威力絶大薬草汁
~前回のあらすじ~
クリスのキャラ設定が崩壊しました。
「それにしても、クリスが強かったなんてなぁ、驚いたよ。ほれ、健康ジュース」
「ありがとうございます。勇者を目指す身としては当然です。そのメガネはなんですか?」
相変わらず、中身を確認しないで緑色の液体を飲み干すクリス。
いつもなら、こいつ、本当に大丈夫か? と思うところだが、先ほど、クリスが見せた剣戟だけなら一流だな。こいつが生きてこられた理由がわかった。
もしも俺とクリスが一対一で戦ったら負けるのは明らかに俺だろう。
勇者と魔王で、スタート位置が勇者のほうが強いってどういうシナリオだよ、全く。
普通は勇者がレベルアップしていって、魔王に追いつく展開だろうに。
「だから、70階層から行きたかったんですが。誰もいないじゃないですか」
討伐ポイントは魔物の強さによって代わる。
説明後に配られたパンフレットによると、リザードマンの落とす蜥蜴の尻尾は12Pt。ちなみに、90階層に登場するミノタウロスの角は140Ptだ。
ポイントがそのまま討伐ポイントになるわけではなく、合計ポイントを相対的に評価して、100点満点のポイントが与えられる。
そのため、多くの勇者候補とその従者は高額ポイント狙いで下の階層にいっているだろう。
「そうだろうな。だからこそアイテムが山のように落ちている」
「価値の低いアイテムばかりですよ……あと、そのメガネはなんですか?」
カレイド石、記憶草、蛇の抜け殻、毒水、十年杉。
全て【レア:★】のアイテムばかりだな。
「こっちは数押しで行くぞ。目指すはリザードマン100匹討伐だ。あ、ちなみに、魔物の巣があっちにあるから行くぞ!」
「え? なんでわかるんですか? あと、そのメガネはなんですか?」
「ははは、気にするな!」
「似合いませんよ?」
「それこそ気にするな!」
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索敵眼鏡【魔道具】 レア:★★★
近くにいる魔物の場所がわかる瓶底眼鏡。
オシャレとは程遠い便利グッズ。視力矯正機能はありません。
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魔石(低)とガラス(ポーションの空き瓶)、鉄インゴットで作り上げた便利グッズ。
ランクは低いが、とても便利だ。
といっても、距離と方角だけなので、迷路構造のような場所だと探すのに苦労しそうだが。
「……本当にいた」
迷宮の小部屋にリザードマン10匹がいた。
「クリス、行きます!」
「おう、行ってこい!」
先ほどよりも鋭さの増した剣の威力で、リザードマンの巣の中で乱舞する。
血飛沫が舞い、魔物が消滅してアイテムだけを残していく。
それを美しいと思ってしまうのは、俺もこの世界に毒されてきた証拠だろうか?
「よし、お疲れ! 怪我してないか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか、じゃあ俺はアイテム集めてるから、奥の部屋にもリザードマンがいるみたいなんだよ。倒してきてくれないか?」
「え、いまからですか?」
「おう、薄利多売でやってるんだ! 休んでる暇はない、時は金なり! 善は急げ! 倒し終わったら3分の休憩をくれてやろう!」
「うぅ、わかりました」
クリスはそう言うと、一人で奥の部屋へと向かう。
そして、俺は魔石を拾い、
「アイテムクリエイト!」
そして、記憶草と魔石でもアイテムを作り上げる。
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転送石【魔道具】 レア:★★★
使うと、転送陣から、利用したことのある転送陣へとワープできる使い捨てアイテム。
完全犯罪を目指すあなたのアリバイ作りにどうぞ。
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説明文が犯罪を煽っている。
説明文を読むことのできる鑑定人が少なくてよかった。鑑定スキルはレベルが低いうちは、名前のみ、レベルが上がると種類、レア度と鑑定できる項目が増えていく。
そして、最後に説明文が表記されるらしく、読むことができる人は極稀らしい。
アイテム図鑑も名前とイラストしか登録されないからな。
これで、いつでも魔王城に帰ることができる。魔王城にも転移陣があるから。
もう、勇者になる必要もなくなったな。とはいえ――
「コーマさん! 倒し終わりました!」
「おう、もう終わったのか。じゃあ休憩は先送りにして、あっちに魔物の巣があるみたいだから行ってみるか!」
「えぇぇ、まだですかっ!」
さすがにクリスを放ってはおけないよな。
魔王城に今夜一度行くが、試験が終わるまで付き合ってやるか。
「急げよぉ! 制限時間まであと6時間しかないからな!」
「ふぁぁぁい……まだ1時間しか経っていませんね」
制限時間は夜の20時だ。
それまで狩って狩って狩りまくれ!
