叫びたくなるのはそんなバナナ
~前回のあらすじ~
呼ばれてないのにじゃじゃじゃじゃん。ルシル&カリーヌ登場。
「これを使ってラビスシティーに戻るぞ」
持ち運び転移陣を広げた。
コメットちゃんとタラを放ったらかしにすることになるので、クリスをラビスシティーに送ったら、一人で戻ってなんとか上に戻る方法を考えないとな。
最悪、走ってこの国まで戻らないといけない。
そんなことを考えていたら――持ち運び転移陣の魔法陣が光り、
「はぁ、やっと私達の番ね。もう、コーマ、待たせ過ぎよ」
「コーマお兄ちゃん、カリーヌ来たよ」
ルシルとカリーヌが現れた。
……俺が呼びに行くまで待ってろって言ったのに、なんで出て来てるんだよ!
しかも、偶然現れた知らない人と言い訳するのも難しい。
二人とも俺の名前をしっかり呼んでいるんだから。
「ル……ルシルちゃん、ですよね」
クリスが恐る恐る尋ねる。
それに、ルシルははっとなって、
「わ……私は謎の食事の達人Sよ」
「カ、カリーヌは謎の……謎の猫です! にゃぁ!」
……いや、無理があるだろ。
ぐっ、ここは何か言い訳を考えないと。
ただし、もっともらしいウソじゃなく、突拍子もないのに信じざるを得ないウソ。
「コーマさん、二人と知り合いだったんですか?」
「あぁ、クリス。実はな、このルシルは俺の師匠なんだ」
「「師匠?」」
頼むから、ルシルは驚かないでくれ。
「あぁ、そうなんだ。まぁ、普段は師匠なんて呼ばないんだけど、まぎれもない師匠だ。彼女は魔道具作成の達人でな、持ち運び転移陣も彼女が作ったんだ」
「この持ち運び転移陣をルシルちゃんが? 本当なんですか?」
「え、ええ。そうよ。なんなら今からぱぱっと作れるけど?」
ルシルはそう言い、俺に魔石と布を出すように命じた。
俺はそれに従い、魔石と大きめの布をルシルに渡す。
ルシルは魔石を握り、呪文を詠唱する。
複雑な呪文で、全く意味はわからない。
詠唱が終わった瞬間、布が光を放った。
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持ち運び転移陣【魔道具】 レア:★×6
持ち運びの可能なアイテムに転移陣が描かれている。
いつでもどこからでもあなたの場所に。
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完成だ。
相変わらず凄いな。ただの布と魔石から、魔道具を作る天才。
実際にこれを見せたら、ウソのようなウソが事実になる。
一度疑ったものを、信じざるをえない状況にもっていかせれば、普通に信じやすいウソを言うよりも真実味が増す。
相手がクリスならなおさらだ。
「とりあえず、この転移陣に入ればこっちの転移陣に移動できるようにしたわ」
確かめるまでもないだろう。
ただの布に魔法陣が現れ、それが光っているんだから。
「じゃ、じゃあ、そのカリーヌさん……は? コーマさんのことをお兄ちゃんと呼んでいましたが、妹さんですか?」
……カリーヌのことを妹と思えるのなら、大したものだ。
うん、まぁ、俺はカリーヌのことを妹と同じように思っているけど。
またもや、今回も明らかにウソを言うことにした。
「カリーヌは、ルシルが作ったゼリーだ」
「ゼリー? ゼリーって、あのゼラチンを固めたものですよね」
うん、以前に俺も作ったことがある。
ラビスシティーでは珍しいそうだが、でもないことはないそうだ。
「あの、コーマさん、流石に私も騙されませんよ」
「あぁ、ウソだといいんだけどな。師匠、申し訳ありませんが、ここで何か料理を……そうだ、クリス、何か果物とか持ってないか?」
「え、ええ。ここに来る前にもらった果物が。あ、そうだ! コーマさん、私の名前使って勝手に世界の料理とかしてたでしょ!」
「別にそれはいいだろ、お前に迷惑はかけてないし。それに、お前は宮廷料理食べてたんだから」
「……宮廷料理……まぁ、あれはあれでおいしかったんですが」
何故かクリスが遠い目になる。
何かあったのか? ずっとリーリエに口説かれていたとか?
