最終決戦
世界の果て、闇と瘴気が立ち込める不毛の地、二人の男が向かい合っていた。
ひとりは立派な赤い髪をたなびかせる精悍な顔つきの青年。この世界の勇者だ。剣を構えるその体は鍛え上げられ、瞳に宿る光は強い輝きを放っている。
もうひとりはどんな美姫をもしのぐ精緻な美貌との持ち主。この世界の魔王だ。色白で華奢な体つきをしているが、纏うオーラと放つプレッシャーが彼の絶対的な強さを語っている。
行われているのはまさに最後の戦い。二人の体は、長い戦いに傷つき、互いにぼろぼろだった。あたりの地面には、彼らの戦いの激しさを示すように、大きな傷跡がいくつも残されている。
だが、まだ決着はついていない。
向かい合う二人は、一方は剣を、もう一方は魔力を掲げる。どちらも自らのもっとも手なれた武器。そしてそれに込める力は今まで最大のもの。
「うおおおおおおおおおおおおお。」
勇者のまとうオーラが膨れ上がり、そして剣に集中する。
「はあああああああああ。」
魔王の右手に宿った力は、さらに大きさを増し禍々しく黒く輝く。
互いに準備した、最後にして、最強の一撃。
この技が放たれた後、どちらかが、もしくはどちらともが滅びる。
「勇者よ、決着のときだな。おまえは思い残したことはないか?」
魔王は美しいその顔に睨みつけるような笑みを浮かべ言葉を放つ。
「ない!」
それに勇者ははっきりと答える。
「魔王、貴様も遺言があるなら聞いてやろう。」
それに魔王は鼻で笑って答える。
「ふん、そんなものないわ。」
ジリッ
互いの足がわずかに動き、間合いを測る。
技が放たれれば、生か死か、互いの運命が待っている。
(待てよ!)
勇者ははっと思った。
(そういえば俺、彼女いたことがない!)
旅の仲間には女の子もいた。旅を続けるうちに親しくもなっていった。しかし厳しい旅に恋なんてうつつをぬかしている暇もなく、恋愛までに発展したことは無い。
勇者は彼女いない歴いこーる年齢だ。
そして相手と自分の一撃が放たれれば、どちらかは確実に死ぬ。その確率は五分五分だった。勝算としては悪くない。なんどもそれ以上の修羅場をくぐってきた。だが、しかし。
(このままでは、童貞のまま死にかねない!)
死んだ後に勇者として伝説になったとしても、それは嫌だった。
一方、魔王。
(そういえばわし女の子とつきあったことないのう。)
生まれてから世界征服を目指して忙しかった。人の上に立つと言うのは、それだけいろいろやることがあった。
だいたい、魔族の女は肉食系すぎて、ちょっと初めて付き合うのには敬遠してしまう。もっと、こう大人しめな恋愛がしたかった。
この攻撃が邂逅すれば、どちらかは死ぬ。
もちろん、自分が勝つつもりである。だが...、万一負けたら。
(魔王が女の子と一度も付き合ったことのないまま死亡ってどうよ!)
それはあまりにも、魔王として情けない。
(これはやばいぞ!)
(これはやばいのじゃ!)
チラッ
最強の一撃を構えながら、覗き見た相手の瞳。今まで戦ってきて、相手の呼吸すら理解しはじめていたからか、それに何かが感じられた。開いた口が、互いに相手に語りかける。
「な、なあ!」
「の、のう!」
***
「それじゃあ、グリュースト女子魔法学校との合コンを開始させていただきまーす!」
幹事の明るい声が、酒場に響き渡る。
わあわあ、と周りのメンバーがそれをがやして盛り上げる。そんな酒場の一幕。
そこに勇者と魔王もいた。和室作りの小部屋、並べられたざぶとんの上に、二人ならんで正座している。初めて参加したせいか、まわりのノリにいまいち乗り切れていない。
二人は緊張した顔で俯きながらも、自分にカツを入れる。
(絶対、彼女を作るぞ!)
(この合コンで恋人ゲットじゃ!)
