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異世界でアイテムコレクター 作者:時野洋輔

Episode03 海上都市

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亀の甲羅の中にポーションを

~前回のあらすじ~
シーダイルが南の島へと向かっている。
「クルトくん、まだここにいるのかい?」

 そう問いかけたのは、近くの診療所に勤めているお医者さんの奥さんだった。
 もう70歳近いのに、生涯現役を貫き、看護師として働いている。

「はい……もう少し……ここに居させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 僕はそう言うと、お婆さんは「いいよいいよ。なんたってクルトくんはこの島の恩人だからね」と言って、部屋から出て行った。
 恩人? 僕が恩人?

『ありがとう』

 多くの人から言われた言葉が僕の胸を締め付けた。
 父を殺し、妹の命綱を絶ってしまった。
 そのため、奴隷となり、誰よりも苦しみ生きていく決意をした僕が誰かを救い、誰かに感謝される。
 皮肉な結果に、僕は涙を流し、嗚咽を漏らした。
 誰もいなくなった救護室。
 ここで寝ていた人達は、僕の作った解呪ポーションと、僕を購入した御主人様が用意した通常のポーションにより、完治に至った。
 死にそうになっていた人も、褥瘡の治療まで終え、今では畑作業に勤しんでいるという。

 ……僕の罪は決して消えない。父を殺し、妹を死へと誘う結果をもたらした僕を、僕は決して許すことはできない。
 だから、喜んではいけない。
 ありがとうと言われても微笑んではいけない。うれしいと思ってはいけない。
 なのに……なんで胸に喜びがあふれてくるんだ。

(消えろっ! 消えろっ! 消えろっ!)

 僕は自分の胸を大きく叩いた。痛みで嗚咽を漏らす。
 僕は幸せになってはいけない人間なんだ。
 そうだ、仕事を……仕事をしないと。

 ご主人様から貰った薬の材料はまだまだたくさんある。
 コメットさんが育てた薬草も、蒸留水の残りもまだまだある。
 だから、ポーションを作ろう。

 僕は立ち上がると、家へと戻っていった。
 途中で畑を耕す男の人が僕に向かって手を振って、「クルト様、ありがとうよぉ」と言った。
 また胸が苦しい。

 僕は……僕は……一体何をしたいんだ。

 海の家と御主人様達が呼ぶホームに戻ったとき、そこにルシル様と、確か、あの時メアリさんと一緒にいた人がいた。
 マユさんだったっけ。

「……本当に行くの?」

 ルシル様がそう問いかけた。

「いいのよ。魔石を貰ったから転移くらいは……でも……ううん、そうね」

 ルシル様が一人で話しているように見えるが。確か、マユさんは話すことができないかわりに、指輪を使って思念の交換ができるらしい。
 マユさんは歩いていくと、覚悟を決めた様子で海の中に飛び込んだ。

 え?

 海の中に入ったマユさんの足が、魚の下半身へと変わっていた。
 伝承で聞いたことがある。
 人魚……マユさんがそうだったんだ。

「マユさん……人魚だったんですね」
「そうよ……人魚なのに、人間を救うために海に還ったの」
「え?」

 ルシルは語った。
 もうすぐ、この島にシーダイルの群れが現れる。
 北の海岸にはタラさんとコメットさんが向かったが、それでも上陸すれば犠牲者が出るらしい。
 だから、マユさんは、魚の魔物の友達がいっぱいいるので、魚の魔物と一緒にシーダイルと戦うんだという。

「え? それって……」
「それが彼女の決めた覚悟なの」
「そんなの間違ってます! 死んだら……死んだら何も残らないじゃないですか!」
「死んでも残るものはあるわよ……私のお父様が死んでも、私が残ったように……彼女もきっとこの島に残したい何かがあるのよ」

 ルシルが遠い目で言う。
 でも、ダメだ。やっぱり、人が死ぬっていうのはダメだ。
 僕はマユさんに死んで欲しくない。彼女が死んだら、僕はきっと彼女の犠牲の上で生きることができない。
 何か、何か、何か……

