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プロローグ

~前章のあらすじ~

コーマがいっぱいスライムを作りました。

 息が喉を焼いているのではないかというほど熱く、水分はすべて蒸発をしてしまったのではないかと思うほど渇ききっていた。

 その熱は喉だけでなく、足全体にも広がり、私の脳に危険信号を送り続けている。

 幸いなことに足の裏の痛みはもう感じなくなっていた。感じないだけで、振り向くと、落ち葉の上に血が点々とついていた。

 それでも、私は、ただ、ただ、走り続ける。倒れないようにだけ気を付け、少しでも前に、一歩でも前に走ろうとする。

 木の根に躓かないように、小石が足に突き刺さっても構わず、道なき森の中を走り続けた。

 体力の限界なんてとうに過ぎていた。この世界に生まれて一週間・・・、これほどまでに走ったことなど私にはなかった。

 そもそも走る理由なんてなかったから。

 たまに果実を採って食べたこともあったけれど、不思議と食べなくてもお腹がすくことはなかった。

 寝る場所を探そうとしたことはあったけれど、眠たいと思ったことはなかった。


 でも、今は違う。

 明確に迫る命の危機で、私は初めて全力で走り、初めて自分の体力の限界を知り、そして、初めてそれでも走らないといけない状況に陥っていた。

 背後から迫る二匹の獣。その足音や息遣いが先ほどよりもはっきりと聞こえてくるようになった。

 三つ目の狼、彼らは明らかに私のことを獲物だと認識し、徐々にその距離を詰めてきている。


 振り返ると、獣との距離はもう僅かになっていた。

 このままだと、私は彼らに殺されてしまう。自分が何者なのかもわからないまま。

 自分がどうして生まれたのかも知らないまま。


 そんなのは嫌だ。


 そう思い、さらに一歩踏み出した。

 そこは、もう森ではなかった。


 森から抜けた。そう認識したとき、私は躓いていた。


 ……違う、躓いたんじゃない。


 森を抜けると、そこは崖だった。そして、私は落ちていた。

 崖の側面に腕をうちつけ――そのおかげで崖と距離を置くことができ、私はそのまま谷底の川へ衝撃とともに落ちた。

 深い川――体力の尽きた私には抗うことのできない濁流。


 浮かび上がることもできないまま、私の身はそのまま地下へと流れていく。

 先ほどまで迫ってきていた死が、今は私を包み込んでいる。

 呼吸もできず、頭の中にはまともな思考機能さえ残されていない。


(嫌だ……嫌だ……嫌だ……まだ死にたくない)


 あるのは生物全てが持つ、生存本能による声にもならない叫びのみ。


(まだ生きたい……生きていたい……死にたくない)


 私はまだ死ぬわけにはいかない。

 何もできていない。

 何も残していない。

 何もしていない。


 私の願いは誰にも届かない。

 誰にも届かない、届くのは私の中だけ。

 確かにその声は私に届いた。届いてしまった。


 そして―――私は闇へと沈む中、力が溢れてくる。


 魔力……そう、魔力と呼ばれる力が。


 気が付いたら、川が無くなっていた。

 川底だったそこに私は横になっていた。


 水は私の横に大きくあいた穴へと入っていっているようだ。

 そして、その穴とは別に、私の前に横穴があった。 


 不思議と先ほどまでの身体の痛みはなくなっており、私は誘われるようにその横穴へと入っていく。

 うっすらと光を放つ洞窟の中。


 何かが動いた。

 私はそれをじっと見つめる。先ほど狼に襲われたばかりだというのに、不思議と恐怖はなかった。

 動いたと思ったのは花だった。茎が枝分かれし、二本足のように歩いて進む真っ赤な花を見て私は微笑んでいた。


 奥へと進もうとすると、その花は岩陰から私を見ていた。


 ついてくる? と尋ねると、花は私の後ろについてきた。


「名前? なんていうの?」


 尋ねると、花は何も答えない。


「じゃあ、私が名付けていいかしら?」


 花は何も答えない。でも、拒否をしている様子はない。


「なら、貴方の名前は……ロサ……ロサにするわ。いいかしら?」


 私が訊ねても、花は何も答えない。でも、拒否している様子はないので、ロサと勝手に名付けることにした。

 生まれて初めてできた友達。ロサは私のことを友達とは思っていないかもしれないけど、私が勝手に思うことにした。

 拒否している様子もないし、勝手に思うことにした。

 でも、本当に不思議な感覚。初めて出会ったはずなのに、どうしてかしら。


「じゃあ、ロサ。一緒についてきて」


 ロサは私の後ろをついてきた。

 そして私は洞窟の奥へと進む。

 進まないといけない気がしたから。


 そして――私は思った。


 私はここに来てはいけなかった。


 私がここに来たのは間違いだった。


 私は何も知らないまま死んだほうが良かった。


 だって……この後私を待っているのは、おそらく決定した死なのだから。


「ロサ……お願い、最後まで一緒にいてね」


 私は震える声で、ロサに……赤色の綺麗な花の魔物に……初めての友達に……初めての配下にそう頼んだ。


 ここはリーリウム国の辺境の森。それ以上でもそれ以下でもない情報を与えられた私は、ただ、その森の奥の洞窟の中で、ずっと怯え続けることになるだろう。


 一人の……魔王として。

ということで、ここから5章に入ります。

また新キャラ女かよ!

という声もあるかと思いますが、安心してください、次の新キャラも女性です。


次回から普通にコーマも出てきます。

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