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公爵令嬢と…

公爵令嬢と、勘違いな求婚者

作者: みぃ

 レイチェル・ギルスは公爵家の長女として産まれた。ギルス公爵は先代国王の末の弟で、成人後に臣下となり公爵位を授けられた。先代国王と公爵とは親子程の年齢差があったので、現国王との方が年齢が近かった。現国王は公爵の甥にあたるのだが、幼少期を兄弟のように過ごしたこともあって、今でもその頃からの良好な関係が続いている。現在、公爵は内政には直接携わっていないが、公爵の持つ影響力は大きい。


 レイチェルはそんな公爵の長女なのだ。嫁ぎ先に困ることなど、本来ならないはずなのだが。




 レイチェルの幼少期は、病気と切り離すことのできないものだった。病弱なレイチェルのことを心配した両親が王都を離れ、より静養に適した領地に居を移したので、レイチェルの記憶には王都での日々は刻まれていなかった。


 そんなレイチェルも静養を続けるうちに、少しずつ健康になっていき、10歳を迎えた頃には、少し庭を散歩したからといって熱を出すなんてことはなくなっていた。それでも完全に良くなるまではと、静かに過ごす日々が続いていたのだけれど。


 静養中のレイチェルにとっては、広大な公爵家の屋敷と庭園だけが世界の全てだった。また家族と使用人の他には、時折やってくる陽気なおじさま(ふらりとお忍びで遊びにやって来る国王…)くらいしか、言葉を交わす人もいなかった。それ以外で言葉を交わしたことがあるのは…一度だけ庭園で出会った少し年上の少年くらいだろうか。




 …子どもの頃のことを思い返していたレイチェルだったが、現実逃避していても仕方ないと、思考を引き戻すことにした。


(…確かに子どもの頃は病弱で、ほぼ完全に引きこもりだったわ。だけど、少しずつ健康になって、今では病弱だったのが嘘みたいなくらいだもの。健康面は問題ないはずよ。まぁ、領地での暮らしが気に入って、王都の華やかな生活は避けていたけれど、ここだっていいところよ。それにお父様の持つ影響力の大きさだって、昔も今も変わらないと聞いたもの。……ダメね、いくら考えてもわからないわ。特に問題はないはずだもの)


 レイチェルが考えていたのは、適齢期を迎えたというのに、まったく縁談の話がないという点についてだった。そう急いで結婚をしたいというわけではないけれど、同じように社交界デビューした令嬢達には縁談の話が舞い込んでいると聞く。なのに、自分のところにはひとつもないのだ。なんでだろうと気になってしまうのも、仕方ないことだろう。


 しかし、レイチェルは考えもしなかった。父親が縁談の話を止めているとは。パーティに出向いた先でも、さりげなく親戚陣でガードすることで、世間知らずなレイチェルは守られていたのだ。


 レイチェルがそれらのことを知るのは、1人の青年の登場によってだった。その青年とは初対面のはずであった。パーティでも出会いそうな相手だったのだけど、何故がレイチェルが参加したパーティには彼は不参加だったのだ。


 彼…現国王の息子で、第二王子のハリスは、実は静養中のレイチェルが一度だけ庭園で出会ったという少年であった。その時の対面でレイチェルに一目惚れしたハリスは、公爵に即結婚を申し入れ…却下された。『自身の力でレイチェルを守れるようになるまでは、娘はやれん!』と。


 しかし、公爵はハリスが父親とそっくりで、一度決めたことには突っ走るだろうことを分かっていた。恐らくハリスは守る力を身につけて、再び求婚に訪れるだろう。その為、ハリスが出遅れることのないよう、レイチェルを他の貴族子息達の手から守ることにしたのだ。一応、大叔父としてのハリスへの温情だ。


 公爵の予想を違えることなく、ハリスは公爵も認めざるを得ないほどの青年に成長して、再び求婚の許可を求めにやって来た。公爵は今度は却下しなかった。そして、ハリスは意気揚々とレイチェルの元へやって来たのだが。


 現在…ハリスは凹んでいた。レイチェルは初めて出会った時のことを覚えていなかったのだ。いや、出会ったこと自体は覚えていたのだが…。


 6年前、ハリスは突然目の前に現れた天使のような女の子に一目惚れし、その儚さ故に早く言ってしまわないと居なくなってしまいそうで…『そなたを妻に迎えたい!』と言った。レイチェルは確かに、微笑み返してくれたのだ…。その後は、会うことは叶わなかったが、恋文だってやり取りをしていたというのに…! それを覚えていないとは…。


 凹んでいる殿下を横目に、レイチェルは考えていた。殿下に会う前に、父から簡単な話があり、『あとはレイチェルの好きなようにしなさい』と言われたこともあって、今までの経緯はなんとなく理解できた。


(微笑んだのがYes? いや、多分…突然何を言ってるのかわからなくて、笑うしかなかったんじゃないかしら。それに、確かに何度か手紙のやり取りもしたわよ。子どもの頃は、他に手紙のやり取りをするお友達もいなかったからよく覚えているわ。でも、あの手紙はどう考えても…お友達への近況報告の手紙だったわよね。決して恋文なんて内容ではなかったわ。…いろいろと勘違いをしたまま、この殿下は大人になってしまわれたのね。でも、もしかしたら自分の勘違いだったのかと、若干涙目になっている殿下は…可愛らしいわ。どうやら私には殿下のせいで、殿下の他にはお相手はいないようだし。本当にYesにしてしまっても良いかもしれないわね。まだ、Yesとは言って差し上げないけれど)

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