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メイベルの失敗、レモネの失敗、コーマの失敗

~前回のあらすじ~

いざ、ブックメーカーの元へ。

 青髪イケメンのブックメーカーは笑顔で迎えた。


「久しぶりね、フランツ。といってもあなたはわたくしのことなんて忘れているのですわね」

「ああ、忘れている。はじめまして、エリエール。だが、僕は君のことを知っている。君がここで僕と一緒に過ごしたことも、僕との戦いに負けてここを去ったこともね」


 彼の言葉には悪気はない。そもそも、悪気なんて感情はない、エリエールが呟くように自分に言い聞かせた。


「まぁいいですわ。仕事ですわ。これを見ていただけるかしら?」

「あぁ、知っている。この斧の材料……コーマさん、エリエールに教えてもいいね?」

「いいぞ」

「うん、君がそう言うことも僕は知っていた」

「嘘ですわね。今、貴方の未来は不安定のはずですわ」

「そんなことないよ。最近は安定してきてね。エリエールさん」


 彼がエリエールを「さん付け」で呼んだことには意味はないのだろう。

 おそらく、さっきは旧知の仲だと知っていて呼び捨てにしていたが、それをもう忘れている感じだ。


 話が平行線になりそうなので、俺はさっそく斧の結果を聞くことにした。


「うん、この斧の名前はまだない。威力も絶大だけど、火属性と竜特効の効果があるね。材料の竜殺石と、ファイヤーサラマンダーの鱗によるものだ。名前を付けてくれたら、図鑑に登録するよ。コーマさんのアイテム図鑑には登録されないけどね」


 それは助かる。もしもオリジナルアイテムが図鑑に登録されるのなら、アイテム図鑑コンプリートが永遠に不可能になる。


「じゃあ、エントキラーで」


 エントを殺すために作った斧だからな。

 もう単純にそう名付けることにした。


「わかった。もう見れるはずだよ」


……………………………………………………

エントキラー【斧】 レア:★×9


炎属性を持つ伝説級の斧。エントを倒したという逸話がある。

エントを倒すために作られたのに何故か竜特効もある。

……………………………………………………


「……いや、まぁね……レア度は9か。72財宝とかじゃないんだな」


 まぁ、これが72財宝になったら、73財宝になってしまうか。

 そして、俺はもう一本、鉄の剣(?)を取り出した。

 前に作った2本の鉄の剣(?)は売ってしまったが、同じのが作れるかなって思って新たに作った一本だ。


「次に、その鉄の剣だね。材料は力の神薬と鉄だね」

「力の神薬っ!? 力の神薬ってあの力の神薬ですわよねっ!? コーマ様、一体なんでそんな貴重なアイテムで剣を作っていらっしゃるのでしょうかっ!?」

「いや、まぁそれは」

「コーマ様、わたくしが以前、力の超薬一本でどれだけ苦労したか忘れていらっしゃるのではありませんか?」


 力の超薬とは、力の神薬の劣化版である力の霊薬のさらに劣化版だ。

 彼女はそれを仕入れたときに偽物をつかまされてひどい目にあったことがある。


「で、ブックメーカーさん、効果は?」


「威力は鉄の剣と変わらない。この剣で誰かを殺すたびに、相手の筋力の10%を吸収して自分の力にすることができる。ただし、10回までね」


「ふーん」

「ふーんって、コーマ様、これは凄い剣ですわよ!」


 凄いっていわれても、毎日薬だけで力が10%増えている俺からしたら使えないわ。


「名前はどうする?」

「任せていいか?」

「うん、君ならそう言うと知ってたからね、すでに名付けたよ」


……………………………………………………

吸力剣【魔剣】 レア:★×9


殺した相手の筋力の10%を吸収し、自分の物にすることができる剣。

ただし、10回対象を殺すとその効果は無くなる。

……………………………………………………


 またレア9か。

 吸力剣――名前はかなり安直だが。良い武器だな。


「……最低でもこれ一本で金貨8000枚にはなりますわ」


 力の超薬が金貨90枚だっけか。ならば、純粋に力の神薬が金貨800枚以上。

 自分よりも力の強い相手を斬れば力の神薬以上の効果で、それが10回使えるから金貨8000枚か。

  

「あぁ、それはメイベルには黙っておいて――というわけにもいかないか」


 もう一本、剣の在庫はある。

 ならば、効果を説明して適正価格で売ってもらわないとな。


「そうだ、エリエールに剣を作るっていってたけど、この剣でいいか?」

「何をおっしゃるのです、コーマ様」

「あぁ、やっぱりこれじゃダメか」

「逆です、こんな高価なものいただけるわけありません」

「まぁ、エリエールが強くなると俺もいろいろと助かるからな。一緒にいることも多いわけだし」

「一緒に!? コ、コーマ様がそうおっしゃるのでしたら、頂戴しますわ」


 何故か一緒ということに妙な反応したが、まぁいいか。

 ブックメーカーに、また鑑定できないアイテムがあったら見てくれと伝えて(どうせ忘れるんだが)、俺達はパーカ迷宮に戻った。パーカ迷宮で60体くらいの魔物を倒しながら早々に地上に戻り、転移陣の前で別れた。