「そもそも、なんでシーダイルはこの島に集まっているんですか!」
「北の海で一角鯨が暴れていたの。山のような巨大な鯨。その鯨から逃げてきたのよ。その一角鯨もコーマ達が倒して、巨大な肉の塊と石に姿が変わったわ」
「……魔物のドロップ……ルシル様、アイランドタートルも魔物なんですよね」
「ええ。そうよ。だから北の島には魔物が来ないの」
「もしかして」

 荒唐無稽と笑われるかもしれない。でも、僕はその可能性に賭けたい。
 その可能性があったとしても僕の腕で……

 いや、やるしかないんだ。
 僕は作業場から蒸留水の入った瓶と薬草の粉を取り、薬草の粉を瓶の中に入れていく。

「アルケミー!」

 そう叫ぶ。徐々に蒸留水がポーションへと変わっていく。
 その間に……どこにこれを使えばいいか考えないと。

「……ルシル様、あの穴はなんですか?」
「コメットちゃんが空けた穴よ。もともと岩が刺さってたんだけど、雷の杖の実験をしたとき、岩が砕け散ったの」

 ……もしかして!

 僕は瓶を握り、力を込めながらその穴へと走って行った。
 穴を除くと、中は暗くてよく見えない。
 断面が土、亀の甲羅となっている。そして、その奥は……きっと。

 これに賭けるしかない。

 その時、ポーションが完成した。
 僕はポーションを穴の中へと注ぎ込む。

 ……僕はこれに賭けるしかない。
 アイランドタートルはまだ死んでいない。
 魔物は死んだら光となって消え、ドロップアイテムを残す。
 じゃあ、アイランドタートルはどうなのか?
 もしかしたらアイランドタートルは死んでいないんじゃないのか?
 仮死状態。
 そんな可能性を考える。
 いや、荒唐無稽だと思う。そもそもアイランドタートルが死んだのは何百年も昔だと聞いた。
 何百年も仮死状態なんて……食事もせずに……そんなことが。

「でも……それでも……」

 亀の甲羅がドロップアイテムだというのなら、亀の甲羅の中は空洞のはずだ。
 だが、甲羅の奥に何かがある。暗くてよく見えないが、空洞ということはない。
 きっと――きっと――

(ドクンっ)

 鼓動を感じた。
 わずかな鼓動。
 だが、それは――

「クルト! どいて!」

 ルシル様もその鼓動に気付いたようで、懐から一本の薬瓶を取り出し、一滴垂らした。
 すると――甲羅がみるみるうちに塞がっていき、

 遠くから、獣の鳴き声が聞こえた。


   ※※※

 ボートの上でもその鳴き声は聞こえた。
 それがアイランドタートルのものだとすぐにわかった。

「コーマさん! あれ!」
「ああ、島の守り神の復活だ」

 索敵スキルでもアイランドタートルが復活したことがわかった。
 そりゃ、鑑定スキルでもドロップアイテムとしてアイランドタートルの甲羅が表示されなかったわけだ。まだ死んでいなかったんだから。
 そして、前方ではアイランドタートルの首が海面から現れ、雄叫びをあげた。
 同時に、南の島へ向かっていたシーダイルがユーターンして海の中に潜って行った。
 通信イヤリングが揺れる。
 ルシルからだ。
 そして、俺は何があったのか、彼女から聞かされた。

「そうか……クルトのやつか」


 思わぬ救世主の出現により、ようやく蒼の迷宮35階層は平和に……

(コーマ様! 大変です!)

 その思念が海の中から届けられた。
 海面からマユが顔を出した。
 大変って、シーダイルのことを言っているのか?
 と思ったが、どうやら違うようだ。

(アイランドタートルの奥さんが、夫が生き返ったことを喜び、こっちに向かってきています)

 アイランドタートル二匹が近付くのか……なら、今後定期船とかも距離が短くて楽になるな。

(一緒になろうと……その……アイランドタートルの)

 マユはとても言いにくそうに……本当に言いにくそうに告げた。

(アイランドタートルの交尾はとても激しいので、このままだと南の島にいる人全員が海に落とされます!)

 え……えぇぇぇぇぇぇぇっ!

 その後、3時間かけて二匹のアイランドタートルをマユが説得。
 なんとか最悪の事態だけは避けられ、蒼の迷宮35階層に平和が訪れた。
アンケートの締切りは25日の23:59までです。
集計ののち、活動報告にて結果を発表します。

次回の更新は26日の12時予定です。
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