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クリスとユーリの戦い

~前回のあらすじ~

クリスがコーマを信じることにした。

 ユーリがキレた。

 俺だけじゃなくてクリスまで殺すとか言い出す始末。


 そして、俺はユーリの抜いた剣を改めて見つめる。


……………………………………………………

空獣の魔嘴まし【細剣】 レア:★×7


グリフォンの嘴から作られたレイピア。

風を纏うことができ、また、他属性の魔法とも親和性が強い。

……………………………………………………


 グリフォンの嘴から作ったレイピアか。前に薬草ドラゴンと戦った時は普通のレイピアだったのに……それだけユーリも本気ってことか。俺も覚悟を決めないとな。


「てか、クリス、お前、今のままだと勇者特権剥奪は間違いないぞ! 俺は魔王だって言ってるのに、なんで即断で信じられるんだよ」

「即断じゃありませんよ、ずっとコーマさんのことを考えてました」


 クリスはそう言うと、剣を構える。

 彼女もまたユーリと戦うつもりのようだ。


「私、決めたんです! コーマさんのことについてあれこれ考えるのは、全部終わってからにしようって。だから、今はコーマさんのことを考える前に――コーマさんを信じてみることにした、それだけですよ」

「それ、ただ思考を放棄しただけだろ!」

「直感を大事にしただけです」


 意味は一緒だろうが。

 全く……ふざけた奴だ。


 俺は気付けば笑っていた。

 クリスのバカさ加減にムカついたときもあったし、からかったこともあったけれど、今はこう思う。


 バカには誰も敵わない。きっと、俺が悪役ぶって説得したところで、こいつは俺の味方をする。


「馬の耳に念仏か」

「ええ、きっとそれです」

「わかったよ。じゃ、いっちょ――」


 ギルドの最高峰、ユーリ様に剣の御指導を頂こうか、そう言おうとした俺をクリスが手で制した。


「ここは私一人で戦います! せめてものけじめに、正々堂々、一対一で戦って、冒険者ギルドを去るつもりです」

「相手は七英雄……お前の親父さんと一緒に戦った相手だぞ。本気で戦えるのか?」

「ええ、本気で戦います、胸を借りるつもりで」


 ……全く、勝つ気あるのかよ……って聞けなかった。


 その真剣な表情のクリスを見たら。


 俺はエントキラーをアイテムバッグに入れて歩いていき、ルルの横に座った。

 俺が来たことでびくっとなるルル。まぁ、こっちは魔王様だからな、怯えられるのは仕方ないか。


 アイテムバッグからとりあえずハッカ茶の入った魔法瓶を取り出して、飲みながら観戦することにする。

 お気に入りの湯呑に熱いお茶を注ぐ。あとはクッキーも出したいところだが。

 本当なら、クリスのことだ、「コーマさんくつろぎ過ぎです」くらい言いそうなものだが、真剣モード、俺のことなど見えていないようだ。


 先に動いたのは、ユーリの方だった――俺目掛けて――


「やっぱりそう来たか!」


 俺は咄嗟にエントキラーをアイテムバッグから抜き、その側面を盾代わりに鋭い突きを受け止めつつ、ハッカ茶の入っている湯呑を蹴りあげ、ユーリにぶつけようとした。


 秘技、熱いお茶!


 火傷すること間違いなし! 湯呑は御臨終だけど。


 だが、ユーリはお茶がかかろうと、顔色を変えることなくこちらに剣を突き出してくる。

 まるで精密射撃のような的確な攻撃、でもだからこそ予測は立てやす――って急にわざと流れをずらしてきやがった。


 こうなったら、俺が戦うか――そう思った時、俺とユーリの間にクリスが割って入り、突きを繰り出すユーリの剣を下から弾き上げた。


「言いましたよ、私が相手です」

「……いいでしょう。油断しているところを仕留め損ねたのは残念ですが、今はあなたの相手をさせてもらいましょう……もっとも、さっきは私を背中から斬ることもできたはずなのに、それをしなかった貴方に私の相手が務まりますか?」

