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リミット 作者:ふう

7章

131/168

対リズムリミット真っ向勝負

一万を超える観客が見守る中、両チームキャプテンの神山(かみやま)幸崎(こうさき)が握手をした。

西島(せいとう)メンバーは一塁ベンチへ下がり、川石(かわいし)ナインは守備についた。

エースの幸崎が投球練習をする中、一番の(かなめ)がバッターボックスへ向かった。


「プレイ!」


球審の右手が上がり、ピッチャーの幸崎(こうさき)が投げた初球のど真ん中を、(かなめ)は強振した。


カキン!パン…「アウト。」


ピッチャー返しを捕った幸崎(こうさき)はニヤつき、バッターの(かなめ)も微笑んでいた。

ここまでの試合、幸崎(こうさき)は以前の姿であるかわすピッチングで勝ち上がってきた。

しかし、今日の相手は奇跡的に勝ちを重ねてきた西島(せいとう)高校。
そして、自分の本来の姿を思い出すきっかけを与えた相手。

幸崎(こうさき)は、この大会初めて自分の究極のピッチングを披露した。


(これで俺のリズムリミットは条件を満たした…九回27球全てピッチャー返しで完全試合だ!)


幸崎(こうさき)は、西島(せいとう)ベンチを見た。
すると、メンバーたちは微笑んでいた。


「フフッ…(まさかな…。)


そして、二番の(かしら)をピッチャー返しに打ち取った瞬間、幸崎(こうさき)は悟った。


(面白い…わかっていて真っ向勝負を挑んできたか!)


幸崎(こうさき)がマウンドのロジンを拾うと、バッターボックスに三番の白城(しらき)が入った。

キッと幸崎(こうさき)を睨んで構えた白城(しらき)に、幸崎(こうさき)はロジンをマウンドに叩きつけた。

振りかぶった幸崎(こうさき)は、やはりど真ん中のストレートで応えた。


カキーン!パーン

『オォォ…。』


「アウト!チェンジ。」



白城(しらき)幸崎(こうさき)は、今の互いを認め微笑み合った。


(白城(しらき)、1年前の続きを…)

(ここから始めましょう。幸崎(こうさき)さん…。)


二人はしばらく目を合わせ、微笑みながらゆっくり歩き互いのベンチへと下がった。


「よっしゃー!いくぜ、遠矢(とうや)!」

「おう!」


元気にグラウンドへ飛び出し、投球練習を始めたピッチャーの一奥(いちおく)とキャッチャーの遠矢(とうや)を、三塁ベンチへ座った幸崎(こうさき)中西(なかにし)が見ていた。


「どうだ?幸崎(こうさき)。」

「そうだな…愛報(あいほう)戦の九回。あれが彼ら本来の姿と思って間違いない。限界(リミット)リミッターの遠矢(とうや)が、一奥(いちおく)の力をどこまで引き出せるのか…。」


幸崎(こうさき)は腕を組み、集中力を上げるように目を閉じた。そして「新田(にった)。」と言いながら右を見た。


「なんすか?幸崎(こうさき)さん。」

「やはり今日の試合、お前がキーマンになりそうだ。」


すると、二年生である新田(にった)は苦笑いをした。


「止めてください、幸崎(こうさき)さん。MAX162キロのピッチャーなんて、やっぱり俺には打てませんよ…。しかも、こんな大事な試合で三番って…幸崎(こうさき)さんの前って事は、打のリズムリミットの条件だし…」


肩を落とす新田(にった)の尻を、幸崎(こうさき)は微笑みながら平手打ちした。


「いでっ!」

「自信を持て!この試合に限り、俺の前を打つのはお前しかいないんだよ。」


真っ直ぐマウンドを見つめた幸崎(こうさき)を、新田(にった)はボーッと見ていた。


「この試合に…限り?」


すると新田(にった)の肩に、笑顔の中西(なかにし)が右腕を回した。


「いつも通り打てばいい。気にするな。」

「はぁ…。」


新田(にった)はそのまま幸崎(こうさき)の隣に座り、中西(なかにし)もベンチへ座った。

そんな二人を見ていた幸崎(こうさき)は、プレイのかかったマウンドを再び見た。


(さあ!野球を楽しもうじゃないか!!)


一方、幸崎(こうさき)が初回を三球で終えた事を、キャッチャーの遠矢(とうや)は考えていた。


(名京(めいきょう)戦は、連戦となる明日。斜坂(ななさか)温存に対抗するには、これしかない…。)


サインに頷いた一奥(いちおく)が投げたのは、130中盤のツーシームの真っ直ぐだった。


カキン!パン…

「ほぉ…川石グラウンドで打たれたのを思い出すぜ!」


ピッチャー返しを捕った一奥(いちおく)を見たキャッチャーの遠矢(とうや)も、(よし!)と頷いた。


「チッ。」


「むっ!」と目を細め、悔しがるバッターを見た三塁ベンチの幸崎(こうさき)だったが、微笑むと同時に目を閉じた。


(そうだった…あの時の一奥(いちおく)は、スニーカーだったな…。)


そんな幸崎(こうさき)を、キャッチャーの遠矢(とうや)はマスク越しに横目で見ていた。


(あの時、川石(かわいし)打線は見せてもらいましたからね。僕も限界(リミット)リミッターとして、初回から行かせてもらいますよ!)


