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33話 盗賊討伐

「あー、終わった終わった」


 伸びをして体をほぐし、軽く体を払う奏。しかしローブは血が付着しそこに土で汚れていたためはたくのをやめる。すんすんと鼻を鳴らして顔をしかめると


「うぅ、血生臭い」


 周囲には死体の山。骨が本来の可動域を逸脱した者、四肢がバラバラになった者、肉が抉れて骨まで見えている者、骨が陥没している者など見るに堪えない惨状となっている。この状況を作った少年はそれに対し何も感じないようで、否、血生臭さによる不快感だけ感じるようで他は気にしていない。


 しかし周囲の冒険者や商人のグランドールやルディアは固まっていた。自分たちが手も足も出なかった相手に攻撃を受けることもなく勝ったのだから。しかも時折余裕を見せつけて。中には奏の作った惨状に震え、失禁している者などもいるがほとんどはただ驚いていただけだった。


「さてと、盗賊とかって殺したら何かしないといけないことってある?」


 振り返り尋ねる。振り返った瞬間、何人かは再び震えたり悲鳴を上げるものもいたが気にしない。しばらく何を言っているのかわからないといったように呆けていたがすぐに何を言っているのか理解し、ハバルトが答える。


「え、えぇ、盗賊を殺したのであれば彼らの持っている財産を討伐者がもらえます。それと彼らがステータスカードや冒険者カードなどをを持っているのであればそれを冒険者ギルドに見せるといいですよ。報奨金がもらえます。もしも指名手配されている場合などはその額も上がります。今回私たちは恥ずかしながら全く役に立ちませんでした。ですので全て奏さんとミユさんのものです」


 声は震えていたがしっかり答えてくれて、奏も満足そうにうなずいた。


「ありがとう。……それにしても、財産って言っても目ぼしいものはないなぁ。お金なんて持っているはずもないし。カードだけもらうかな」


 そう言って軽く息を吸う。口を開くと軽く叫ぶ。急に叫び声をあげられ周囲はビクッと反応する。奏はそれに目もくれずに目を閉じる。


「よかった。ほとんどみんな持ってた」


 その場にいる者たち全員でカードを回収すると


「ここに居るのが全員じゃないだろうし、アジトを探したいからここで別れてもいい? 馬車に乗せてくれたから最後まで一緒にいたほうがいいなら一緒にいるけど」

「いや、ここまで来たならすぐだから大丈夫だろう。冒険者たちの様子が心配だが私も拙いながらも護身術を一応嗜んでいる。いざとなったら私も戦うから君はここで別れても大丈夫だ。それと、我々を救ってくれてありがとう。この恩は忘れない。もし街で何か入り用なら是非来てくれ。可能な限り融通しよう」


 礼を言い、グランドールは奏たちが離れることを許可する。


「ん、ありがとう。こっちこそ馬車に乗せてくれて助かりました。お礼と言ってはなんだけど少しくらいなら回復魔法で冒険者の傷を癒しますよ」


 そして奏は応急処置はしたが戦闘に参加できない冒険者を中心に戦闘に参加できるぐらいまで回復魔法を使う。

 奏が使える回復魔法は水属性のみであるため、時間がかかるが『始まりの終わり』で鍛えられ、普通の魔法使いが使うものより効果は段違いであった。


 その後冒険者たちからお礼を言われて別れを告げた。


「勝手に決めちゃったけど、これでよかったかな?」

「はい、私は別に構いません。それに……こう言ってはなんですけど、何人かはカナデさんに怯えてしまっていたのでむしろこれでよかったと思いますよ」


 荷馬車が見えなくなるのを確認すると口を開く。奏の提案に肯定するミユの表情はなんとも言えないというような感じだった。


「じゃあ行こうか。それにしても、皆ステータスカードは持ってるんだね。意外だったよ」

「……? そうですけど……」


 奏の素朴な疑問にミユが何を当たり前のことをと言った感じで返す。


「何か意外なことがありましたか? もしかして私が思ったことと違った意味で聞いてました?」


 不思議そうな、頭に幾つもクエスチョンマークを浮かべた表情で首をかしげるミユ。


 奏はただ疑問に思ったことを言っただけだったがそんな変だろうかとこちらも首を傾げる。


「ステータスカードは貴重なものなのかと思ってたからさ。結構みんなが持ってるなんて思はなかったよ」

「えっと、そりゃステータスカードは自身の証明にもなりますし、自分の強さの程度が知れますからね。絶対ではないですけどあるだけで違いますからね。お金は掛かりますけどないよりはマシですよ。まぁ無いなら無いでギルドとかにある映晶石を使えば見れますから困らないとは思いますが」

