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異世界でアイテムコレクター 作者:時野洋輔

Episode02 呪いの剣

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魂の想いは魔を滅する

~前回のあらすじ~
コメットちゃんが……
 その日、教会でしめやかにコメットの葬儀が執り行われた。
 コメットが育った孤児院の子供たちやフリーマーケットの従業員の皆、生前彼女と親しかった人が、一本一本、黄色い花を棺へと入れていく。
 私の番になったとき、私は彼女の顔を見ました。

 殺されたというのに、どうして彼女はこんなに穏やかな笑顔でいられるんだろう。

 奴隷は死ぬまで奴隷。その話を証明するかのように、彼女の首からは隷属の首輪が外れている。
 その代わりに、彼女が死ぬ前に付けていた緑色のスカーフが巻かれていた。
 殺された18人のうち、14人の人は顔も判別できないほどの殺され方かったという。
 コメットの場合、腹を刺された後、ギルド職員とユーリ様がかけつけたため、ゴーリキが逃げ去って行ったそうだ。
 彼の走る速度はもう人のそれを超えるまでに至っている、そう伝え聞いている。
 それが幸運だと言う者もいるかもしれない。だが、彼らがあと1分早くかけつけていたら……と思うと、やるせない気持ちになる。

 私は……なんで勇者になったんだろうか。
 コメットのような人を守るために勇者になったんじゃないのか。
 昨日、私が彼の凶行を止めていたら、彼女達のような被害者は出ることがなかったはずなのに。

 コメットを殺した後の彼の動きはつかめていない。もしも居場所を掴めたらすぐに連絡が入ることになっているが、その連絡もない。
 そして、連絡がつかない人はもう一人。

 コーマさん。
 彼とも昨日の夜から連絡が付きません。
 ゴーリキに刺されたとき、コーマさんが庇ってくれたのを私は見ていました。
 あの時のコーマさんの強さは異常でした。何か副作用のある薬でも飲んだのかと思うほど、コーマさんの顔色が悪くなっていました。

 私は、勇者になれば誰かを守れると思っていました。
 お父さんのように、立派な勇者になることが私の目的でした。

 でも……それは違っていました。
 勇者になったから誰かを守れるのではない。誰かを守るのには力がいります。
 それを思い知らされました。

 棺の周りで泣いている子供たちを見て、むねが締め付けられる思いになります。

 私はここにいるべきではない。
 立ち去ろうとする私の腕を、小さな手が掴んできました。

「お姉ちゃん、勇者クリスティーナだろ?」
「……はい、そうです」

 私は伏し目がちにそう言うと、男の子が近くにいた女の子に目で合図を送りました。
 そして、女の子は木箱にいっぱいの玩具を持ってきました。
 兵隊のおもちゃ、人形、カード、ぬいぐるみ、どれも綺麗で新しい玩具ばかりです。あと、別の子供が、小さなスライムの形の貯金箱を持ってきました。

「勇者さん! 昨日貰った玩具、全部返します! 僕たちの貯金も全部あげます! だから、コメ姉ちゃんのかたきを取ってください」
「え? 玩具?」

 聞くと、昨日、私からだって言ってコーマさんがこれらを寄贈したそうだ。
 どうして私の名前を使ったのかはわかりませんが、コーマさんの知らない一面を見た気がしました。

『俺は本来、誰にでも優しいんだよ』

 もしかしたら、コーマさんが言っていた言葉もウソではないのかもしれません。

「……勇者のお兄ちゃん、いない……の?」

 一番小さい女の子が私の裾と掴んで私に尋ねてきました。
 勇者のお兄ちゃん?
 すると、さっきの男の子が女の子に窘めるように言います。

「こら、アン。あの兄ちゃんは勇者の従者って言っただろ」
「あのお兄ちゃんは勇者……なの」
「ごめんなさい、クリスティーナさん。アンちゃん、クリスティーナさんの貰った薬で目が見えるようになったんです」
「私があげた薬……で」

 もちろん、私はコーマさんに薬なんて渡していません。むしろ、私がいつもコーマさんから薬を貰っているくらいです。
 コーマさん、こんなところで私の名前を使って勝手に……。
 勝手に勇者をやってるなんて……。