「そうですね、私の尊敬していたユーリ様なら敵わないかもしれません。ですが、なんででしょうね、今のあなたになら勝てる気がします」


 クリスの剣がユーリの突きを捌いていく。

 あいつに飲ませた反応の神薬は数えるほどだ。にもかかわらず、ユーリのあの神速ともいえる突きをよくもまぁあれだけ正確に。

 いや、クリスは元々、閃光という二つ名を持つ、速度特化の剣術使いだった、目はよかったんだよな。

 きっと、もともとの俺の反応速度の何十倍も。


 それにしても、突きを躱すにしても、本当に紙一重すぎるだろ。

 鎧があるところなどはいいが、彼女が来ているのは軽鎧、胸を含め金属製の場所はごく一部。

 にもかかわらず微妙な場所で避けるので、服が微妙に破れてきている。


「防いでばかりじゃ私は倒せませんよ」


 ユーリはそう言うと、剣に魔力を纏わせた。

 と同時に、剣の周りを風が纏い、紙一重で剣を捌き、躱していたクリスの顔色が悪くなる。


 避けても、剣からでたかまいたちのような鋭い風の影響で、服が破れ、肉が裂けたのだ。

 血飛沫が舞い、クリスの顔色が一瞬苦悶に歪む。

 

 だが、それも一瞬のことで、クリスは再度、剣を捌き、躱しを繰り返した。

 先ほど以上に余裕をもって躱すクリスだが、風の影響で服が破れる速度があがっていく。


「ほれ」


 俺は鼻血を出して試合を観戦するルルに、かつて、俺がそうしたようにポケットティッシュを渡した。

 ルルは黙ってそれを見ると、今度は素直にポケットティッシュを受け取り、ティッシュで鼻を押さえた。


 試合は明らかにクリスの不利に思えた。


「クリス、なんで攻撃しない!」


 俺が叫ぶ。あいつは明らかに攻撃をできるタイミングでも攻撃をしかけない。

 ずっと攻撃を防いでいるだけだ。 


「もう少しなんです、もう少しで――掴めそうなんです」

「掴めそう? いいえ、貴女は何もつかめませんよ。何故なら、ここで死ぬからです」


 ユーリの剣に込める魔力がさらに上がり、剣から風が竜巻のように膨らんだ。


 やばい、あんな剣、防ぐにしても躱すにしても受けたら無事じゃすまない。


「クリス、後ろに退け!」


 俺が叫ぶも、クリスは剣を構え、それを受け止めるようだ。


「これで終わりです!」


 ユーリの突きを、クリスは剣の背で受け止める。

 が、竜巻がクリスを襲った。


 溢れる風がクリスの服を、肉を切り裂く。


 あのままじゃクリスが危ない!


 飛び出そうと思った――その時だった。

 ユーリの剣の風が収まっていく。


 いや、それだけじゃない、その風が、クリスの剣へと宿っていくようだ。


 まさか――あれは……発現したのか。

 俺はクリスのスキルを確認する。


【聖剣レベル1・蛇紋剣レベル1・瞬剣レベル1・魔法剣レベル3・多段ジャンプレベル4】


 やっぱりそうだ。かつて調べたときは多段ジャンプ以外は全部レベル1だったのに、魔法剣のレベルが3に上がっている。


 クリスが掴めそうだったってのは、このことだったのか。


「ユーリ様、あなたの剣の魔法はもう効きません。降参してください」

「諦めるのは貴女のほうです、再度この攻撃をあなたが受けられますか?」


 ユーリはさらに剣に魔力を纏わせ、剣の風の威力が高くなる。

 そして、俺は横目でルルを見た。


 目が充血し、鼻につめたはずのティッシュは赤く染まり尽くし、白い部分は残っていない。


 やばいな。


「覚悟しなさい!」

「すみません!」


 クリスが謝り、そして彼女の剣が――ユーリの右肩を貫いた。


 それでユーリは剣を落とす――そう思ったんだろうが――ユーリはそのまま彼女の胸をレイピアで突いた。


 その風の威力もあり、クリスが吹っ飛び、壁に激突する。


「そ……んな、なんで」


 飛ばされると同時に剣も一緒に飛ばされたんだが、彼女はその剣を見て信じられなかった。

 剣に――血が一滴もついていないのだ。


 確かに、ユーリの肩を貫いたはずなのに。


「参りました、まさかここまで私を手こずらせるとは。ですが、これで終わりです。さようなら――勇者クリスティーナ!」


 ユーリがそう言い、クリスに剣を向けた、その時だった。

 俺は動いた。アイテムバッグからエントキラーではなく、ルシル料理を取り出し、


「もうそれ以上何もするな! 17階層でお前たちが苦戦した魔物の肉片を食べさせる」


 そう言って、俺はルルを押さえ、ルシル料理を取り出した。

動くな、動くとこの娘がどうなってもいいのか!


って流石に卑怯すぎる気が……ちゃんとした理由があります。

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