 そして、俺はメイベルに、吸力剣について説明に行った。

 幸い、吸力剣の一本はまだ売れ残っていたので、俺は安心したのだが――、メイベルが涙を流した。

 俺は慌ててメイベルを倉庫に連れていき、事情を話すなんて。


「そんな、金貨6800枚の損失を出すなんて、コーマ様にせっかく売っていただいた剣なのに。オーナーとして失格です」

「いやいや、俺も効果は今日まで知らなかったんだし、仕方ないって」

「仕方ないで許されるほどの損失ではありません。コーマ様からお譲りいただいた店なのに」


 あぁ、くそっ、どうしたらいいんだ。

 やっぱり黙っておいたほうがよかったのか?


 それとも――


「あ、そうだ! メイベル、二人で一緒に買い物に行こう! 気分転換でもすればさ。うん」

「買い物……しかし、そんなことをしている場合では……」

「いいからいいから」


 そして、俺はメイベルを連れ出し、30分後、後悔することになった。


   ※※※


「ありがとうございます」

「そ、それはよかったね」


 俺は嘆息混じりに答えた。

 通行人の視線が痛い。いや、俺が言いだしたことなんだけどね。

 でもこれは流石に辛い。


「みんなも喜ぶと思いますよ」

「そ、そう言ってもらえたらうれしいよ」

「そんなにびくびくしないで、堂々と歩いていたらいいと思いますよ」

「そうは言ってもなぁ」

「本当に、どこからどう見ても可愛い女の子ですよ、コーリーちゃん」


 コーリー。

 それは捨てた名のはずだった。




 でも、今回はメイベルに騙されたというわけではなく、本当に俺が悪いんだ。

 二人で買い物にでかけて、


「何を買おうか? 店の仕入れじゃなくてさ、何かない? みんなが欲しがってるものとか」


 と俺が訊ねると、


「みんなが……あぁ、でもコーマ様と一緒に行っては」


 と困ったように言った。きっと俺が金を出すことに気付いて遠慮しているんだろうが、ここで「じゃあ元オーナー命令、どこに行きたいかいいなさい」と茶化すように言うと、メイベルは言った。


「みんな、新しい下着が欲しいって言ってるんですが」

「……え?」


 というようなことがあった。


 男がランジェリーショップに入る苦しさ、みんなわかるよな。

 俺の後に入ってきた女の子なんて、俺の顔をみるなり逃げだしたんだぞ。

 でも、俺が言いだした手前、やっぱりやめようなんて言えるわけもなく、さらに外で待つといってもメイベルを一人にさせるのは今はちょっと不安だった。


 なので、苦肉の策で、俺はコーリーになったわけだ。性別反転薬を使い。

 そして、コーリーになって気付いたことが一つ。


(このランジェリーショップの店員は商売上手だった)


 売り出したばかりというブラ、それに加えて下着のセットを薦められ、俺はいつの間にか試着、購入させられていた。友達についてきただけだって言ったのに。メイベルはそんな俺を見て笑顔になってくれて、まぁ、少しの間なら女になってもよかったなと思った。


 で、結局ランジェリーショップで、アイテムバッグの中にしまっていたフリマの従業員の衣装に着替え、従業員全員分の下着を買って帰っているわけだが。

 視線が痛い。


 メイベルを見るのはわかるが、俺を見るのはやめてくれ。特に足を見るのはやめてくれ。確かにスカートは短い気がするが、パンツなんて見えないぞ。パンツが見たければランジェリーショップの場所を教えてやるからそっちに行け、そう叫びたい気分だ。


 なんだ、これ。男達の視線が俺の胸と足に行っているのがすぐにわかる。

 見ていることに気付いていないと思っているのか? というくらいに見てくる。


「うぅ、今すぐ戻りたい」

「申し訳ありません、コーマ様。私のために。でも、おかげで元気が出ました。必ず、金貨6800枚の損失は私の努力で埋めて見せます」

「そうか。メイベルならできるよ」


 メイベルが元気になった。それだけが救いだ。最初の目標は達成しているってことだ。


「それで、元に戻る薬はあるんですか?」

「あぁ、ここに――」


 俺がアイテムバッグから性別反転薬を取り出したその時だった。


「きゃぁ、転びました!」


 どこかで聞き覚えのある声が。

 見ると、フリマ従業員のレモネちゃんが盛大に転んでいた。


 どうやったら何もないところであれだけ転べるのかというくらい盛大に。

 そして、彼女に気を取られ、俺は気付かなかった。


 空から、彼女が転んだ拍子に飛ばしてしまった箒が落ちてきていることに。

 そして、その箒は見事に俺の手の上にある薬瓶に命中。


――パリンっ。


 音を立てて割れるガラス瓶、こぼれる液体、それらを見て――俺の頭の中が真っ白になった。


「こ、コーマ様、予備の薬は?」

「……ない」

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