勇者と、魔王と決着をつける前の最初で最後の合コン。言うなれば最終決戦。ここで決めなければ、女との経験もなしに互いに死ぬ可能性がでてくる。
「それじゃあ、自己紹介からいってみようか。」
イケメンの幹事がさくさくとその場をとりしきっていく。
「僕はレミオ、バルバッサ魔法中央学院の医療魔術科に通ってるんだ。」
「わー、お医者さん候補なんだー。すごーい、エリート!」
「頭いいんだね~。かっこいい~!」
まわりの人間も手慣れた感じに自己紹介をして、それに参加した女の子がきゃぴきゃぴ言葉をそえる。
そして勇者の番がやってきた。勇者が名をなのり、職業を述べたところでそれは起こった。
「勇者をやっている。」
緊張してぶっきらぼうになりながらも、立ち上がりみんなにそう述べる。勇者の言葉に、合コンに参加した女子はきょとんとする。
「勇者ってなーに?」
「ゆ、勇者っていうのは、悪いモンスターを倒したりして人を助ける仕事だ。」
まさか聞き返されるとは思ってなかった勇者は、動揺しながら答える。
「えー、それって冒険者じゃん。」
「冒険者ってぶっちゃけ無職と一緒だよねぇ。稼ぎとか超悪そうだし~。」
「顔はちょっといいなぁって思ったけどぜんぜんだめじゃん。そうだ、ヨーコいったみなよぉ。あんたちょっと良いっていってたじゃん。」
「あたしも冒険者はちょっとぉ。ぶっちゃけ無理。」
キャハハハ
女子たちはそう言って勝手にぺちゃくちゃしゃべりだし、最後に勇者を馬鹿にしたように笑い声をあげた。
茫然とその姿を眺めていた勇者だが、あまりの言われようにものすごくへこむ。
「あー、なんか暗い顔してるんですけど~。」
「やだー、落ち込んじゃったんじゃない?キュリーが酷いこと言うからだよー。」
「えー、ヨーコだって散々いったじゃん。ていうか、本当に冒険者とか無理だからー。」
「あはは、ぶっちゃけすぎー。」
バンッ
止まらず騒ぎ立てる女子に、誰かが机を叩いた。
驚いて目を向けると、そこにいたのは怒った顔をした魔王だった。
「お前ら何をいってるのじゃ!おまえらが、そうやって馬鹿笑いしながら平和に暮らしていけるのも、勇者のこやつが平和を守ってくれてるお陰なんじゃぞ!この世間知らずどもめ!」
「魔王…。」
落ち込んでいた勇者は、感動したように潤んだ目で魔王を見つめる。
「やだ、こいつなにマジ切れしてんの。」
「冷めるー。」
一方女子たちは、つまらなそうな顔でつぶやきだす。
「だいたい偉そうなあんたはいったい何なの?」
「わしは魔王じゃ!」
「魔王って、王さま?どこの?」
王さまと聞いて、一人の女子が興味を持ち直したように聞く。
「北の大地を支配しておる!」
魔王はそれに堂々と答える。
「北の大地って~。」
「それってめっちゃど田舎じゃん!」
「やだー、ださーい。むりー!」
ギャハハハハ
女子たちは魔王の答えに、また馬鹿笑いしだす。
「なななな、ど田舎じゃと!確かに大地は荒れ果ててるが、わしがいずれ立て直す予定だったのじゃ。それにわしはいずれ北の大地だけでなく、世界を手中に収める人間なのじゃぞ!」
魔王は怒って、女子たちを怒鳴りつける。
「えー、田舎はいなかじゃーん。」
「ていうか、夢が世界を手中にとか、いまどき小学生でもいわないよ?」
「綺麗なかおしてるのに、頭は残念ってかんじー。」
「えー、私顔も女顔すぎて無理ー。」
「世界征服とか語るのは夢だけにしときなよー。もっと現実見たら~?」
「ななななな!」
自分の領地だけでなく、世界征服の夢までバカにされて、魔王は怒りのあまり言葉につまる。
「お前ら人の夢を馬鹿にするな!どんな荒唐無稽な夢だって、目指す奴らを笑う権利なんて誰にもない!」
代わりに女子たちを怒鳴りつけたのは勇者だった。
「だいたいこいつは凄い魔力の持ち主なんだぞ。俺の邪魔がなかったら、世界征服だって実現させてた!それだけ凄い奴なんだ!」
