柊沙織は、その華奢な身体に不釣り合いな小銃を抱え、半壊した街を駆けていた。
「私しか、いない。私が、やらなくちゃ」
荒い息の中、呪文のように同じ言葉が繰り返される。
不意に沙織は足を止め、上空を見上げた。粉塵で霞む青空に浮かんだ数多の影が瞳に映る。
沙織は湧きあがる恐怖に耐えて、天を駆ける影の群れに小銃を向けた。銃声とともに翠の光条が空に吸い込まれていく。沙織は着弾を確認せず、再び死んだ街を駆け始めた。
前方に見える瓦礫の影で何かが動く。
──生存者。
沙織は上空を旋回する影のことも忘れ、無我夢中でその場に向かった。瓦礫の山を登り、息を切らせながら叫ぶ。
「大丈夫ですか!」
影はまだ若い女と、煤だらけの赤ん坊だった。
「ぁ……」
女の疲れ切った瞳が、沙織の姿を認めた途端恐怖に揺れる。それを見て、沙織は差し伸べかけた手をゆっくりと下ろした。
「このまま南へ真っすぐ行けば、展開中の自衛軍と合流できます。早く避難してください」
拒絶されたことに耐えられなくて、沙織は事務的な口調で告げ、背中に装着した機械翼を展開させた。足が地を離れ、重力から解き放たれる。
『感傷に浸っている場合ではない』
通信機から、上官である女性の冷淡な言葉が届く。沙織は涙をこらえて頷いた。
「はい」
沙織は震える身体を無理やり抑えつけ、空を支配する侵略者達にたった一人で立ち向かっていった。
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