶予は、二日間だけだった。
 最初の空襲から三日目の未明、交代で二四時間の哨戒任務に就いていた九一一飛行隊の〈白鳥〉が、北極山脈の上空を飛来する敵編隊を捉えた。そのうち三〇機ほどが、クリューカ基地の防衛圏に進入するコースをとっていた。
 九〇七飛行隊の全機に出撃命令が下る。訓練ではない。実戦、本物の戦闘だ。
 滑走路にずらりと並んだ一二機の〈竜姫〉は壮観だった。訓練でも、全機そろっての出撃なんて片手で数えるほどしかやったことがない。普段の訓練は二~六機単位で行っている。
 いま思うと、それも突然の敵襲に備えてのことだったのだろう。基地が空っぽになることはほとんどなかったし、模擬空戦のために空砲を積んでいる時でも、最低二門の機関砲には実弾が込められていた。
 出撃を控えたシェルシィの目の前で、一機の〈白鳥〉が飛び立っていく。普段は一機ずつ交代で北極航路を警戒している〈白鳥〉だが、戦闘時には最低でも二機が空に上がって、戦場全域をくまなく監視下に置くことになっている。
 〈竜姫〉の発進準備もすべて整っていた。いつでも離陸できる。シェルシィはもちろん、他の隊員たちも興奮しているようだ。
 飛行隊員全員が整列し、基地司令のリーヴ・アーシェン中佐が前に立った。普段はあまり存在感のない司令官だが、やはり実戦ともなれば、出撃前に士気を鼓舞しようというのだろうか。
「みんな、楽にして聞いてくれ」
 穏和な外見に似合わず、意外と大きな声だった。
「君らの多くにとっては、今日が初陣となる。当然、緊張しているだろう。かくいう私も基地司令として初めての実戦で、ひどく緊張している」
 しかし口調は落ち着いていて、穏和なその表情はとても緊張しているようには見えなかった。
「だが、軍人としては君らの何倍かの経験がある。だから司令官ではなく先輩として、ひとつふたつアドバイスしておこう。
 まず第一に、信じること、信頼することだ。零式は優れた戦闘機であり、特に、今回のような大型機の迎撃にその真価を発揮する。そして君らは、期間はいくぶん短かったものの、そのための厳しい訓練をこなしてきた。機体の性能と、自分と僚機の技量を信じることだ。これに疑いを持ってしまったら、本来の実力が出せなくなる」
 そこで一呼吸の間をとって、全員の顔を見渡してから言葉を続ける。
「そしてもうひとつ。戦いでは、達成すべき目的を明確にして、そのために最善の行動をとることが重要だ。たまたま目についた敵を攻撃するのに夢中になって、本来の目標を逃してしまうなどというのは愚の骨頂。作戦の目的を忘れてはいけない。目的が明確ではない作戦は、そもそも立案段階から間違っているといってもいい。その点、今回の作戦は単純そのもの。我々の第一の任務は、零式の運用データを収集することだ」
 シェルシィを含む数人が、怪訝そうな表情を浮かべた。それは平時の任務であり、今回は違うだろう、と。
「忘れてはならない。零式の性能を活かして敵と交戦し、データを持ち帰ること。それが最優先だ。データを収集しても、撃墜されて帰還できなければ意味がない。
 そして第二の任務は、第一の任務に支障が出ない範囲内で、敵に最大限の打撃を与えること。いいか、このふたつの優先順位を間違えてはいけない」
 念を押されて、ようやく理解した。要するに「敵を撃墜できなくてもいいから、必ず生還しろ」と言っているのだ。司令官という立場を意識してか、やや遠回しな表現になっているが。
 外見通り、軍人らしくない人だ。戦果が二の次だなんて、普通の司令官は言わないだろう。むしろ「死んでも敵をくい止めろ」の方がありそうな台詞である。よくもこれで中佐まで出世できたものだ。
 古参の隊員たちは、遠慮なく意地の悪い笑みを浮かべている。それに気づいてリーヴも苦笑した。
