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ドアによる未来 作者:饗庭淵

三章 ドアによる戦争(上)

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(3-3)

3.
 オドンネルにはわからなかった。首を捻り、眉間に皺を寄せる。ここに立つ
といつもそうだ。もう何度も目にしてきた。手で触れたこともある。実際に使
ってもみた。その内部構造も機能も調べ尽くした。議論を重ね、思考を重ね
た。だが、未だにその正体に届く光明すら見えない。
 そう、彼の目の前にあるのはオリジナルドアだ。このあまりに不可解な代物
に対し、彼を含めた米国の優秀な科学者たちは知恵を絞って究明に挑んだ。そ
うして、考え得るあらゆる方法で徹底的に検証したのだ。
 それでもわからない。これはいったいどこから来たのか。得体の知れぬまま
に使いこなすことはできる。あまりに気味が悪かった。
「所長。おはようございます」
「サキジマ。ちょうど君と話がしたいと思っていたところだ」
 崎島は米国に亡命するにあたり、ドアについて持っている情報はすべて明け
渡した。オリジナルの入手先も当然そのなかに含まれる。すなわち、水害現場
の底で沈んでいた物体を潜水ロボットで拾い上げたもの、という証言だ。
 この報告を受け、米軍は日本政府の反対を押し切り再度被災地の綿密な調査
を行った。だが、米軍の念入りな調査にもかかわらず――すでに時間が経って
いたせいもあるだろうが――かつて崎島とクリスが冗談交じりに議論した以上
の答えは得られなかった。水質の毒性との関連性、及びその正体もまた不明で
ある。オリジナルドアそのものの調査についても同様だ。わかるのはただ、現
代の人類には到底考えられないオーバーテクノロジーの結晶であるということ
だけだ。
 たとえば、内蔵コンピュータの処理能力。空間接続は原理こそ単純な物理現
象だが、人間がうまく扱えるよう「翻訳」するには膨大な演算処理を必要とす
る。米国の開発したレプリカでは実験用の最小規模のドアでさえそのためにス
ーパーコンピュータを用いる。一方、オリジナルは加速器サイズのドアでさえ
実現し得ない射程を有しながら、内蔵している小さなコンピュータでそれを済
ませている。空間制御装置についても同様だ。本来ならこれほど小型でありう
るはずがない。理論を学ぶほどに信じがたい気持ちは深まる。そこにあるのは
底なしの疑問と、洗練され完成された一個の精密機械に対する畏敬の念だけだ
った。
「宇宙人の置き土産だの、未来人からの贈り物だの、好き勝手にいわれている
が……私にはどうもついていけん。サキジマはどう考えている?」
「僕も似たようなものですよ。SFには詳しい方ですが、オチとしてはだいた
いそんなものでしょう」
「もどかしいな。この宇宙に未知というものが存在するのが我慢ならんからこ
の道を志したというのに、こればかりは考えてもわからぬか……」
 オドンネルは、右から左からまじまじとオリジナルドアを眺めては低く唸っ
ていた。起源については話せることもなく、話題はいつしか崎島とオリジナル
との思い出話に移っていた。崎島は嬉々とした表情で、かつてオリジナルドア
によって救われたときの逸話を話した。
「あのときは本当に死ぬかと思いました。が、ドアさえあれば逃げられる、ド
アの元にさえ辿り着ければ逃げられると、それだけを信じて駆けたんです」
「さすがの追跡のプロもドアの前にはどうにもならんか。それにしても、オリ
ジナルは本体そのものを移動できるのが強いな」
「こいつがあればどこへだって行けますからね。出会ったその日に地球の反対
側のフロリダにまで繋いだものです」
「お。思わぬ弱みを握ってしまったな。まさかの犯罪告白とは」
「亡命者は密入国の前科を問われるんですか?」
「君の冒険譚に免じて許してやろう。さ、早く続きを話したまえ」
「フロリダ旅行? それともスパイ映画?」
「フロリダは私の故郷だ。スパイ映画に決まっておるだろ」
「では。さて、ドアを通して研究所へ逃げ込んだのはいいのですが、こう、後
ろ手に指錠がついたままなんですよ。どうしたと思います?」

 ホワイトハウス西棟地下・シチュエーションルーム。CIA情報分析官ジョ