勇者は女たちを睨みつける。
「勇者ぁ…。」
魔王は勇者を感動したように見つめる。
「うわー、またマジ切れだよー。」
「冷めるー。超冷めるー。」
「この合コンつまんなーい。あたし帰る。」
「あたしもあたしもー。あ、お金払っといてよね。」
合コンに参加した女子たちは、そう言って全員帰り自宅をはじめる。
「ちょっとまってよアケミちゃーん。くそっ、お前ら二度とよばねーからな!」
他の参加者たちも女子たちを追いかけ、勇者と魔王は合コンから追い出された。
***
「なんじゃー、あやつらは!あんなくだらん女子どもなどこっちから願いさげじゃー!」
「そうだそうだ!あんなのが彼女になるぐらいなら、いないほうがましだー!」
勇者と魔王は、部屋に帰り二人で二次会をはじめた。買ってきた酒をあけ、つまみを口に入れ、二人で騒ぎ倒す。
何杯も瓶をあけ、前後不覚のわけわからない状態ながらも、テンションは上がってきた。
「よーし、一発芸やりまーす。人間電池ー!」
勇者はそう言うと、この世界で勇者だけが使えるという雷撃魔法を使い、扇風機を回して見せる。電力が強すぎれば、扇風機が壊れる。魔力の微妙な調整がかかせない高等テクニックだ。
「おおー、すごいぞー!さすが勇者じゃー!」
魔王はぱちぱちと拍手をし盛り上がる。
「よーし、わしもかくし芸じゃー。」
「おおー、なんだなんだ?」
「へんしーん!」
そう言うと、魔王は美しい悪魔の少女に変身した。実は魔王は淫魔の血を引いていて、性別は自由だった。ただ、そこは支配者。女だと舐められるので、男性の姿しかとったことがない。
この変身は魔王の最高機密のひとつだ。
「おおー、すごいぞー。かわいいぞー。さっきの女たちなんかより、だんぜんかわいいぞー。」
「そうじゃろうそうじゃろう。あんな女どもが、わしに勝てるはずないのじゃー!」
かくし芸を見せ合い、酔っ払い二人は、さらに高いテンションで盛り上がる。
「よーし、どんどん飲むぞー。」
「おうー!飲ものじゃー!」
そのまま二人は新たらしく瓶を開け、酒をさらに飲み始めた。
***
「うーん…。」
魔王は寝ぼけまなこをこすり、起き上がった。体がだるい。胃が重い。さすがに飲みすぎた感じがする。
意識はもうろうとして、何も思考が浮かばない。かかっていた毛布をのけ、上半身を起こしたとき、自分が裸なのに気付いた。
「あれ…。」
そして横を向くと、裸の勇者がいた。
「!!!!!!」
そして一気に昨夜の記憶がよみがえる。
やってしまった。そう、やってしまったのだ…。
あのあと、女の姿のまま酒を飲み続け、そこでなんか酔っぱらった勇者に「お前本当に可愛いなぁ。」とか言われて、それからなんだか怪しげな雰囲気になり、そして…。
やってしまった…。
お酒のせいで記憶がないとかいう、そんなことはまったくない。
もうはっきりと、覚えてしまっている。勇者とあんなことや、こんなことや、あれやこれや…。やってしまっている。
動揺のあまり震えてると、その気配に気づいたのか勇者も起きてしまった。
目をこすり起き上がり、しばしばわけのわからない顔でぼうっとしたが、裸の魔王をみると、昨夜のことを思い出したのか、自分と同じようなリアクションで動揺しだす。
二人は同じベッドで裸のまま、互いの顔をそらし、赤い顔でうつむく。気まずい沈黙が流れる。
「お…、おはよう…。」
その沈黙をなんとか打破しようと、勇者が声をだす。その声も、なんとも頼りなげだ。
「おはよう…。」
魔王の返した言葉なんて、ほとんど蚊の鳴くような消え入りそうな声だった。
そしてまた、二人は黙ってしまう。
「と、とりあえず朝飯くうか…?」
「う、うん…。」
二人はそう話してなんとかベッドをでた。
***
「今日の帰りは遅いから、あんまり遅かったら晩飯は先に食っておいてくれ。」
「わかった~。」