「映晶石?」


 突然の新しい知識につい、繰り返してしまう。


「はい、ステータスカードと同じ効果を持つ石ですよ。それは血を垂らすのではなく魔力を通すみたいですけど。……こんな常識だと思っていたものまで知らないなんて今まで聞いてこなかったですけどカナデさんってどんな環境で育ってきたんですか?」


 ミユの疑問に奏は顎に手をつき、少し思案した後、


「……ずっと監禁みたいなことされててね。常識とかも全然無いんだ。でも、ステータスカードは貴重っていうのは僕の聞き取り方の違いか」

「……常識が無い割に礼儀などはちゃんとしてたりしますよね。たまによくわからないこともしていたりしますが」


 奏が答える時に思案していた間に疑問を感じたが、あまり言いたくないのなら無理には、と思いミユは別の疑問をぶつける。


「そりゃ、監禁なんかしてあんな場所に放り込む連中だしね。それなりにしてなきゃ何されるかわからなかったし。変な挙動は……まぁ、習慣だから気にしないで」


 奏の返答にミユはなるほど、そんなものか、と納得した。


 奏、ミユ、アリアの2人と一体は森の中を進む。ちなみにアリアはというと基本的には奏の肩で体をスリスリと擦り付けたり、時折奏やミユによって教えてもらった食べられる薬草や木の実を見つけてきては奏に持って行き、褒めて褒めてと主張してくる。奏はそれを微笑ましく見ながら頭を撫でる。するともっとと言うように手のひらに頭を擦り付ける。


 そんな気持ちを和やかにさせる一幕もあったものの森に変化は見られない。あまり離れた場所を拠点にすることは滅多になく、また、この辺りで盗賊が拠点にできるのは奏たちがいるこの森くらいとグランドールに聞いた。

 だからここにいるのは確かだと言っていた。


「なかなか見つからないね。意外と森も広いし」

「そうですね。でも奏さんは『音響定位』で探せばすぐじゃないですか?」

「そうなんだけどね。いつもあれに頼るっていうのもあるかはわからないけどいざって言う時がね。少しでもスキル無しでの探索に慣れないと。それに他の探知系スキルがもしかしたら発現するかもしれないし。スキルも多いに越したことはないでしょ?」


 そして何かないものかと辺りを見渡すが周囲は草木しかない。


 奏たちが森へ入って2時間ほどが経つというぐらいになってきた。

 その時ふとミユが口を開く。


「妙ですね。急に魔物の気配が消えました。動物も、肉食系や雑食系を見なくなって代わりに草食動物がだいぶ増えましたね」


 ミユの言う通り周辺の生態系が一気に変わっていた。


「近いってことかな? しかも、盗賊の中には結構強いのがいるみたいだね」

「そうですね、普通ここまで草食動物ばかりなら魔物などがここに押し寄せるはずです。それがないとなると、それを知った上で魔物を歯牙にかけない程の強さを持つ者がいる、ってことですね」


 ミユの言葉に奏は笑みを浮かべる。


「となるとたくさん稼いでそうだね。これで当分の生活には困らないね」


 異変に気付いて10分程たち、奏たちは足を止めた。


「これは手厚い歓迎だね。今も必死で回りこんでるし」

「数からしてやはり拠点はこの辺りなんでしょう」


 2人は呑気に話していると前方から屈強な体格の口元から下を布で覆った男が出てきた。その男の装備はバラバラで、また、所々でボロボロであったり、欠けていたりした。


「こんな所に何の用だ? まさか迷ったなんて言わないよな? おっと、先に言っておくが妙な真似はしないほうがいい。これは警告だ。何せお前らは既に30人に囲まれているからな」

「……随分と親切にしてくれるんですね?」

「まずは無駄な抵抗をさせないようにするのが目的だからな。俺たちは女だけでなく男も使えるなら生かす。強くても半端に抵抗しようとするなら心を砕いて従順にさせて使う。この中にもいるぜ、そんな奴が。力自慢なら押さえつけて終わるがな、好きな女とパーティ組んでた奴が俺らに負けてな。その後使えるから生かしていたが反抗してきた。まぁ目の前で調教した女とヤるところを見せたら折れて大人しくなる。お前らはどうかは知らんが勝てるとは思わねえほうがいい」