続く二番の初球ピッチャー返しを見た幸崎(こうさき)は、キャッチャー遠矢(とうや)の狙いに確信を持った。


(これは限界(リミット)リミッターならではの芸当。明日を視野に入れ、さらにギリギリの限界で抑える気か。)


そして、今日三番に入った新田(にった)が右打席に立った。


「お願いします。」


ヘルメットのつばを掴み、軽く頭を下げてバットを構えた新田(にった)の限界を、遠矢(とうや)は計っていた。


(ここはリズムリミットの要になる打順。なんだけど…。)


ニコッと笑った遠矢(とうや)がサインを出すと、それをみたマウンドの一奥(いちおく)は不思議な顔をした。


(ど真ん中にツーシームストレート…?今日は…。)

ビシュ

(遊んでいいみたいだな!)


笑顔で投げた一奥のボールがど真ん中を襲う。
縫い目の浮力を失い、わずかに沈むツーシームのストレートに、バッターの新田(にった)は空振りした。


パーン 「ストライク。」

「オッケー!一奥(いちおく)。」シュッ

パシッ「ああ!」


一奥(いちおく)の笑顔を見た一塁ベンチの紀香(のりか)監督は、「ん?」と首をかしげた。


(今の初球。リズムリミットとの勝負の為、遠矢(とうや)は打たせにいったはず。)


紀香(のりか)監督は、電光掲示板を見た。


(138キロ…やっぱりそうだわ。限界(リミット)リミッターの遠矢(とうや)が限界を見極められなかったというの?打ち損ないならわかる。でも、バッターは空振りしたわ…。)


紀香(のりか)監督が見つめる中、打のリズムリミットの条件満たそうとしているキャッチャーの遠矢(とうや)は、サインを出しながら遊んでいた。


(今のはこのバッターの限界だったはずなんだけど…まぁ、これまで一奥(いちおく)には我慢させてきたからね。)


キャッチャーの仕事の中に、ピッチャーに気持ちよく投げさせるという事がある。


(球数もそうだけど、一奥(いちおく)が一番待ち望んでいる明日の為に、今日は一奥(いちおく)の慣れたスタイルでいこう。)


サインを見た一奥(いちおく)は、「へへっ。」と笑って楽しそうに投げた。


「打ってみろー!」

(チェンジアップ!)「だぁー!」カキン!パーン…


「アウト、チェンジ。」

「いっひっひ。バッター!やるじゃねーか!」

「くっ…。」


ピッチャー返しの球をヒョイっとマウンドに落とし、一塁ベンチへ笑顔で戻る一奥(いちおく)と、悔しがるバッター新田(にった)の姿は対照的だった。

新田(にった)が三塁ベンチへ下がる途中、その目にネクストバッターズサークルで立ち上がったまま西島(せいとう)ベンチを見る、幸崎(こうさき)の姿が映った。


幸崎(こうさき)さん、すみません……ん?」


目を閉じ、頭を軽く下げた新田(にった)幸崎(こうさき)の顔を少し見上げると、幸崎(こうさき)は黙ったまま一塁ベンチを見続けていた。


(打のリズムリミットまで真っ向勝負か…。)「フフッ。」


幸崎(こうさき)は三塁ベンチへ振り返りながら、新田(にった)の左肩に右手を置き、歩きだした。


幸崎(こうさき)さん?」

「気にするな。まだ初回を終えたばかりだ。それに…。」


三塁ベンチ前で立ち止まり、再び振り返って一塁ベンチを見た幸崎(こうさき)につられ、新田(にった)も一塁ベンチを見た。

一塁ベンチと幸崎(こうさき)を(なんだろう…。)と、交互にチラチラ見ていた新田(にった)の目には、鋭い視線を真っ直ぐ一塁ベンチへ送る幸崎(こうさき)の姿が映っていた。


新田(にった)。」

「はっ、はいっ!」


驚いた新田(にった)を見た幸崎(こうさき)は「フフッ。」と笑った。


西島(やつら)のやろうとしている事は、俺も同じだ。果たしてどちらのリミットが上なのか…楽しみだな。」

「はい!そうっすね。」


幸崎(こうさき)新田(にった)がバットとヘルメットを片付け、新田(にった)がショートの位置に走る中、キャッチャーの中西(なかにし)が「ほらよ!」と、幸崎(こうさき)に帽子を被せてグローブを渡した。

「サンキュー。」と言った幸崎(こうさき)と共に、中西(なかにし)もショートにいる新田(にった)を見つめていた。


「まだ、恋人は目覚めないようだな。」

「あぁ。」


二人はグラウンドへ歩きだした。


幸崎(おまえ)の読みだと、実力差はないんだろ?」

「今の所はな。」


幸崎(こうさき)は一塁へ送球練習する新田(にった)を見た。


「なぁ、幸崎(こうさき)。本当に新田(あいつ)が目覚めたら、どうなるんだ?」


幸崎(こうさき)はチラッと中西(なかにし)を見た後、立ち止まってバックスタンドを見渡した。


「観客は…リプレイ映像を見ている気分になるさ。」
流行りの異世界チーレム小説人気の中、PV10000達成できました。読者の皆さん、ありがとうございます(^-^)v
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