episode16-15 衝突 (現在)
「お前、なんか納得してない顔だな」
ジントニックの入ったグラスを片手に田村に言った。
「―――まぁな」
田村は、頬杖をつきながら烏龍ハイの入ったグラスを見つめていた。
「何が気になるんだ?」
「――田崎は、気が付いたら美咲が倒れていた、と繰り返すばかりらしい」
グラスを見つめながら田村は言った。
「理性が吹っ飛んでて、覚えてないのはよくあることじゃないか。現に、学生時代から似たようなことあったんだろ?」
「田崎が暴れだす『キッカケ』は、父親だ」
田村がサラリと言った。
「お前――まさか調べたのか?!」
俺が咎めるのも無視して、田村は言葉を続ける。
「田崎は、暴れている時以外の記憶は覚えているらしい。もちろん、暴れるに至る『キッカケ』も。なのに、今回は覚えていない。気づいたら、被害者が倒れていた。商店街の狂乱劇だって、『美咲を刺したから』っていうよりは、『美咲が血だらけで倒れているのを見たから』――それが、『キッカケ』だったんじゃないのか?」
何が言いたいんだ?
「―――でも、美山は見てたんだろ?犯行を」
「ああ、ハッキリとな。細かな証言をして、警察に貢献しているよ」
田村はグラスを口元に運んだ。
「なんかトゲのある言い方だな。美山に、まだ何か気になることでもあるのか?」
「――お前はまだ気づいてないのか?美山は、俺たちが警官だということを知っていたんだぞ」
「だからそれは現場に―――」
「そうだ。現場にいたんだ、俺たちが田崎をアパートに連れて行ったとき。犯行を見て逃げたはずの美山が。じゃあ、何しに現場に戻ったんだ?なぜそれを言わない?」
あっ―――。
何てことだ。どうしてそのことに気づかなかったんだ。――俺は、美山の証言で事件が進展することしか考えていなかった。
逃げたはずの彼は、俺たちのことを知っていた。何故戻ってきたんだ?田崎や美咲のことが心配になって戻ったのか?田崎を自首させようと現場に戻ったのか?
――だったら、どうしてそれを証言しない?
混乱している俺に、田村が言った。
「本当に、田崎が美咲を刺したのか?」
「おいっ、何言い出すんだ!」
これだけ状況証拠も揃っているのに―――。田村は、俺を一瞥し、話を続ける。
「所轄も苦労してるみたいだな」
どんなに調べても、田崎が美咲を殺そうとする動機が見つからない。田崎の友人も美咲の友人も口を揃えて言うのは、二人は羨ましいくらい幸せそうだった、ということだ。
「血液検査で、当日、田崎は薬を飲んでいたことがわかっている。それなのに、我を忘れて暴れるだろうか?しかも記憶も一切ない」
確かに動機はわかっていない。田村の言うこともわかる。
「だが、田崎は証言してるじゃないか―――自分がやった、と」
「そう思い込んでいるだけじゃないのか?学生の頃、何度も暴れていたんだ。田崎は混乱し、また自分が暴れて刺してしまった、と思い込んだんじゃないのか?」
田村は俺をじっと見据えた。
「そんな・・・こと、有り得るのか?じゃあ誰が彼女を――」
そこまで言って、やっと田村の言おうとしていることがわかった。
「お前、美山が美咲を刺したと思ってるのか?」
美山の寂しげなあの後ろ姿を思い出す。だって美山は田崎の親友なんだろ?!
「田崎がやっていないのに、なぜ詳細な証言ができる?」
田村は、腕を組んだままカウンター前に並べてあるグラスを見据えた。
「でも、それはお前の推測でしかないだろ?!いくら過去にそういう経験があったとしても、目の前に彼女が血まみれで倒れていたとしても、自分がやったと思い込む――なんて乱暴すぎないか?」
「現に思い込んでるじゃないか」
「いい加減にしろ!」
思わずカウンターを叩きつけた。
田村は、ため息をつき「お前は、美山に肩入れしすぎだ」と言って店から出ていった。
取り残された俺は、カウンターに頭を抱えて唸った。
「畜生!」 |