 そしてニヤリと笑う男。男にとってはどちらに転んでもいいという意思が見受けられた。


「なるほど、確かに無闇に殺すよりは戦力増強のほうが良いですね。でも私達女性にとっては屈辱なのでは?」


 ミユが口を挟むと男はミユの方へ顔を向け、


「いや、別に全員が性欲のはけ口ってわけじゃねえよ。強い奴はそんなことはあまりねえ。貴重な戦力だからな。精々が弱い奴と自ら望む奴、ぐらいか?」

「……ククク、アハハハハ‼︎良いね!良いよ!すごく良い‼︎」


 突然奏が笑い出したため周囲では気が狂ったか?と身構える。


「最初に抵抗させないようにして来るものは拒まず、去る者は残さず。それでいて使えない奴は殺す、か。理不尽にも程があるよ。潰しがいがある、気兼ねなく殺せるよ。ねぇ、それよりも質問があるんだけど。道を襲ってた君たちのお仲間、殺しちゃったんだけど」

「ああ、あいつらか。ま、こんなことやってるんだ。死ぬ覚悟くらいあるだろ。それにあいつらが弱かったってだけだ。俺たちは弱肉強食が基本だからな。気にしてねえさ」


 途中奏は小声で喋ったが、男はそれに気づくことなく奏の言葉に返事をする。男の言葉に奏はつまらなそうな表情をする。


「なーんだ。つまらないの。よくも仲間を! 、とかそういうのが見れると思ったのに」

「趣味が悪いですよ、カナデさん」

「盗賊の繋がりなんて強さや知恵一つでどうにでもなるからな。期待にそえなくてすまんな。それで、お前らは結局どうするんだ?」


 ニヤニヤと笑う男に奏とミユが目を合わせる。奏がどうぞと合図をするとミユが頷く。


「残念ながらお断りさせていただきます。道を踏み外すほど困ってはいませんし、未来があるとも思えませんし」


 男は一瞬ミユが何を言っているのか理解できずに惚けていたが、すぐに意味を咀嚼すると笑い出した。


「ハハハハハ‼︎ そうかそうか! こいつは驚いたが、それが答えか。冗談でしたって言うのももう受付ねえぞ。……ヤれ‼︎」


 真顔になって低い合図を出すと一斉に矢と魔法が飛んできた。魔法を使えるものが少ないのか矢の割合の方が多い。奏もアリアも動く気配が見えない。盗賊たちはそれだけで勝ちを確信した。そんな中ミユだけが動いた。


「〝大樹の結界(たいじゅのまもり)”」


 詠唱と共にミユが腕を地面へ向ける。そして地面からは奏たちを守るように木の根や幹が半円状に覆う。魔法や矢で傷つけることはできても突破することはなかった。盗賊たちはそれを見るも、再び魔法や矢で魔力切れを狙うグループと近接で削り取るグループに即座にわかれる。奏たちと話したリーダー格の盗賊は守りの他に何もしかけないことに奇妙に思いながらもそのまま指示を出す。


 盗賊たちが樹木の守りに近づいた時に変化が起こった。

 結界や足元から突然樹木が伸びてきて盗賊たちに襲い掛かった。あるものは絞殺。あるものは刺殺。さらに樹木は近づいた盗賊だけでなく魔法を放っていた盗賊にも襲い掛かった。しかしその死に姿は近づいたものとは違う点があった。ほとんどのものは防ぐ手立てもなくされるがままだ。樹木は魔法を使っていた盗賊の体に絡みつき体に突き刺すと、見る見るうちに盗賊の体がしわしわになり、まるでミイラのようになった。


 その様を見た盗賊はパニックを起こす。統率が取れなくなり逃げ出すものが出てくるかと思われたがここで大声が上がる。


「狼狽えるな!! 確かに今のは脅威だが見た感じ一定の距離に入った奴と魔法を使ったやつしか襲われてねえ! そこが弱点だ!! 矢と石をつかえ!」


 リーダー格の男の声に盗賊たちは冷静さを取り戻して自信を取り戻す。そして言われたとおりに矢と石で遠くから攻める。


「意外ですね。こんなに早くバレるとは思っていなかったですよ。あの方は分析能力が素晴らしいですね。もったいない」


 『大樹の結界』の中からミユが称賛する。事実盗賊の男が言ったように『大地の結界』とは対象を樹木で守り、一定の距離に入ったものを迎撃し、魔法に対しては魔力を感知して魔法を放ったものに自動で反撃、魔力を吸収するための、籠城のような戦い方をする魔法であり、矢や石といった魔力の感知できないものに対してはあまり効果はない。意識すれば自分で操作することも可能だが、【分割思考】をもってしても思考の容量がギリギリとなるため本当に危険な時しか使わない。敵の数をある程度減らすには使い勝手がいいためよく使っている。