「……まあ、なんだ、自分の娘とそう変わらない年齢の女の子たちが戦場で死ぬところなど見たくはない……そういうことだ」
 照れているのか、やや早口になる。
「心配すんなって。誰が飛行隊を指揮してると思ってンだ」
 ソニアの軽口に、リーヴが小さくうなずいた。
「そうだな。ハイダー大尉が撃墜王と胸を張っていられるのも、生きていればこそだ。どんなに戦果を挙げても生き残らなきゃ意味がない。生きてさえいれば、勲章はもらえるし昇進もするし、バーで自慢話をして女の子にももてる……と。最後のは、君たちにはあまり関係ないか」
 他愛もないジョークに、くすくすと笑い声が起こった。確かに、戦闘機パイロットは若い娘たちに人気がある。若くてハンサムでしかも撃墜王ともなれば、その扱いはアイドル並みだ。
 しかし女性の撃墜王が男性にもてるかどうかを確かめた者はいないだろう。そもそも女性の戦闘機パイロットなんて統計が取れるほどの数もいない。シェルシィが知っている女性の撃墜王はソニアとサラーナの二人だけだが、どちらも男性にはあまり興味がなさそうだった。
 司令官のおかげで、隊員たちの張りつめていた空気がいくぶん和らいだ。先ほどよりはリラックスした表情で、それぞれの機に乗り込んでいく。
 一番機から順にエンジンを始動。二四基のジェットエンジンの轟音が基地を包み込む。
 一二機の〈竜姫〉は、三機ずつ四つの編隊に別れて離陸位置に着いた。シェルシィはエシールと並んで、先頭を行くソニアの斜め後ろにいた。今日は、もっとも若い二人をソニアが率いることになっている。
『リリィ01、離陸準備よし』
 レシーバーに、聞き慣れた声が入ってくる。
『リリィ11、よし』
「リリィ12、よし」
『クリューカ・コントロールよりリリィ01、離陸よし』
『了解』
 エンジンの出力を全開にする。
 左右の風景が後方へ流れていく。機首が上がり、青い空が視界いっぱいに広がる。
 いつもと変わらぬ美しい空。しかし今日は、その彼方に戦いが待っていた。

* * *

『スワン02よりリリィ01。敵編隊三二機、エリアA‐14よりB‐13へ侵入。進路一八五、高度九〇〇〇、速度四八〇変わらず』
 敵編隊を捕捉している〈白鳥〉からの無線連絡が入る。
『迎撃隊は進路二八五、速度八六〇へ。会敵予想エリアはB‐32』
『リリィ01、了解』
 指示に従って、ソニアは進路を修正して速度を上げた。
 九一一飛行隊の役目は単なる索敵だけではない。敵の状況を逐次知らせると同時に、味方の戦闘機隊がもっとも効率よく敵を迎撃できるように指示を出す。いわば戦場の指揮者だ。〈白鳥〉の強力なレーダーは、戦場全域を監視下に置いている。
『よーし、もうじき目視距離に入るぞ。機体や体調に問題はないな?』
『リリィ11、すべて正常』
「リリィ12、すべて正常」
 他の編隊からも同様の報告が来る。
『外部タンク投下。火器安全装置解除』
 胴体下に吊り下げていた外部タンクを切り離す。燃費の悪い〈竜姫〉にとって大型の外部タンクは必需品だが、余分な重量と空気抵抗が空戦機動の妨げになるので、普通は戦闘前に投棄する。
 軽くなった機体を一〇〇〇〇mまで上昇させる。敵より高い位置をとるのは空戦の基本中の基本だ。
『目標、目視』
 ソニアの声と同時に、視界の彼方に砂粒よりも小さな点が映った。最初は針先で突いた点にしか見えなかったそれが、距離が縮まるにつれて爆撃機の姿に変化していく。
 間違いない。アルキア空軍が誇る重爆撃機ペリュトンだ。その形は、写真や模型で嫌というほど見せられている。
 敵もこちらに気がついたのか、散開していた編隊を密集させていく。
 この判断は正しい。戦闘機と爆撃機では機動性に天地の差があるのだから、慌てて勝手な回避行動などを取れば、一機ずつ餌食になるのが目に見えている。ペリュトンの最大の武器は一〇門を超える対空機銃だ。編隊を密集させて対空砲火を集中させれば、迎撃機も容易に近づけない。
