聖杯の恩恵は誰の手に?
~前回のあらすじ~
ルシルの髪はつやつやでした。
剣と剣のぶつかり合う音が、ルシルの迷宮地下200層に鳴り響く。
ミノタウロスの斧よりも重い一撃を受ける。この状況だと受け流すこともできない。ならばと俺は剣に力を入れたまま足払いしようと重心を下にずらす。
だが、相手もそれに気付き、大きく後ろに飛びのいたと同時に、そのまま地を蹴り、俺にとびかかってくる。
足払いをしようとした体勢のため今上からの攻撃をされたら辛い。
咄嗟に横に飛び、剣をかわす。
息をもつかせぬ攻防。
「ねぇ、コーマ、チョコレート作って!」
息をもつかせぬ攻防は、大魔王の娘の気まぐれによって打ち砕かれた。
魔王城に新しく作った窓からルシルの声が聞こえてきた。
「わかったよ! タラ、剣の相手ありがとうな」
茶色い毛並みのコボルトの頭を撫でる。
タラは尻尾を振って無言で俺を見ていた。
「あぁ、わかってる。ほら、コンビーフだ。グーと二人で食べるんだぞ」
俺の中では、グーとタラは「二人」。ゴブリンなら匹なんだけどな、最初から一緒に頑張ってきた仲だし。
いろいろとグーとタラにお土産を持ってきたり作ったりしたところ、二人が一番好きなのはコンビーフだとわかった。
缶詰ではなくお皿に乗ったコンビーフをアイテムバッグから出してタラに渡すと、グーのいる畑へと走って行った。
最初の小麦の収穫も終わり、今は大麦を育てている。
俺は魔王城へと戻った。
それにしても、タラ、強くなりすぎだろ。
ミノタウロスもなんとかソロ狩りできるようになった俺と互角の戦いって。
まぁ、原因は、ルシルが俺と同じように力の神薬を与え続けたからなんだけど。
最初は二人の強化を拒否した俺だったが、ルシルがしつこいので、二人を親衛隊として190階層より上に出さないことを条件にグーとタラの強化を容認した。
近いうちに最強の魔物になるだろうな。
ちなみに、俺は力の神薬を今は飲んでいない。
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反応の神薬【薬品】 レア:★×8
反応速度を10%増加させる薬。超薬、霊薬および神薬は1日1本までしか飲むことができない。
伝説の薬であり、生きている間に一度出会えるかどうか。買うことができるかどうかは別の話。
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これを飲み続けている。これを飲めば、回避力と命中力が上がる。
いくら力が上がっても、攻撃が当たらなかったら意味がないからな。
説明文が力の神薬とかなり被っている。というかほぼ使いまわし。
「コーマ、チョコレート早くして」
「わかったから、ちょっと待ってろ」
俺はそういい、アイテムバッグから砂糖とカカオ豆を取り出してアイテムクリエイトを唱える。
作ったチョコレートをお皿に乗せて卓袱台に置いた。
とはいえ、このままだと味気ないので、ココアパウダーをまぶして高級感を出してみた。
「食べるときは座って食べるんだぞ、チョコレートは汚れが落ちにくいんだからな」
「はぁい!」
チョコレートをつまんで一つ口に放り込む。そして、ココアパウダーのついた指をぺろりとなめて、とても幸せそうな顔をした。
「おいしぃー、この時のために生きてるわね」
「お前は帰宅後のビールを飲むために働くサラリーマンか……全く……」
とはいえ、本当に幸せそうに食べてくれるので作り甲斐はあるな。
ルシルは食べ物を、本来の栄養補給としての意味合いで摂取する必要はないから、嫌いならば食べる必要はないわけだし。
さて、俺も仕事をするかな。
時計を確認する。
時刻は夜の9時。日の入り時刻はとっくにすぎている。
ってか、本当に迷宮の中は時間がわからないよな。
水瓶の中に手を入れ、月の雫を取り出す。
そして、アイテムバッグから、金の杯を取り出す。
72財宝の一つ、魂の杯をアイテムクリエイトで作成できないかといろんな材料で杯を作ってみたときにできた。
さすがに金は鉱石状態でも高かったが、一応、俺、億万長者だからな。
実は、アイテムバッグをもう一個作って、金貨75枚で買いたいといっていた商人に売ってやったから、金には余裕があった。
ちなみに、金貨90枚でお買い上げ。
金の杯、月の雫、魔石(中)×5(魔石(低)なら20個)を材料に、聖杯を作ることができる。
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聖杯【魔道具】 レア:★×9
聖なる水が湧き出る杯。性能によって湧き出る水の性能が変化する。
聖なる水といっても、聖属性じゃなくてただの薬です。
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おぉ、初めての【レア★×9】だ。
流石、ルシファーコレクションの一つだな。
ルシファーコレクションとは、俺が勝手に呼んでるだけのアイテム一覧だ。
もともとの魔王城で一度見た本。そこに書かれたルシファーがかつて保有していた財宝の名前。
一度見ただけだが、そのアイテムの種類と名前、説明文はしっかり憶えている。
72財宝とは別に、30種類あるこのアイテム。全種類制覇したいと思っている。
確か、ルシファーが言うにはポーションが湧きでる杯だったよな。
よしよし、これで神薬を作るときのポーション節約になる。
っと、少しずつだが、ポーションが湧きでてきた。
ルシルに言ったようにポーションの池もできるかもしれないな。
とりあえず、空き瓶を用意して、聖なる杯からポーションを入れることにした。
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アルティメットポーション【薬】 レア:★×6
状態異常、HP、MPを全て回復することができる。
ポーションもいよいよここまで来た。でもやっぱり不味い。
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やっぱり不味いのか。
っておい、できるのはポーションじゃなかったのか!?