ニー・ライマンは会議室に集まった国防関係の要人の前でブリーフィングをは
じめた。そこには国防総省長官、国務省長官、CIA副長官、統合参謀本部議
長、各軍大将など錚々たる関係者が顔を揃えている。最後には大統領安全保障
担当補佐官および大統領が姿を現した。事態はそれほど深刻で、緊急を要する
ものだった。
 スクリーンには中国とロシアの国境を中心とした衛星写真が映されている。
そのなかには朝鮮半島や日本も含まれていた。ライマンがリモコン操作により
写真を拡大すると、問題となる対象がより鮮明に映し出される。それは目を疑
うような光景だった。
「これは今より二時間前、NRO(国家偵察局)によって撮影された衛星写真
です。ご覧の通り、中国黒竜江省のロシア国境付近にて大規模な爆発が確認で
きます」
 この報告に聴衆側は少しざわめき、「これはかなりでかいぞ……」と囁く声
が聞こえた。
「続いて、これは地上から撮影されたもの――距離はありますが、画像補正を
かけると見事な原子雲が確認できます。これは核爆発です。爆発現場の近辺よ
り強い放射線が検出されました。ですが、これは核実験ではありません。中国
もこんな場所で核実験を行うほど馬鹿でもない。実験していたのはおそらく…
…核ではなく、ドアです」
 ドアという単語に、聴衆の動揺はさらに大きくなった。いったん落ち着くの
を待ってから、ライマンは報告を続けた。
「崎島博士のドア論文にもあるよう、ドアはその使用法を誤ると核分裂反応や
核融合反応を誘発するおそれがあります。断定できる証拠はありませんが、こ
の核爆発はドア実験で中国がなんらかのミスを犯した結果であると考えていま
す。現在、測定した放射線エネルギーから核種の特定を急いでいます。この結
果からも、核実験ではないことが直にわかるでしょう」
 報告を終え、ライマンも着席して会議に加わった。この事態に対しどう手を
打つべきか。ライマンにはビジョンが見えなかった。それは、この場に集まっ
た全員にもいえた。
「今こそオリジナルドアを使用すべきだろう。国境付近でのドア実験施設、こ
れは明らかに条約違反だ。事件現場のさらなる調査と、中国にしかるべき制裁
を。また、情勢悪化を避けるためにロシアとの仲介も必要になる」
「だが、まだこれが本当にドア実験によるものなのか、すなわち条約違反なの
かはわからないのだろう?」
「それ以外になにが考えられる? いずれにせよ爆発は起きた。真相は確かめ
ねばならん。それこそオリジナルを使ってでもだ」
「オリジナルの使用にはもっと慎重になるべきだ。ロシアや中国からオリジナ
ルの存在を疑われているこの状況での使用は、彼らにさらなる状況証拠を、悪
くすれば決定的な物証を与えかねない」
「中国とロシアの対立関係が悪化し、戦争になるよりは遙かにマシだ。そして
それは、ドアによる戦争――まったく新しい概念の、もはやないと思われてい
た大国同士の戦争――第三次世界大戦を招くおそれがある。それだけは避けね
ばならん」
 たしかに、この状況ではオリジナルの使用も辞すべきではない。ライマンに
もそう思えた。だが、その一方でなにか引っかかるものがあった。彼はその思
いをうまく言語化することができないでいた。
「中国が国境付近に建造した秘密研究所は一つとは限らん。少なくともそのう
ちの一つは今回の事故で壊滅しただろうがな。このあたりはどうなってい
る?」
「情報が不足している。だが、間違いなく秘密研究所は存在する。国境付近で
はないが、いくつかその場所の候補はある。この様子だと、対モスクワとして
新疆ウイグル自治区にも隠してあると考えるのが妥当だろう」
「まずはロシアの怒りを鎮めることだ。あるいは中国が暴走して先制攻撃を仕
掛けることも防がねばならん。秘密研究所を暴くことはなによりも急務だ」
「対応が遅れれば最悪の事態を招くぞ。私もオリジナルの使用に賛成だ。躊躇
っている場合ではない。調査だけでも速やかに実行に移す必要がある」
 実際にオリジナルの使用に踏み切れたのは二四時間後のことだった。慎重派
の反対や手続きの煩雑さが原因だ。研究者からの反撥も大きかった。軍のみな
らず、CIAや警察系特殊部隊などの各組織からも訓練のためにと続々オリジ
ナルの貸出を申請してきた経緯があったからだ。そのため、研究が滞るという
理由から「実戦使用のみ許可」となった。今回がまさにその実戦だった。その