「さすがに気付いてしまえば不用意に近づいてきませんか。……〝木人形(パペット)”」


 地面に魔法陣が描かれると光と共に木製の人形が出現する。その数30ほど。人形はぎこちない動きながらも体を立ち上がらせる。その顔には目と思われる穴があり、全体的に四角っぽい輪郭を持つ。ゆっくりと動き出すその様は統一感もあり、まるで軍隊のようである。だが所詮は木製。盗賊たちも最初は戸惑っていたが土属性により作られるゴーレムなどに比べて脆そうであることに気づき大したことはないと判断する。


 判断通り人形達はどんどん壊される。しかし人形も段々動きが滑らかになり、やられるばかりではない。手には木製の武器や盾を持ち相対する。

 中には口をギザギザに開け、口の中から何かを吐き出しているものまで出てくる。よく見るとそれは植物の種であり、高速で盗賊達の体を貫通する。遠距離からの攻撃ができると思っておらず回避の間に合わない盗賊達はもう数を10まで減らしておりそれに対して人形は14体であり数では既に逆転していた。

 そのころにはもはや人形の動きは人の動きと何ら遜色ないほどにまでなっている。


「ど、どうしますか? 奴ら思った以上にやりますよ」

「っ! 慌てるな‼︎ 何か弱点があるはずだ。あの人形だって動きが良くなっても脆いままだ。勝てねえこともねえ」


 そして全員が武器を構える。ここまで生き残った盗賊は運が良いだけでなく、実力でも人形からの攻撃を避けた者達であり、決して弱くない。数ではわずかに負けるが質では負けると思っていない。


 人形と盗賊達では盗賊達に軍配が上がってきた。


 盗賊達の中に僅かな希望が浮かぶ。彼らの中では人形からの攻撃を凌げばすぐさまアジトに戻り、報告して体制を整えるつもりでいた。そのため、引き際や距離感を考えて行動していた。


 しかし彼らは致命的なミスを犯していた。彼らの中では少なくとも今の状況はミユの生み出した人形のみを敵とみなしそれ以外を数として見ていなかったことだ。それは何も奏やアリアのことを指してのことだけではない。ミユも含めてのことである。


 それ故彼らは逃げる機会を逃してしまった。基本的に召喚者と被召喚者などの関係では前者が弱いということは少なくない。ここで戦闘になった際にミユの実力を見たはずの彼らだが、普段の癖、習慣、考え方のせいでついついそう考えてしまい警戒から外してしまった。

 盗賊たちが隙だらけに感じるのも無理はなかった。


 そしてそれを見逃すはずもなくミユは行動に移す。手に持つは数少ない持ち物のうちの一つである杖。それを盗賊のほうへとむける。


「〝風の刃(エア・スラッシュ)”」


 詠唱とともにいくつもの風の、不可視の刃が発生し、盗賊を襲う。砂埃が激しく舞い、肉の切れる音や血肉の飛び散る音、悲鳴が聞こえ、状況は視覚で確認しなくても明確であった。


 ようやく視界がクリアになると呻き声がかすかに聞こえ他は虫の息。


「どうやら2人ほど逃げたようですね」


 その声とともに視線を前方の方へ向けると血でできた道が2つあった。


「追いかけますよ」

「わかった。でも、意外だね。盗賊相手には全く容赦ないって」

「? どういうことですか? 盗賊相手に情けをかけるとこちらが痛い目見るから当然でしょう?」

「ああ、えっと、村では僕のやり方とかみて異常者を見るような感じだったからさ」

「っ! ……それはそうでしょう。流石に盗賊や犯罪者ではないのにあれはいくらなんでも。確かにギルドは奏さんに対して不正をしていましたし、村人の皆さんの態度に思うところはありますけど……」

「ま、別に気にしていないからいいけど。僕も僕自身狂っていると自覚しているし」


 そう言って歩を進める奏。口元に笑みを浮かべながらのそれは本当に気にしていないとわかるものであり、それを見てしばらく立ちつくしていたミユも気持ちを切り替えて奏の後ろを歩く。