なんだよ、アルティメットポーションって、どれだけ進化したんだよ。
むしろエリクサーだよ。いや、エリクサーでも状態異常は回復できねぇよ。
あぁ、そうか。
アイテムクリエイトで作るアイテムって、いっつも最高品質なんだもんな。
「…………チートすぎるだろ、アイテムクリエイト」
ポーションの池を作るのは諦めることにしよう。
これで池を作ったら一日のうちに干からびてしまい、聖杯まで取られてしまいそうだ。
かといって、これだけの大量のアルティメットポーションを売りに出したら、通常のポーションが価格崩壊を起こすからな。フリーマーケットには月に1本だけ卸すことにしよう。
とりあえず、ある程度は魔王軍の常備薬として置いておくとして、使い道は考えないといけない。
そういえば――ポーションを使って作れるあのアイテムがあったな。
自分たちで使う分にはちょうどいいアイテムだ。
流石に店に売り出して成分を調べられたら厄介そうなので、寮でのみ使用可能と言っておこう。
ていうか、アルティメットポーションっていくらくらいで売れるんだ?
※※※
フリーマーケットの従業員寮、2階、リラクゼーションルーム。
その日、その場所で緊急会議が行われた。
「どうするんですか、店長! これ以上ごまかせませんよ!」
お肌つやつやのファンシーが一本の瓶を前に言った。
ファンシーは一番幼い顔だけど、年齢は実は一番上の二十うん歳。
「うちもお客さんに聞かれて困っとるんよ……本当に対処せんといかんとは思うんやけど」
リーが、西国訛りで言う。
おだんごヘアの黒髪、お肌つやつやの女の子。年は私と変わらないですが、行商人だった彼女のお父さんのコネは店の経営に役立っています。
「あ……あの、もういっそのこと売りに出したらどうでしょう? 数は十分あるんですから」
この中で一番若い、お肌つやつやのコメットが困ったように言う。
「オーナーからの命令ですから、それはできません」
一番奴隷の私は嘆息混じりに答えました。そして、私のお肌もつやつやです。
でも、本当にどうしたものでしょうか?
「この薬の使用を禁止にするのはどうでしょう?」
「「「ダメ(イヤ)です!」」」
全員の声が見事にハモりました。
気持ちは痛いほどわかります。
確かに、一度使えばこれを使わない生活なんて考えられません。
「いやぁ、気持ちよかった」
そこに、勇者のクリスさんがお風呂からあがってきました。
彼女のお肌もつやつやです。
「クリスさん、すみません、御夕飯の準備をしますね」
「あ、いいのいいの続けて、メイベル」
彼女がこの寮に住んで三日、私達従業員は「クリスさん」、クリスさんは私たちのことを呼び捨てで呼ぶような関係になっています。
関係はいたって良好。
「ところで、メイベル。これなんだけど、一体、何でできてるの? 売りに出したらいいと思うんだけど」
私達はクリスさんが持っている瓶を見て苦笑しました。
だが、女性なら一度使ったら手放すことのできないその化粧水。
原材料はいったい何なのか……。
昨日もコーマ様は最後まで教えてくれませんでした。
結局、化粧水論争は夜遅くまで続きました。
ちなみに、オーナーが持ってきた秘薬、アルティメットポーションはフリーマーケットの中で特別に開催したオークション(他、多数レアアイテム出品)の結果、金貨85枚で売れました。
これが毎月1本入荷すると言うのですから、まともに働くのがバカらしくなってきます。
~ポーション~
薬草以上に使われるHP回復薬の代名詞。
水薬という意味で使われるため、HP回復以外にも
「マナポーション」=MP回復
「素早さポーション」=素早さUP
みたいな使われ方もする。
ポーションはファイナルファンタジーの回復アイテムの代名詞であり、実際にポーションという名前の清涼飲料水として販売されており、私も買いました。
ただし、100%飲み薬というわけではなく、FF1では塗り薬として紹介されていました。むしろ、傷を治すという意味ならそのほうが正しいのか?
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おかげさまで、昨日、評価5000、一日のアクセス数6万突破しました。
ブックマークや評価をしてくださった皆様、そしてここまで読んでくださった読者様、ありがとうございます。
活動報告にも書いてありますように、話のストックはまだ少し余裕がありますので、しばらくはこのペースで更新できそうです。
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