『まず、敵を分散させるぞ。四式ロケット弾一斉射撃用意。タイマーは八秒セット』
 カチ、カチ。
 シェルシィは左手で調整つまみを回した。右手の親指を、操縦桿上部の発射ボタンに置く。照準器は敵編隊を捉えている。
『三……二……一……発射』
 ボタンを押す。小さな衝撃とともに、主翼の下から二発のロケット弾が飛び出していく。他の機からも同時にロケット弾が発射された。飛行機雲のような白煙を引いて、計二四発のロケット弾が敵編隊に襲いかかる。
 航空機からロケット弾を発射するというアイディア自体は、それほど新しいものではない。当初、対地攻撃用に搭載されたロケット弾は、爆撃機の大型化、重装甲・重武装化に伴って、機銃の火力不足を補うために対空用に転用されるようになっていた。しかし対地ロケット弾は精度が低く、航空機にはそうそう命中するものではない。そんな問題点を改良したのがマイカラス空軍の新兵器、四式対空ロケット弾だ。
 弾体を細長くすることで速度と精度を向上させ、発射前に調整可能な時限信管を組み込んだ。目標を直撃すればもちろん、命中しなかった場合も一定時間が過ぎると信管が作動し、内部に詰め込まれた焼夷榴弾が前方一〇〇mあまりの範囲にばらまかれる。
 直撃でなければ重装甲のペリュトンを撃墜するのは難しいが、それでもエンジンや対空砲に当たれば相当の損害を与えることはできる。なにより、自分に迫ってくるロケット弾を目にすれば、大抵のパイロットは慌てふためいて編隊を乱すものだ。
 その目論見通りだった。敵編隊の手前で光が瞬き、白煙が広がる。距離があるのでさすがに直撃はしなかったようだが、密集していた敵編隊がばらばらに散っていく。エンジンを損傷したのか、主翼から煙を噴いているものも二、三機いる。
『さあ、狩りの時間のはじ始まりだ。行け、シェル』
「は、はいっ!」
 ソニアの声を合図に、シェルシィは一番近いペリュトンに全速で向かっていった。斜め後ろにエシールが、そして真後ろにソニアがいる。
 照準器の中で、敵機がぐんぐん大きさを増していく。スロットルレバーと一体になっている調節つまみを回して、照準器に投影されているオレンジ色の照準環の大きさを変化させる。環の大きさと敵機の見た目の大きさが一致した時に横のメーターを見ると、目標までの正確な距離がわかる仕組みだ。
 三二mm機関砲の安全装置を解除。人差し指が機関砲のトリガーにかかる。敵機が射程に入るまで、あと三秒……二秒……。
「――っ!」
 一瞬早く、巨大な重爆から数条のオレンジ色の光が飛び出してきた。対空機銃の曳光弾が、流星のように飛び去っていく。
(う、撃たれるっ)
 身体が強張る。
 実弾で撃たれるなんて初めてのことだった。
 回避行動を取らなければならない。ただ真っ直ぐ飛んでいては射撃の的も同然だ。
 頭ではわかっているのに、手が動かなかった。狼狽のあまり、操縦桿を握る手に、ラダーペダルを踏む足に、必要以上の力を込めてしまう。
 これは大きな誤りだった。急に機首の向きが変わって、敵の姿が視界から消える。それではこちらも攻撃できない。正しくは最小限の動きで対空砲火をかわし、射撃を行わなければならないのだ。
 慌てて逆方向に旋回。再び視界に飛び込んできたペリュトンの巨体は、もう衝突しそうなほどの至近距離に迫っていた。
 反射的に操縦桿を手前に引きながら、機関砲を発射した。〈竜姫〉は敵機の上ぎりぎりをすり抜けたが、射撃のタイミングはわずかに遅かった。運がよければ一、二発は命中しているかもしれないが、おそらくは一〇発ほどの砲弾を無駄にばらまいただけだろう。
(そうだ! 回避、回避しなきゃ!)