勇者がそう言って出ていくのを、魔王は玄関で見送る。勇者が出ていくと、昨日の洋服を洗濯機に入れスイッチを入れた後、台所にもどり朝食の食器を洗い始める。
あれから魔王と勇者は一緒に暮らしていた。
(なんか戦いを再開する雰囲気でもなかったしの…。あいつも何も言ってこないし、別に部屋からでろとも言われてないし…。)
だからといってここに留まる理由もないのだが。てきぱきと部屋掃除をしながら、言い訳するように魔王は心の中で呟く。これも日課になりつつある。
あの日、朝食を食べ、とりあえず出ていくタイミングもつかめず、それから二人でテレビを見て、お昼を食べて、買い物に出かけた勇者を見送り、帰ってきたらテレビを見て、そのまま二人で寝て、そのままこの部屋に住み続けて三か月は経っていた。
一週間ぐらい経つと、勇者は近場で仕事を見つけ、昼の間はいることがなくなったが夜にはちゃんと帰ってくる。手持無沙汰の魔王は、家の家事をやることになった。
「さて、買い物でもいくかのう。」
部屋掃除が終わると、魔王は買い物バッグを持ち玄関を出る。冷蔵庫をみると、野菜と牛乳がぜんぜんなかった。買っておかなければならない。
ついでに勇者の好きなシャク鴨の肉を買ってやるのもいいかもしれない。最近、仕事が大変そうなのだ。
「あら、奥さんひさしぶり~。今日は、新鮮なリル鮭が入ったんだけどどう~?」
「うーむ、それは良さそうだのう。だが、わしは奥さんじゃないと、何度もいっておるじゃろー。」
「あらあらー、照れなくてもいいのにー。」
商店街に行くと、八百屋の女主人が話しかけてくる。品揃えの良い良心的な店で、勧められた鮭も油がのっていて美味しそうな一品だ。
だが。
「うっ。」
味を想像した瞬間、何故か吐き気がこみあげてくる。
「あらっ、大丈夫?」
心配そうに背中をさする女主人。
「う、うむ…。大丈夫じゃ。最近、たまに吐き気がするんじゃ。」
なんとか持ち直した魔王は、ふと八百屋の奥にあるものが目に付く。
「あのするめおいしそうじゃのう。ひとつくれんか?」
魔王のセリフに女主人は目をぱちくりさせる。
「するめが食べたいの…?」
「うむ、最近、無性に食べたくなる時があるのじゃ。」
「それってもしかして、できちゃったんじゃないの?」
「できた?」
女主人の言葉に、魔王は首をかしげた。
***
「できておった…。」
女主人が言った言葉の意味は、「子ども」だった。首をかしげる魔王に、女主人が並べた子供ができたときの徴候は、まさに魔王の現状のそれだった。唖然とする魔王を、女主人は店を閉めて病院に連れて行き、そして検査を受け。
「妊娠三か月ですね。」
医者にはっきりとそう宣言された。女主人が嬉しそうに「おめでとう。」と言っていた気がするが、頭が真っ白になった魔王は良く覚えてなかった。そして気が付くと家に戻っていた。
テーブルの上には母子手帳やら、妊娠の時の注意が書いた紙が置かれている。
確かにあれからも、やることはやってたのだ。普通に考えて、できてもおかしくない。おかしくはないが、魔王は全然そんなこと考えてなかったので、晴天の霹靂だった。
「どうする、どうするのじゃ。」
魔王は混乱している。
「あやつに言うか。」
そう考えた瞬間、昼ひまなとき読んでいた女性週刊誌の記事が浮かぶ。同棲していた彼氏に、出来たと告げた瞬間、部屋を追い出された女性の話。彼氏がどっかに消えてしまった女性の話。彼氏が実は既婚者で、さらにどろどろに巻き込まれた女性の話。
「ゆ、勇者はそんな男ではないぞ。」
奴の魔王城への冒険をずっと見てきたのだ。その人となりはたぶん誰よりも知っていた。あやつはこの上なく誠実な男だ。
「でも…。」
いままで優しかったのに、できたと告げた瞬間、豹変する男もいる。そう記事には書いてあった。もし、勇者もいきなり態度を変えて、部屋から出て行けと言われたら。そんなこと知らないと言われたら。