主張を繰り返すことで彼らもしぶしぶ折れざるを得なかった。
 AN/PSQ-1。オリジナルドアは、軍用電子機器の命名規則に従ってそ
う呼ばれることもある。その意味の内訳は、設置場所=携帯用(P)、種類=
特殊または複合(S)、目的=特殊または複合目的(Q)。なんてことだ、携
帯用ということしかわからない。名前だけで概要を伝えることを目的としてい
たはずの命名規則がこの様だ。だが、まずこれで伝わる。文字通り、こんな特
殊な機器など他にありはしないからだ。
「驚いたな。本当にこんなに小さいのか」
 ライマンも仕事柄ドアに触れる機会はある。だが、オリジナルを目にするの
は今日が初めてだった。真に驚嘆すべきは「携帯用」という点に尽きる。こん
なものが、10kg程度の大人一人でも持ち運びできるようなものが、米国が
現在保有する最強の戦略兵器なのだ。
 さっそく行動に取りかかる。何度かの簡易な試験接続の後、衛星写真のデー
タを元に目標地点にドアを接続する。ただし、対放射線の装甲を何枚も重ねた
上で。たとえ防護服を着用したとしても現場に足を降ろすのは危険の伴う。ゆ
えに証拠写真も物品回収も機械任せだ。もっとも、機械でも強い放射線に晒さ
れれば故障の可能性はある。
 同様のシチュエーションを想定した訓練は何度か受けているが、あいかわら
ず奇妙な感覚だと操作員は思った。本土から操作できるという点では無人機に
似ているが、決定的に違うのは遠隔ではなく装甲越しに直接操作しているとい
うことだ。その意味では戦車が近い。あるいは潜水調査船か。それともクレー
ンゲーム? ドアのこちら側は米国の快適な室内、向こう側は海の向こうの危
険極まる放射線地帯。数枚の装甲が両者を隔てている。こんな状況、他にいい
喩えなど見つかるはずもない。
「あれが爆心地か。見たところ間違いないな」モニターを覗き込んでいたライ
マンがつぶやく。
「なにが間違いないって?」
「地下からの爆発だということだ」
 地下から大きく捲り上がったようなクレーター。本来は緑豊かな自然保護区
であったはずが、もはや影もなく荒れ果てている。操作員は機械を通してその
場の映像を記録しつつ、マニピュレーターで手当たり次第に証拠品を物色し
た。
「近くの村を探してくれ。目撃証言が欲しい」
 遅かった。すでに爆発事故を目視できる範囲の住民は全員行方不明となって
いた。潜伏していた米諜報員も同時に行方をくらますことになる。そして、事
故現場を含めた広範囲が立ち入り禁止区画に指定され、人民解放軍が警備につ
いた。事故の詳細を徹底して隠蔽しようとする中国に対し、米国はさらに危機
感を募らせた。
「予想はしていたが中国め、ここまでやるか。まさか目撃者の一人も入手でき
んとは」
「中国は爆発事故を不発弾によるものと説明している。満州国時代の名残だろ
うなどとぬかしている」
「不発弾だと? 馬鹿にしおって」
「だが、オリジナルドア以外ではあの場所にドア研究施設があったという決定
的な証拠は手にできていないのも事実だ」
「ロシアも独自の調査で同じ結論に達したらしく、激しい怒りを露わにしてい
る。このままではまずいぞ」
「ロシアはどうなんだ。同じように国境付近でやらかしてはいないだろうな」
「念入りに警戒しているが、その可能性は極めて低い。驚くことに真っ白だ」
「決まりだな。やるしかないだろう。中国を叩くのだ。やつらを許すな」
 事故現場の調査で確信を強め、情勢の悪化を懸念した米国はさらに中国への
攻撃を決定。ドア開発を推進する共産党員の暗殺を遂行。アルコールを服用さ
せ、足を滑らせた設定で水死させた。オリジナルドアによる中国への攻撃はこ
れで二回目になるため、手慣れたものだった。
 ロシアが行うはずだった攻撃を代行して怒りを鎮め、中国は国内の事後収拾
に注力させ動きを封じる。これで事態は収束に向かい、最悪の事態は避けられ
たはずだった。が、米国にとって思わぬ誤算が生じる。
「ロシアでも暗殺だと?!」
 ライマンから報告を受けたCIA情報担当長官は思わず机を叩いて罵倒の言
葉を吐いた。
「やられたのは中国と同じくドアの関係者です。そのため、犯人に米国が疑わ
れています。ロシアは、この不可解な事件の連続をオリジナルドアの状況証拠
だとして主張を強め……」
「冗談じゃない! ロシアのでっち上げか?」
「それが、北朝鮮でも同様に政府要人が暗殺されています」