「兎に角、勝手に名前を使うのはやめてください!」
「コーマ、世界の料理なんて面白いことやったのになんで私を呼んでくれないのよ」
「カリーヌも食べたかった。食道楽したかった」
食道楽って……どこでそんな言葉を覚えたんですか。
関係ないことで話をあまり脱線させないでほしい。必死に言い訳を考えている俺がバカみたいだ。
「あぁ、とにかく、クリス、果物をくれ」
「……わかりました」
クリスはまだ納得していないが、アイテムバッグからバナナを一房取り出す。
俺はそこから一本取り、残りをクリスに返し、ルシルに一本のバナナを渡した。
そして、まな板と包丁と皿を取り、
「ルシル、バナナサラダを作ってくれ。切るだけでいいから」
「……わかったわ。私だって成長してるのよ! バナナを切るくらいお茶の子さいさいよ!」
そう言って、ルシルはバナナの皮をむいて、器用な手つきでバナナを切っていく。
切っていくのだが、切れば切るほど輪切りのバナナを……さっき捨てたはずのバナナの皮が食べていく。
……あぁ、今回は本体はそっちか。
そして、全てのバナナを食べ終えたバナナの皮は例によって例のごとく巨大化。
四つに裂かれたバナナの皮が途中までくっつき、四本足で立ったように見える。
その姿は、足こそ四本だが、黄色いタコさんウインナーのようだ。
「クリス、危ない、来るぞっ!」
俺が叫ぶが、クリスは信じられないものを見ているように動けないでいた。
あぁ、流石にクリスもこれが非常識ってことはわかるか。
「んー、やっぱり料理の前に手を洗わないと調子がでないのよね」
「そう言う問題じゃないけどな!」
本当にそう言う問題じゃない。
バナナの皮が口を開き……え? 口ってなに?
とりあえず、その口から輪切りされたバナナを飛ばしてきた。
狙いは……やはり俺の口。
俺はもちろんそれを避ける。
避けて避けて避けて、隙を見つけようとしたが――
バナナの皮が何かを俺の足元に投げてきた。
それは――
思わずそれを踏んづけてしまい、俺は大きく転んだ。
てか、本当に転ぶんだな……バナナの皮。
まずい!
……いや、攻撃をくらいそうだからまずいんじゃなくて、すでに俺の口の中にはバナナの輪切りが入っていた。
つまり、不味い!
なんだこの甘ったるさ。糖度もここまでくれば凶器になる。
なにより、これには――
「ぐっ、身体が痺れて……動けな……」
薬を取り出そうとする俺だったが、口の中に次々に輪切りのバナナを投げ入れられ……俺はそれらを完食していた。
……料理大会以降、ルシルの料理を口に入れたら食べるように義務付けている自分が恨めしい。
俺がバナナを食べたことに満足したのか、バナナの皮は元の大きさになって落ちていた。
「る……ルシル、俺のアイテムバッグから万能薬を出してくれ」
痺れ毒なので解毒ポーションだと通用しない。
ルシルは俺に言われた通り、アイテムバッグから万能薬を出して、飲ませてくれた。
「で、コーマ。味の感想は?」
「……甘い」
「まだまだ甘いのね。でも、成長しているでしょ?」
……うん、確実に成長している。
ルシルの料理を食べて痺れても普通に喋れる俺……ルシルの料理の免疫ができてきているのかな。
「クリス、大丈夫か?」
「え? ……あ、はい。コーマさんこそ大丈夫ですか?」
「まぁ、こいつの料理を食べるのは慣れてるからな」
俺はそう言って、ルシルの頭をぽんと叩いた。
「……そうですか。仲がいいんですね」
「仲がいい……か。そんな甘い関係じゃないんだけどな」
友達や恋人などではない。運命共同体。
ルシルが死ねば俺も死ぬ。
ルシルのためなら俺は死ねる。
そんな関係だ。
「で、まぁ、ルシルが作ったカリーヌだったが、知性があったのでな、俺の妹弟子として一緒に勉強してたんだよ」
「そうなのよ。カリーヌはコーマと違って魔道具を作る才能があるからね。本当にコーマはダメな弟子で」
「ダメな弟子で悪かったな。まぁ、ダメな弟子だから鍛冶屋に転向したんだけどな」
とりあえず、口裏を合わせるのには成功した。
これでなんとかごまかせるだろうか?
そう思ったが――、
「…………」
クリスは自分の胸を押さえて少し辛そうにしていた。
「まさか……あのバナナを食べたのか!?」
「い、いえ、なんでもないんです! わかりました。全部わかりましたから大丈夫です」
クリスは慌てて手を振った。
ふぅ、なんとかこれでクリスを騙すのには成功したようだ。