2人が目指すは血でできた道の先、盗賊たちがいるであろう場所。


「ふふっ」

「どうしたんですか? 突然笑い出したりして」

「いや、最近臭いは全然ダメなのに血を見ると何だか体が熱くなって気分が高揚するんだよね。この辺りが一番狂ってるって実感できるところだなぁって」

「……そうですか」


 奏の言葉にミユは何と答えればいいかわからず顔をしかめて無難な言葉で流すことにした。


 どのくらい進んだのか測っていないため分からないが進んでいくと血の跡が1つ減ると同時に死体が一つあった。それは定かではないが血の固まり具合などを見て先ほどの逃げた盗賊の1人であるだろうと判断する。


「ここで一人脱落か〜。お疲れ様! いやーあと一人が無事拠点まで案内してくれるといいけどね」

「……どうやら着いたようですよ」


 奏が呑気にそして不謹慎なことを口走って少し、ミユは既に奏のことを自分の中で処理したようで流していると、血痕が木や葉で隠れた洞窟につながっているのを見つける。


「本当だ。てことはあの脱落者はゴール目前で安心して死んじゃったのか〜。惜しいなー」

「あまり不謹慎なことを言わないでくださいね。今はまだしも町などでは厄介ごとに巻き込まれますよ?」


 流石に我慢が出来なくなったようでミユが注意する。しかし奏ははーいと、元気に返して口角を上げているばかりで反省をしているのか分からない。ミユは一度は伝えたためもういいだろうと思い口を閉ざす。


 洞窟には蛍光石という蛍の光のような弱々しくも綺麗な光とヒカリゴケのおかげで完全ではないながらも視界を確保できていた。


 奏もミユもそしてアリアも暗く、狭い通路しかないことから用心して歩く。時折、広くなった場所には酒瓶や肉の残骸、骨などが散らばっていた。そこは見張りであったりの意味合いもあったのかもしれないが今では無人となっていた。

 そのまま血の跡を辿って歩き続ける。


 歩き続けてしばらく、だんだんと人の気配や物音が大きくなってきた。


「おい、本当にたった2人だけだったのか。こいつァ驚いたぜ。まァその勇気と履き違えた蛮勇と強さだけは認めてやる」

「途中で引き返していたのであればその強さに免じてまだ見逃してやったというのに」

「最近多くなっていたから間引くのにちょうど良かったんじゃないですか? ……まあ少し減りすぎた感じはしますけど」


 奏たちが足を踏み入れたのはこの洞窟の中で最も広く、天井も高く作られた広間だった。そこはヒカリゴケや蛍光石の数が今までよりも多いだけでなく、松明などの火で明るさが段違いであった。

 周りを見ると煙がこもらないように天井に穴があいていたり、他にも通路があるようだった。


 突然の明るさの変化に目を細めるも盗賊たちが仕掛ける気配はない。


 奏たちに話しかけたのは今まであった盗賊の中でも大柄でゴツい鎧や大剣を身に纏っている男と軽鎧に身を包んだ二本の短剣を腰にぶら下げた細身の女性、体が丸々と太ったローブを着た女性だった。


 彼らは一塊となって部屋の奥から話しかけていた。

 後ろには部下たちと思われる者たちが並んでいる。


「しかし、相変わらずボスもこういうのに興味ねェよな」

「まあ、ボスがいなくても私達だけで十分でしょう。それよりも邪魔にならないようにだけ気をつけないと。後が怖いですし」


 目の前の盗賊たちは小さな声で愚痴を言うがどうやらボスではないらしい。


「〝薔薇庭園(ローズガーデン)”」


 ミユがボソッと呟くと地面から植物の蔓が出てきて盗賊たちに襲いかかる。

 しかしその数はかつて使った時よりも、数が少ない。


「やはり洞窟だと森と比べると植物があまりない分厳しいですね。それにここは植生がヒカリゴケぐらいしかないのもありますし。せっかく不意打ちしてもこれでは微妙でしたね」


