episode17 若林の受難
せっかくの休みなのに、結局予定を入れることができなかった。一人きりの休みなんて久しぶりだ。まぁ、一人っていうのもたまにはいいか―――。
目的もなくブラブラとウィンドウショッピングをしながら歩いていると、数人の若者が一人の小柄な女の子を囲んでいた。
ショートヘアの似合う、目鼻立ちの整った目を見張るような美少女だった。小柄な体をより小さく縮めて、今にも泣きそうな顔をしている。
イヤだねー、そんなガツガツしてるから君たちモテないのよ?苦笑しつつ、スッとその場に向かい美少女に声を掛けた。
「こんなところにいたのか、探したじゃないか。ごめんねー、連れなんだこの子」
突然現れた若林に、戸惑っている美少女の手を引いて立ち去ろうとしたが、若者の一人に肩を掴まれた。
「おっさん、邪魔すんなよ!」
間髪を入れず、肩を掴んでいる手を捻り上げ仲間たちの方へ体を思い切り突き飛ばした。彼の体に当たって仲間たちが怯んだその隙に「逃げるぞ!」と美少女の手を引いて走った。後ろから彼らの怒声が聞こえるが、無視して走る。
警察手帳ないし、面倒も好きじゃないから逃げるが勝ちってね。映画のワンシーンのような逃避行を頭に浮かべながら、彼女の手を引いて街中を走った。
「もう大丈夫」
かなり離れた場所まで来てからそう言うと、白い頬を上気させ、息を切らしながら美少女は礼を言った。
「あ、ありがとうございました!」
頭を下げて礼を言うその子の声は―――紛れもなく男のものだった。
「え?」
固まって動けないでいる若林に、少年は照れくさそうに笑った。
「―――君、男の子?」
「はい。僕、ミズシマトオルっていいます。本当にありがとうございました」
そんなバカな!俺が、男と女を間違えるなんて―――。三十二年生きてきて、こんなに衝撃を受けたのは始めてだ。
「い、いいんだよ・・・・気にしないで。俺、人助けが趣味なんだ・・・・あはは、じゃあ気をつけてね」
頭の中が混乱して、彼を残してフラフラと歩き出した。早くこの場を立ち去りたい。ありえない・・・・。視力が落ちたのかもしれない。忙しかったから、仕事で疲れてるのかもしれない。きっとそうだ。俺は、疲れているんだ。
おそるおそる振り返ると、既に少年の姿はなかった。
しっかし、まぁ―――可愛らしい顔してる子だったな。あれじゃあ、絡まれるのもしょうがないよな。
――――ん?いやいや、違う違う!男の子にしては可愛らしい顔ってことだ。
いきなり立ち止まり、頭を抱えて勢いよく振ったので隣を歩いていた女性が一瞬体をビクリとさせジロリと睨んできた。
自分の新しい発見なんて絶対違うぞ。ないない、絶対ない。俺は女の子が大好きなんだから。
はぁ―――。今日は、もう帰ろ。
仕事してりゃよかった―――。
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