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閑話1 フリーマーケットの防犯事情

~感想欄にあったフリーマーケットの防犯事情についての閑話です~

 フリーマーケットは今日も多くのお客さんでいっぱいです。

 お父さんと私、親娘二人で経営していた時も客足は途絶えることのない繁盛店でしたが、悔しいですけど今の店はその比ではありません。


 特に客の目を引くのは、店内のコーナー。

 オーナーコレクションと呼ばれる一品物のコーナーです。


 魔剣、魔道具、薬品など、コーマ様が持ってきたアイテムを並べています。

 中には金貨100枚を超えるような大剣もあったのですが、今日一人の好事家のお客様が購入していきました。

 コーマ様が言うには、魔力を込めると磁力が増すという使い道のよくわからないアイテムでしたが。

 ちなみに、オーナーコレクション及び一部高価な商品は全てガラスケースの中に入っています。

 しかも、何を材料にしたらそうなるのか、ハンマーで叩きつけても割れないガラスケースです。


「こんにちは、冒険者ギルドのものです」


 そう言って、冒険者ギルドの受付嬢をしているレメリカさんが店内に入ってきました。


「レメリカ様、よくおいでくださいました。お茶をご用意しますね」

「いえ、他に回るところがありますのでお構いなく」

「そうですか……これが今日の分になります」


 私は今日の売り上げの入った金貨を彼女に渡します。

 金貨の数は100枚を超えていて、店内に置いておくのは不安のため、金貨は全て冒険者ギルドに預けています。

 レメリカさんに渡せば安心。彼女相手に強盗事件を起こすようなヒトはモグリといわれるほどの鉄壁を誇ります。


「確かにお預かりしました……相変わらず彼の店とは思えない盛況ぶりですね」


 レメリカさんは店内を見回してそう呟きました。

 彼女は、この店のオーナーがコーマ様であることを知る数少ない人間です。

 コーマ様がオーナーであることは黙ってくれているようです。


「ところで、最近連続空き巣事件が起きているようです。この店の防犯設備に抜かりはありませんか? もしよろしければ、夜限定で冒険者を派遣して警備をしてもらうこともできますが」

「御心配いただきありがとうございます。ですが、オーナーがその点もきっちりされていますので」

「……そうでしたね。ですが、いささか数が多すぎるのでは? 空き巣対策は入った後のことを考えるよりも、入られないことを優先するべきです」

「はい、善処いたします」


 私は苦笑して言いました。

 善処したいんですけどね。


『あ、メイベル。店を出るときは、今日から裏の鍵は閉めなくていいからな』


 コーマ様が三日前、寮が完成したその日に言ったことを思い出します。

 店の倉庫の扉はコーマ様が頑丈に作り替えただけでなく、鍵穴も複雑にしたため空き巣の被害は防げていましたが。

 そのカギを開けっ放しにすると品物が盗まれてしまう。そう言ったら、


『盗まれたらその時はご褒美としてその品を全部くれてやっていいさ。こっちは時間がないからな』


 と意味のわからないことを言っていました。まぁ、全て盗まれても店の預金はもう金貨600枚を超えていて、店の経営の継続は可能なんですが。

 

 次の日にはどういうわけか町中にその噂が広まっていて、多くのお客さんから「大丈夫なのか?」と心配のお声をいただきました。

 今のところ大丈夫……ではありません。


 朝に店に入ったときの惨状を見て、私はいつもどうしたらいいか困っているんですから。



   ※※※


 夜の帳が降りる時間。俺っち達の活動時間だ。


「おい、シタツキ、準備はいいな」

「へい、ゴロッパの兄貴。オラ、しっかり大きめの鞄をもってきたっす」


 背は低く目も小さい、出っ歯が特徴のシタツキがリュックサックを2個、さらに両手に四個の大きな鞄を持って頷いた。

 流石は俺っちの部下だ。ぬかりはない。


 天は俺達に味方したのか、雲が月と星を覆い隠しいつもよりも暗い。

 裏に見える四階建ての建物も灯りは全て落ち、カーテンが閉まっている。

 俺っちは今日、巷で噂のフリーマーケットという店の裏にいた。

 この店には二つの噂がある。

 一つはこの店のアイテムのすばらしさ。金貨10枚や20枚はするような名品が数多く保管されているそうだ。中には金貨100枚を超える珍品まであるらしい。

 それともう一つ。この店は夜、どういうわけか鍵がかかっていないらしい。

 罠かとも思ったが、たとえ罠だろうと、ちょっと入ってちょっと盗んで出てきてやる。

 何しろ、俺っち達は空き巣のプロなんだからな。


 もともとレンジャーとして、雇われ従者として勇者とともに迷宮内を探索したほどの腕前だ。たとえ警備員がいたとしても俺っちの地獄の鉄糸暗殺術で返り討ちにしてやるよ。


 扉はとても頑丈な鉄の扉。力押しで破るのは不可能だろう。

 そう思いながら、慎重に裏口のノブに手をかけた。

 そして、押してみる。

 ……扉は開く気配がない。やはりガセ情報だったのか。


 だが、ガセでも俺っちにはレンジャートして鍛え上げたピッキングの技術がある。

 ちょっとおしゃれな形の針金を取り出し、ちょちょいの……あれ? ちょちょいの……ん? ちょちょいの……、


「なんだ、この鍵! 全く構造がわからねぇぞ!」

「兄貴兄貴!」

「なんだ、シタツキ!」

「この扉、押すんじゃなくて引くタイプっす」


 シタツキが扉を引くと、あっさりと開いた。

 おう、これはあれだな……


「よく気付いたな、シタツキ! お前が気付くかどうかテストしてやったんだ」

「そうなんっすか!? テストだったなんて、オラ、全然気付かなかったっす。流石ゴロッパの兄貴だ!」


 なんとかごまかせた。

 とはいえ、本当になんなんだ? さっきの鍵は。

 もしもしっかり鍵が閉められていたら、俺っちの腕じゃ開錠は不可能だった。まぁ、間抜けな店員のおかげで、こうして無事に建物内に入ることができたわけだしな。


「うぉぉぉぉ、すげぇぇぇぇ!」


 店内は下見に来たが、店の倉庫はもっとすごかった。

 薬、武器、防具、アクセサリーが山のように保管されている。

 おい、これ、プラチナリングじゃないか? こっちは……うぉぉぉ、クリスタルペンダントだ。

 こんなものほったらかしでいいのかよ。


「おい、シタツキ、ここにあるもの手あたり次第に盗って盗って盗りまくるぞ!」

「うっす、兄貴!」


 空き巣を始めて苦節3日、とうとう幸せを掴む時が来た。

 空き巣になってよかったぁ、と俺が手を伸ばした瞬間――


「へ?」


 彼と目があった。

 いやぁ、久しぶりにお会いしましたねぇ……ははは。

 お元気でしたか? その様子だと元気そうですね。うん、じゃあ……


 背中を向けるも、顔を再び後ろに向ける。


 そこにいたのは――やはり冒険者時代に何度か見たお顔だった。


「なんでミノタウロスがこんなところにいやがるんだ! てか、ここどこだ!」


 いつの間にか床は草地に、天井と壁は土に変わっていた。

 間違いない、ここは――迷宮だ!


「兄貴、なんなんっすか、これは!」

「俺っちが知るか! 逃げるぞ、シタツキ」

「うっす、ゴロッパの兄貴!」

「こら、俺っちを置いて先に逃げるなぁぁぁ!」


 俺っち達の悲鳴が迷宮の中に響き渡った。

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