 ミユの言葉の通り不意打ちをしても倒せた数は3分の1程。しかも強さで言えば下から数えたほうが早い者ばかりであった。他には狙ったが避けられたりしていまひとつだった。


「いきなり不意打ちとは感心しませんね。それに地面からの攻撃とは。……この属性、貴方は『ユニーク』ですね」

「そんなことどうでもいい。不意打ちで死ぬなら弱かっただけの話だし。……次はこっちから行く」

「そうだなァ。オラッ! オメェら行くぞ!」


 そして大男と短剣使いの女を先頭に前衛職が前に出てくる。その間に後衛職が太った女を筆頭に詠唱する。


 中には付与術師もいたようで前衛の動きが速くなる。


 その時奏が前に出てミユの盾になるように位置取る。両手には氷で作った短剣を逆手に持っている。そして足を軽く曲げてすぐに前方へ走る。盗賊たちは予想以上の速さに面食らったが直ぐに大男の指示で持ち直す。そのまま大男が奏と接敵するという時--


 大男がバランスを崩した。それが致命的と言え、奏は首をはねる。首をはねられる直前、大男の体は僅かに上に跳ねた。 それは不自然なことだが戦闘中であり誰も気にしない。というよりも自分たちのリーダーをあっさりやられて気にかけてられなかった。


 奏はそのまま走るが右足が地面に着く際に左手を右に強く引いた。直後奏の体が浮いた。

 向かってくる奏に対して細身の女は大男があっさりやられたことで動揺しつつも間合いに入ってくれば殺す、それだけの気概と経験、速さを持っていると自負して近づいていた。

 しかし上に逃げられるとは予想していなかった。


「だが、上に逃げたということは動けない。魔法で撃ち落とせ。何人かは残ってもしもに備えて他は私に続いてあのエルフの相手をするぞ」


 そして奏のことは頭の片隅に追いやり、ミユに焦点を合わせる。ミユはその場から動かずじっと見据えるだけ。途中魔法を発動しているが、避けて接近する。部下の中には避けきれずに魔法に当たるものもいたが短剣使いは気にすることなく進む。

 やがて接近するとミユは魔法の使用をやめて杖で応戦する。しかし如何せん、魔法の使用には強いが近接戦闘は嗜む程度のエルフ、しかもレベル自体そこまで高くないミユは速さに対応できずに一方的に傷が増えていく。さらに短剣使いの部下たちまでも混ざり状況の悪化が加速する。いくら『生長』があるとはいえ回復が追い付けなければ意味がない。

 手足の腱を切られたミユを見下ろして


「魔法はさすがエルフといえるが近接に持ち込めばたいしたことないな。あのローブの者が離れたから近接もこなせるかと思っていたが……こんなものか。傷が治るのは厄介だが動けなければ意味がない。私はあの男のほうへ行く。ドルーがやられたんだ。油断できない」


 そう残して奏のほうへ駆ける短剣使い。

 しかしその足はすぐに止めることとなった。理由は明白。後方で突然の光と雷の走る音がしたからだ。


 短剣使いは光を目に入れていないため状況はすぐに理解できた。ミユを捕らえていた部下たちとその周辺が黒焦げになっていた。しかしミユは見るからに疲弊していて魔法を使ったようには見えない。


 では誰が?


 その疑問はキチキチという音と共に氷解する。うつ伏せに横たわったミユの上には黒色に赤い目をした蜘蛛がいた。実際には見ていないが何となくこの蜘蛛の仕業だろうと悟った。そしてすぐさま戦闘態勢を取る。部下たちは光に目をやられていたようで回復したのはわずかだった。


「アリ、ア、さん? ありが、とう、ございま、す」


 ミユは体の上に乗る感触とキチキチとなる音からアリアが助けてくれたのだろうと察した。


「どうして蜘蛛が……? 従魔か? まあいい。さっさと片づけるだけだ」


 短剣使いはけんせいとしてナイフを投げてそのまま突っ込む。


「『突貫(ラッシュ)』」


 短剣使いがナイフを片手に突っ込む。その速度は先ほどとは異なり、ミユ相手に手加減をしていたのが見てとれた。時間がないため早く蹴りを着けようとしたがその思いとは裏腹に短剣使いの攻撃はけんせいのためにはなったナイフを含めてアリアに届く前に止められた。ナイフには横から蜘蛛の糸が巻き付き、絡みつき、前にも後ろにも動かせなかった。


「ひゃんっ!」


 手を放して懐のナイフに手を伸ばそうとしたとき体に衝撃が走った。

 アリアは短剣使いを含めた周囲の盗賊に細く普通では気付かない糸を着けて電撃を流し、あっさり制圧した。

『みんなはチート貰ったのに、貰えなかった俺もチートでした』も更新したのでよければどうぞ

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