 多くの人に感謝される勇者。
 私の理想とする勇者。
 悔しいな。コーマさんは私の従者なのにな。

「そのおもちゃは大切にして」

 私はここにいてはいけない。
 でも、さっきとは全然違う意味で、私はここを去る決意をします。

「コメットの仇は勇者の私がかならずとってあげるから」

 立ち去ろうとした私をさっきの女の子が呼び止めます。

「お姉ちゃん、勇者のお兄ちゃんに渡してほしいの」
「…………うん、勇者のお兄ちゃんに渡しておくわね」

 私は女の子の頭を撫で、心に火を灯し、私は外に出て、通信イヤリングに呼びかけました。


   ※※※

「…………もう大丈夫だ、ルシル……」
「…………」
「俺はあいつを殺す……殺したら戻ってくる」
「……コーマ」

 殺意に満ちた俺の瞳を、ルシルが見つめ返す。彼女の瞳に映った俺の姿は、まだ人の姿をとっていた。

「今のあなたを行かせることはできない。今のままだと、あの時のように……」
「なってもいい。あいつを殺せるのなら」
「ダメ……お願い、いつものコーマに戻って」

 ルシルはそう言い、力を込める。
 封印の魔術によって、タタミの上に仰向けに寝かされ、俺の両手両足は拘束されていた。
 魔法を使うことのできないはずの彼女の封印魔法。

「コーマがいつものコーマに戻ったら、自動的に封印は解ける……その意味はわかるよね」
「くっ……」
「だから、コーマはそれまでここで大人しくしていてね」

 寂し気な笑顔でルシルは言う。
 だが、俺の殺意は収まるどころか膨らみ続けてくる。
 模索はした。
 世○樹の葉、フェニッ○スの尾、ライフ○トル。
 ゲームの中では必ずといっていいほど登場する死者蘇生、戦闘不能回復アイテム。だが、どれだけ回復系アイテムを作っても、どれだけアイテムの効果をあげるアイテムを作っても、死んだ人間を生き返らせるアイテムを作るレシピが現れなかった。
 それからは俺は自分を責め続けた。
 俺があの時、コメットに孤児院で泊まっていくように言わなかったら、こんなことにはならなかった。風の騎士団が殺されたことはわかっていたのに。
 町の状態がふつうでないこともわかっていたのに。
 全ては自分の軽率な、偽善が生んだ最悪の結末だ。
 俺の中で殺意が湧きあがった。
 コメットを殺したゴーリキに対して、それ以上に彼女を守れなかった俺に対して。

 自分の身がどうなってもいいからゴーリキを殺す。
 そう決意した途端、ルシルに封印魔法をかけられた。

「あ、そうだ」

 ルシルは話をごまかすかのように手をぽんっと打った。

「コーマのためにさっきおかゆ作ったの。確か、日本の病食なのよね、これ」
「待て、ルシル! 俺がひそかに買ってアイテムバッグに入れていた米を勝手に! やめてくれ」

 俺のアイテムバッグの中から勝手に出したと思われる土鍋を持って、ルシルはやってきた。
 スプーンもない。スプーンなんて必要ない。

 そういわんばかりに、土鍋の中から白い蛇が現れた。蛇の目が怪しく赤く光る。そして、その蛇は俺に噛みつこうと――違う、俺に噛みつかれようと口の中に突撃してきた。

あぐっ(あつっ)!」

 口の中に熱が伝わる。そして、遅れて味が伝わってくる。

 辛い。

 辛い。

 辛い。

 俺の感想はそれだけだった。

 つらい。

 つらい。

 つらい。

 味以前の問題だ。苦痛しかこないぞ。
 やばい、このままだと死ぬ!
 転げまわりたいが、それもできない。

 意識が飛びかけた……その時だった。

【……コーマ様】

「ぶぅぅぅぅっ!」

 俺は思わずおかゆを口から吹きだした。
 ルシルの顔に米粒がかかる。

「何、汚いっ」

うしう(ルシル)おえお(俺の)あいえうあっうああ(アイテムバッグから)あういえっお(アルティメット)ぉぉおんお(ポーションを)
「え、何言ってるか全くわからない」