 敵機と交差して離れる時こそ、対空砲火に気をつけなければならない。ハリネズミのようなペリュトンの機銃には、死角はほとんど存在しない。
 しかし操縦桿を握る手は、相変わらずいうことをきかなかった。後ろを振り向く余裕もない。心臓の鼓動は早鐘のようだ。いつ撃たれるか……とびくびくしながら、ただ真っ直ぐに飛んでいた。なのに対空砲火が追ってくる様子はない。
『シェル、ぼけっとすんな!』
 鼓膜を震わせるソニアの声に、はっと我に返った。ばねが弾けるように背後を振り返る。
 数秒前までそこにいたはずの、ペリュトンの姿がなくなっていた。大きな火の玉と広がる黒煙を突き抜けて、一機の〈竜姫〉が飛び出してくる。
 後ろにいたソニアが、至近距離からロケット弾を撃ち込んだのだろう。いくら防弾性能の高いペリュトンといえど、ロケット弾の直撃を受けてはひとたまりもない。
『左後方、次の獲物だ』
「え……? は、はいっ!」
 シェルシィは赤面しながら急旋回した。続けざまになんたる失態。敵の対空砲火に怯えて攻撃に失敗したばかりか、前衛機の役目をすっかり失念してしまうなんて。
 敵を仕留められずに後衛にとどめを任せる場合、前衛はその間、周囲を警戒し、新たな攻撃目標を捕捉しなければならない。なのにそれを忘れて、ソニアに教えられてしまった。
 最初の対空砲火を受けた瞬間から、身体が思うように動かなくなっていた。手が、脚が、自分のものではないように感じる。頭の中も真っ白で、まるで冷静な判断ができていない。
 これが、実戦だった。
 そこには、訓練とはまるで違う緊張感があった。決定的な違いだ。模擬空戦では、たとえ撃たれても死ぬことはない。しかしペリュトンの一二mm機銃は、一発でもシェルシィの命を奪うことができる。
(……これか)
 最初の空襲の日、ソニアが言っていたことを思い出す。
 十分な心の準備をしていたはずの今日でさえ、こんな調子なのだ。もしもあの時たった二機で迎撃に向かっていれば、シェルシィはなにもできずに撃墜されていたことだろう。今日は飛行隊の全機がそろっているからこそ、多少のミスもカバーしてもらえるのだ。
 もっと、しっかりしなければならない。
 司令官はなんと言っていた?
 まず第一に、信じること。機体の性能を、自分の腕を、そしてなにより僚機を。
 〈竜姫〉は素晴らしい戦闘機だ。敵の機銃手だって、時速八〇〇km以上で飛行する戦闘機など見たことあるまい。対空機銃など、高速飛行する戦闘機にはそうそう当たるものではないのだ。
 そして、ソニアの技量も素晴らしい。シェルシィとエシールのミスをカバーして目標を一撃で撃破しながら、周囲の敵機の位置まで正確に把握している。
 最高の機体に、最高の味方。
 これ以上、なにを望むものがあるだろう。なにも心配しなくていい。自分はただ、目の前の敵機に集中すればいいのだ。
 今度は失敗しない。その決意を胸に深呼吸する。酸素マスクから送られてくる無味乾燥な空気でも、いくらか頭がすっきりした。
 新たな敵を視界に捉える。
『シェル、次はロケット弾を使え。重い荷物はさっさと捨てるに限る』
「了解」
 その指示はありがたかった。四式ロケット弾はペリュトンの機銃よりも射程が長い。今度は撃たれる前に撃つことができる。
 それを言ったら〈竜姫〉の六門の機関砲はどれも敵の一二mm銃より射程が長いのだ。なのに先刻は敵が先に撃ってきた。見たこともない速度で迫ってくる迎撃機に狼狽したのだろう。有効射程に入る前に、でたらめに発砲しただけだったのだ。
(相手だって怖いんだ)
 怯えているのは自分だけではない。そう考えると気が楽になった。