そう想像すると、どうしようもなく怖い。言いたくない。でも、告げずにどうするというのだ。二人の子どもなのだ。もう、妊娠三か月、かくしておける時間もそんなにない。
「ただいま~。」
思考のるつぼに陥った魔王の気付かないままにどんどん時間が過ぎていき、日が落ち、夜が更け、もう勇者の帰ってくる時刻になっていた。
「あれ、どうしたんだ。電気もつけずに。」
帰ってきてからずっと座り込んで考え込んでいた魔王は、慌てて立ち上がると勇者に言い訳した。
「な、なんでもない。ちょっと仮眠でもとろうかとのう。それより、お腹がすいたじゃろ。すぐに晩御飯つくるからのう。」
「ああ、それなら休んでいてよかったのに。」
「気にするな。もう、大丈夫じゃから。」
ごまかすように魔王は台所へ行き、冷蔵庫に入れ忘れた鮭を火にかけ、食事の支度をする。
そしてできた晩御飯を食卓にならべ、二人で向かい合って食事をとる。
「………。」
「………。」
いつもはそれなりに会話もはずむ食卓なのだが、今日は何故か二人とも無言だ。魔王の方は、食欲も無く、茶碗のご飯は半分も減っていない。
(話さなければ…。話さなければいかん…。)
魔王はそう思うが、なかなか口を開くことができない。
「の、」
「な、なあ。」
魔王がなんとか口を開こうと、それでもさすがに子供ができたことはいきなりは言えず、なんとか適当な話題を出そうとしたとき、勇者が口を開いた。
魔王の体が、びくりと震える。
「な、なんじゃ?」
「あ…、いや。お前も話があるんだろ?そっちからどうぞ。」
「いやいやいや、わしより先にお主が。」
二人は慌ててお互いに譲り合う。そしてどっちつかずになり、そのままお互い沈黙してしまう。
食卓に再び流れ出す気まずい沈黙の気配。
魔王は俯きながら考える。
(怖気づいてる場合ではない。ちゃんと言わんといかん。わしは魔王なのじゃ、これしきのことで怖気づいてどうする。それにこれはわしだけではない、二人の、いや三人の問題なのじゃ。きちんと告げなければならん…。)
頭は、理性はそう言い聞かせるのだが、感情はなかなか動いてくれない。それでも震える唇で、言葉を紡ごうとしたとき。
「結婚してくれないか!」
勇者が唐突にそう言った。
「へっ…。」
勇者の持っていた袋から、青いケースが取り出される。勇者の手で開けられたそれには、綺麗な指輪が入っていた。
「その俺たち、いろいろやってしまったわけだし。こうやって一緒に暮らしてるわけだし。男としての責任というかだな…。丁度給料三か月分で、婚約指輪も買っちまったし…。」
勇者はそう言いかけて、頭をがしがし掻いてから、首を振った。
「そうじゃない。ごめん、さっきのは自分への言い訳だ。」
勇者は一息つくと、真剣な顔で魔王の手を取り言った。
「俺はお前が好きだ。だから俺と結婚してほしい!」
その言葉に魔王の思考は真っ白になる。そして。
「は…、はい…。」
勇者いきなりのプロポーズに、魔王はちょっと茫然としながらも、顔を紅潮させて頷いた。指にはちょうどぴったりの婚約指輪がはめられる。
「それで、お前のはなしってのは?」
プロポーズを受け入れられ、ちょっと安心した顔になった勇者がそう言うと、魔王は顔を赤くして、お腹を大切そうに押さえながら答えた。
「あの、それは、えっと、のう。できちゃった…のじゃ。」
***
魔王討伐の旅に出かけた勇者を待つ王城。勇者と旅を共にした仲間たちも、魔王との最終決戦へと旅だった勇者をそこで待っていた。
魔王と勇者の最後の戦いがはじまってから、もう六か月の時が経っていた。それでも仲間たちは、勇者の生還を信じ城で待つ。
そんな彼らの元に、一通の手紙が届いた。
『わたしたち結婚しました。』
そう書いてある手紙に添付された写真には、微笑む勇者とお腹を大きくした魔王の姿。
「あいつらなにやってんだ!」
プロポーズを乗り越えた二人の笑顔は、この上なく幸せそうだった。
プロポーズ、それは恋人同士の最終決戦(キリッ