 くそっ、口中が火傷してまともに話せない。封印されていなければ、と手に力をこめると、俺の手が自由に動いた。
 急げ、(ルシルの料理)が全身に回る前に、俺はアルティメットポーションを取り出して一気に飲み干す。
 そして……、俺は声のした方向を見た。

 だが――そこには誰もいない。

「……気のせいか」
「コーマ、よかった……元に戻ったのね……あれ?」

 ルシルはふと、何かを握った。
 俺には虚空を掴んだようにしかみえなかったが。

「これ……コーマ、魔石を一個頂戴」
「どうしてだ?」
「いいから早くっ!」

 何がどうしたのかわからないが、俺は言われるままアイテムバッグから魔石を取り出してルシルに投げた。
 ルシルはそれを受け取り――そこねて、タタミの上にころがしてしまった。
 慌てて拾い、何やら呪文を唱える。

「私の術で大きくしたの。コーマ……これを見て」
「それ……ホタル?」

 じゃないよな。白く光る球。
 鑑定眼を使って見てみると――

……………………………………………………
愛のスピリット【素材】 レア:★×5

死者の魂。死ぬ前に強く想った者の前に現れる。
あなたに会えて、私は幸せでした。
……………………………………………………

「あ…………あ゛あぁぁぁぁぁぁ」

 その説明文に俺はただ呻き、ただ涙を流した。
 タタミにシミが広がる。

 ただの説明文のはずなのに。
 同じアイテムなら同じ説明文が表示されるはずなのに。
 その言葉は俺の胸へと突き刺さる。

「やっぱり……たぶんこれ、コメットって子の魂よ」

 わかる。そんなのわかる。
 だって、さっき聞こえたから。
 さっき聞こえたんだよ、コメットちゃんの声が。
 やっぱり、幻聴なんかじゃなかったんだ。

「……愛って……俺、普通に会話したの昨日だけなんだぞ」
「時間の問題じゃないわ……だからコーマもあんなに苦しんだんでしょ」
「……なら……光栄だ……よな」

 俺はそう呟き、コメットちゃんの魂を優しく抱きしめた。
 暖かい気持ちが俺の胸に満ちていく。
 気が付けば、俺の中の大魔王はなりを潜めていた。

 ルシルが言うには、彼女の魂には意志はほとんど存在していないという。
 三日もすれば、魂は星へと還っていくだけのものだとも言った。
 だが、俺にはわかる。
 俺が死にかけたとき、魂がぬけかけたとき、コメットちゃんが俺に声をかけてくれたんだと。だから、俺は――

「ありがとう、コメットちゃん……俺、行ってくるよ」
「コーマ! 殺しに行くなんて――」
「違う、終わらせるんだ。コメットちゃんのような犠牲者を出さないために……」

 クリスから通信イヤリングに連絡が入った。
 俺はそれを握り、クリスと話す。

 どうやら、あいつも腹を括ったらしい。
 ならば、行くとするか。

 俺には俺の戦い方がある。
 勇者としてでも、魔王としてでもない。
 アイテムマスターとして、この必要のない非日常を打ち滅ぼす!

「だからコメットちゃん、ここで待っていてくれ。すぐに戻るから」
~魂~
魂がアイテムというのは、妖怪ウォッチをしているお子様たちはよく御存知でしょうね。まぁ、あっちは「こん」と読みますが。
「こん」と読む魂アイテムに、「眼魂アイコン」というアイテムがあります。みなさん、知ってますか?
 私は知りませんでしたが、2015年10月からの仮面ライダーの新シリーズのアイテムです。魂で変身する仮面ライダーゴースト……って仮面ライダーが幽霊なのかよ、という話で話題になりそうです。

また、魂の力は、生前の力や想いによって大きく異なります。
ドラクエ8において、神鳥の子供の魂を使うことで主人公たちは空を飛ぶ力を手に入れます。魂だけで空を飛ぶっていうのも凄い話ですね。

ただ、魂アイテムというのは、やはり魂単体よりも、念としてすでに装備に宿っている物であることが多いです。
それが「加護」なのか「怨念」なのかは別にして。

きっと、コメットちゃんの魂はコーマにとって最高の加護になってくれることでしょう。
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