第一幕 白亜の建物
その日、灰原は博士に頼まれて、杯戸町へ買い物に来ていた。
買い物を無事に済ませ、大きな白いビニル袋をぶら下げて帰路を行く。
角を曲がったとき、不意に足が止まる。
彼女の目に飛び込んできたのは、真っ黒なセダン。
でも、彼女の足を止めた本当の理由は、別にあった。
「この感じ…」
思わず身震いするほどの冷たい感覚が体を貫く。
本能的に、感じ取っていた―「組織」が近くにいることを―
放心状態からようやく我に返ると、急いで塀の陰に身を隠す。
幸い、セダンに乗っている人物は、灰原には気づかなかったようだ。
しばらく停車していた後に、ごくゆっくりと動き出した。
灰原も、思わず塀の陰から顔を出して、車の動きを目で追った。
セダンは数十メートル進み、大きな建物の地下駐車場へと消えていった。
「確かに…入っていった…」
今まで追っていた組織の手がかりが、今、目の前にあった。
組織に近づくことを、最高にタブー視している灰原。
だが、なぜかこのときは、手掛りを胸のうちにしまってコナンの元へ行こうとはしなかった。
「………」
怒りにも似た色を浮かべ、厳しい目線で先の建物を睨む。
静かに、建物へ向かって歩き出した。
どんな結末が、その先で待ち受けているかなど考えもせずに…。
道の反対側に立って、今車が消えていった建物を見上げる。
まぶしい日差しを浴びて、白亜に輝くその建物は、
圧し掛かってくる重圧感があり、どこか無機質で冷たい感じでもある。
余計な装飾を抑え、窓も小さい簡素な作り。
あの窓の向こうにいる人物を想像すると…さっと戦慄が走る。
それと同時に厳しかった目に一瞬驚きの色が浮かぶ。
「なんで私、こんなところにいるの…」
組織らしき車が入っていった建物。だが、一人で一体何ができるだろう。
しかも、今彼女は建物の目の前に立っている…。
いつ何時、向こうから発見されるか分からないのに…。
心臓が、早い鼓動で胸を打つ。
慌てて買い物袋を持ち上げると、小走りに路地裏へと消えた。
灰原が見ていないところで、今まで静かだったシャッターが上がる。
中から一台の車がゆっくりと現れ、彼女の後を追うようにエンジン音を響かせた。
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