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2章 ペンフィールドのホムンクルス
2章 1話 宮城愛(2)
 桜井優は今だかつて体験した事のない緊張感に包まれて昼食をとっていた。
 目の前には無表情で定食を食べる宮城愛。同じ第一小隊に所属する同僚だ。
 愛から自分の定食に視線を戻し、唐揚げを口に運ぶ。緊張で味が分からない。
「この唐揚げ、味薄くない?」
 話しかけてみる。しかし、意に返さず食事を続ける愛。
 会話が全く成立しない。
 大人しい、ではなく、無口、という言葉がぴったりな子だ。
 優は気まずそうな顔で、味が薄いどころか味のしない唐揚げを再び口に放り投げた。
 はじめ、優は京子と愛の二人と昼食を食べる予定だったのだが、京子に急用ができた為、こうしたシチュエーションができてしまった。
 心の中で京子を怨む。
「そういえば、宮城さんって何歳なの?」
 ダメもとでもう一度話しかけてみる。すると、愛の箸の動きがピタリと止まった。
「……十六」
 完全に無視する訳ではないらしい。
「…………後、愛でいい。苗字で呼ばれるのは好きじゃない」
 愛はそう言って、再び食事に戻った。
 名前で呼ばせるくらいなら、嫌われている訳ではないようだ。優が見た限り、愛は誰にでも無愛想である。
「愛……さん? 愛……ちゃん? どっちがいい?」
 名前で呼べと言われても逆に困る。一応、二通りの選択肢を並べてみるが、愛は構わず食事を続ける。
 優はむっと口を結んだ。無視されればされるほど意地でも喋らせたくなってくる。
「そういえば、昨日の夜やってた洋画見た?」
「…………」
「……昔さ、普通の椅子に普通の車輪ぶっ刺して『神』って名付けた美術家が逮捕されたらしいよ」
「…………」
「…………最近の政治ってアピールする為に、敢えて効率の悪い手段ばっかり……うん……何でもない……」
「…………」
 心が折れた。
 色々話題を変えてみるも、全く食いついてこない。
 京子たちは彼女と普段どんな話をしているのだろうか。謎である。
「愛ちゃんの趣味って何?」
 とりあえず、食いつきそうな話が全くわからない為、向こうの趣味に合わせる事にした。
「……読書」
 それを聞いて、優は目を輝かせた。優も読書が趣味で、読むジャンルも幅広い。
「あ、読書なら僕も好きだよ。どんなの読むの?」
「……サイバーパンク」
「狭っ!?」
 何だかもう駄目な気がしてきた。
 頭を抱える。京子はまだ帰ってこない。早く帰ってきて、と心の中で悲鳴をあげる。
 遂に限界を迎えた優は最終手段に出ることにした。つまり、向こうが反応せざるをえない状況を作ればいいのだ。少し罪悪感を感じるが、背に腹は変えられない。優は今、一世一代の悪事に手を染めようとしていた。
 箸を握り直す。そして、愛に目をやる。彼女は無表情でご飯を食べていた。その横の大皿には最後の唐揚げが一つ。
 優の眼が怪しく光った。
「そおいっ!」
 優の箸が高速で愛の唐揚げに向かう。訓練によって鍛えられた過去最速の動きだった。
 次の瞬間、食堂中に鋭い音が響き渡った。
「なん……だと……」
 優は絶句した。優の放った高速の箸は、愛の箸によって動きを封じられていたのだ。
「この僕が負けるなんて……」
 割りとノリノリである。
 愛はそれを無視し、澄ました顔で最後の唐揚げに箸をのばした。
 その様子を悔しそうに見ていた優が何かに気付いたようにぽつりと呟く。
「あ、これって間接キス? と言うか間接的な間接キスかな」
 その瞬間、愛の顔がぼふっという擬音が似合うほど一気に赤面した。
 それを見た優は、新しいおもちゃを見つけた子どものように、ぱっと目を輝かせた。

◇◆◇

 京子は急ぎ足で食堂に入った。
 愛と優を二人っきりにしたのは失敗だった。きっと気まずい空気が流れているに違いない。
 京子は心の中で謝り、愛たちを捜そうと席を見渡した。二人はすぐに見つかった。だが、様子がおかしい。二人はテーブルの上で手を握り合い、愛は恥ずかしそうに顔を背けていた。
 不審に思いながらも近づく。しかし、不穏な言葉が流れてきた。
「愛……愛してるよ」
「あんたは何で公共の場で愛を囁いてんのっ!?」
 京子が詰め寄り、首根っこを掴むと優が慌てて弁解を始める。
「ち、ちがっ! 反応が面白かったからつい悪のりして!」
「あんたねえ……っ!」
「悪気はなかったんです! ごめんなさい!」
 優がおずおずと、京子の反応をうかがうようにこちらを見やる。
「愛ちゃんが無視するから相手して欲しくて……」
 上目使いで寂しそうな顔をする優。優は幼い顔つきながらも、整った顔立ちをしている。少なくとも、京子の知るどんな男性よりも。
 京子は優を見てうめいた。頬が僅かに赤く染まる。クリーンヒットだった。そして、京子は無意識に口を開いた。
「……許す」
 桜井優。彼は人類の未来を担う最強のESP能力者である。それに加えて最強の年上キラーの称号を得る日も近いだろう。


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