いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は人生キャッチャーでございます。
ごゆっくりどうぞ。
私は平凡なOLである。大して顔は可愛い訳ではないが、それほどイケてない訳ではない、と本人的には思うのである。
しかし、社内恋愛のキッカケを薄々期待しているのだが、声を掛けてくる男たちはイマイチの連中ばかりで、私は一人身を続ける羽目になっている。
人曰く、理想が高いとは言うが、それは仕方ない事である。周りにいる数が限られている上、その中から必ず探さないとなんて話は私には納得いかないのである。
そんな私の趣味はゲームセンターにある、UFOキャッチャーだ。
これと決めた獲物を捕まえる楽しさは、何とも言えない満足感が癖になり、ストレス発散と共に、ハマっていった。
初めは、女が一人でこんな所になんて、あまりに寂しく見えるとは思ったが、その時に目についたぬいぐるみは私に取ってくれと訴えていて、それを無視することができず、ついついやってみたのであった。
コインを入れると金属が重なる音が心地よく聞こえた。
しかし最初はやはり、始めてのボタン操作に手こずり、あっけなく終わった。
なんとなく、ぬいぐるみたちの笑う声が聞こえてきた。
私はまたコインを入れた。すると、またあの心地よい音が私の中で反響した。
私は心の中で何かのスイッチが入った音に感じた。
私は何かに取り憑かれたようにボタンを動かした。その結果、そのぬいぐるみは私の物になったのである。
それからというもの、私は何かやりきれないことや、イライラしたときなどは決まってUFOキャッチャーをした。
始めて暫くは、欲しいものを探して、それを取ることを楽しんでいたが、この頃はいかに難しい物を取れるかを楽しんでいた。
だから部屋には訳の分からないものの山ができていた。
家に帰り、その山を見ると、何だかとても切なくなるのであった。
そんなある日、いつものようにUFOキャッチャーを終え、ゲームセンターを出た時、ふと上を見上げると、そこには建築現場があり、その上には大きなクレーンがそびえていた。
私は、私はそれを見て家に走って帰った。そして、慌ててパソコンを開き、建築業の求人広告からクレーンの運転手の求人を選び、その中から大手ゼネコン企業専属の会社を探した。
そしてそこの評価や経営状況など、気になる事を調べ、これといって問題がない事を確認して、面接の約束をメールで申し込んだのだった。
そこまでして、ふと我に帰った。私は何をやってしまったのかと思ったが、まぁいい。予定の日までは時間がある。気が変わったら断ればいいと開き直った。
しかし、日が経つにつれ、期待に興奮する一方で、その日を迎えてしまったのであった。
訪れた先は、思ったよりも綺麗で立派なビルにあり、面接は中年の男性が受け付けてくれた。
彼は私を見ても驚く様子もなく、淡々と仕事の説明をした。
私は少し意外な展開にキョトンとそれを聞いた。そして、彼は説明の最後に、この仕事で、始めての人を雇うと言うのは、資格の取得からある程度の経験が着くまでの世話と、かなりのリスクがあり、なんとなくの気持では、採用は無理だと言ってきたので、私はムキになって頼んだ。
すると彼は書類を前に出すと、私の目つきを信用すると、記入を促したのであった。
私は、丁重に礼を言うと急いでそれを書き終え、家に帰るなり、今の会社への辞職届けを慎重にパソコンで打った。もう、後戻りは出来ないと、この時思ったのであった。
翌日、私は部長に辞表を出した。
部長はキョトンとしていたが、あっ、そっ。とあっけなくそれを受け取った。それを見て、私は何故かすっきりしたのだった。
それから一ヶ月後、私は新しい会社に入った。
初めはクレーンの資格の取得だったが、授業は始めての事ばかりだし、周りは男の人ばかりで、かなりの非日常的な毎日に、そわそわしっぱなしだった。
無事、資格取得をし、それから、その会社が持つセンターというところで練習を一ヶ月弱、女性のオペレーターの方に着いてもらってしたが、一週間ぐらいすると、かなり動かせる位にまでになり、彼女からもセンスがいいと誉められた。
そして、私はいよいよ建築現場でクレーンを乗ることになった。
それはかなりの大きなビルで、クレーンが三機も立っていた。
他のオペレーターはベテランだから何かあれば助けてくれると言ったが、私はそのつもりはなかった。
クレーンの運転席までは狭い梯子を登るのがキツイが、上は快適だった。
四畳半くらいのスペースにトイレやエアコン、テレビまでが着いていた。
下の職人さんとのやり取りは無線で行えるし、クレーンの先には高性能のカメラが付いているので、かなり細かい物まで見ることが出来た。
私は席に着き、大きく深呼吸をした。そして足元に貯金箱を置くと、百円玉を入れた。
一枚目だから想像していたよりも軽い音がした。しかし、私の心は興奮した。
さーて、今日はどの男を捕まえてやろうかなー。
私は心の中で呟くのであった。
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。
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