「なに、北朝鮮でも……? まさか、私の知らないところで本当に米国が暴走
しているのか? オリジナルの管理はどうなっている!」
「アリゾナ州の加速器偽装研究所です。今回の使用は対中国に調査と暗殺。そ
れ以降は目を離さず二四時間体制で管理していたとのことです。映像記録もあ
りますから、これについては間違いありません」
「偶然なのか? しかし、あまりにもこれは……」
「かなりまずいですね。北朝鮮はともかく、ロシアの事件は自作自演なのか、
はたまた中国の仕業か。ロシアの発表どおりなら我々の関与が疑われるに足る
状況です」
「それだけはないはずだ。他に情報はないのか?」
「調査は進めていますが、まだなにも。オリジナルを使えばまた別かも知れま
せんが」
「それでは連中の思う壺だ。なんらかの罠が仕掛けられていると思って警戒し
た方がいい。それに、公表できる形で証拠を掴まなければ意味がない」
「中国の仕業にしてしまうのが最善でしょう。中国は爆発事故の原因を不発弾
から敵の攻撃へと主張を変えています。その敵の正体について明確な言及はし
ていませんが、米国であることを匂わせる発言が随所に見られます。このまま
ではロシアと中国、二国を同時に敵に回しかねない」
「ロシアは取引に応じると思うか?」
「私の仮説が正しければ、あるいは……」
「仮説だと?」
「はい。長官、私にはまだ一つ気になっていることがあります。なぜロシアが
ここまで大人しいのか、ということです」
「ロシアは今回の事件で再びオリジナルドアの言及をはじめたが……」
「いえ、今回の事件に関してではなく、条約に対する動きです。これについ
て、私には一つ仮説があります」
「なんだ、いってみろ」
「ロシアもオリジナルドアを保有しているのではないか、ということです」
「ありえん!」
「ドアの起源はそもそもが不明です。ないとは言い切れません」
「たしかに、仮にそうであるならばロシアの態度も説明がつく……」その符合
に、長官はみるみる青ざめた。
「ですが、これはある意味でチャンスでもあります。ロシアがオリジナルドア
を保有している証拠を掴めば、これを取引材料に交渉できるかも知れません」

 崎島は昨晩書き上げた企画書の第一稿を持って研究所内を歩き回っていた。
が、上階から見下ろしてみても忙しない研究員が見えるだけで、肝心の相談相
手が見当たらなかった。廊下を駆ける研究員と肩がぶつかる。なんだか今日は
特に慌ただしいように思う。ニュースのせいだろうか?
 少し疲れたので休憩所で腰を落ち着け、自販機でコーラを買って飲みながら
改めて企画書を読み直すことにした。いくつか誤字を発見したので、ペンを取
り出して修正した。内容についても特に大きな問題は見当たらない。一方で、
細かい事項については補足説明すべき部分も見えてきた。
 コーラを飲み干し、チェックが終わると再び立ち上がって探し始めたが、代
わりに見つかったのは電話中のクリスだった。通話が終わるのを見計らい、崎
島はクリスに声をかけた。
「クリス、所長を見なかったか? 条約仕様に合わせた新しいアイデアを思い
ついたから相談したいと思っていたんだが」
 クリスは背を向けたまま返事をしなかった。
「おい、クリス」
「……崎島も知っているだろう」
 口を開いたと思ったら、出てきたのは答えではなく疑問系の言葉だった。そ
れも、変わらずに後ろを向いたままだ。
「ん? なんのことだ」
「中国で起こった事故。ロシアや北朝鮮で起こった暗殺事件。世界は今、ドア
のために危機に瀕している。互いが信じられずに、いつ武力衝突が起こっても
おかしくない状況にある」
「らしいな。考えたくない事態になってしまった。オリジナルも何度か貸し出
されたし」
「そのせいなんだ。こんなことになってしまったのも」
「だから、さっきからなにをいってるんだ」
「オドンネル所長は……殺されたよ」
 クリスはそこでやっと振り返り、崎島の目を見て答えた。
「え?」
 崎島は耳を疑った。クリスもしばらく黙っていた。
「このタイミングだ。敵国の攻撃とみて間違いないだろう。中国の報復か、あ
るいはロシアの先制か。それはわからない。だが、殺されたことだけはたしか
だ。事故に偽装すらされていない。監視の厳しいこの施設内ではその暇もなか
ったんだろう」
「所長が……いったいどうして」