 敵機との距離が詰まっていく。攻撃を避けようと左に急旋回しながら降下しているが〈竜姫〉に比べればその動きは鈍重そのものだ。
 敵機のやや左前方を狙う。一瞬だけ機体を水平に安定させ、ロケット弾の発射ボタンを押した。
 二発のロケット弾が、白煙を残して一直線に飛び去っていく。シェルシィは旋回しながら、首を巡らしてその行方を追った。
 一発はわずかに目標の下に外れた。しかしもう一発は、ものの見事に主翼の付け根に吸い込まれていった。
 小さな爆発。一瞬後、ペリュトンの巨体が火の玉となって飛散した。搭載していた爆弾が誘爆したのだ。
「やった!」
 思わず、操縦桿を放して手を叩く。
『はしゃぐな、次だ。方位〇五八、高度八二〇〇。エシールがやれ』
 ソニアの声は、これ以上はないというくらいに冷静だった。この状況下で、一〇〇〇mも下にいる敵機を把握していたとは驚きだ。
 三機は降下しながら隊形を変化させる。今度はエシールが先頭、ソニアがやや遅れて、ロケット弾を使い果たしたシェルシィが後衛につく。
 急降下で加速した〈竜姫〉は、高度を下げて迎撃隊をやり過ごそうとしていた敵機にたちまち追いついた。エシールがロケット弾を発射する。回避しようとした相手が機体を大きく傾けたので直撃はしなかったが、時限信管が作動してペリュトンの左翼半分を吹き飛ばした。
 頑丈な機体で高い生存性を誇るペリュトンのこと、片翼の半分とエンジン一基を失っても飛行を続けることはできる。しかしそれは、戦闘中でなければの話だ。
 手負いになった獲物にソニアが襲いかかる。二門の三二mm機関砲が火を噴く。
 それは、対大型機専用の武装だった。戦闘機の主流となっている二〇mm機関砲の四倍以上の炸薬を詰め込んだ機関砲弾は、戦車の上部装甲すら撃ち抜くことができる。いくらペリュトンの防弾性能が優れているとはいえ所詮は航空機、薄いジュラルミン外板など紙同然だ。
 ソニアの射撃は完璧だった。照準の難しい大口径弾が、吸い込まれるように敵機の中心部に命中する。その内部は爆弾倉だ。
 爆発、炎上する敵機。
 その鮮やかさに、シェルシィは周囲の警戒という後衛の役割も忘れて見とれていた。

* * *

 戦闘は長くは続かなかった。
 空戦時はほとんどの時間エンジンを全開にしているため、〈竜姫〉の燃料があっという間に底をついてしまうのだ。しかしその頃には、周囲に敵機の姿も見当たらなくなっていた。
『スワン02よりリリィ01、試合は終わりよ。残敵は七、全機が反転して帰路についた。司令から、これ以上の追撃は無用と言ってきたわ』
 レーダーと無線で戦闘の様子を監視していた〈白鳥〉からの通信が入る。
 シェルシィは思わず歓声を上げた。エシールの弾んだ声も聞こえてくる。
 生き延びたのだ。
 生き延びて、しかも戦果を挙げたのだ。
 一二機の〈竜姫〉で、二五機のペリュトンを撃破。大勝利だ。
 中でも圧巻はソニアだった。なんと一人で四機撃墜だ。女性では世界最高のエースという言葉も、今なら素直に信じられる。地上ではだらしない大酒飲みでも、空にいる時は紛れもない撃墜王だった。
 ソニアが機首を巡らして帰路につく。シェルシィとエシールが後に続く。
 やがて、他の編隊も合流してくる。総勢一二機、一機の損失もない。
 出撃した全員が、そろって還ってゆく。
 無事に帰還できるというのは素晴らしいことだ。
 初めて撃たれた時の恐怖は忘れていない。きっと、一生忘れないだろうとシェルシィは思った。


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