夜の19時52分。リザードマン279匹倒して、俺達は10階層へと戻ってきた。
その後、ギルド員が集計して翌朝には順位が張り出されるという。
ちなみに、遅刻した人はというと、
「2秒遅刻ですね。減点20です」
レメリカさんにそう宣告されていた。
奴らは運がいい。10秒以上遅刻したら強制失格だからな。
とはいえ、300点満点の競技において、20点減点はアウトの部類だろう。
ちなみに、この世界では時計は砂時計の他に魔力時計というものが存在する。
魔力時計は魔石(低)を埋め込むことで正確な時を20年刻み続けるという一品だ。
今回の試験では、全ての勇者にこの魔時計がレンタルされている。時刻も全員ぴったり合っているので、時計がずれていた、なんて言い訳は通用しない。
魔石(低)を除くアイテムの山をギルドに渡し、俺達は宿へと戻った。
飯屋で食事をとり、俺は用事があるから今夜は戻れないとクリスに言う。
そして、夜の町へ抜け出し、買い物をした後、10階層へ続く転送陣に行く。
自己鍛錬のため9階層に行く勇者候補の姿もいたので、それにまぎれる形で、俺は転送石で戻ることができた。
魔王城へ……と?
「あ、コーマ、おかえり。早かったわね」
タタミの上で靴を脱いで寝転がっているルシルを見る。
こうしてみると、ただのニートだな。
見た目は銀髪の美少女なんだけど、今の姿を見ていたらジャージが似合いそうだ。
「いや、予定より一日遅れなんだ。寂しくなかったか? ルシル」
「うん、グーとタラもいたし、全く寂しくなかったよ」
そうだよな。
グーとタラ、つまり二匹のコボルトが農作業をしているのは、窓のないこの部屋からもよく見える。
ジャガイモ畑のほうはそろそろ収穫できそうだが、やっぱり主食としては小麦のほうがほしいかなぁ。
とはいえ、地上と行き来が楽になった今では食糧を自作する意味は薄くなったけど。
「そうかそうか、俺は寂しかったな。いや、寂しくなったな。一体全体、どうしてこうなったのか説明してくれないかな?」
はりついた笑顔のまま表情を崩すことのない俺に、ルシルは流石にバツが悪そうに言った。
「ちょっと失敗しただけなのよ。ちょっと。ちょっと、コーマが帰ってくるまでに、薬草汁でも作ってあげようかなぁって思って」
「思って?」
「なぜか薬草汁がドラゴンになって、天井ぶち破って出て行っちゃったの」
「そうかそうか、薬草汁がドラゴンになって天井をぶち抜いて出て行ったのか。うん、納得だわ」
瓦礫の山の中で俺は頷く。転送陣の描かれた壁が無事であったことは僥倖というしかないな。
そうかそうか。
「だからお前は料理禁止って言っただろうがぁぁぁぁっ!」
俺の怒りの咆哮が迷宮の最下層に響き渡った。
~転送アイテム~
転送アイテムと聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、キメ〇のつばさでしょうか。キメラという魔物の羽です。ですが、これは転送アイテムではありません。これは空を飛んで目的の場所に移動するだけの道具です。その証拠に室内や洞窟の中などでは使えません(一部例外を除く)。ドラ〇エシリーズの転送アイテムといえば、旅の扉。まぁ、アイテムと言えるかは微妙だけど。
ここに入ると空間が歪んで移動します。このイメージは宇宙戦艦ヤマトのワープをイメージしていそうですね。あと、リレミト、これは立派な転送魔法です。
アイテムにするならリレミトの巻物ですが。
でも、日本人中にとって一番なじみのある転送アイテムといえば、やっぱり
「どこでもドア」ですよね。ドラえもんので、あったらいいなランキング第一位に選ばれた転送アイテム。そして、私の中で、「いざというときには使えなくなるアイテム第一位」でもあります。
そう、転送アイテムはいざというときには使えない。いろいろと制限のあるアイテムでもある。ということを絶対に忘れてはいけません。
と、話が脱線。
転送は超高速の移動ではない、というのが一般的です。
というのも、そんな高速で移動したら、空気摩擦により焼け死ぬとか、途中にある壁に激突するとか言われますよね。
それを逆手にとって、魔術士オーフェンの瞬間移動魔法は高速での移動で、瞬間移動による攻撃なんてしていますが、こっちは例外。
よく、転送アイテムで転送した先に壁があったらどうなるのか?
とか言われます。いや、そもそも、転送先の空気はどうなるのか? も気になるところですよね。そのため、転送は空間の置き換えになっていますが、じゃあ、置き換えする空間の境界線に人がいたらどうなるのか?
とかも気になります。
転送についてあれこれ考えれば、その裏をかいた攻撃方法が見つかることでしょう。