「研究施設内にスパイが潜り込んでいたんだ。清掃作業員だった。取り押さえ
たときにはすでに毒薬カプセルを服用して自殺していた。ここがドアの秘密研
究所であることも当然ばれている。通信の形跡がないのは不幸中の幸いといえ
ないこともない。外部への通信は遮断されているからな」
 そういった事情は崎島にとってはどうでもいいことだった。というより、ク
リスの言葉はもはや耳には入らず、二年間の短い付き合いながらもオドンネル
所長との思い出が走馬燈のように巡っていた。
 不慣れゆえに犯してしまった失敗をカバーしてくれたこと。彼の著書を進呈
してもらったこと。テニスで共に汗を流したこと。軍事利用と平和利用につい
て意見を交わしあったこと。思うほどに尊敬に値する人物だった。
「軍事利用も平和利用も大して変わらないだって? その軍事利用の結果がこ
れじゃないか……」

 三人の米国人男性が笑いながら街を歩いていた。女の話だったり、くだらな
いジョークを飛ばし合ったり、カリフォルニアの陽気に似つかわしい光景だ。
彼らはソフトクリームを舐めながら、ダラダラと特に当てもなく散策してい
た。その道中で、彼らは騒がしい少数のデモ隊に遭遇する。内容はドアの情報
公開。ドア開発には軍が関わっており、軍はその開発成果を半分も公開してい
ないという主張だ。そして、国民の税金によって生み出されているその新技術
の成果を民間に還元するよう求めるものだった。
「なあ、お前らドアって知ってるか?」
「ああ。俺の部屋にもついてるぜ」
「すげえな。今度使わせてくれよ」
「移動先の設定が俺の部屋以外に変えられない不良品だけどな!」
 これもくだらないジョークの一つだ。笑い終えると少し真面目モードに切り
替える。
「ドアか。ホントすげえよな。この前また新しいのが出たらしいからネットで
動画を観たよ。まったく、最初は手品かと思ってたけどガチなんだよな? い
ったいなんなんだドアってのは」
「俺に聞かれてもわかんねえよ。いくら調べてもさっぱりだ。そのへん、マイ
ク詳しいだろ」
「……ドア、軍事利用でやばいことになってるみたいよ」
 マイクと呼ばれた、ギーク風の男はぼそりとそういった。
「ん? 軍事利用か。敵地の真ん中にどーんと乗り込めばやりたい放題だな」
「お前がドアを手にしたところで覗きにしか使わねえだろ。どうせジェシーが
気になってんだろ」
「そんなことしねえよ。もっとこう、なんかあるだろ。こう」
「背後をとって抱きつく、か?」
「だから違うって」
「いーや、手つきが完全にそうだった」
「ん、そうか。服の中をこっそり覗くなんてこともできるのか」
「せこすぎる……お前の頭はそれだけか? もっとスケールのでかい発想をし
ろよ」
「言い出しっぺはお前だろ!」
「ロイ。真面目な話だ。ドアはすでに実戦で使われている」
 ただ、マイクだけが笑ってはいなかった。
「実戦たって、まだその域には達してないって話だが。あの騒音装置が喚いて
るように、実際の成果を隠してるにしてもだ」
「わからない。でも、ドア技術で先駆けている米中露、この三大国の仲がかつ
てないほど険悪化しているって」
「なんじゃそら。もともと仲なんてよくなかっただろ」
「それだけじゃない。中国でよくわからない爆発事故があったのは知ってる
か?」
「んー……、そういう噂は聞くな。ドア実験のミスだっけ?」
「米国がそういった報道をしたことにも、根拠のない決めつけとして中国は抗
議してる」
「なるほど。で、ロシアは?」
「その事故をきっかけに各国が疑心暗鬼に陥って、その……とにかく、ドアに
よって戦争が起ころうとしているんだ」
 その言葉にはさすがにロイも吹き出して笑ってしまった。マイクの背を叩き
ながら窘める。
「ソースはまた例のBBSか? ないない。いくらなんでもない。このご時世
に、大国同士の戦争かよ。なあ、アル?」
 返事はなかった。呼ばれた彼の視線の先は、街頭TVだ。
「おい、マジかよ……」彼はソフトクリームをぼとりと手からこぼし、靴を汚
していた。

 中国での爆発事故に次ぐ同時多発暗殺事件を機に、一触即発の疑心暗鬼はつ
いに暴発。各国が宣戦布告を開始した。
 ドアによる戦争が起ころうとしている、ではない。それは起こってしまっ
た。
+注意+
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